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娼館送り予定の未亡人を救え作戦 後編

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「天下の騎士様が奴隷に惚れて、しかも買おうとするなんて、世も末だな。」

………なんだと?

「……騎士、だと?」

「あん、違うのかよ?」

「いや、それは……」

違うと言い張るのは簡単だが、この男に嘘が通用するか?
なにより実際に騎士である俺が、誤魔化しの為にそれを否定するのはいかがなものだろうか。


「……何故わかった?」

迷った挙句、俺は店主の言葉を肯定した。

「その剣だよ。」

店主は俺が腰に佩いた剣を指差した。
仕事は既に終えて鎧などは身につけていないが、剣だけは職場に放置せずいつも身につけている。

「街中で帯剣すんのは兵士か冒険者もしくは傭兵…それくらいなもんだ。常に武器を消耗させる冒険者はそんな小綺麗な剣は使わねぇ。雰囲気は傭兵に近いが、1年以上平和の続いてるこの街に傭兵は寄り付かねぇ。なによりあんたからは"品"を感じる。貴族ってほどじゃねぇが、ただの傭兵には身につかねぇもんだ。」

流れるように話す男。
この短時間でどこまで見通し、どれほどの事を考えたのだろう。

「だからといって一介の兵士にも見えねぇ。見回り中ならともかく、そんな私服で帯剣する奴なんざほぼいねぇ。一般兵は自前の剣を持たない奴が大多数だからな。仮に持ってたところでわざわざ持ち歩く必要もねぇ。」

この男、ただの商人じゃねぇ。

「ついでに言うと、その剣もただの剣には見えねぇ。実用性を損なうって程でもないが無駄に立派な装飾がついてるし、素材も悪くねぇ。一般兵に買えるような代物じゃねぇやな。大方、貴族にでも下賜されたもんだろう。」

その通りだ。
全てこの男の言う通りだった。



「……ふんっ。まぁ色々言ったが、別にあんたが騎士だろうとどうでも良いこった。」

「そうか。」

「あぁ。わざわざ言いふらしたりもしねぇよ。だが、俺が何も言わなくても噂は間違いなく広まるだろうがな。」

「やはりそう思うか。」

「当たり前だ。誰の目にもつかず家に連れ帰って監禁でもすれば見つからねぇだろうが、現実的じゃねぇ。」

「……だな。」

女を諦めるか、騎士としての名誉を捨てるか。
クビにはならないし爵位が取り上げられる事もないだろうが、周りの見る目は確実に悪くなるだろう。



「…一つ、良い手があるぞ。」

店主が相変わらずのにやけ面でそう言った。
俺は藁にもすがる思いで身を乗り出す。

「本当か。」

「あぁ。あんたの名誉を損なわず、奴隷を手に入れる事ができる。」

「教えてくれ。」

今更この男の前で取り繕う必要もない。
それよりも俺は、あの女が欲しくてたまらない。


「まず1つ言っておく。あの女は未亡人だ。」

「なに、そうなのか……」

あれだけ綺麗な女なら、そりゃそういう事もあるよな……

「まぁ旦那はとっくに亡くなってるらしいがな。」


「ふむ…それで?」

「あいつの買い手の目星は既につけてある。」

「なに!?」

それは困る。

「つっても特定の誰かじゃねぇ。あの女は娼館に売り込むつもりだ。」

「娼館だと!?」

あの女が娼婦となり、知らない誰かに抱かれる……考えただけで吐き気がした。

「あいつはかなりの高値で売れるだろう。」

「…その根拠は?」

確かに綺麗だったがそれだけで"かなりの高値"とは言えないだろう。
この狡猾な男がそこまで言うなら、必ず何か理由があるはずだ。



「実はな…あの女は……」

俺と店主の目が合う。
店主はいやらしそうにニヤッと笑った。

淫魔族サキュバスなんだ。」







「よし、これで契約は終了だ。あとは持って帰って好きにしろ。」

それだけ言うと、店主は俺が払った金を持って奥へと入って行く。
それを見届けた俺は、正面に立つ美女へ目を向けた。

「えー……その…俺が今日からあんたの主になる…ガラハルドだ。」

「宜しくお願い致します、ご主人様。私はリリースティアと申します。」

「リリースティア、だな。あー……何て呼べば良い?」

「どうぞティアとお呼び下さいませ。」

「ティア…だな。」

やべぇ照れる。
なんだよこれ。

「んじゃ、えっと……帰るか。」

「はい。」

俺はリリースティア…ティアを連れて、奴隷商館を後にした。




あの店主の作戦はこうだった。

独り身の騎士である俺は、家事のできる使用人を探していた。
そんなある日、たまたま出会った奴隷商人である店主から、奴隷を使用人としてはどうかと提案される。
奴隷を買うつもりなどなかったが、店主があまりにしつこく提案する為、1度話だけ聞く事にした。

