色欲の王

紳士

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始動

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翌日、連泊していた宿を出た俺とエマは、冒険者ギルドへと来ていた。
トアの所へ戻る前に、エマを冒険者登録させておこうと考えたのである。
何の身分も持たないままでは街を出る事さえ難儀する為、手っ取り早く冒険者になってとりあえずの身分を獲得しようという事である。

「こちらが冒険者ギルドですか。」

ギルドの前に着き、建物を見上げるエマ。

「結構デカいだろ?この街は冒険者の数もそこそこ多いからな。」

「凄いですね…」

感嘆の声を上げるエマの手を引く。

「ほら、行くぞ。」

「はい!」




ギルドに入ると、中にいた冒険者達がこちらを見た。
そして俺の隣にいるエマを見て驚愕した表情で動きを止める。
俺は気にせず彼女の手を引いたまま歩き出した。

「お、おいアーシュ!お前どうしたんだよ!?」

馴染みの冒険者のモーブが慌てて話しかけてきた。

「どうしたって何がだ?」

「ここ数日顔も見せねぇと思ったら急に現れて、しかもそんな別嬪連れてるなんて、何があったんだ!?」

「あぁそれか。悪い、ちょっと色々あってな。久し振りだな、モーブ。」

「お、おぉ久し振り……って、そうじゃねぇよ!その女、何なんだ!?」

周りの冒険者達も注目している。
俺はニヤッと笑って繋いだ手を上げた。

「勿論、俺の女だ。見ればわかるだろ?」

その瞬間、ギルド内にいた冒険者達が一斉に騒めきだった。



「お、俺の女って………トアはどうした?あいつ、ここ数日毎日ギルドに来てお前のこと聞いて回ってたんだぞ?別れたってわけでもねぇんだろ?」

使徒となったあの日、元々の宿には戻らず直接他の宿へ向かった。
トアからしてみれば俺は突然失踪したようなものか。
わざわざ俺を探してギルドまで来ていたようだが、どうせあのクソ男も一緒だったのだろう。

「勿論別れちゃいねぇよ。でも、こいつも俺の女にした。」

「……お前、イカレちまったのか?」

「俺は正気だぜ?この国には一夫一妻を義務付ける法なんてねぇんだから、何人囲おうが俺の勝手だろ?」

「トアは知ってるのか?」

「いや、まだ言ってねぇ。」

さらっと言ってのける俺を、モーブが睨む。

「やっぱお前イカレちまったみてぇだな。」

「俺は正気だって言ってんだろ?」

「なら正気でトアを裏切ったのか。どっちにしろ腐ってやがるぜ。」

射殺すような視線に、俺は肩を竦めて嘲笑で返した。

「そいつはちげぇな。俺があいつを裏切ったんじゃねぇ。あいつが俺を裏切ったんだ。」

「………どういう事だ?」

困惑に眉をひそめるモーブに、俺はあっさりと真実を打ち明けた。


「トアはな……俺を裏切って、他の男に股を開いてやがったんだ。」

トアは毎日ギルドへ来ているらしい。
どうせならこの状況を使ってやるか。

さぁ、復讐開始だ。







ガチャっと扉の開く音がする。
ギルドに入ってきたのは男女1組。

女はやや低めの身長。
赤茶色のショートボブとパッチリした青い目が特徴的だ。
身長の割には起伏のあるスタイルをしており、触ればもっちりと吸い付くような肌質である事を俺は知っている。

男はスラッとしてそこそこ身長が高い。
サラサラの金髪、整った輪郭に切れ長の目。
その目元にある泣き黒子が彼の涼しげな表情と相まって、並の男では到底太刀打ちできない色気を放っている。

入ってきた2人を見るやいなや、冒険者達は各々その表情を歪めた。
ある者は嘲笑し、ある者は嫌悪に眉を顰める。
2人は唐突に向けられた負の感情とあまりにも露骨な疎外感に動きを止め、困惑する。

