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108話「アークスとミーナ」
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「僕を見るだけで息が詰まるって……僕、そんなに窮屈な事してますか?」
「心から、そう思うよ」
「うーん、それにはミーナちゃんも同意だぴょん。アークスって、純情一直線なんだぴょんが、むしろそこが窮屈っていうか……」
「ミーナは、アークスがちゃんとし過ぎて窮屈だと言っているらしいぞ、アークス」
「ああ、それは……たまに言われます。僕としては、結構、砕けているつもりなんですけど……」
「そうか、そうか。いや、私はいいと思うぞ。逆に可愛げを感じる」
「あれ、お師匠様は、そうじゃないぴょんか」
「ああ、アークスが几帳面で、頭の固い騎士様だという理由で息が詰まっているわけじゃない」
「……」
几帳面で、頭が固いって……魔女は、それを悪い意味では言っていないようだが、アークスは、魔女の言い草から、なんだか魔女が間接的に悪口を言っているのではないかと疑ってしまう。
「ただな、そういった几帳面で親切なアークスの気持ちが、騎士団に居るおかげで発揮できていないんじゃないかと思ってな……」
「魔女さん……」
アークスには、心当たりが無いわけではなかった。騎士団を統合しているのも規則だが、規則によって足かせをされていると感じる状況が度々あるのも、また事実だからだ。
「でも……やっぱり、騎士団に居ることは誇りですし、みんな頑張ってますから……」
「そうかい。頭の固い騎士殿らしい言い方だな。ま、頭が固いのは、騎士殿だけじゃないみたいだがな」
「ぴょん!?」
魔女が唐突にミーナの方へと視線を向けた。ミーナは、いきなり視線を向けた魔女の意図が全く分からずに慌てている。
「思い込みが激しいというのかな。ミーナのウィークポイントだな」
魔女はそう言いながら、机のテーブルの下に備えられた、薄い引き出しを開けると、その中から一冊の本を取り出した。
――ポン。
魔女は、本を机の上に軽く投げ、置いた。
「ああっ! これ……!」
ミーナが顔を赤くしながら、本を指さして絶句した。
「ああ、やっぱりそうだったな。だろうと思ったんだよなぁ」
「えっ、どういうことですか?」
「ミーナが補助魔法より攻撃魔法の方が得意なのは、私も把握しているところなのだがな、ただ、ミーナはそれ以上に、自分のことを過小評価していたんだよ」
「お師匠様……じゃあ、この本に書いてある事は……」
「まあ、八割がたペテンだな、私に言わせれば」
「ガーン! そうだったのかぴょん!」
ショックを受けた様子のミーナを見て、魔女はやれやれといった様子で軽いため息をつきながら、本をペラペラとめくり、あるページを開いた。アークスには、そのページが比較的最初の方のページに見えた。
「恐らく、ミーナはここを読んだんだろう。魔法使いに向いていない人の傾向、その一、呪文が覚えられない。その二、潜在的な魔力が充分でない、その三……と続いていて、ページの中ほどに、魔法の効果が著しく相違してしまう人、また、魔法の効果が真逆に出ていしまう人は要注意。と書かれている」
「そうそう、それだぴょん!」
「この本は、なんつーか……話半分に読む本なんだよな、紛らわしいが……」
「話半分……」
「魔法に関する、きちんとした知識に基づいて書かれていないんだ。全体をざっと見てみても、理論的な解説は、一切、入ってなかった。例えるなら占い本か……または性格診断の類だ。表紙を見て、なんとなく分からんか?」
「んんっ……」
ミーナはまじまじと表紙を見てみた。「あなたには何が向いてる? お手軽職業診断シリーズ4 魔法使いに向いてるか向いてないか診断!」と書かれている。
「まあ……診断はしているんだが……つまり、魔法の特性を基準にした診断ではなく、性格に重きを置いた診断をしている本なわけだ。しかも、魔法使いという職業のことを取り扱っているから、補助魔法がどうこうという問題ではない」
「え……んー……まさに、その部分だぴょんが……確かにそうだぴょんね……」
「重箱の隅を突くようだが、その後に、コラムとして、この条件に全く当てはならなかったが魔法使いになった人の事も書かれている。ミーナの早とちりだな」
魔女がページを一枚、ぺラリとめくって指さした。
「ええっ!? ほ、本当だぴょん……」
それを覗き見たミーナは愕然とした。これは結局、どういうことなのだろうか。
「ま、向いてたら万々歳、向いていなくても気の持ちようで、魔法使いを諦めることはないってことだ。少なくとも、体質上、魔法が使える以上はな」
「な、なるほど、それを聞いて、なんか安心したぴょん」
「そうか……安心しちゃったかー……」
魔女は、突然冷静さを欠いたように額に手の平を当て、顔をがくりと後ろに倒して天を仰ぎ見た。
「ミーナ、確かに私は嘘を教えたつもりも無いが、ミーナは特に何も考えずに納得しただろう?」
