内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

文字の大きさ
37 / 47
1章

1-37.魔王

しおりを挟む
 僕とエミナさんが、エルダードラゴンさんの背中から同時に飛び降りる。バトルドレスのヒラヒラとした袖とスカートをたなびかせながら、僕とエミナさんは地面に向かって落下した。
 ――すたっ。
 ――ドタッ!
 エミナさんは、まるで小鳥が降り立つように綺麗に着地したが、僕はがに股で、両手も地面についている。まるで蛙である。
 男なら、まあ、このくらい荒い着地も見方によっては映えるだろうけど、僕は今は女性だ。しかも、ヒラヒラのスカート姿なものだから、尚更はしたなくて格好悪い。

「やれやれ、騒々しいね」

 穏やかで清涼感のある声が聞こえる。これが魔王の声だというのか。

「あれが……魔王……」

 エミナさんが、じっと魔王を見据え、慎重に間合いを計りながら呟いた。
 魔王の体は真っ青なローブに、顔は青白い仮面に包まれているので全貌は分からない。
 ローブは、その長さが特徴的で、魔王の背の何倍もの丈があると見受けられる。腰の部分から、いくつかの切り込みが入っているので、魔王を中心に何本もの帯が、地を這っているように見える。
 仮面はひび割れていて、今にも割れてしまいそうだ。

「余の仮面がほら、ボロボロだよ」

 魔王がひび割れた仮面に手を掛けると、仮面は粉々に砕け散った。そして、徐にローブのフードを取る――中から現れたのは、人だ。
 顔立ちは整い、髪は綺麗な濃い青髪をしている。体はローブに包まれていて見えないが、顔と首の感じから考えるとスリムな体型だろう。絵に描いたような美少年だ。

「やあ、今度は随分可愛らしい人間が来たね。余は……そうだな、君達に分かり易く言う方がいいだろうな。人間は私の事を色々な名で呼んだが……ふむ。これならば、人間の言葉の中でも、どうにか聞くに耐える響きだろう。プリンツユーベルとでも名乗ろうか」
「ユーベル……うわっ!」

 ユーベルの青いローブが、何故か僕に向かって伸びてきた。切り込みで分かれているうちの一つだ。僕は不意の事で驚いて、思わず後ろにのけ反り、挙句の果てに尻餅をついてしまった。

「つっ……!」

 エミナさんも体を翻し、間一髪、ユーベルのローブをよけた。

「鋭い……!」

 エミナさんの、長く茶色い髪が舞い散った。
 ユーベルのローブは刃物のように鋭いらしい。それがエミナさんの髪の先端に触れたから、エミナさんの髪が切れたのだろう。

「風よ、その身を鋭き螺旋の形に変え、万物を貫く刃となれ……ドリルブラスト!」
「雷よ、我が手に纏わり全てを切り裂く刃とならん……ライブレイド!」

 エミナさんも僕と同じで、ローブを得物で防ごうと思っていたらしい。ふたりで同時に詠唱し、同時にそれぞれの魔法を発動、そして構えた。

「はぁっ!」

 ひと声の掛け声を発し、エミナさんは迫るローブをドリルブラストで弾いた。

「んっ!」

 僕も同じように、僕を切り裂かんとするローブにライブレイドをぶつける。
 ガキッという音と共に、ローブが弾き飛ばされた。

「これでどうにか防げるね!」

 エミナさんに声をかけると、エミナさんは軽く頷いた。

「うん。でも防ぐだけじゃ、魔王は倒せない……」
「うん……」
「闇を射抜く光の刃、その先にあるのは希望の道……シャイニングビーム!」

 エミナさんのシャイニングビームがユーベルの方へと放たれたが、ユーベルは微動だにしていない。
 エミナさんのシャイニングビームがユーベルに届く前に、ローブが射線を遮ったからだ。
 ――ジイィィィィィィィィィ!
 ローブは幾重にも重なりシャイニングビームを防いだ。
 一番前のローブが焼き切れたらその後ろのローブ、後ろのローブが焼き切れたらさらに後ろのローブとシャイニングビームは進んでいったが――五枚目のローブを焼き切ったところで、シャイニングビームは途絶えた。

「届かない……!」
「でも、あと少しだよ! 紅蓮の大火炎よ……」
「危ないっ!」
「うわっ!」

 エミナさんが、突然僕を押し退けた。

「ああっ!」

 短い悲鳴を上げながら、エミナさんが僕の視界から消えた。

「エ……エミナさん!」
「う……ぐはっ……!」

 僕の目が再びエミナさんを捉えた時には、エミナさんは胸にローブが突き刺さって苦しそうにしていた。あのローブに押し飛ばされたのだろう。

「あ……ご、ごめん、エミナさん。エクスプロージョンが当たればユーベルに届くと思って、ローブを気にしてなかったから……」

 僕は慌ててエミナさんに駆け寄った。

「大丈夫だよ。これくらいの傷ならすぐ治るから……グラッピングフィスト!」

 エミナさんが唱えると、エミナさんに刺さったローブに、どこからともなく現れた大量の石の破片が吸い付き、大きな塊になった。
 ドリルブラストは、いつの間にか解除されている。トリートを使いながらグラッピングフィストを唱えるため、意図的に解除したのだろう。
 グラッピングフィストは何かを強力に挟み、移動させるための魔法だ。僕の感覚で分かりやすく例えると、ペンチとかプライヤーの役割だろうか。もう少し大きな物も挟めるが……。

