白銀皇女の覇道譚 ~侵略国家の皇女は覇道を歩む~

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第二章 学園編

29 校庭での騒動

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 一方、時は遡り、サロンを追い出されたアルメリアはリリアと共に校庭を歩いていた。

「はぁ、とんだ災難に巻き込まれたものですわね……」
「姫様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ」

 そう言いながらアルメリアは自身の頬をそっと撫でる。そこには先程扇で叩かれたときに出来た怪我の跡は欠片も残っていなかった。
 覚醒したアルメリアはそれこそ常人を遥かに超えた身体能力を持っている。本来なら非力な令嬢に扇で叩かれた程度では傷一つ負わない筈である。
 だというのに、先程の騒動で怪我を負ったその理由はアルメリアの指に嵌められた指輪にあった。この指輪は彼女の持つ魔力を隠匿してくれるのだが、同時にアルメリアの力を制限するものでもあった。指輪を嵌めている限り、身体能力も常人並みに落ち込むのだ。
 本気で戦う際にはその度に指輪を外さなければならないのは面倒だが、考えようによってはああいった場面で怪しく思われないのはメリットなのかもしれない。

 そして、二人が学園の校門から出ようとしたその時だった。

「よくお前たちの様な没落貴族がこの名誉ある学園に入学できたな!!」
「この学園にはお前たちのような奴は相応しくない。すぐに退学して親の元に帰るんだな!!」
「と言っても、お前たちの父親は責任を取って腹を切ったんだったな!!」

 そんな声がすぐそばにある茂みの奥の方から聞こえてきたのだ。

「……あら、この声は何かしら。少し気になりますわね」
「あちらの方から聞こえてきますね。行ってみますか?」
「ええ、そうしますわ」

 そして、アルメリアは声が聞こえた方へと歩みを進める。すると、そこには二人の男女と彼らを取り囲む複数人の男子生徒に姿があったのだ。

「……はぁ、本当に今日は面倒な事ばかりが起きる日ですわね」

 その光景を見たアルメリアは思わずそう呟いてしまう。今日は厄日だろうかとすら思えるほど騒動が起きる日だ。
 しかも、見るからに二人の男女は嫌がっている様子を見せており、彼らが来ている制服もかなり汚れている様に見受けられる。取り囲まれている男子学生からいじめを受けているのだろう。

「姫様、どうなさいますか?」
「……止めましょうか」

 アルメリアにはこのまま無視して帰る事も出来たが、サロンでの騒動のフラストレーションもあり、なんとなく目の前の光景を無視する気になれなかった。

「あなたたち、そこで何をしているのかしら?」

 アルメリアが男子生徒たちに声を掛けると彼等は揃って後ろにいるアルメリアの方を向いた。

「っ、誰だ!?」
「そこの二人は嫌がっているでしょう。そんな相手に複数人で取り囲むなんて、この学園の生徒として恥ずかしくないのかしら?」
「……お前はこいつらの知り合いか?」
「いえ、知り合いではありませんわね。ですけれど、ここで見て見ぬふりをする気分にもなれない、というだけですわ」
「つまり、お前は俺たちの邪魔をするつもりか?」
「ええ、そのつもりですわ」
「っ、お前ら、やっちまえ!!」
「「「はいっ!!」」」

 リーダー格の男の指示を受けた取り巻きの男子学生たちはアルメリア達の方へと向かってきた。だが、アルメリアはそれに動じる事無くその視線をリリアへと向ける。

「リリア」
「はい」

 そして、アルメリアの指示を受けたリリアは彼女の前へと出ると、そのまま取り巻きの男たちを一人、また一人と制圧していく。
 幼い頃より、暗部の人間として訓練を受けてきたリリアにしてみれば、この程度の相手など敵にすらならない。
 そして、気が付けばリーダー格の学生以外は全員が地面に倒れ伏していた。

「……なっ……」
「さて、残るはあなた一人ですね」
「こっ、この野郎っ!!」

 取り巻きたちが一瞬にして制圧された光景を見て、プライドが傷つけられたリーダー格の学生はリリアへと勢いよく殴り掛かるが、彼女はそれも一瞬で制圧してしまう。

「これ以上、続けますか? 続けるのでしたら、あなたたちは無傷では済まないと思いますが?」

 リリアのその言葉に、男たちは一瞬だけ息を飲んだ後、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

「くっ、お前たち、行くぞっ!!」
「「「は、はいっ」」」

 そして、リーダー格の男の指示を受けた取り巻きの男たちは揃って立ち上がると、全員がそのままこの場から去っていくのだった。

「はぁ、本当におかしな事ばかりが起きる日ですわね」

 そんな事を呟きながらアルメリアは二人の元まで向かっていく。そして、そのまま彼等に手を差し出した。

「二人とも、大丈夫かしら?」
「は、はい」
「あなたは一体……」
「あなたたち、詳しい事情を聞かせて……」

 だが、そこまで言うと彼女の隣にいたリリアが申し訳なさそうにしながら彼女たちの話へと割り込んできた。

「姫様、申し訳ありませんがそろそろお時間が……」
「ああ、そうでしたわね」

 先程のサロンでの騒動に加え、この騒動だ。時間的にもそろそろ日が落ちる頃だろう。既に辺りも暗くなってきている。ここで、詳しい事情を聞いている時間的余裕はない。

「あなたたちは学園の寮で暮らしているのかしら?」
「は、はい……」
「でしたら、折角ですしわたくしの部屋に来なさいな。そこで詳しい話を聞かせてくださるかしら」
「分かりました……」
「……姫様、よろしいのですか?」
「ええ、彼らに詳しい事情を聞くだけですわ」

 そして、彼女たちは二人を伴って自分達が暮らす寮へと帰っていくのだった。
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