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21.天然自然の要塞
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砦の中でも特に人通りが少ない、南西の端にある廊下を、ブリーツとサフィーは歩いていた。このティホーク砦は自然の要塞なので、周りに町などは無く、辺りは静寂に満たされている。そのティホーク砦の中でも、特に人通りが少なくて静かな南西に位置している廊下では、二人の足音は会話の次に目立つ音だ。そのことがサフィーに、ブリーツと二人きりで居る気まずさを強く感じさせることになった。
しかし、部屋で二人きりになるよりも、サフィーにとってはずっとマシだ。なので、サフィーは時々、自分からブリーツを誘って、こうやって夜の砦を散歩して回っているのだ。
「巡回部隊が何部隊かやられたんですって」
部屋での二人きりよりは何倍もマシだが、だからといって、この気まずさは耐えられない。サフィーはこの気まずさを打破するために、業務連絡に近い話題をブリーツに振った。
「やはり、巨兵か……」
ブリーツが少し気取った様子で言った。
「……! そ、そうだけど、あんた何で分かったの!?」
サフィーは驚いた。巡回部隊の破壊された痕跡から、やったのは深紺の巨兵の可能性が高いのだが、ブリーツよりも階級の高いサフィーでさえ、巡回部隊がやられたという事を、つい数十分前に告知されたばかりなのだ。 深紺の巨兵の事は、その前に、マクスン副師団長とザンガ師団長にお茶を出しに行った時に小耳に挟んだだけだ。サフィーはその情報を誰にも話していないし、そういう教育を受けた人のみが、お茶出し係を頼まれるようになっている。
「えっ、マジで深紺の巨兵なのか!?」
「ああ……言ってみただけだったのね。これ、まだ他の人に言っちゃだめだからね」
サフィーの興奮が、一気に収まった。
「ん……軍事秘密を引き出してしまったか……」
「当てずっぽうでね。はぁ……戦況がそのまで読めてたのかと思って、ちょっと見直したんだけど、私の勘違いだったみたいだわ」
サフィーは落胆し、ため息混じりに言った。
「がっかりすることないだろ、当てずっぽうでも当てたんだから。しかし、何でまた、あんなのが近くでうろつき始めたんだ? あちらさん、巨兵を前線に出すの、嫌がってるんじゃなかったのか?」
「私に聞かれても困るわよ。そんなのテルジリアの人しか知らないことでしょ。でも、現に巨兵のものであろう痕跡が見つかってるのよ」
「うへぇ……あんなのが近くに居るなんて、気が滅入る話だな。突然榴弾砲が飛んで来たらどうするよ?」
「巡回部隊の人数と頻度が増えたのは、そのためだったのかもしれないわね。でも大丈夫。深紺の巨兵は、巨大だから、この要塞には近づけないわ」
「ああ、そうだよなぁ、なんか、そんなに大きなイメージ無いけど、相当でかいよな、アレ」
「スピードもあるし、足の部分はそれほど太くないから小回りも効くからでしょうね。でも、ここには深紺の巨兵の腰よりも高い木が沢山あるし、太いから、無理矢理倒したら大きな音もするわ」
「なるほど。ここには容易くは近寄れないし、近づいたとしても分かるって事ね」
「そう。だから、榴弾砲のレンジ内に深紺の巨兵が近づいたら、今頃、警告シグナルが発せられてるでしょうね。もし巨木と巡回部隊の目を掻い潜って、いつの間にか深紺の巨兵が近づいて来てて、突然に榴弾砲なんて飛んできたら、それこそ一大事でしょうね。こんなにのんびりしてられないわ。」
サフィーは徐に窓から外を見た。砦の中だけあって、単に石に硝子がはめ込まれているだけに見える。そんな無骨な窓から月明かりの光が漏れているのは、なんとも不似合に思える。
窓越しにバルコニーが見えた。夜の闇に包まれたバルコニーに、一人の人影が浮かんでいる。
「あ、師団長がのんびりしてる。こんな事を話してるのを聞かれたら、いくら呑気な師団長でも怒るだろうから、黙っててよ」
「分かってるよ。で、師団長はのんびり温泉に入ってるのか、それとものんびりと風呂を覗いてるのか……?」
