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目が覚めたら英雄と呼ばれる
しおりを挟む少しずつ意識が覚醒して行く。
夢を見ていたような、何も見ていなかったような良くわからない感覚を引きずりながら段々と意識がハッキリして来た。
「……ん」
目を開ける。
今は昼くらいかな? 少しだけ窓から入る日差しが眩しい気がする。
「リクさん、おはよう。……随分寝てたけど、よく眠れたかしら?」
声が聞こえた方に顔を向ける。
そこには泣き笑いのような表情をしているモニカさんがいた。
えっと、何で泣きそうなんだろう?
でも、モニカさんの笑顔を見てどこか安心している俺がいる。
「……おはよう、モニカさん。えっと、何で俺の部屋に?」
そういえば何故モニカさんはここにいるのだろう?
ここ、俺の部屋だよね? うん、少しだけ周りを見回してみたけどいつも使ってる獅子亭の2階にある部屋だ。
間違えてモニカさんの部屋で寝てるなんて事が無くて良かった。
「寝惚けてるのね、まったく……でもあれだけ寝れば仕方ないのかもしれないわね」
「あれだけって、俺どれだけ寝てたの? というか寝る前の記憶が曖昧なんだけど……確かゴブリンと戦ってて……」
俺が記憶を確かめようとしながらモニカさんに聞こうとする言葉を遮って、突然部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
「ようやく目が覚めたのだわ。これでまた頭にくっつけるのだわー。はー」
開いたドアからエルサが飛び込んで、俺の顔に飛びついて来た。
ってちょっと待てエルサ! そこはいつもの後ろ頭じゃなくて顔面だから! 起きて早々エルサのお腹のモフモフを堪能できるのは素晴らしい事だけど、息が出来ないから!
というかエルサはどうやってドアを開いたんだ? いつもの小型犬の大きさになってるけど、そのままじゃあんなに勢いよくドアを開けられないだろ。
「んー、んー」
「エルサちゃん、リクさんが苦しがってるわ」
疑問はあれど息が出来ないともがいてたらモニカさんがエルサを引き剥がしてくれた。
何とか息を確保して、深呼吸を繰り返す。
「やっと起きたようだな、リク」
「おはようリク。よく寝れたかい?」
「リク、おはよう。いつ起きるのかと心配したぞ」
声が聞こえてドアの方を見てみると、マックスさん、マリーさん、ソフィーさんが部屋に入って来ていた。
あ、ドアの向こうにルディさんとカテリーネさんもいる。
皆がエルサが入ってくる前にドアを開けたのか。
カテリーネさんが手を振っているのを見つつ、モニカさん達の方へ顔を向ける。
「やっぱりリクの頭が一番落ち着くのだわ」
「あっ」
エルサがモニカさんの手から逃れて、俺の頭へドッキング。
ちゃんといつもの位置だな、それなら苦しくないというかモフモフが堪能出来て大変よろしい。
「リクさん、街を守ってくれてありがとう」
モニカさんが俺に向かって深々とお辞儀をしつつお礼を言って来る。
他の皆も同じように俺に向かって礼をしてる。
けど、俺って街を守ったの?
「えっと、ちょっと待って、何か頭がまだはっきりしてないから」
「……寝惚けてるな」
「英雄も寝惚ける事があるのね」
えっと、俺はゴブリンと戦ってて……マックスさんが怪我をしてそれで……ああ段々思い出して来た。
魔法を使ってゴブリンの軍を消滅させてのはいいけど、色々な事が初めて過ぎてそのまま倒れたんだっけ。
何となく倒れる瞬間の事まで覚えてる。
……ん? ちょっと待ってマリーさん、英雄って誰の事?
「色々思い出してきましたけど……英雄って何ですか?」
俺が皆に向かって聞くと、皆は笑った。
何故笑われるのか全く分からないんだど……。
「リクはゴブリン達を殲滅してこの街を救ったのだわ。だからこの街の人間から英雄リクって言われてるのだわ」
え……俺が英雄なの……?
「今じゃ街の子供から老人までほとんど英雄リクの事を知らない人はいないぞリク」
ソフィーさん、俺そんなに有名になるような事しましたっけ?
