機皇の国【お試し版】

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第一章 海より来たりて

激突

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 ジェネレイザより85km離れた近海、南の静かな夜の海の上に、数多の船が浮かんでいた。
 大小様々な船の集団だが、いずれもが船舶メカである。
 その一つ一つが砲台に自動機関砲、レーダー機器等とジェネレイザの技術の数々がこれでもかと注ぎ込まれていた。

 グレードB+、サイズLの黒い迷彩色を表面に塗った、艦船としては珍しく強硬度の装甲を活かして敵船に突っ込み、防御スキル等の補正が無力化された状態で持てる武装やスキルの数々を見舞う、突撃戦法を得意とする《マリーネ・バスター》5隻。

 グレードA-、サイズLの蒼い船体と三連装のビーム砲を三基備え、遠距離での砲撃戦を想定しており、高い命中率と威力を誇る《ビームチャージャー》6隻。

 グレードB、サイズMの最大32発のオリトマイト魚雷を備え、小型ながら丈夫な装甲と魔法防御システムを有する魚雷ボート《PT-オリトマイトカスタム》4隻。

 更に艦隊の居る海面の下、水深220mでは拡散ビーム魚雷を備えるグレードB+、サイズLの白き潜水艦、《ディープブラスター》3隻がソナーを有効化しつつ静かに待機している。


 この四種類の、合計18隻の船がその艦隊を形成している。


 そしてその旗艦を務める、雄々しき白銀の巨大戦艦、《エクリプスアーク》ヴィゴロントが艦隊の中央で指揮していた。
 中には先日より同乗していて、最早相棒となりつつある黒き鎧の人形メカ、パンドレネクが収まっている。


「来たか…」


 主であるジェネルの命に従い――それを言えば此処に居る船舶メカ達もそうなのだが――此処まで来た彼らに向かう反応が《ディープブラスター》より観測される。

 ジェネレイザの艦隊の横より現れたのは船団の名に恥じない、30隻の木造船。いずれも《PT-オリトマイトカスタム》のそれを上回るが《マリーネ・バスター》、《ビームチャージャー》より少し小さい木造船の数々であった。
 その中でも一際目立つ、周囲の木造船より一回り大きい髑髏を象ったブリッジを持つ黒い船がある。

 恐らくあれが、親玉の乗る船なのだろう。
 レヴァーテの言うように発見次第直ぐに沈めてしまっても良かったかも知れない。
 だが、それでは情報を得る機会を失う為、無駄とは分かっていても相手の言い分を聞いてやることにした。

 敵の親玉が姿を現したらしく、ヴィゴロントのモニターが映し出す。
 しかし、相手からはそれが、自分達を見ているパンドレネクの姿が見えないので、仕方なく空中モニターをその黒い船の上にお裾分けする事にした。
 飛躍した技術に一瞬たじろいだようだが、やはり、パンドレネクも目的の一つだったらしく姿を見た途端表情を不敵なものへと改めた。


『お前かァ、例の黒い奴ってのは』

「ああ、そうだが。お察しの通り、難民達は俺と仲間が保護している。要件を聞こうか」

『俺の部下を随分とかわいがってくれたそうじゃないか、ええ?』


 その部下が見えないようだが、と言おうとして止める。
 この手の連中ならば既に始末してしまっている事だろう。

 それより彼が気になったのは、この親分らしき、くすみが夜闇で酷く見えているくすんだ茶髪の大男のズボンのポケットより感じる変わった魔力反応だった。
 恐らく、その中にあるのは尋ねた所で教えてくれるような代物でも無いのだろう。


『今なら難民とその白い船を明け渡す、と言うなら降伏も認めるぜ?』

「断る。これは俺個人が所有している訳では無いんでな、おいそれと渡す訳にもいかん」


「それに、渡す理由が無い」と付け加えて、パンドレネクは内心気付いていないのか、と思っていた。
 実を言うと防諜フィールド、認識阻害システムは現在、ヴィゴロント以外のジェネレイザ所属船舶メカ全てに有効化されている。