ブリーツが真顔で言った。
「……違うでしょ、師団長、いつも時々バルコニーでああやって鳩に餌付けをしているのよ」
サフィーは突っ込むのも馬鹿らしく感じ、さらりと流してとっとと話を進ませた。
「へえ……」
関心がないのか、うっとりしているのか。ブリーツは息を吐くように、そう相槌を打った。
「よくもまあ、あんなことを飽きずにやってられるわね。ま……気持ちは分かるけど。ここ、娯楽、無いし」
そんな会話をしつつ、二人がゆっくりと廊下を進んでいくと、ザンガ師団長は身を翻し、バルコニーを去った。
「師団長、満足したみたいね」
「丁度空いたところだし、俺達もちょっと行ってみようぜ、あそこから何が見えるのか気にならないか?」
「女湯は見えないわよ?」
「マジでか!?」
「……ボケてないで、行くんでしょ」
二人はバルコニーへと足を運ぶことにした。
「へえ、中々いい眺めじゃないか」
「師団長も結構気に入ってるみたいね。さっきみたいに鳩に餌付けしてる姿は、みんな、この場所で目撃してるわ。ここも鳩も、師団長はよっぽど好きなんでしょうね」
ここからみる、数々の巨木に囲まれた眺めは、夜といえど壮大だ。巨木に囲まれたティホーク砦は、天然の要塞だ。いかに深紺の巨兵とて、足を阻まれない訳は無いだろう。この光景を見ながら、サフィーはふと、そんな事を思った。
「へぇー……あれ? この羽、滅茶苦茶黒いなあ。随分と黒い鳩なんだな」
「いやいや、どーみても、烏とか別の鳥の羽でしょうが!」
「ああ、なんだ、やっぱり違うのか」
「あったりまえでしょ! ほら! これが見えないの!?」
サフィーは足元から、徐に一枚の羽を手に取り、ブリーツの目の前に突き出した。
「ああ、フツーの鳩の羽だな、うん」
その羽は、薄い灰色をしていた。鳩の羽だ。
「その羽が師団長が餌付けしてた鳩かどうかも分からないわよ。なにしろ、こんな草木に囲まれた天然の要塞なんだから、野生の鳩だって、野生のカラスだって、沢山居るでしょ」
「うん、そうだな」
ブリーツがこくりと頷いた。
「……はぁ。またつい本気で突っ込んじゃった……もう部屋に戻りましょう、寝たい」
サフィーは急にげんなりし、そう言った。
二人がバルコニーを後にし、自室に戻ると、幸いなことにサフィーはブリーツと二人だけの時間を感じる間もなく、ベッドに横たわってぐったりして、そのまま寝付いたのだった。
しかし、部屋で二人きりになるよりも、サフィーにとってはずっとマシだ。なので、サフィーは時々、自分からブリーツを誘って、こうやって夜の砦を散歩して回っているのだ。
「巡回部隊が何部隊かやられたんですって」
部屋での二人きりよりは何倍もマシだが、だからといって、この気まずさは耐えられない。サフィーはこの気まずさを打破するために、業務連絡に近い話題をブリーツに振った。
「やはり、巨兵か……」
ブリーツが少し気取った様子で言った。
「……! そ、そうだけど、あんた何で分かったの!?」
サフィーは驚いた。巡回部隊の破壊された痕跡から、やったのは深紺の巨兵の可能性が高いのだが、ブリーツよりも階級の高いサフィーでさえ、巡回部隊がやられたという事を、つい数十分前に告知されたばかりなのだ。 深紺の巨兵の事は、その前に、マクスン副師団長とザンガ師団長にお茶を出しに行った時に小耳に挟んだだけだ。サフィーはその情報を誰にも話していないし、そういう教育を受けた人のみが、お茶出し係を頼まれるようになっている。
「えっ、マジで深紺の巨兵なのか!?」
「ああ……言ってみただけだったのね。これ、まだ他の人に言っちゃだめだからね」
サフィーの興奮が、一気に収まった。
「ん……軍事秘密を引き出してしまったか……」
「当てずっぽうでね。はぁ……戦況がそのまで読めてたのかと思って、ちょっと見直したんだけど、私の勘違いだったみたいだわ」
サフィーは落胆し、ため息混じりに言った。
「がっかりすることないだろ、当てずっぽうでも当てたんだから。しかし、何でまた、あんなのが近くでうろつき始めたんだ? あちらさん、巨兵を前線に出すの、嫌がってるんじゃなかったのか?」
