彼女の顔がぼやけた時

あおなゆみ

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彼女の顔がぼやけた時

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 確かに彼女は、誰もが認めるほどに可愛い。
僕はそのせいで、彼女に恋をするのをやめた。

 彼女は僕を、苗字に「くん」付けで呼んだ。
本当にさり気ない優しさが良かった。
誰に対しても言葉を慎重に選んで発言するところが、僕を癒した。

 彼女はあまりにも可愛すぎる。
彼女はあまりにも優しすぎる。

 彼女と距離を置きたくても、僕は彼女が気になるし、どうしてか彼女も僕にしょっちゅう話しかけてくれた。


 ある日彼女が突然、僕の眼鏡を取った。
そして言ったのだ。

「好きです」

僕は彼女の方を見たけれど、彼女の顔は、彼女なのかも分からない程、ぼやけていた。
そこで彼女の存在を、いつもよりも強く意識した。

「僕も好きです」

僕は封印していた想いを伝える。
躊躇もなく出た言葉だった。
すでに、彼女の心まで好きになっているから。
だから恋心を封印する事はもう出来ない。

 彼女がさっきよりも近づいて来て、言った。

「ごめんね。顔が赤くなるのを見られたくなくて、眼鏡取っちゃった」

照れを隠すような、遠慮気味な声。
僕は彼女の声から、心を読み取ろうとした。
まだ彼女の顔は、ぼやけて見えない。

 少しして、彼女が僕に眼鏡を掛けてくれた。
目の前に彼女の顔が見える。
頬は確かに、ほのかに赤く染まっていた。
多分、眼鏡を掛けていなかった僕の頬も赤かっただろう。
今は眼鏡という防御があるから、少しは隠せているかもしれない。
だから恥ずかしさを一度、忘れてみる。

「僕と付き合ってください」

僕は彼女の目を真っ直ぐに見つめ、伝えた。
その時の彼女の笑顔はやっぱり、とびっきり可愛かった。



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