 どうやら向こうには1対30の多勢に無勢、と思われているらしい。
 それはそれで結構と内心呟き、パンドレネクは適当に相手の言い分を聞き流すことにした。


『まあ、そう言うだろと思っていたぜ! 泣く子も黙るジャバナ海賊船団に歯向かうとはどういう事か、その船を沈めて教えてやる!』


 敵の海賊達はあくまで反抗すると示したパンドレネクに対し熱くなる。
 一方でパンドレネクはその木造船の数々の何処にそれだけの武力があると言うのか、少し気になっていた。


『そしててめぇを引きずり倒して、ぶっ殺ぉす! そうすりゃ難民の連中もどっちが上か、理解するだろうよ!』

『いいぞー!親分!』

『最高だ!』


 標的であるパンドレネクを無視し、海賊達は勝手にヒートアップする。
 しかし、毛むくじゃらの男たちが画面越しにも臭い立ってきそうな汗を振りまき騒ぐ光景は見るに耐えない。
 彼はそれよりは幾ばくか見た目がましな白衣に身を包んだ亜人形メカ達の嬉しそうな姿を思い浮かべつつ、どうにか受け答えしようとした。


「ふむ…」

『ビビってんノかァ!?』

『オラオラ、来いよ!』

『何とか言ってみろよチキン野郎!』


 少し口数を少なくしてみればこの煽りよう。
 黙らせる方法が無いものかと彼は思い付いたフレーズを淡々と述べることにした。

 出来るならば、自分の役回りにそぐわない今のこの状況まで受けていたをぶつけるべく。


「家畜にも劣る連中の言い分は理解出来んな。いや、そう比べては家畜に失礼か」


 パンベナット・スレーヴの畜産動物の方がつぶらな瞳や顔立ち、それからスキンシップの数々にまだ可愛げがある。
 しかし、目の前の醜悪な面構えの男たちにそれは無い。自分で言っておきながら改めて失礼だな、とパンドレネクは思った。

 一方の海賊達は、突然の暴言を吐かれた事に唖然とする。
 先程までの熱量は明後日の方向へ飛んでいってしまう程に。

 彼らにとってはパンドレネクが善良な、お手本のようなヒーローに思えていたのだろう。だが、実際は違う。彼は《ダークスチール:クラッシャー》なのだ。
 本来は、得物である斧と自身の物理、魔法系スキルを用いて、目まぐるしく戦況の変わる混沌とした戦いに身を投じ、楽しむ戦闘狂であり、最後まで己の持てる全てを以って足掻く者を残虐に、命尽きるまで甚振り続ける始末屋クラッシャーでもある。

 難民を助けたのは、ジェネルの意思を汲み取った上で何が最善かを判断し、行動したから。
 謂わば気まぐれに過ぎない。

 結果的に難民からも敵対する海賊達からも、見た目は怖いが善良な英雄ヒーローに思われてしまったが、彼に騙すつもりも、隠すつもりも無かった。
 ただ、誰も彼もがそう思っただけで。
 本当のはジェネレイザのメカだけが知っている。

 先程までの雰囲気は何処へやら。
 内部のメカ達が気にせず活動している純白のスペースを背景に、黒く、禍々しきオーラを全身より吐き出して、改めて目の前の男衆に向き直った。
 その威圧的な光景にそれを目の当たりにした男衆がたじろいでいる。
 親玉らしきくすんだ茶髪の大男も、その光景に動揺を隠しきれていなかった。


「済まんな汚物の皆々方。が俺の本来の姿なんだ。願わくば誰にも知らせず、知られる事も無くくたばっていってほしい」


 死刑宣告にも似た彼の言葉は、海賊達に冷たく届いた。




「お、親分!」


 黒い鎧の男が白銀の船の甲板より姿を外に現し、そのどす黒いオーラが夜闇の外気と混ざり合って漂っている。
 見え辛いだけで、外気がひび割れているようにも見えるその光景は、正しく悪夢だった。

 俺たちは怪物を敵に回してしまったのではないか。
 神話やお伽噺に出てくるような、そんな怪物達に。

 しかし、多勢に無勢は変わっていない。
 ジャバナは威圧に屈せず慣れた手付きでズボンのポケットから急いで球体を取り出した。
 その紫色の収束する輝きは、見る者の心を揺さぶる。
 ジャバナは本能が感じる恐怖を湧き立つ狂気で打ち消した。


