15 / 1,955
夢に導かれて森へ
しおりを挟む「リク……リク……」
頭の中に声が響く。
「……誰だ?」
意識はある。
だが暗い空間にいるだけで、何も見えず、誰がいるのかもわからない。
「……リク……リク……」
俺を呼ぶ声だけが聞こえてくる。
耳で聞いているのではなく、頭に直接聞こえて来ていた。
「リクはモフモフ……」
モフモフ?モフモフは好きだが、俺はモフモフじゃないぞ?
「……助けてあげて……」
そう聞こえた瞬間、うっすらと浮かび上がる映像が見えた。
見えたというより、頭の中に浮かび上がったという方が正しいかもしれない。
これは……
見えた映像は森の中、木々が生い茂っている真ん中に、大体20メートル四方くらいの広さで木々がなぎ倒されていた。
木々がなぎ倒されているせいで、そこだけ広場のようになっており、映像は少しづつそこへと近付いていく。
「……苦しそう……」
その広場になっている中心に何かが横たわっているのが見えた。
何だ?あれは?人じゃないよな?
集中してよく見てみると、それは小さな獣の姿だった。
けど、その獣は怪我をしているのか何なのか、荒い呼吸をして苦しんでいるようだった。
これは!!
映像がその獣を詳しく見られるくらいまで近づいた時に気付いた。
モフモフだ!
モフモフだったのだ。
地面に横たわっているからなのか、汚れているが、俺にはわかる。
あれは極上のモフモフだ!フカフカのモフモフだ!
今日会ったエリノアさんの尻尾よりも素晴らしい物かもしれない!
……エリノアさんごめんなさい。
何となく謝っておかないといけない気がした。
「……助けてあげて……」
言われなくても助けるさ!極上のモフモフのために!
もう俺には映像にあるモフモフの事しか頭になかった。
「……」
声が聞こえなくなり、映像も見えなくなり、意識が浮かび上がる感覚。
目が覚めるのかな?と何となく感じていた。
最後に、声の主は少しだけ笑っていたような気がした。
「はっ!モフモフ!」
モフモフへの感情のままに起き上がったが、そこは宿の自分の部屋。
もちろんモフモフはいない。
「夢か……」
夢を見る事はもちろんあるが、ここ最近夢を見たという記憶はなかった。
だが、久々に見た夢は夢というにははっきりしすぎていて、どうにも気になる。
「……行って見るか」
夢で見た映像は森の中だった。
センテに来る時の街道沿いに森があった。
休憩したのは森の端で、森の中には入らなかったが、夢に出て来た森はあの森だと何となくわかった。
夢に対しての説明なんか意味のないことかもしれないが、入った事のない森の中を夢に見るというのは不思議だった。
外を見れば夜明け前。
今日はヘルサルに帰る予定で、馬車に乗るために早く起きようとは思っていたけど、それよりもかなり早く目が覚めたようだ。
馬車に乗ったらヘルサルへ帰る。
でもあの森に行くには馬車には乗れない。
「……帰ったらマックスさんに謝ろう。モニカさんやマリーさんには土下座かもしれないな……」
馬車に乗らないという事は徒歩で帰るという事。
馬車では半日の旅程も、徒歩だと2~3日かかると聞いた。
ヘルサルへ帰るのが遅れると皆に迷惑がかかるだろう。
しかし俺には森に行かずに帰るという選択肢はなかった。
それはもちろん、モフモフのため!
この世界に来てモフモフに触れられていない欲求がすでに我慢の限界に達していた。
昨日のエリノアさんには耐えられたが、夢で見た極上のモフモフがあると知ったからにはもう耐えられそうにない。
モフモフのためなら、2~3日の旅なんて苦にもならない!……はず!
