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100話「地下へ」
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「んー……」
瑞輝が、蔵と離れの間に作られている生け垣をごそごそと探っている。秘密の地下への入り口というのなら、生け垣のような、目隠しが出来る場所にあるのではないかと思ったからだ。しかし、もう大部分の生け垣は調べ終わり、調べていないのは、この一画の生け垣だけになっている。
「見つからないなぁ……うっ!?」
恐らく、生け垣の中には無いのだろう。瑞輝がそう思って肩を落とした時、後ろで急に物音がして、瑞輝は咄嗟に振り返った。
――バサバサ……。
「なんだ……紛らわしい鳥だなぁ」
どうやら、後ろの木の上から、何かしらの鳥が飛び立った音だったらしい。瑞輝は怪物とか、呪いの類が出たのかと思ったので、驚いて腰が抜けかけている。額には一気に冷や汗が出てきたし、心臓はまだ、バクバクと激しく鼓動している。
「はぁ……最近、緊張しっぱなしな気がするな……」
人前で話すだけでも緊張して仕方がない瑞輝だが、異世界での出来事等、最近は日常的なこと以外にも、心臓に悪いことが続き過ぎている気がする。
「何か、良くないクセが付いちゃったのかな……?」
良くないクセって何だよと、瑞輝は心の中で自分にツッコミを入れた。そして、次の瞬間、後ろから声をかけられたので、振り向いた。
「瑞輝さん、そっちはどうでした?」
瑞輝に話しかけてきたのは梓だ。後ろには駿一も居る。
「うーん……生け垣の下とかには無いかも……」
「こっちも収穫ゼロだ」
「ですか……」
「もう少し探してみるか?」
「そうだね、僕も生け垣しか探してないし」
「……いえ、庭は一旦キリをつけるです。私たち三人が、それぞれ一番地下室がある可能性の高い場所を探したのなら、ここはもう充分です。離れか蔵に行ってみるです」
「ん……そうかい」
「どっちへ行くの?」
「うーん……どっちにしましょうか……」
「可能性があるなら離れか? 離れを作ったからには、何かしらの仕事場か、趣味に使う所か……何に使うのかは分からないが、家には作れなかったものがあるんだろ」
「だから地下も、離れにはあるかもしれない……か……確かに蔵に地下なんて無さそうだ。……あ、でも、蔵を探すのもアリかもしれない。蔵って色々と、古いものがいっぱいあるから、呪いに使う、何かしらの道具があるかも」
「そうですね。離れに関しては、地下は無いか、家と同じに隠されてそうです。離れの方、私はさっき、ざっと一回り見てみたですが、地下に通じる階段は無かったです」
「なんだ、梓さんが、もう見たのかよ」
「それほど広そうじゃなかったので、軽く見る程度なら時間は取らないと思ったですから。……そう考えると、蔵……ですかね? ミズキさんの言った通り」
「そうだな。地下が無いのなら、もう離れを優先的に探す理由も無いからな。瑞輝が言った通り、蔵の方が手掛かりはありそうだ」
「じゃあ、決定ですね。蔵の方へ行きましょう」
三人は、意見が一致したところで蔵へと向かうことにした。
「……はい、鍵、開きましたよ」
カチリという子気味の良い音と共に、蔵のカギが開いた。
「凄いね梓さん、ピッキングしたの?」
「ううむ……プロのシーフだな、これはもう」
「ぎょ、業務に必要な知識ですから……さ、入るです」
駿一と瑞輝は鍵開けの手際の良さに感心しているが、どうやら泥棒を連想しながら感心している様子なので、梓は笑顔で誤魔化しながら、蔵の扉を開いた。
「んん……蔵ってこんな感じなのか……」
「僕も、初めて入った」
二人が物珍しそうに、きょろきょろと蔵の中を見回す。
梓にとっては、それは慣れた感触だった。匂いは少しカビ臭くて、空気は乾いて埃っぽい。そして、中には物が、そこいらじゅうに雑多に置かれているのだ。
「……さて、どこから探すでしょうかね」
梓はそう言いながら、取り敢えず、目に留まった物を手に取った。古い急須のようだが、梓は骨董品の目利きは出来ないので、それがどの程度の価値のあるものかは分からない。分かるのは、それが呪いにはあまり関係無さそうな物品だという事だけだ。