「私に聞かれても困るわよ。そんなのテルジリアの人しか知らないことでしょ。でも、現に巨兵のものであろう痕跡が見つかってるのよ」
「うへぇ……あんなのが近くに居るなんて、気が滅入る話だな。突然榴弾砲が飛んで来たらどうするよ?」
「巡回部隊の人数と頻度が増えたのは、そのためだったのかもしれないわね。でも大丈夫。深紺の巨兵は、巨大だから、この要塞には近づけないわ」
「ああ、そうだよなぁ、なんか、そんなに大きなイメージ無いけど、相当でかいよな、アレ」
「スピードもあるし、足の部分はそれほど太くないから小回りも効くからでしょうね。でも、ここには深紺の巨兵の腰よりも高い木が沢山あるし、太いから、無理矢理倒したら大きな音もするわ」
「なるほど。ここには容易くは近寄れないし、近づいたとしても分かるって事ね」
「そう。だから、榴弾砲のレンジ内に深紺の巨兵が近づいたら、今頃、警告シグナルが発せられてるでしょうね。もし巨木と巡回部隊の目を掻い潜って、いつの間にか深紺の巨兵が近づいて来てて、突然に榴弾砲なんて飛んできたら、それこそ一大事でしょうね。こんなにのんびりしてられないわ。」
サフィーは徐に窓から外を見た。砦の中だけあって、単に石に硝子がはめ込まれているだけに見える。そんな無骨な窓から月明かりの光が漏れているのは、なんとも不似合に思える。
窓越しにバルコニーが見えた。夜の闇に包まれたバルコニーに、一人の人影が浮かんでいる。
「あ、師団長がのんびりしてる。こんな事を話してるのを聞かれたら、いくら呑気な師団長でも怒るだろうから、黙っててよ」
「分かってるよ。で、師団長はのんびり温泉に入ってるのか、それとものんびりと風呂を覗いてるのか……?」
ブリーツが真顔で言った。
「……違うでしょ、師団長、いつも時々バルコニーでああやって鳩に餌付けをしているのよ」
サフィーは突っ込むのも馬鹿らしく感じ、さらりと流してとっとと話を進ませた。
「へえ……」
関心がないのか、うっとりしているのか。ブリーツは息を吐くように、そう相槌を打った。
「よくもまあ、あんなことを飽きずにやってられるわね。ま……気持ちは分かるけど。ここ、娯楽、無いし」
そんな会話をしつつ、二人がゆっくりと廊下を進んでいくと、ザンガ師団長は身を翻し、バルコニーを去った。
「師団長、満足したみたいね」
「丁度空いたところだし、俺達もちょっと行ってみようぜ、あそこから何が見えるのか気にならないか?」
「女湯は見えないわよ?」
「マジでか!?」
「……ボケてないで、行くんでしょ」
二人はバルコニーへと足を運ぶことにした。
「へえ、中々いい眺めじゃないか」
「師団長も結構気に入ってるみたいね。さっきみたいに鳩に餌付けしてる姿は、みんな、この場所で目撃してるわ。ここも鳩も、師団長はよっぽど好きなんでしょうね」
ここからみる、数々の巨木に囲まれた眺めは、夜といえど壮大だ。巨木に囲まれたティホーク砦は、天然の要塞だ。いかに深紺の巨兵とて、足を阻まれない訳は無いだろう。この光景を見ながら、サフィーはふと、そんな事を思った。
「へぇー……あれ? この羽、滅茶苦茶黒いなあ。随分と黒い鳩なんだな」
「いやいや、どーみても、烏とか別の鳥の羽でしょうが!」
「ああ、なんだ、やっぱり違うのか」
「あったりまえでしょ! ほら! これが見えないの!?」
サフィーは足元から、徐に一枚の羽を手に取り、ブリーツの目の前に突き出した。
「ああ、フツーの鳩の羽だな、うん」
その羽は、薄い灰色をしていた。鳩の羽だ。
「その羽が師団長が餌付けしてた鳩かどうかも分からないわよ。なにしろ、こんな草木に囲まれた天然の要塞なんだから、野生の鳩だって、野生のカラスだって、沢山居るでしょ」
「うん、そうだな」
ブリーツがこくりと頷いた。
「……はぁ。またつい本気で突っ込んじゃった……もう部屋に戻りましょう、寝たい」
サフィーは急にげんなりし、そう言った。
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