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メイドのメイさん
しおりを挟む「なればレナーテお嬢様、子爵方へお願いしてみては如何でしょうか?」
「メイド、それです!」
「それですって……いいのかな?」
「子爵方はレナーテお嬢様の事を大変、可愛がっておられます。今回はリク様も付いている事になるでしょうし、許可される可能性は高いかと」
食堂にいたメイドさんの一人が、レナに提案をする。
レナは名案だとでも言わんばかりに、メイドさんの提案を肯定。
それで許可が下りるのか、首を傾げていた俺に、メイドさんは俺がいるから許可される可能性が高いとの算段を説明してくれた。
しかしこのメイドさん……一体何者なんだろう……ヒルダさんを見ていると、こういう話で何かを提案して来るメイドさんって、いなさそうだと思ってたんだけど。
結局、レナは子爵達に許可を求めるため、すぐに食堂を出て行った。
暇になった俺は、エルサのモフモフを堪能しながら、先程のメイドさんと話しをする事にした。
レナに提案したメイドさん。
名前はずばりメイ・ドーラというらしい……だからさっき、レナもメイドと呼んだのか……珍しいというか、狙ったような名前というか……。
しかもこのメイドさん、元は騎士だったらしく、レナの護衛も兼ねてのお世話係だとの事だ。
自分のいない時にレナが攫われて、大変口惜しい思いをし、涙で枕どころか服や下着も濡らしたとまで言っていた……うん、そこまでは別に聞きたくなかったんだけど。
さらに、レナが産まれてからずっと見守っているらしく、妹のようだと言っていたので、いくつか訪ねようと思ったら睨まれてしまった。
女性に年齢を聞くのは止めよう……怖いから。
姉妹のように過ごしているおかげで、お互い気軽に色々と言い合える仲らしく、レナがメイド……メイさんに提案される事も珍しくないそうだ。
子爵邸の皆は、それを微笑ましそうに見ていると言っていたけど……ほんとかな?
子爵を始め、両親やエフライムは、レナに甘いから頼みは大抵聞いてくれる、とも言ってた。
それでいいのかな、子爵邸のメイドさん……。
とりあえず、世の中には変わったメイドさんもいるものだと、一つ勉強になった。
「リク様、メイド! 私も一緒に行ける事になりました!」
「おめでとうございます、レナーテお嬢様!」
「そ、そうなんだ。ほんとに許可されたんだね……。エフライム、いいのか?」
「……俺は反対したんだが、レナが聞かなくてな。リクが護衛をする事が条件だが、一緒に行く事になった。それとだ、リク」
しばらくして、嬉しそうに食堂へ飛び込んで来たレナ。
許可が下りたと喜色満面の笑みを浮かべて、メイさんに抱き着いていた。
メイさんも、レナを抱き締めて一緒に喜んでる。
二人を見ながら、レナの後ろから付いて来ていたエフライムを見て、本当にいいのかを聞いた。
妹を可愛がってるのが、傍から見ていてよくわかるエフライムが反対するのは、当然わかっていた事だ。
けど、エフライムはレナに押し負けたうえ、クレメン子爵かレギーナさん辺りが、許可をしたっぽいな。
あの二人は、何故か俺とレナが一緒にいると嬉しそうだからなぁ。
「ん、何かあるのか?」
「俺とレナーテの事だが、王都へも一緒に行く事になった。すまないが、その時の護衛もして欲しい」
「それは構わないけど……王都まで行ってもいいのか?」
「レナから聞いているとは思うが、元々俺達は王都へ行く予定だったからな。それに、今回の事も含めて陛下には、報告しておかないといけないだろう。だが、お爺様は領内の事で忙しいしな」
「そこで、エフライムやレナを、という事か?」
「あぁ、そういう事らしい。俺やレナーテの見聞を広める意味合いもあるがな」
「成る程ね」
可愛い子には旅をさせろ……とは言うが、今回俺達が護衛につく事もあって、いい機会だとクレメン子爵は考えたんだろうね。