そこで登場するのがティアである。
夫は亡くした未亡人の彼女は、このままでは娼館へ送られてしまうという。
1度は購入を断るが、嘆き悲しむ彼女を見ていられなかった俺は、彼女を使用人として買う事を決意した。

すなわち、『惚れた女が奴隷だったから買った』という事実を『麗しき女性を悲しみの底から救い出した』という美談に改変させたのだ。
まぁ実際に娼館に売られる予定だったのだし、まるっきり嘘というわけでもない。
ただ動機と目的の不純さを隠せるなら何でも良かった。

事実がどうあれ、俺と店主とティアが言い張れば、疑う理由もないだろう。
俺は店主の提案にすぐさま飛びついた。
話を合わせる代わりに金はたっぷり搾り取られたが、ティアを手に入れる為ならばと、傭兵時代の貯金や戦争での功績から得た金など出せるものをかき集めて用意した。

お陰でこうして彼女を手に入れたのだ。
これからの生活を想像すると、だらしなく頬が緩むのを抑えられなかった。





その夜。
寝室でティアと向かい合う俺は、まともに彼女と目も合わせられず、まるで初めて女の裸を前にした童貞のようにもじもじとしていた。

いまの彼女は目のやりどころに困るような薄着を身につけており、その豊満な胸がこれでもかと主張している。
それ以外にもくびれのある腰やほどよく肉感のある太腿など、全身のありとあらゆるところから妖艶な空気が醸し出されていた。

怪しげに光る赤い瞳はうっすらと潤み、熱い視線を送ってきている。
俺は思わず喉を鳴らした。

「その…買った初日でこんな事を頼むのもどうかと思うし、もしティアが嫌だと思うなら無理強いはしないが……その………」

「大丈夫です、ご主人様。」

噛みそうになりながら喋る俺を遮り、ティアは小さく笑った。

「私はご主人様に救っていただきました。ご主人様がいらっしゃらなければ、私はそう遠くない内に娼婦となっていたでしょう。」

「まぁ…そう、だな。」

「そうなればきっと、あの世で夫も悲しみます。」

「ティアは…今でもその人を……愛しているのか?」

聞きたくない。
でも聞かずにはいられない。


「……はい。私は、今でも夫を愛しています。」

「…そうか。そうだよな。」

「しかし、いつまでもこのままではいけないとも思っています。」

ティアはその豊満な胸に手を当てて目を閉じた。

「私が過去に縛られたままでは、それこそ夫は悲しむでしょう。あの人は優しい人でした……そう、ご主人様のように。」

「俺は……優しくなんて、ない。」

俺は欲望にまみれた薄汚い人間だ。

「理由はどうあれ、ご主人様は私を救って下さいました。しかも、無理強いはしないとまで言って下さいます。私は…私は……そんなご主人様なら……」

目を開けたティアの頬を、一筋の涙が伝った。
俺は思わず彼女を抱き寄せた。

「もう良い。もう良いんだ………お前の気持ちはわかった。俺が…俺が必ず、ティアを幸せにする。」

「ご主人様………ありがとう、ございます。」

涙を流したまま笑うティアを見て、その唇に優しく口付けをした。








「………んで、何で1週間前に売られたはずのお前がここにいるんだ?リリースティアさんよ。」

「あら、旦那様。私のことはこれまで通り、リリーと呼んで下さいませ。」

「……リリー、何で戻ってきてるんだ?ガラハルドはどうした?」

「あの方は私を解放して修行の旅に出られましたわ。」

「何がどうしてそうなった……」

「あの方に買われて1週間、淫魔としての力で搾り尽くしましたの。」

「……それで?」

「枯れました。」

「なにが!?」

「それは勿論、ナニがですわ。1週間で残りの人生分、全て出し尽くしたようですわね。」

「えぇ……」

「そして、悟りを開く旅へと出られたのです。」

「いや、意味わかんねぇよ。」

「最後の方はすっかり怯えるようになってしまいまして……これだから精力の弱い雄は嫌ですわ。」

「いや、淫魔お前に搾り取られて正気でいられる人間なんて滅多にいねぇから。」


「やはり私を満足させて下さるのは旦那様だけですわね。あぁ、久しく感じていない腰の砕けるような快楽……はぁ…はぁ………もう駄目ですわ。下手な雄を相手にしていたせいで、逆に我慢できなくなっていますの。」

「お、おい、ちょっと待て。何でにじり寄って来てんだよ!」

「最近はお相手して下さいませんでしたものね。さぁ、今日は心ゆくまで愉しみましょう、旦那様。」

「や、やめろ!まだ昼だぞ!ちょっ、シルフィ!ミィ!誰かー!!」

「ふふふ…そんな風に抵抗する振りして、1度その気になったら獣の様になるではありませんか。さぁ、共に快楽の海に溺れましょう!!」

「あっ、ちょっ、らめ………アーッ!!」
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