「何で俺が英雄なんですか? 街を守ろうとしたのは俺だけじゃなく皆なのに……」
皆して俺の顔をマジマジと見つめた後、少し呆れるような顔をした。
あれ? 俺何か変な事言った?
「はあ、良いかリク。お前は10万のゴブリンを全て消滅させたんだ。しかもそれだけじゃなく、街の兵士や冒険者、戦いに直接参加しなかった人達も含めて誰一人犠牲者を出さなかったんだ」
「これが英雄の所業と言わずに何を英雄って言うのかねぇ」
「西門付近の外壁の補修が大変って聞いたけど、それ以外は被害なんて出なかったのよ。リクさんはすごい事をやってのけたの」
「私達を逃がしてリク一人でゴブリンに立ち向かっていく姿はまさに英雄に相応しいと思うぞ」
「リクならあれくらい簡単な事なのだわ」
ちょっとエルサは黙ってて。
……俺そんなに凄い事したんだ。
あの時はマックスさんが目の前で俺を庇って怪我をして、怒りに任せて魔法を使っただけなんだけど。
それと、外壁の事はゴメンナサイ、あそこまでの事になるなんて思ってなかった。
石が溶けるところなんて初めて見たなぁ。
「ま、ここでこのまま話しててもな。とりあえずリクは身支度を整えろ。その間に俺がとびっきり美味い物を用意してやるから」
「そうね、ずっと寝てたんだし、色々準備を整えて降りて来なさい」
「父さん、私も手伝うわ!」
「マックスさんが腕によりをかけて作った料理……んん! リク、手早く用意して降りて来るんだぞ」
「キューはあるのだわ!? キューを要求するのだわ!」
俺が少しだけぼんやりして魔法を使った時の事を考えていたら、マックスさんがそう声を掛けて部屋を出て行った。
他の皆もそれについて行くように部屋からいなくなった。
エルサも頭から離れて飛んで行ったな……そんなにキューが好きなのか、食いしん坊ドラゴン。
とりあえず、起きたばかっかりだから顔を洗って、服も着替えなきゃ。
起き上がる時少しだけ体が重く感じたけど、準備しているうちに気にならなくなった。
色々と準備を整え、皆が待ってるであろう獅子亭の食堂に入った。
「おう、リク。やっときたな」
「さあ、料理が出来てるわよ。しっかり食べなさい」
「リクさん、10日くらい寝てたけど、ちゃんと食べられる?」
「獅子亭の料理……さ、リク。早く食べよう」
「モギュ、モギュ」
皆それぞれ声を掛けてくれるんだけど、エルサだけもう食べてるし……。
ルディさんとカテリーネさんがどんどんテーブルに料理を運んで来てる……こんなに食べられるかな。
獅子亭の料理はおいしいから、とにかくお腹いっぱい食べよう、残すかどうかは食べてからだ。
そう考えながらテーブルについた…………ん? ちょっと待ってモニカさん……今10日くらい寝てたって言わなかった?
「……俺、10日も寝てたの?」
「そうだな。それくらい寝てたな」
「随分気持ち良さそうに寝てたわね」
「全然起きないから心配したわ」
「さすがに寝過ぎだと思うぞ」
どうやら俺が10日くらい寝てたのは本当の事のようだ。
よくそんなに寝てたな、だから体が少し重かったのか。
「まあ、その間にゴブリン襲撃の後始末はほとんど終わったがな」
「そうね、王都軍も領主軍も来てくれたけど、仕事が無くて皆茫然としてたわ」
「寝てるリクさんを取り調べようとか引き渡せとか言い始めたから、ヤンさんと一緒に冒険者ギルドで保護という事にしておいたわ」
「センテのギルドマスターも有望な冒険者のためだと保護を名乗り出てくれたぞ」
「街の皆も引き渡さないように協力してくれたな」
「まったく、ゴブリンの軍を蹴散らしてくれた英雄を国で調査するから引き渡せなんて、横暴さね」
「どうせ国で良いように使いたかったんでしょ、それこそ戦争とか」
「リクの強さは戦争で使ったら危険だな。簡単に他国を侵略できる。冒険者になっておいて正解だ」
俺が寝てる間に色々とあったみたいだ。
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