ヲクトリサマ

猫蕎麦

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ヲクトリサマ

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祠の中は、とても暗かった。

暗いのに、景色がよく見えた。提灯の明かりがついているからではない。なぜか不自然なほどに遠くの景色もよく見えたのだ。

そして祠はしばらく続いていた。夏なのにとても涼しく、鍾乳洞に迷い込んだような感覚。天井から滴る水が、僕の頭に落ちてびっくりする。しばらく行くと、広い空間に出た。

「うあ……」

とても不気味だった。壁画やよくわからない文字が壁一面に描かれている。天井のど真ん中には穴が空いていて、何の明かりかわからないが少しだけ光が漏れている。

その部屋に、アレはいた。

「もうあそびはおわり?」

一言で言えばダンボオクトパスみたいな風貌をした、アレが。

「弟はどこだ」

額に汗を滲ませながら、僕は尋ねた。するとアレはカカカと笑い始めた。

「きみがきょうだいがほしいっていうからつくってあげたのに。こころのおくでしんじてないから、すぐにきおくがむだになる」

そう言った瞬間、アレは弟の容姿そっくりに姿を変えた。笑顔が優しい自慢の弟。待ち望んだはずの弟との再会。だが僕は、彼の名前を思い出せない。

「そうだよ。きみはあたまがいいからすぐまたおもいだしてしまう。でもだいぢょうぶ。ボクがしあわせにしてあげるから」

なんとなくわかっていた。こいつがヲクトリサマだ。僕の記憶を糧に生きる、神様と呼ばれた怪物。

憶奪様。

作られた記憶の中で、僕は生き続けていた。

「さあ、つぎはどんなあそびにする?」

よくみると部屋には松明があった。ヲクトリサマに取り込まれては終わりだ。また偽の記憶の海で溺れることになる。僕が取るべき選択肢は一つ。ヲクトリサマを倒して、本当の記憶を取り戻すこと。

ヲクトリサマは新月の晩に現れる。なぜ?

それは、光に弱いから。

「あっ」

僕が部屋の一つ目の松明に明かりを灯すと、ヲクトリサマの表情が曇った。

「なんで!」

「もう遊ぶのは終わりにしよう!」

部屋中の松明に火がついて、全体が光に包まれる。ヲクトリサマの姿はゆっくりと、それでも確実に、散り散りになっていく。

「……ぁ…」

次の瞬間、天井の穴から大量の水が流れ込んできた。
僕の記憶も元に戻りつつある。

そして、今自分がどんな状況にいるのかを、思い出した。

「やばい、今すぐここを出ないと……!」

水浸しの部屋を後にしようとするが、すぐにもと来た道から大量の水が流れ込む。部屋の中はまもなく水に沈み、僕は水の中に飲み込まれてしまった。
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