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十語目 『Trigger』
しおりを挟む吾輩は犬である。
心配はいらない。もちろんモブは人間ばかりではない訳で、動物に配役されることもある訳だ。
『俺の彼女の彼氏は"47"人いるのでちょっと倒してくる』の主人公……あれ?46人だったか?わからんが、その主人公の大坂文斗の話を聞いて、その直後だ。
いつものモブ配役通知が来た。
ちなみに説明しておくと、俺の彼女のなんちゃらかんちゃらでは、主人公が彼女の琴咲宇梨と仲良くしていたクリスマスイブの夜、突然何者かに気絶させられてしまう。そして目が覚めるとそこは、人気はないが現実と酷似した異世界。偶然あった謎の猫耳幼女、琴咲瑠猪と共に、46人の自称宇梨の彼氏とのサバイバルゲームを強いられるわけだ。
意味がわからない。一応最後にはその理由が明らかになり、なぜか感動するラストとなるようだが。
まあいい、とりあえずその話の主人公になった元モブの大坂くんは、主人公に文句を言えば主人公になれると言っていた。
今回の話が俺のモブ人生最後の物語。そうなって欲しいと願うばかりだ。舌を出してヘコヘコ言いながら。
この物語の題名は、『Trigger』。主人公の玉風望は、小学生の頃、いじめっ子に対してある能力を覚醒してしまう。念じた人を爆破する能力。つまり「Trigger」、「起爆人間」となってしまったのだ。
高校生になった彼は、人を避ける中唯一できた友人、線上奈美と普段通り電車で登校しているのだが、命の重みを忘れた彼は些細なことで人を念じ殺すのを繰り返していて……といったあらすじで大体通じただろうか。
犬である俺の出番はいつなのか知らないが、もうすぐであることは確かだ。
ミヨリの方は不良Aをやっている。一応女だ。玉風とやらに難癖つけて殺されるんじゃないかと、俺は想像しながらほくそ笑んだ。犬の顔そんな表情無いけどな。
お、来た。
俺は閑静な住宅街のうち、一つの家に飼われている犬のようだが、おそらく目の前の道が通学路なのだろう。ランドセルを背負った玉風が歩いてくる。
若干嫌な予感がしてきた。
彼はゆっくりと近づいてきた。俺……がやってる犬の目が、彼を捉える。この描写は原作にも記されているのだろう。体が勝手に動き始めたから、俺はそう確信した。
バウバウッッ!!ウゥウウ……グルル
俺の気も知らず、ひとりでに吠え出す俺の口。終わったな、と思った。
「そうだ、動物は試したことなかったな」
そう言ったのはもちろん玉風の口である。
「この犬、爆死しろ」
俺をじっと見つめながら、彼は呟くように言った。その目は人間のものとは思えないほど、虹彩が開ききり、真っ黒になっていた。
ブーンという低い耳鳴りが聞こえ出す。先程まで吠えていた俺は、急に静かになった。そして──
恐ろしいほど痛みが無いまま、破裂音だけが聞こえた。視界が宙を飛び、見えないはずの俺の、犬の、身体を映し出す。
四肢が飛び散り血を吹き出す所まで確認し、俺の出番は終わった。
最悪な最期だった。
目を開けるとそこにはミヨリがいる。だいぶアングルが下なのは、単に犬だからではなく、俺の頭が身体から離れて落ちているからだろう。彼女は首を片手に、立ち尽くしていた。案の定不良として爆破されたようだ。
「よくよく考えたけど無理じゃん。これ。ウチは声帯の部分爆破されて声出ないし、アキなんかそもそも犬だし。文句言えないじゃん」
ミヨリの目がそう言っているのがわかって、しばらく思考が止まった。
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