「ん……!」

 エミナさんが苦痛に顔を歪ませながら、かざした手を前に押し出す。すると、グラッピングフィストはゆっくりと前に動き、ローブはエミナさんの体から取り除かれた。
 確かに、急所の胸を貫通しているものの、傷付いた範囲は小さい。ローブを抜いて体が自由になれば、今の魔力なら、すぐにノンキャストのトリートを唱えれば問題なさそうだ。

「うん……ごめんね」
「いいよ。多少強引に攻めないと魔王に攻撃が届かないって分かったから」

 エミナさんは、右手のドリルブラストで肩に刺さったローブを切り、手で抜きながら言った。

「うん、後ちょっと足りない。そんな感じだけど……」

 ――ガキッ!
 ライブレイドでローブを弾く。
 話している間にもローブは襲ってくる。ユーベルのローブはもう、殆ど元通りになっている。どうやらローブは再生するらしい。
 つまり、切っても切っても、ローブは見る見るうちに再生していくということだ。ローブを減らしてユーベルを剥き出しにするのは無理があるかもしれない。

「もっと上の……ホーリーセイバーとか、その辺かな?」
「でも、これ以上の上位魔法だと、魔力を練るのに時間がかかっちゃうから……」
「隙が無いかぁ……うわっ!」

 突然、ローブの先がぱっくりと開き、そこから緑の霧が飛び出した。
 僕はびっくりして後ろに飛び退く。

「なんだ、これ!?」

 僕は地面にへばり付いた緑色の液体をまじまじと見た。

「うおっ!」

 しかし、じっくりと観察している暇は無い。ローブは次々と襲ってくる。
 横から迫るローブを前に跳んで躱し、後ろから来たローブはライブレイドで弾いた。
 おまけにさっきの霧がローブの先端から出るとなると、色々と警戒する事も増えてしまう。

「エミナさん、さっきの霧、何だろう」
「見た目は毒霧みたいだったけど……分からないわ」
「だよねえ、色的には毒霧だよね」

 この世界の住民であるエミナさんの意見も、僕の意見とそう変わらないらしい。これ以上の情報は、すぐには得られないだろう。なら、この霧の事は一旦置いておいて、ユーベルに魔法を通す事の方を考えるのが先か。

「でも……!」

 ユーベルのローブによる攻撃は激しく、こちらから仕掛ける隙が無い。

「ミズキちゃん、まずはローブを……後ろ!」
「え……」

 攻め手を考える事と、エミナさんの説明を聞く事に集中しすぎたのか、ユーベルのローブが僕のすぐ後ろに迫っているのに気付かなかった。

「おっと!」

 しかし、ローブと逆方向に飛び退いて距離を取る余裕くらいは十分にある。

「うあ……え?」

 突然の突風に煽られ、僕の体はローブの方に、少し押し戻された。距離を取るどころか、ローブに近づいてしまったのだ。

「く……!」

 まずい。とにかく、あのローブの攻撃を避けないといけない。僕は急いで横方向に体を倒し、地面に伏せた。
 ――ブシャァァ!
 思った通り、ローブは緑の霧を吐き出した。

「助かった!」

 僕は急いで立ち上がり、ライブレイドでローブを弾いた。

「危なかっ……!?」

 いつの間にか、霧が目の前に迫っている。

「何で……!」

 さっきのローブが吐き出した霧は、こんなに近くには無い筈だ。

「ぐ……風……?」

 風だ。また強い風が吹いている。風は僕に向かって吹いている。だから、霧が風に乗って僕に迫っていたのだ。

「うわあっ!」

 霧を払うのか、それともよけるのか。そんな事を考える暇など無く、僕の顔は霧に包まれた。

「うわああっ!」

 どうしていいのか分からない。取り敢えず、霧を両手で払いつつ後ろへ後ずさった。

「う……」

 突然、違和感に襲われた。この感覚は何だ。胸が……。

「ぐ……あが……」

 苦しい……だんだんと呼吸が出来なくなって――僕はたまらず、その場に倒れ込んだ。

「が……あ……が……」

 体が中から焼かれていくようだ。

「あ……あーーっ! うあああーっ!」

 あまりの苦しさに、地面をのたうち回る。が、当然ながら、一向に楽にはならない。

「うあ……あ……」

 体がいう事を聞かない。そのくせ、仰向けになった体はビクンビクンと痙攣をおこしている。
 呼吸が上手く出来ず、口をパクパクと開閉させる。

「あ……」

 意識が……遠退いていく……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...