「ね、梓さん、これ!」
瑞輝の嬉しそうな叫び声が、梓の耳に入った。
「何です? ……あっ!」
梓も思わず声を上げた。そこには、比較的新しそうな、地下への通路がある。はっとして周りをよく見てみると、その一角だけ、比較的新しいものが保管されているみたいだった。
「ここ……ここっぽいですね……」
梓の体が、急激に強張った。今まで見た中で、これほど冬城が隠れていそうな場所は他には無かったからだ。
「これ、本当に居るかもしれないですよ。注意して……一旦、離れるです」
「う……うん……」
瑞輝も、自分が叫んでしまった迂闊さを恨みつつ、今度は音をなるべく立てずに、そっと後ずさった。
「ええと……外側には仕掛けは無さそうですけど……」
呪いを仕掛けるなら、犯人の所へ辿り着くまでに必ず通る場所が適切だろう。また、この蔵の鍵を開ける時にも慎重に観察しながらやったが、蔵の入り口には呪いは仕掛けられていなかった。とすれば、呪いが仕掛けられているであろうポイントは、いよいよここからだ。慎重に呪いを探っていかなければならない。
「呪いは、かかってないようですが……」
呪いがかけられている様子は無い。しかし、何らかの手段で隠されていることは、容易に想像できる。梓は様々な解呪の手段を頭の中に思い浮かべながら、慎重に、床に蓋のようにはまっている扉を引き上げて、開けた。
「ここが……」
「なんか、ここよりかは埃っぽくなさそうだよね」
「ここだけ後から増設されたっぽいですね。壁面も新しい感じです……さ、ここからは何が起こるか分からないですよ。犯人と同じ部屋に入ります。極力、慎重に行くです……後にぴったり付いてくるですよ」
梓が声を潜めて、二人に指示をした。当然、たった今開けた扉と同じく、この階段のどこかに呪いが仕掛けてある可能性は高い。ここから一歩踏み出してからは、全く気が抜けなくなる。梓は一回、息を大きく吸って、吐いた。それによって、梓は気持ちを落ち着けて、階段へ一歩、足を踏み出した。
「……さ、行くです」
瑞輝が、蔵と離れの間に作られている生け垣をごそごそと探っている。秘密の地下への入り口というのなら、生け垣のような、目隠しが出来る場所にあるのではないかと思ったからだ。しかし、もう大部分の生け垣は調べ終わり、調べていないのは、この一画の生け垣だけになっている。
「見つからないなぁ……うっ!?」
恐らく、生け垣の中には無いのだろう。瑞輝がそう思って肩を落とした時、後ろで急に物音がして、瑞輝は咄嗟に振り返った。
――バサバサ……。
「なんだ……紛らわしい鳥だなぁ」
どうやら、後ろの木の上から、何かしらの鳥が飛び立った音だったらしい。瑞輝は怪物とか、呪いの類が出たのかと思ったので、驚いて腰が抜けかけている。額には一気に冷や汗が出てきたし、心臓はまだ、バクバクと激しく鼓動している。
「はぁ……最近、緊張しっぱなしな気がするな……」
人前で話すだけでも緊張して仕方がない瑞輝だが、異世界での出来事等、最近は日常的なこと以外にも、心臓に悪いことが続き過ぎている気がする。
「何か、良くないクセが付いちゃったのかな……?」
良くないクセって何だよと、瑞輝は心の中で自分にツッコミを入れた。そして、次の瞬間、後ろから声をかけられたので、振り向いた。
「瑞輝さん、そっちはどうでした?」
瑞輝に話しかけてきたのは梓だ。後ろには駿一も居る。
「うーん……生け垣の下とかには無いかも……」
「こっちも収穫ゼロだ」
「ですか……」
「もう少し探してみるか?」
「そうだね、僕も生け垣しか探してないし」
「……いえ、庭は一旦キリをつけるです。私たち三人が、それぞれ一番地下室がある可能性の高い場所を探したのなら、ここはもう充分です。離れか蔵に行ってみるです」
「ん……そうかい」
「どっちへ行くの?」
「うーん……どっちにしましょうか……」
「可能性があるなら離れか? 離れを作ったからには、何かしらの仕事場か、趣味に使う所か……何に使うのかは分からないが、家には作れなかったものがあるんだろ」