「親分、もう使うんですかい!?」

「出し惜しみしてる暇ねぇだろ!」


 これを阻止しようにも、向こうは距離が遠すぎる。
 勝負あった、とジャバナは不敵に笑った。


「《レベル・ドレイン》!!」


 ジャバナがそう唱えると球体はマストの中間辺りまで浮遊し、その中に封じ込めた紫色の輝きを解放する。
 その球体は、王国に伝わる禁呪魔法を封じ込めたアーティファクトだった。

 《レベル・ドレイン》。
 今やエファルダムド中に存在する概念、強さの指標となるレベルを対象より吸収し、自身のレベルとして加え入れる禁呪魔法の一つ。
 王国等列強国が異世界からの召喚対象の排除や隷属化が出来ると宣う根拠の一つでもあった。

 現在、ジャバナのレベルは23である。
 しかし、100を限度とするエファルダムドに於いて、この数値は自慢出来るような高い数値ではない。
 だが、目の前に居る怪物のレベルを吸収すれば、もっと強い、限度のレベル100を超えるような、強い大物になれるだろう、と彼は確信していた。


『何…!?』


 紫色の輝きに船体ごと包み込まれる、正体不明の攻撃に黒い鎧の怪物も流石に驚いたらしい。
 ざまぁ見ろ、俺の養分になりやがれとジャバナは勝ち誇った大笑いをした。

 数秒経ち、光が消え去る。
 球体は手元に返ってきて、ジャバナは早速結果を確認しようとするが、球体はひび割れ、砕け散った。


「は…?」


 ジャバナは前例の無い光景に呆然とする。
 球体の使用はこれが5回目だが、使用限界を超えた訳でも、これが正常な動作である訳でも無い。

 何かがおかしい。
 急いでジャバナは自身のステータスを確認すべく、空中にウィンドウを表示させる。レベルの項目はどうなったか、と見てみたが――


 ――レベルは23のままだった。



「何が起きた……?」


 《レベル・ドレイン》は確かに発動した。
 レベルは奪えた筈なのに、レベルの項目は元の数値を指しており、ステータスは何時まで経ってもそれが変化する様子も無い。


「あり得ないあり得ないあり得ない…!!」


 錯乱。くすんだ髪を乱暴に掻き回し、必死に考える。
 しかし、何を考えようと足りない頭ではこの現象を説明出来るだけの答えは出なかった。
 ジャバナにとっての最大の誤算が、《レベル・ドレイン》が持つ独特の落とし穴が、そこにあった。


『何かしたようだが、何とも無いな』


 一方の黒き鎧の怪物は健在で、驚いて尻餅を付いた体を起こす。
 今まで《レベル・ドレイン》を受けてすぐさま動けた者は居ない。
 動きに脱力感が見受けられず、悪夢はまだ終わっていないのだと、冷酷にもその光景が告げている。


『それに、レベルとか言ったな。どうやらこの世界にはレベルが存在するらしいな』


 勉強になったぞ、と黒いオーラを放ち纏う雰囲気とは裏腹に陽気に告げるその声に、ジャバナは唖然としたまま、はっとした。

 白銀の船より飛んできたモニターがそのままなのだ。
 一連の行動が全て相手に筒抜けである。
 《レベル・ドレイン》が不発となり、その情報だけが相手に渡った。
 《レベル・ドレイン》を動揺した振りを見せて敢えて受けたとも思える、考えうる限り最悪の状況である。


おどかされたお礼だ。たっぷり味わうと良い』


 突然、白銀の船の周囲に数多くの武装船団が出現し、海上へ白いマス目が展開された。



 使用武装:《ビームチャージャー》三連装主砲×2
 スキル《ヒートセイバー》

 使用武装:オリトマイト魚雷×3
 スキル《シューティング・アクセラレート》


 旗艦が脅威に晒されたその挽回を図るべく認識阻害システムのみを一部解除し、マス目に沿って海上を動く《ビームチャージャー》が朱色の光線を、《PT-オリトマイトカスタム》が一隻ごとに魚雷を三発同時に放ち、水中で加速させた魚雷を迫る木造船の数々へ見舞っていく。

 直線を描く光線が一つの船体を焼き切り、横にならんでしまった不幸な者達をも高熱に晒して貫く。ジェネレイザが誇る魔力を微量に含み、爆発の威力を引き上げる金属で作られたオリトマイト魚雷が一本ずつ、計三隻に全弾着弾し、爆発する。
 その爆発が前へ飛び出していく中身の子爆弾へと引火し、爆発の範囲を広げて木造船を跡形もなく消し飛ばした。

