魔法使いになった俺、ちょっと実家に帰りたい

ぼっち飯

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第1話 魔法使いになった日

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嘘だろ…?俺は天を仰いだ。うーん、お空、きれい。



***



スマホの画面に目をやる。…3,2,1,0時0分。甲斐新《かいあらた》、30歳。ついに魔法使いになってしまった。おめでとう、俺。いや、めでたくねぇわ。


自分をさらけ出せる勇気のない俺は、愛想笑いを浮かべて勝手にみんなと壁を作っていた。気づいて欲しいと願うばかりで、理解してもらえないと嘆いて、「友達リスト」という名の連絡先に並ぶのは、気安いけれどどこか上辺だけの友達。

寂しいくせに口が裂けてもそんなこと言えない。嫌われたくなくて頑張ったおかげで、それなりに人から頼られるようにはなったけれど、果たしてそれは体よく使われるのと何が違うのだろう。完全にこじらせている。

恋人なんかいたのは10年も前のこと。初めてできた同い年の彼女だったが、男のくせにピュア過ぎると言って振られた。

そんな元カノは5年前に結婚した。5つ離れた俺の兄ちゃんと。でも2人に幸せになって欲しいと思ったのは本当だ。俺は俺を可愛がってくれる兄ちゃんが自慢で、大好きだった。彼女が惚れるのも当然だ。なんなら兄ちゃんに選ばれた彼女に、ちょっと嫉妬した。俺の兄ちゃんだぞ。

彼女とは、彼女を兄ちゃんに紹介する前に別れていたから、紹介したい人がいると言われて緊張して出かけたファミレスで再会した時、それはもう驚いた。

まぁでも実際、リードして欲しいタイプの彼女は俺じゃなく兄ちゃんの方が一緒にいて落ち着くだろう。結果的に俺が手を出さ…出せなかったのは正解だった。

で、3年前に俺に姪っ子ができた。すごくかわいい。両親も初孫を目に入れてもいたくないほどかわいがっている。そのうえ今日、いや、昨日か。昨日、同い年の義姉が第二子妊娠のお知らせを兄ちゃんからもらった。幸せそうな兄ちゃんの声を聞いたら、俺も嬉しくなった。

兄ちゃんの家族は俺の理想だ。親は俺に結婚を急かさないけれど、でも、何だろう。世間から置いてけぼりを食らっているようなこの感覚は。仕事から帰ってきて静かな一人の部屋は、心地良いけれど、心細い。


だからだろうか。普段なら絶対に歯牙にもかけないその文字に、吸い寄せられてしまったのは。日付が変わると同時に届いたそれに、誰かが俺を気にかけてくれたんだと嬉しくなった。そうだ、あまり強くないのにビールなんか空けたからだ。そうに違いない。


「魔法使いになりますか?―【Yes】【No】」

送信者も確認せずに開いたメッセージに、俺は心のささくれを引っこ抜かれた気がした。
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