「えっ……まあ、お師匠様が言ってるんだし……」
「それが頂けないんだよなぁ。まあ、もう一つ、例を言おう。お前、あっちの世界に行ったとき、一人でこっちに戻ろうとしなかったろう。こっちに戻ってくれば、私や騎士団とも連絡が出来るのに」
「それは……時空の歪みに入ったら、どこに飛ぶか分からなかったし……」
「うむ……まあ、その件については、ミーナには難しい話なので仕方ないのだが……あれは、一人で戻っても大丈夫だったんだな、これが」
「そうなのかぴょん……」
「落ち込む必要は無いんだ。例として挙げているだけで、あれはミーナに判断できなくとも仕方がない話だからな」
「そうなのかぴょん!」
「うーむ……やはり鵜呑みにしているような気がするが……ま、ひとまず、それはもういいだろう。何故、戻っても大丈夫だったかという解説だが、まず、判断基準の話からすると、時空の歪み付近で……といっても、その頃、こちらでは時空の歪みなんて認識されていなかったから、サウスゴールドラッシュの付近と言うべきかな。そこで、道に迷った人は居るものの、行方不明者はゼロだということだな。これは、こっち側とあっち側が密接に繋がっている証拠と言えるだろう」
「「ほうほう……」」
アークスとミーナがこくこくと頷く。
「つまり、こっちの世界に戻ってくる確率は、その時点では百パーセントだったってことだ。十中八九、こちらの世界には帰ってくることができるということだな。時間がかかる可能性はあるが、これまでの報告例から考えて、結構簡単に、しかも安全に戻ってこれるってことなんだよ」
「おー……」
「つまり、空間とかの理論じゃなくて、サウスゴールドラッシュのこれまでの状況から読み取ることができた……ってことですか……」
「そういうことだ。専門知識が無い時には、こういった判断基準で動くしかないからな。ま……そういうことは、追い追い、騎士団との任務の中で身に付くことだろう」
「ああ、なるほど、ということは、当分の間はミーナは騎士団……ひいては僕と一緒に行動することになるんですね」
「そうだ。まあ、よろしく頼む」
「はぁ……」
アークスは、本当にそれでいいのだろうか、特に、騎士団が受け入れてくれるのだろうかと疑問を持ったが、それが無用な心配なのは、なんとなく分かった。これまでだって、幾度となく魔女の依頼は引き受けてきたし、今回の事件で騎士団は魔女に借りも出来たからだ。
「……よろしくね、ミーナ」
これからも長い付き合いになりそうだ。アークスは、そう思ってミーナに右手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくぴょん!」
ミーナの方も、アークスの言葉を受け止め、手を握った。
「心から、そう思うよ」
「うーん、それにはミーナちゃんも同意だぴょん。アークスって、純情一直線なんだぴょんが、むしろそこが窮屈っていうか……」
「ミーナは、アークスがちゃんとし過ぎて窮屈だと言っているらしいぞ、アークス」
「ああ、それは……たまに言われます。僕としては、結構、砕けているつもりなんですけど……」
「そうか、そうか。いや、私はいいと思うぞ。逆に可愛げを感じる」
「あれ、お師匠様は、そうじゃないぴょんか」
「ああ、アークスが几帳面で、頭の固い騎士様だという理由で息が詰まっているわけじゃない」
「……」
几帳面で、頭が固いって……魔女は、それを悪い意味では言っていないようだが、アークスは、魔女の言い草から、なんだか魔女が間接的に悪口を言っているのではないかと疑ってしまう。
「ただな、そういった几帳面で親切なアークスの気持ちが、騎士団に居るおかげで発揮できていないんじゃないかと思ってな……」
「魔女さん……」
アークスには、心当たりが無いわけではなかった。騎士団を統合しているのも規則だが、規則によって足かせをされていると感じる状況が度々あるのも、また事実だからだ。
「でも……やっぱり、騎士団に居ることは誇りですし、みんな頑張ってますから……」
「そうかい。頭の固い騎士殿らしい言い方だな。ま、頭が固いのは、騎士殿だけじゃないみたいだがな」
「ぴょん!?」
魔女が唐突にミーナの方へと視線を向けた。ミーナは、いきなり視線を向けた魔女の意図が全く分からずに慌てている。
「思い込みが激しいというのかな。ミーナのウィークポイントだな」
魔女はそう言いながら、机のテーブルの下に備えられた、薄い引き出しを開けると、その中から一冊の本を取り出した。
――ポン。
魔女は、本を机の上に軽く投げ、置いた。
「ああっ! これ……!」
ミーナが顔を赤くしながら、本を指さして絶句した。
「ああ、やっぱりそうだったな。だろうと思ったんだよなぁ」
「えっ、どういうことですか?」
「ミーナが補助魔法より攻撃魔法の方が得意なのは、私も把握しているところなのだがな、ただ、ミーナはそれ以上に、自分のことを過小評価していたんだよ」
「お師匠様……じゃあ、この本に書いてある事は……」