「え、な、なにこれ……何かあったのかな…?」

「さ、さぁ…?」

キョロキョロと辺りを見る2人に、モーブがズカズカと歩み寄る。


「てめぇら、よく2人揃って来られたな。」

冷たい声音と憤怒の表情。
モーブは元が厳つい顔してるから、怒ると鬼みてぇだ。

「あ、こんにちはモーブさん。あの……な、何か怒ってます?」

「けっ、白々しい奴だぜ。純情そうに見せて、腹ん中はゾンビのはらわたみてぇに腐ってるくせによ。」

「えっ……」

モーブの暴言にトアが絶句する。
モーブは厳つい顔だが根は優しくて誠実で兄貴肌な奴だ。
理由もなく人を侮辱するような人間ではない。


「ちょっとモーブさん!急にどうされたんですか!?」

トアの横にいた間男…ノトラがトアを庇うように前に出る。
眉をひそめてモーブを睨みつけた。

「うるせぇノトラ。てめぇもてめぇだ。人畜無害そうな顔して、ゴキブリみてぇに薄汚ねぇ野郎だ。」

「なっ……」

差し向けられた雑言にノトラまで絶句する。
周りの冒険者達の目は相変わらず冷たい。
その様子を暫し楽しんだ俺は、にやけそうな顔を引き締めながら進み出た。



「よぉ、トア。数日振りだな。」

声に反応したトアがこちらを見て目を見開いた。

「あ、アーシュ君!!」

満面の笑みで駆け寄り、抱きついてきた。
…………鳥肌が立ったぜ。

「アーシュ君!今までどこにいたの!私、心配してたんだよ!!」

叫びながら胸に顔を擦り寄せてくる。
俺は優しく彼女の肩に手を置いた。
トアがお日様のような笑顔で俺を見上げた。
その顔を見ていると、こちらまで思わず笑顔になってしまう。
だから………



俺は、可愛らしく見上げるトアににっこりと笑いかけながら、その頬を強く叩いた。




バチンッと甲高いような鈍いような音が響き、トアが膝から崩れ落ちる。
やがて赤く腫れた頬に手をやりながら、呆然とこちらを見上げた。
視界の端で、ノトラのクソ野郎もアホ口開けて呆然としているのが見えた。

「………アー…シュ……君…?」

状況が読み込めず、左頬に走るズキズキとした痛みに困惑する彼女を、俺は冷たく見下ろした。

「ベタベタ触るんじゃねぇよクソビッチが。お前、どの面下げて心配だの何だの言ってんだ?」

「え?え?な、なんで?」

揺れる瞳を間近で見るように片膝をつき、女にしては短いその髪を掴む。

「わかんねぇのか?それとも惚けてんのか?どっちだよおい。」

恫喝しながら髪を引っ張って揺する。
ついこの間まで、この頭を撫でるのが好きだった。
髪に手櫛を入れて、ボサボサになるからやめてって笑いながら言われるのが好きだった。
こんな風に乱雑に扱う日が来るなんて、欠片も想像していなかった。


「い、痛い!痛いよアーシュ君!やめて!!」

「この程度で痛がるくるいなら冒険者なんざやめちまえ。それともそれもまた演技か?今までみてぇに騙そうとしてんのか?」

「いや!やめてよ!」

涙声で叫ぶトア。
俺の心に痛みが走る。
今すぐにやめて彼女の頭を撫でたい衝動に駆られる。
だが駄目だ。
まだ駄目なんだ。

「いい加減、白状したらどうだ?この裏切り者が!!」

涙で滲む大きな瞳を覗き込みながら、大声で恫喝する。
さぁ、来い。
早く…早く…!!



「やめろ!トアさんを離せ!!」

不測の事態に思考停止していたノトラがようやく再起動したようだ。
叫びながら大股で寄ってきて、俺を睨みつける。
俺も射殺すように睨み返しながら、内心で獰猛な笑みを浮かべていた。



ようやく、準備が整ったぜ。
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