エフライムが言うように、姉さんへの報告も必要な事なんだろうし、丁度いいと思ったんだろう。
王都や王城へ行くのは、確かにエフライムやレナにとって、いい経験になると思う。
日頃あまり領内からは離れられない……どころか、子爵邸から離れた場所へも中々行けないのかもしれないしね。
「それじゃ、俺達は無事にエフライムとレナを、王都まで送り届けないとな」
「うむ、頼む。今お爺様が、追加で依頼をするため、冒険者ギルドに使いを向かわせたところだ」
「これでもうしばらく、リク様といられます!」
「ははは、そうだね。でもエフライム、依頼は追加になるの?」
今は、クレメン子爵やエフライムを護衛して、オシグ村に行くという依頼を、冒険者ギルドに出している途中だ。
それにレナが加わるけど、俺にとっては同行者が増えるだけで、特に依頼が多くなるとは考えてない。
まぁ、王都まで護衛する事になるのだから、その文の依頼を追加……という事なのかもしれないけど。
「正確には、俺を護衛するという依頼に、レナへの護衛も追加するという形だな」
「あれ、クレメン子爵は?」
「お爺様は、依頼の中に含まれてはいないな。まぁ、一緒にいるんだから、護衛する事になるのは間違いないが……さすがに、貴族の当主が冒険者に護衛依頼を出すのは憚られるからな」
「そんなもんかな?」
「貴族としての、面目を保つためだな。それに、バルテル配下の事があったばかりで、まだ全て片付いていない。この状況で、お爺様自身の護衛を冒険者に任せたとあっては、子爵家が侮られてしまうかもしれんからな」
「そうなんだな」
面目かぁ……やっぱり貴族って、色々面倒なんだな。
勲章を授与されただけで、結構な騒ぎになったのに、貴族になったらどうなっていたのか……。
断って正解だったね。
「ま、実際はリクに護衛をお願いするわけだから、面目も何もない気もするが……一応は、対外的にな」
「色々あるんだな。とにかく、俺は頑張ってエフライムやレナを王都に送り届ければいいわけだね?」
「そうなる。リクが頑張らなければいけない状況、というの相当なものかもしれんがな」
エフライムは苦笑してるけど、依頼として受ける以上、二人とクレメン子爵を危ない目に合わせる事なく、オシグ村や王都へ連れて行かなくてはならない。
単純に魔物を討伐するのは、今までにもやって来たけど、人を守りながら移動するのは初めてだから、失敗しないよう気を引き締める。
「それではリク様、よろしくお願いします。リク様との旅路、楽しみです!」
「そうだね、こちらこそよろしく。きっとエフライムとレナを守るから」
「ふぁ……は、はい! メイド、準備にかかりますよ!」
「はい、レナーテお嬢様。リク様に気にってもらえるよう、万全を期して挑みましょう!」
レナから笑顔で改まってお願いされたから、決意を表明するために、二人を守ると言ったんだけど……。
何故かレナは、瞬間的に顔を真っ赤にして、夢を見ているような目つきになった。
その後、すぐに正気に戻ったのか、メイさんに声をかけて意気込みながら部屋を出て行った。
王都に行くための準備をしに行ったんだろうけど、何故そこまでメイさんも意気込んでいるんだろうか?
「リク……不用意な発言は気を付けてくれ。レナーテが変な勘違いをしそうだ」
「え、俺……何か変な事言った?」
「はぁ……ある意味安心だが、兄として色々複雑だな……」
レナとメイさんが出て行くのを見送っていたら、エフライムから注意を受けたけど……俺、何かおかしな事言ったかな?
よくわからず首を傾げていると、エフライムが溜め息を吐いて、レナ達が出て行った扉の方へ顔を向け、遠い目をした。
……どういう事なんだろう?
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