「だから地下も、離れにはあるかもしれない……か……確かに蔵に地下なんて無さそうだ。……あ、でも、蔵を探すのもアリかもしれない。蔵って色々と、古いものがいっぱいあるから、呪いに使う、何かしらの道具があるかも」
「そうですね。離れに関しては、地下は無いか、家と同じに隠されてそうです。離れの方、私はさっき、ざっと一回り見てみたですが、地下に通じる階段は無かったです」
「なんだ、梓さんが、もう見たのかよ」
「それほど広そうじゃなかったので、軽く見る程度なら時間は取らないと思ったですから。……そう考えると、蔵……ですかね? ミズキさんの言った通り」
「そうだな。地下が無いのなら、もう離れを優先的に探す理由も無いからな。瑞輝が言った通り、蔵の方が手掛かりはありそうだ」
「じゃあ、決定ですね。蔵の方へ行きましょう」
三人は、意見が一致したところで蔵へと向かうことにした。
「……はい、鍵、開きましたよ」
カチリという子気味の良い音と共に、蔵のカギが開いた。
「凄いね梓さん、ピッキングしたの?」
「ううむ……プロのシーフだな、これはもう」
「ぎょ、業務に必要な知識ですから……さ、入るです」
駿一と瑞輝は鍵開けの手際の良さに感心しているが、どうやら泥棒を連想しながら感心している様子なので、梓は笑顔で誤魔化しながら、蔵の扉を開いた。
「んん……蔵ってこんな感じなのか……」
「僕も、初めて入った」
二人が物珍しそうに、きょろきょろと蔵の中を見回す。
梓にとっては、それは慣れた感触だった。匂いは少しカビ臭くて、空気は乾いて埃っぽい。そして、中には物が、そこいらじゅうに雑多に置かれているのだ。
「……さて、どこから探すでしょうかね」
梓はそう言いながら、取り敢えず、目に留まった物を手に取った。古い急須のようだが、梓は骨董品の目利きは出来ないので、それがどの程度の価値のあるものかは分からない。分かるのは、それが呪いにはあまり関係無さそうな物品だという事だけだ。
「ね、梓さん、これ!」
瑞輝の嬉しそうな叫び声が、梓の耳に入った。
「何です? ……あっ!」
梓も思わず声を上げた。そこには、比較的新しそうな、地下への通路がある。はっとして周りをよく見てみると、その一角だけ、比較的新しいものが保管されているみたいだった。
「ここ……ここっぽいですね……」
梓の体が、急激に強張った。今まで見た中で、これほど冬城が隠れていそうな場所は他には無かったからだ。
「これ、本当に居るかもしれないですよ。注意して……一旦、離れるです」
「う……うん……」
瑞輝も、自分が叫んでしまった迂闊さを恨みつつ、今度は音をなるべく立てずに、そっと後ずさった。
「ええと……外側には仕掛けは無さそうですけど……」
呪いを仕掛けるなら、犯人の所へ辿り着くまでに必ず通る場所が適切だろう。また、この蔵の鍵を開ける時にも慎重に観察しながらやったが、蔵の入り口には呪いは仕掛けられていなかった。とすれば、呪いが仕掛けられているであろうポイントは、いよいよここからだ。慎重に呪いを探っていかなければならない。
「呪いは、かかってないようですが……」
呪いがかけられている様子は無い。しかし、何らかの手段で隠されていることは、容易に想像できる。梓は様々な解呪の手段を頭の中に思い浮かべながら、慎重に、床に蓋のようにはまっている扉を引き上げて、開けた。
「ここが……」
「なんか、ここよりかは埃っぽくなさそうだよね」
「ここだけ後から増設されたっぽいですね。壁面も新しい感じです……さ、ここからは何が起こるか分からないですよ。犯人と同じ部屋に入ります。極力、慎重に行くです……後にぴったり付いてくるですよ」
梓が声を潜めて、二人に指示をした。当然、たった今開けた扉と同じく、この階段のどこかに呪いが仕掛けてある可能性は高い。ここから一歩踏み出してからは、全く気が抜けなくなる。梓は一回、息を大きく吸って、吐いた。それによって、梓は気持ちを落ち着けて、階段へ一歩、足を踏み出した。
「……さ、行くです」
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