愛してると伝えるから

さいこ

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お礼

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 理人とカウンターでお喋りしていると客が入り始める
 理人はテーブル席へ移動していった

 そのうち打ち合わせ相手も到着し、仕事に取りかかったようだった

 20:00頃から店内が忙しくなる
 仕事終わりに1杯やる人、水商売の同伴で来る人、中には俺とのお喋りを楽しみに来てくれる人も居る

 俺は各テーブルに目を配りながら、オーダーを捌きお喋りの相手をする

 
 「マスターお会計よろでぇす」

 カウンターの端に女連れで座っていた男が言った

 「かしこまりました」

 彼は駅前の大箱ホストクラブで働くホストだ


 たかだか1万か2万のうちの支払いをホストが済ませ、この後その女に100万200万を使わせる…

 普通に考えれば狂った商売だが支払う人間が居る以上、成立しているのだからしょうがない

 
 ただなぁ、俺だったら絶対その男にはお金貢げない…
 スマートさが無い…っていうの?
 顔も言葉もマナーも汚ねぇし、どこに貢ぐ価値があるのか分からない、まぁなにに貢ごうが自由ですけどねぇ


 「またお待ちしております」
 
 0:00辺りからは帰る客を会計しては見送る
 1:00頃には店内に残るのは数組、ここから入って来る客はほぼ無い

 そうして1:30本日最後の客を見送った

 洗い物やシンクの掃除を済ませ、諸々が終わり店の戸締りをした
 帰りに看板を消灯しようと階段をあがった


 
 看板の電気を消すと

 「あ…終わりですか…」

 という声が聞こえた
 振り返ると、あの大柄な男性が今日は手ぶらで立っていた

 「もしかして、寄ってくれたんです?」

 「あぁ…いやあの、大丈夫です…」

 まぁ、今看板消したの見てたんだもんなぁ…閉店したの分かっちゃったよね?


 しかしいつまでもお礼のひとつもしないで居るのも気持ちが悪いし

 「寄ってくれたってことは、これからお時間大丈夫なんですよね?」

 「や、でも…」

 「上にどうぞ、美味しいお酒お出ししますよ」

 俺は部屋に案内した


 「男の独り暮らしなんで、綺麗じゃないですけどどうぞ」

 「はい、お邪魔します」

 男は嫌がる風もなく部屋にあがった


 俺の部屋にはバーカウンターがある
 まぁ俺の趣味だ、欲しいときに酒の種類が無いとストレスなので自分の部屋にも置いてある
 
 「おかけください」

 そう言って男を座らせた

 
 「さて、なにをお出ししましょう?」

 彼はなにが好きなんだろう 

 「酒に詳しくないんで、なにをお願いすればいいのか…」

 まぁまぁ、そういうもんだよな

 「じゃあ…いつもは店に入ったら何頼む?」

 「ハイボール?」

 いいじゃん


 「じゃあスコッチでひとつ作ってみようか」

 ウイスキーとホワイトラム、レモンジュース、そしてシュガーシロップを少し
 氷を入れてシェーカーで振る

 氷を入れ冷やしたグラスに移し炭酸を注ぐ、サッとステアして出した


 「乾杯しよう…あ、グラスはぶつけないでね」

 「はい、かんぱーい」

 
 男はグイッと結構な勢いで飲んだ
  
 「……!!!…うまぁ!」

 そうだろうそうだろう、普段は居酒屋のジョッキで安酒のハイボールを飲んでるんだろうから美味いに決まってるよ

 
 「インペリアルフィズって名前のカクテル」

 「へぇ~、カクテルとか全然知らないけどうまいね」
 
 「酒に好きな物を混ぜて飲め!ってことだよ」

 深く考える必要はないよ

 
 「…でも店で出すのは色々と決まってるんでしょ?」

 「一応ね、これがスタンダードっていうレシピがあるからそれで作るけど」

 でもそこにライムを絞ったほうが好きだと言われればそうして出すし
 甘いのは入れないで作ってと言われればそうするし 
 
 酒なんて好きに楽しめばいい


 「ただ、決まったレシピのものであれば好き嫌いが共有できるって所が面白いだろ」 

 「確かにね、インペリアルフィズ好きだわ~で伝わるってことね?」

 そう、昔の人が気に入って飲んだカクテルなんてエモいだろ
 そうして今の人たちも酒の歴史を共有できるんだから

 
 それから色々と作っては飲んで話をした 
 
 彼は瀧 道隆たきみちたか、33歳
 「ヘアメイク」と言う仕事をしている人らしい
  

 ブライダルの写真撮影スタジオに勤務している
 故に彼が接客する相手は新郎新婦であるということ

 
 「で、新婦にもメイクとヘアメイクするんだけど…結構怖がられちゃって、俺」

 「…ガタイがいいからじゃないの?」

 「ツラが怖いって…」

 …プッ!


 「ちょっとぉ、なに笑ってんのよ」

 いや、でも怖いっていうのはちょっと分からないけどな…
   女性視点では見え方が違うのかもしれないな


   「つか、明日は朝から仕事じゃないの?」

   あまりに楽しそうに飲んでるもんだから俺の方が気になって確認した

   「明日は午後からで…いや、さすがに帰るか」

   「また店にも顔出してな」


   そうして男同士で飲んだのが楽しかった
   瀧は連絡先を交換して明け方に帰って行った  



   1人ベランダに出て
   外の静かな空気の中で煙草を吸う
   
   瀧はまだ若いし、体もデカいし体力もありそうだし、飲む勢いが凄い…

   「あれじゃあ、飯も食いそうだなぁ~」

   
   楽しく酒を飲んだからか気分が良かった
   少し涼んでから風呂に入って寝た

 



   翌日、目が覚めるとメッセージが届いていた

ーーー

   昨日はお言葉に甘えてご馳走様でした
   美味しいお酒を知ることにこれほどの感動があるのだと、今まで知らずに過ごしていた時間を惜しく思いました

   次回は必ずお店の方でご挨拶させてください

ーーー

   …ビジネスメール?
   俺は取り引き先かなんかか??

   まぁ真面目な人柄が見えちゃってますけど


   俺はアラームでいつもより早起きをした

   昨日、瀧と飲んでる間に一件のメッセージが入っていたからだ

   シャワーを浴びて出かける支度をした

 

   待ち合わせ時間を少し過ぎてから
   駅前のホテルの一室を訪ねる
   
   コンコンコン…

   ドアをノックすると、すぐに開いた


   中から開けてくれたのは、俺と同世代くらいの美しい女性だ

   「待たせちゃった?」

   「いいえ、あなたを待つ時間は好きなの…」

   そうして俺は部屋の中へ滑り込み、中から鍵をかけた…




   3時間ほどして、俺はホテルを出て家に帰った

   部屋に戻るとまた風呂へ直行する
   店に立つ前に全てをリセットするのが気持ちいいだろ

   そして女に持たされた封筒の中身を確認した

   「…30、…40、…50万、と」

   俺のセックスが1回50万て…草だわ
   バカみたいな現金をソファーの上に置いて、俺は買い出しに出た


      

 

 
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