 一方で《マリーネ・バスター》達が陣形を組み、狙い定めた遠方の木造船へお得意の突撃戦法で突っ込んでいく。
 使った材木も鉄も質が知れている木造船では、ぶつかり合いの相手になりもしない。

 強い勢いを保ち、容赦なく木造の船体を突き破る金属の船首。
 船体の直撃や余波を受け吹っ飛ばされた海賊達が反撃に移るより先に、その甲板の上にある武装の数々が火を噴いた。


 使用武装:《マリーネ・バスター》各種搭載火器
 スキル《ペネトレイト》


「ぐわあああぁぁ!!」


 爆音と共に次々と火を吹く数々の艦砲が爆音を奏でると共に織り成す鉄の雨は、一つ、また一つと木造船を細かく爆破解体していく。

 暴れ回る五隻の突進を直に受けた船に例外など無く、《マリーネ・バスター》が衝突した船が悲鳴を上げたと思い見てみれば、蹂躙され、黒煙を上げて炎上する木片の塊と姿形を変えていた。
 船員だったものが目視では見えないのがせめてもの救いか。
 しかし、海面を赤黒く染めゆくその塊と、返り血で染まった遠ざかる船首が、凄惨さを物語っていた。

 当たったら一溜りも無い、必中の一撃の数々。
 無慈悲にも次の標的へ向けられるその砲塔、砲口が海賊の戦意を大きく削ぐのは時間の問題だった。


「どうした、この船を沈めるんだろう? 他に策があるんじゃないのか? 早く見せてみろ」


 旗艦となるヴィゴロント甲板に立つパンドレネクが禍々しいオーラと高揚を抑えず陽気に、未だモニターの繋がる、無事な敵旗艦へと問い掛ける。
 しかし、落ち込んだ様子で沈黙を保ち続けるその船より返事は無い。

 早く返事をしてほしいものだがな、と思いつつパンドレネクは別の方向へ顔を向ける。

 すると、戦闘海域を離脱しようとする木造船が二隻程あった。
 それに海中を進み顔を出した丸い弾頭が向かい、それがぶつかって、を突き破り伸びる、光り輝く無数の槍に刺し貫かれ爆発する光景が目に映った。
 だが、彼には然程興味が持てず、少しだけオーラが揺らいでいた。

 正直、飽きてきているのだ。
 何か対抗策があり、それを使ってくれるんじゃないかと彼は期待していたが、その結果はこうしたワンサイドゲームを生み出している。

 違う。これは断じて望んだ結果じゃ無い。
 そうは思うも手加減の三文字は最初からなく、結局の所海賊達が弱いのが悪いという結論に行き着く。

 こうなってしまうと元の世界が恋しくなってしまう。
 元の世界の方が張り合いがあったから。プレイヤーなる、仲間であり敵でもあった優秀な指揮官でもあり国王でもある者達、その者達に従うメカ達と織り成す戦局の数々はとても甘美であり、忘れがたい思い出でもあった。

 それが、飛ばされてきた今はどうか。

 最早逃げられないと踏み、逃げる素振りも、戦い挑む素振りも見せなくなった海賊船団の生き残りに彼は失望すら浮かべていた。

 余計な犠牲を増やす前に、責任ある者が何かしらの判断を下すべきだろう。
 パンドレネクはオーラを弱めつつ、赤く光るその双眸で、失意に暮れてモニター越しでもこちらを見ようともしない茶髪の大男へと無言の催促を送った。


『…降参だ』

「は?」

『降参だ、もう策が無い! 許してくれ、済まなかった!』


 モニターに映る男に最初の威勢は消え失せており、そこに居るのは図体だけは立派な、ガラス片を握り締める哀れな男だった。
 甲板を突き破りかねない程に頭を強く押し付けての土下座。
 敵に謝り生殺与奪を握らせるのは戦後処理の手段の一つであるが、今のこのタイミングでは惨めに他ならない。


「はぁ…」


 海上のマス目を解除し、艦隊に、特に降伏した木造船に突っ込もうとする《マリーネ・バスター》に、これ以上深追いするなと指示する。
 パンドレネクは禍々しいオーラを掻き消して不完全燃焼のまま、渋々降伏宣言を受け入れるのだった。
 背後よりぞろぞろと歩み寄ってくる苦手な存在の足音を聞きつつ。