もはや早く帰る事は頭には無く、マックスさん達には謝る事を決定して、旅をするために必要な物をどうするか考えていた。
「おはようございます」
「おはようさん、今日は早いんだねえ」
「ええ、早めに出て色々買って帰ろうと思いまして。それで、もう食堂は開いていますか?」
「ああ、今開いたところさ。あんたが最初の客だね」
「良かった。それじゃあ朝飯を食べてきます」
「はいよ」
部屋を出て階段を降り、宿のおばちゃんに挨拶をして食堂へ。
まだ日が差し込み始めたばかりの時間から食堂が開いてるのは助かった。
早めに朝食を取り終え、お湯を貰って部屋へと帰って体を拭き、身支度を整える。
「お帰りかい?」
「はい、お世話になりました」
「こちらこそ、ご利用ありがとうございました」
おばちゃんに挨拶をして宿を出る。
まずはと、昨日街を見て回ったときに行った昼を食べた店へ向かう。
そこでは持ち帰り用の食事や携帯食なんかもあったのを見かけていたので、それを買うのだ。
途中、通りかかった広場で、いくつかの露天商が今日収穫したらしい野菜を露店に並べて準備していた。
その中から、最初にキューを買った露店を見つけ、そこで10本程購入しておく。
これなら腹が減ったら歩きながら食べられるからな。
広場を通り過ぎ、昨日の店に行き、準備をしていた店主と話して携帯食を売ってもらう。
まだ準備中だったため、持ち帰りの食事は出来なかったが、とりあえずはこれで十分だ。
携帯食と野菜を鞄がパンパンになる程に詰め込んで、この街に入って来た時に通った西門へと向かう。
西門の手前、ヘルサル行きの馬車が準備されようとしていた。
馬はまだ繋がれておらず、近くにある厩で休んでいる。
馬車の整備なのか、複数人が馬車に出入りしていたり、馬車の下に入り点検をしている。
それを横目に通り過ぎ、西門にいる兵士達のとこへ向かう。
兵士さんは軽く荷物検査をした後に道を開け、西門を通してくれた。
盗賊なんかが何かを盗んで逃げ出す時、警戒が強い夜ではなく朝早くに夜勤の兵士が眠気と戦っていて油断しているこの時間帯にすり抜ける事が多いとは今聞いた話し。
もうすぐ日勤の兵士と交代らしいが、夜勤の兵士はこの時間が一番辛いらしい。
お疲れ様です、と挨拶をして西門を抜ける。
兵士さんが言うには、最近街道に野盗が出る事が増えたので気を付けて欲しいとの事だった。
昨日は色々装備を買ったりもしたが、俺は現状剣に慣れていないし戦えない。
野盗に合わない事を願うしかないが、気を付けられるべきところは気を付けよう。
そうして、西門を抜けてからは、まずはヘルサル行きの街道を道なりに進む。
日が高くなって来た頃に、行きで休憩に使った森の端とは別の端に辿り着いた。
木陰に入り、ここで一旦休憩。
歩き通しでそのまま森の中に入るのはさすがに躊躇われるからな。
休憩の時、昼食をと携帯食を少し食べたが、あんまりおいしくなかった。
干し肉は保存のために使っている塩が多くて塩辛い。
でも、昨日買っていた野菜のうちから水気の多いトマト(こっちの世界の名前なんだっけ?忘れた……)を取り出して一緒に食べたらちょうど良かった。
携帯食の中には水も入っていたけど、トマトを含む野菜の水分が多いので、まだ水を飲まなくても大丈夫だ。
1時間程休憩した後、森へと向かって出発。
念のためと、昨日買ったナイフを右手に持っておく。
蔦や草等の邪魔な物の対策だ。
剣は二本、左側の腰に下げ、何かあれば抜けるようにしておく。
皮の鎧はしっかり着込んでいる。
初めての森という事もあり、警戒しながらゆっくり進む。
「モフモフ……もうすぐモフモフに会える……」
しかし警戒をしておきながら、頭の中はモフモフの事でいっぱいだった。
これから会えるモフモフに期待をしながら、森の中へと入って行った。
66
あなたにおすすめの小説
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる