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大浴場へ皆で移動
しおりを挟む「はぁ~」
「陛下、だらしないですよ」
「仕方ないじゃない……言いたいことも言えなかったんだし」
マックスさん達が部屋を出てすぐ、姉さんが大きなため息を吐いてソファーに倒れ込む。
ヒルダさんに注意されるが、それにも構わない。
マックスさん達に言いたい事を言えなかった事が、よっぽど窮屈だったらしい。
女王様モードを続けるのも、楽じゃないのかもね。
それを見るモニカさん達、事情を知るメンバーは姉さんの変わりように苦笑するしかできない。
「せっかくりっくんがお世話になってる人に会えたのに、姉として挨拶できないなんて……」
「陛下は今、この国の女王なのですよ? リク様の姉という事は内密なのですから、致し方ありません」
「陛下、父さん達には先程の言葉だけで十分ですよ。リクさんには、私達親子もお世話になってるんですから」
「ん~、モニカちゃんは良い子ねぇ」
「へ、陛下……」
姉さんは随分と俺の姉である事にこだわるようだけど、実際日本にいた時もこんな感じだったから、俺としては懐かしいくらいなんだけど、他の人にとっては女王様が……という事でちょっと戸惑ってるみたいだ。
ヒルダさんが注意する中、モニカさんがフォローするように声を掛け、体を起こした姉さんに頭を撫でられ始めた。
モニカさんの方は、どうして良いかわからず戸惑うばかりだけど、姉さんの方は楽しそう。
これも昔からの癖みたいなものなんだけど、姉さんは可愛い女の子を可愛がるのが好きみたいだ。
同性愛とかそんなんじゃなく、単純に可愛い物を愛でるという感覚との事だ。
……以前、姉さんは男じゃなく女の子が好きな人なのかと聞いたら、鉄拳制裁されたのは、微妙な思い出だ。
「モニカちゃん……良い子なんだけど……ちょっと匂うわね……。駄目よ? 可愛い子が汗を掻いてそのままにしてちゃ」
「あ……す、すみません!」
モニカさんの頭を撫でながら、鼻をひくつかせて汗のにおいを嗅ぐ姉さん。
……その様子は、弟として何だか恥ずかしい気分だ。
「皆さま、本日は兵士を始め、ヴェンツェル将軍との合同訓練お疲れ様でした。大浴場を用意しております」
「大浴場?」
「城の浴場か……興味はあるな」
「女として、これに乗らない手はないわよね」
「お風呂なの!?」
ヒルダさんは、俺達が戻って来る時間に合わせて、大浴場を用意してくれてたみたいだ。
城の大浴場というのがどんな物なのか気になるが、俺以上に興味を示してるのは女性陣。
やっぱりこういう事は、女性の方が気になるものなんだろう。
部屋の隅でうとうとしていたユノすら、顔を上げて大きく反応している。
「ふむ……久々に私も入ろうかしら?」
「陛下が入るのでしたら、他の者に伝えて貸し切りと致しますが?」
「そうね、それで良いわ」
「し、城の大浴場を貸し切り?」
「とんでもない贅沢だな」
「……良いのかしら?」
「贅沢なのー!」
姉さんも一緒に皆と入りたがり、それを聞いたヒルダさんが貸し切りとしてくれるよう手配してくれるみたいだ。
贅沢な事なんだろうけど、女王様である姉さんが一緒にいるからできる事なんだろうな。
「大浴場は本来、城の兵士、使用人等の者達が入るための物だったのですが……陛下が即位した後、入りたいと我が儘を申しまして……」
「大きなお風呂! 入りたいじゃない!」
「……姉さん……」
大浴場は兵士や使用人たちが大勢入るために作られた場所のようだ。
城の中で仕事をするにあたって、汚れる事もあるだろうから、確かに一人一人順番に入るよりも、大きな場所で一気に入る方が効率が良いのだろう。
大きなお風呂に入りたいという気持ちは、俺にもわかるけど、姉さんは女王としての特権で貸し切りにして入れるようにしたらしい。
大きなお風呂に入れる事の素晴らしさを、身振り手振りで大仰に伝える姉さん。
「……まぁ、そういう事でして。よろしければ、皆様もいかがですか?」
「そう、ですね……陛下と同じお風呂に……というのは恐れ多いのですけど」
「そんなの気にしないで! 一人で入るより一緒に入った方が楽しいわよ!」
「陛下がよろしいのであれば、お言葉に甘えましょう」
「私も、入らせていただきますね」
ヒルダさんの勧めに、最初難色を示していたモニカさんだけど、姉さんが皆で一緒にと言ってくれたおかげで、ソフィーさんを始め、フィリーナも一緒に入る事にしたようだ。
しかし姉さん……女王様と一緒に入るのが恐れ多いと考える皆の意見は完全に無視なんだな……まぁ、もしかしたらいつも広い大浴場に、貸し切りで一人だけだったのかもしれない……寂しかったのかな?
「リク様とアルネ様はどう致しますか?」
「俺は……大浴場の方に行きます」
「俺は遠慮しておこう。興味がないわけではないが……この部屋の風呂を使わせてくれれば良い」
俺とアルネにも訪ねて来たヒルダさん。
俺は大きなお風呂と言うのに興味があったから、もちろん入る事にする……銭湯みたいなところかなぁ?
アルネの方は、興味がありながらも断るようだ。
まぁ、男だと皆と一緒に入って楽しいという感覚はほとんどないから、こんなものなんだろうな。
「りっくん、一緒に入る? 久々に頭を洗ってあげるわよ?」
「姉さん……それは駄目だろう……」
「リクさんと一緒に……」
「はっはっは、私は気にしないがな。しかし、リクは昔そうだったのか?」
「リクの子供の頃……これは興味があるわね……」
「リクと入るの? それも楽しそうなの!」
姉さんがいきなりの爆弾投下。
確かに……昔はシャンプーが目に入るのが嫌で、姉さんに洗ってもらってた事があるけどさ……。
本当に小さい……ユノよりも小さい頃の話だからね?
とは言え、さすがにこの年になってまで女性陣と一緒に入るわけにはいかない。
恥ずかしいしね……興味がないわけじゃ……ないんだよ? うん。
「あはは、まぁ、りっくんも大きくなったという事で、今回は別々ね」
「今回は、というよりこれからはずっとだよ……」
笑ってる姉さんだけど、他の皆は俺の子供の頃の話に興味津々だ。
……姉さん、風呂場で余計な事を言わなきゃ良いけど……昔を知られてるから、恥ずかしい話なんていっぱいあるから……。
モニカさんだけは、何か別の事を考えているようで、顔を真っ赤にして俯いている……どうしたんだろう?
「こちらになります」
「ほぁ~」
「広いな……」
「大、浴場とはまさにこの事ね」
「広いの! ……泳げるかなぁ?」
ヒルダさんに案内されて、アルネ以外の皆で大浴場に到着。
百人くらいが一斉に入れるくらいの大きさの脱衣場の入り口から、皆感嘆の声を漏らしている。
だけどユノ、湯船で泳ぐのはマナー違反だから、あまりやらないように。
……姉さんなら進んで泳いで良いとか言いそうだけど……。
「それじゃ、俺はこっちだね」
「また後でねー」
姉さんやヒルダさん、他の皆に断って俺だけ別の場所に移動。
さすがにここから先は一緒に入る事はできない。
男女別になっている脱衣場の、男用に入り、中を見渡す。
ヒルダさんからの連絡のためか、そこには俺以外誰もいない。
……姉さんが皆と入りたがる気持ちが少しわかったかも……この広さで一人だけというのは、少し寂しいかもしれない。
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