「ゆ、許してくれ、命だけは」


 せめて生き残った顔ぶれだけでも確認したい、とパンドレネクは甲板の上に立ったままヴィゴロントを近付ける。が、夜闇に紛れて迫る漆黒の兜を見るや否や顔を涙と鼻水で汚しながら震える手を合わせたり、土下座をしたりする哀れな男達の姿しか無かった。

 折角生き残った連中もこれではな。
 彼は呆れ返った。
 この者達なりの矜持があるのかと思いきや、そうでもなく惨めったらしく命乞いをするのみ。
 成敗という名目で斬り伏せようものなら得物が汚れるだけ、とすら思えた。


「まあ、命だけは見逃してやろう。この後生きていたらな」

「…何をするつもりだ…?」


 物騒な含みのある発言に生き残った海賊の一人が恐る恐る尋ねる。
 向き直り海賊を見つめるパンドレネクの兜越しの赤い眼が、先程と様子の変わらない筈が、一層冷酷に見えた。

 海賊達は青褪める。
 すると、いつの間に回り込んだのか、背後より使い古された白衣を纏った瓢箪のような丸い胴を持つ、細い手足のモノアイメカ達が良い素材を見つけたと体に遠慮無く触れた。
 彼らこそが、ハーミット・クリフの変人共、メカの科学者達である。

 科学者達は海賊達を一目見てから体に触れている間も無言を貫いている。
 話の通じない怪物に目を付けられたのだと海賊達は恐怖した。


「どうやら、頭のネジが外れた連中がお前らの使った魔法にご執心らしい。元より人を人と思わない連中だから気を強く持てよ」

「お、おっ、おい、待ってくれよ!」


 一人ずつ手足を縛られ、米俵のように抱えられてヴィゴロントの甲板の上へ連れて行かれる海賊がパンドレネクに助けを求める。
 しかし、彼は海賊達に目もくれず、変人共が船内に戻るべく歩き去るのを待った。

 我欲に取り憑かれて悪足掻きをした挙げ句、みっともない命乞いをした。
 その時点で、彼らの命運は決まっていたのだ。

 パンドレネクの興味は次々とハーミット・クリフの変人共が回収に向かう木造船ではなくその奥、髑髏の黒い木造船だ。
 彼はその甲板に降り立ち、未だに細かく砕けたガラス片を握り締めて俯く男に問い掛けた。


「聞くが、何故降参した? あの光は結局何だったんだ?」

 《レベル・ドレイン》と言う名の光はパンドレネク達に一切の影響を及ぼさなかった。それもその筈、吸収する筈のレベルを彼らが持たないからである。
 レベルを吸収できないから、球体は正常な処理を出来ずに砕け散った。
 モニターに映った光景を見た限りで彼はそう推測したのだが、使用した本人から問い質し答えを聞いた方が早いだろう。


「おい、話を聞いて…うわっ……」


 顔を上げさせようと肩を揺らすと、そこには何処を見ている訳でも無い、空虚になった目と一気に老け込み涎を垂れ流す、体格に似つかわしくなった醜い顔があった。
 自分達の思い通りに行かなかった上に、蹂躙されるのを目の当たりにすればこうもなるのか、とパンドレネクは不快感を露わにしつつそう思った。


「はぁ…話にもならん。こいつらも連れて行け」


 ジャモラクからの出港する数分前からの追加の指示で、此処まで付いて来た変人共にそう告げると、黒い船に乗っていた海賊達は抵抗も無く持ち上げられ、ヴィゴロント内部に収容されていく。
 パンドレネクも結局新たに提示された謎を解決出来ず不満足のままヴィゴロントへ帰った。

 船の積み荷は不要、無人の船が見つかれば厄介になるという事で焼却弾を各艦手分けして無人となった船に発射、朝を待たずして沈ませ交戦の跡を消し去った。


 名誉の勝利などではなく、害虫共を駆除したような、彼我の戦力差を顧みれば当たり前の戦果。
 それと深まる謎を持ち帰り、彼らは孤島の上に流れ着いた国で送る、日常の中へ戻っていくのだった。
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