「まあ、八割がたペテンだな、私に言わせれば」
「ガーン! そうだったのかぴょん!」
ショックを受けた様子のミーナを見て、魔女はやれやれといった様子で軽いため息をつきながら、本をペラペラとめくり、あるページを開いた。アークスには、そのページが比較的最初の方のページに見えた。
「恐らく、ミーナはここを読んだんだろう。魔法使いに向いていない人の傾向、その一、呪文が覚えられない。その二、潜在的な魔力が充分でない、その三……と続いていて、ページの中ほどに、魔法の効果が著しく相違してしまう人、また、魔法の効果が真逆に出ていしまう人は要注意。と書かれている」
「そうそう、それだぴょん!」
「この本は、なんつーか……話半分に読む本なんだよな、紛らわしいが……」
「話半分……」
「魔法に関する、きちんとした知識に基づいて書かれていないんだ。全体をざっと見てみても、理論的な解説は、一切、入ってなかった。例えるなら占い本か……または性格診断の類だ。表紙を見て、なんとなく分からんか?」
「んんっ……」
ミーナはまじまじと表紙を見てみた。「あなたには何が向いてる? お手軽職業診断シリーズ4 魔法使いに向いてるか向いてないか診断!」と書かれている。
「まあ……診断はしているんだが……つまり、魔法の特性を基準にした診断ではなく、性格に重きを置いた診断をしている本なわけだ。しかも、魔法使いという職業のことを取り扱っているから、補助魔法がどうこうという問題ではない」
「え……んー……まさに、その部分だぴょんが……確かにそうだぴょんね……」
「重箱の隅を突くようだが、その後に、コラムとして、この条件に全く当てはならなかったが魔法使いになった人の事も書かれている。ミーナの早とちりだな」
魔女がページを一枚、ぺラリとめくって指さした。
「ええっ!? ほ、本当だぴょん……」
それを覗き見たミーナは愕然とした。これは結局、どういうことなのだろうか。
「ま、向いてたら万々歳、向いていなくても気の持ちようで、魔法使いを諦めることはないってことだ。少なくとも、体質上、魔法が使える以上はな」
「な、なるほど、それを聞いて、なんか安心したぴょん」
「そうか……安心しちゃったかー……」
魔女は、突然冷静さを欠いたように額に手の平を当て、顔をがくりと後ろに倒して天を仰ぎ見た。
「ミーナ、確かに私は嘘を教えたつもりも無いが、ミーナは特に何も考えずに納得しただろう?」
「えっ……まあ、お師匠様が言ってるんだし……」
「それが頂けないんだよなぁ。まあ、もう一つ、例を言おう。お前、あっちの世界に行ったとき、一人でこっちに戻ろうとしなかったろう。こっちに戻ってくれば、私や騎士団とも連絡が出来るのに」
「それは……時空の歪みに入ったら、どこに飛ぶか分からなかったし……」
「うむ……まあ、その件については、ミーナには難しい話なので仕方ないのだが……あれは、一人で戻っても大丈夫だったんだな、これが」
「そうなのかぴょん……」
「落ち込む必要は無いんだ。例として挙げているだけで、あれはミーナに判断できなくとも仕方がない話だからな」
「そうなのかぴょん!」
「うーむ……やはり鵜呑みにしているような気がするが……ま、ひとまず、それはもういいだろう。何故、戻っても大丈夫だったかという解説だが、まず、判断基準の話からすると、時空の歪み付近で……といっても、その頃、こちらでは時空の歪みなんて認識されていなかったから、サウスゴールドラッシュの付近と言うべきかな。そこで、道に迷った人は居るものの、行方不明者はゼロだということだな。これは、こっち側とあっち側が密接に繋がっている証拠と言えるだろう」
「「ほうほう……」」
アークスとミーナがこくこくと頷く。
「つまり、こっちの世界に戻ってくる確率は、その時点では百パーセントだったってことだ。十中八九、こちらの世界には帰ってくることができるということだな。時間がかかる可能性はあるが、これまでの報告例から考えて、結構簡単に、しかも安全に戻ってこれるってことなんだよ」
「おー……」
「つまり、空間とかの理論じゃなくて、サウスゴールドラッシュのこれまでの状況から読み取ることができた……ってことですか……」
「そういうことだ。専門知識が無い時には、こういった判断基準で動くしかないからな。ま……そういうことは、追い追い、騎士団との任務の中で身に付くことだろう」
「ああ、なるほど、ということは、当分の間はミーナは騎士団……ひいては僕と一緒に行動することになるんですね」
「そうだ。まあ、よろしく頼む」
「はぁ……」
アークスは、本当にそれでいいのだろうか、特に、騎士団が受け入れてくれるのだろうかと疑問を持ったが、それが無用な心配なのは、なんとなく分かった。これまでだって、幾度となく魔女の依頼は引き受けてきたし、今回の事件で騎士団は魔女に借りも出来たからだ。
「……よろしくね、ミーナ」
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