知らない想い

あおなゆみ

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焼き芋

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「石焼き芋~お芋」

 夕方。
時々聞こえてくる。
私はその音を聞き逃さないように、夕方を過ごしていた。

 最初は母に頼まれ、近づく音の方に向かった。

「二つ下さい」

顔を上げた彼は、頭に巻いた白いタオルがとても似合った。
大きな瞳に、綺麗な鼻筋。
小さな唇に、シュッとした顎。


「はい、お待たせしました」

温かい焼き芋を貰う。

「ありがとうございます」

私は駆け足で家に戻った。
焼き芋がとてもキラキラして見えた。
とても美味しかった。


 それから私は母がいなくても、音が近づくとすぐに外に出て焼き芋を買った。

「いつもありがとう」

笑っている時のほっぺたが可愛らしかった。

「本当に美味しいです」

と伝えると、もっと笑顔になって

「ありがとう。もう常連さんだね」

と言い、

「今日は特別にもう一個。食べてね」

オマケをくれた。


 夕方が好きになった。
夕方が待ち遠しくて、あの音が聞こえる日は私にとって特別な日だった。


「今日が最後なんだ。次の冬に来れるかも分からない」

彼は本当に寂しそうな顔をした。
私は

「お財布忘れてきちゃいました。ちょっと待っててください」

と言った。
ポケットにはお財布が入っている。
家に戻り、メモ用紙を取り出し、私の連絡先を書く。

「すみません。お待たせしました。今日が最後なら五つ下さい」

「はい。少々お待ちください」

いつも以上に彼の姿を目に焼き付けた。

「本当にありがとうね。うん。ありがとうございました。君が来てくれると思っていつも楽しみにしていたよ。また、会えるといいね」

「美味しい焼き芋をありがとうございました。じゃあ。また会えますように...」

私は家に向かい歩き出した。
手に握られたメモ用紙。
焼き芋のいい香りだけが私の心に何かを訴える。




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