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魔力溜まり
しおりを挟む「とにかく、一度その魔力溜まりを見てみましょう。解消するか、魔物をどうにかして近付けさせないようにするかは、それからですね」
「わかりました。……最終的に魔物が来なくなればいいので、我々も考えさせて頂きます」
「はい。もちろん、マギアプソプションの方も、見つけ次第討伐させてもらいます。――リク、良いわよね?」
「もちろん。脅威が少ないと言っても、迷惑な魔物だからね。また集まってくるかもしれないけど、数を減らすに越した事はないよ」
「その際は、討伐証明部位の触覚を持ち帰って頂ければ、換金させて頂きます。それと……これも正式に依頼としましょう。農地の安全確保のための討伐と、調査、といったところですかね」
「はい、お願いします」
まずは見てみない事には……という事で、農場予定地を見る事になった。
王都に帰るまでの日数はまだあるし、魔物を討伐するのも依頼を受けるのも、冒険者として問題ない。
脅威が少ないと言っていたし、あまり強い魔物じゃないみたいだしね。
「あ、そうだ。忘れちゃいけない。これが一番の目的なんですけど……クラウスさん」
「はい。どうされましたか?」
「農場予定地で育てる作物ですけど、キューを多めに作る事はできますか?」
「キューを作るのだわ!」
予想していなかった問題で、話が逸れてしまったけど、元々はその話をするためにここに来たんだ。
それを忘れちゃいけない。
まだ農地がどうなるかはわからないけど、今のうちに作物をどうするか話しておいた方がいいしね。
俺がクラウスさんに問いかけるのと一緒に、キューの話になったからか、急にエルサが主張し始めた。
キューの事だから、エルサが声を上げるのも仕方ないか。
「キューですか……それはもちろん良いのですが……元々、作る予定でしたし、その量を増やすだけですので。ですが、その理由は聞いても?」
「はい。えっと、そもそもに王都でのキューが……」
クラウスさん達に、王都でキューが不足し、価格が上がっている事や、このまま放っておくと国中のキューが足らなくなる事が予想されると説明した。
途中エルサが必死にキューがなくなる危機感を訴えていたが、ちょっと大袈裟に気がしたけど……まぁ、良いか……大きく間違ってたわけでもないしね。
「成る程……陛下とリク様の願いとあらば、このクラウス、ヘルサルでキューのみを作る事も厭いませんぞ!」
「クラウス様、さすがにそれはどうかと……他の作物も必要ですので……」
俺の説明を聞いたクラウスさんは、キューばかりを作ると言ってくれたが、さすがにそれはトニさんに止められた。
まぁ、そりゃそうだよね。
その後、クラウスさんの時間が許す限り、キューの事について話し合う。
なんでも、元々キューをヘルサルで多く作る事は予定していたようだね。
獅子亭でもそうだったけど、キューの需要が高まった事で、キューを作れば売れるという状況になっているからだ。
そういう事をちゃんと考えられるのは、さすがクラウスさんというか、トニさんというか……まぁ、国中のキューがとまでは予想していなかったようだけど。
この辺りは、ヘルサルという街を管理している忙しさもあるだろうから仕方ない。
農場予定地が、魔物からの脅威がなくなり、問題なく作物を作る事ができるようになれば、予定していた数よりもキューを作る事。
また、それを王都を含め色々な場所へ出荷する事を約束してくれた。
作れば売れるのだから、街を預かる者として当然と言っていたけど、そういうものかな。
「ともあれ、まずは農地を使えるかどうかですかな。まぁ、リク様が関わった事で、成功は約束されたようなものですが。はっはっは、これで私の仕事も減る事でしょう」
「あはははは……まぁ、頑張ってみます」
俺が関わったから、必ず成功すると限った事じゃないと思うけど、クラウスさんの信頼に応えられるよう頑張ろうと思う。
まだ、農地や魔力溜まりを見ていないから、何をしたらいいのかわからないけどね。
「それでは、名残惜しいですが、私はこれで……」
「失礼します」
「はい、今日は時間を取ってもらい、ありがとうございました」
「リク様のためであれば、仕事を放っておいても駆け付けますよ」
「クラウス様、仕事はきちんとこなしてからにして下さい」
椅子から立ち上がったクラウスさんに、俺達も立ち上がって挨拶して部屋を出て行くのを見送る。
最後に息巻いて仕事を放るなんて言ってたけど、すかさずトニさんに注意されてた。
あれはあれで、良いコンビに見えるね……。
「さて、リクさん。ヘルサルに戻ってすぐで申し訳ありませんが……」
「はい。早速農地を見て来ようと思います」
「では、すぐに依頼の準備を」
「お願いします」
クラウスさん達を見送った後、ヤンさんが依頼の準備をする間、用意されたお茶を飲んで一息。
そうだ、この間にマギアプソプションという魔物の事を聞いてみよう。
「えっと、農場予定地に集まって来る、マギアプソプションという魔物ですが、どういう魔物なんですか? 魔力溜まりに集まって来るというのは、さっきフィリーナから聞きましたけど」
「そうですね、討伐されるのですから、情報は必要でしょう。マギアプソプションは、ミミズのような体で、1メートル程度の大きさです。人の頭くらいの頭部を持ち、そこに一本の触覚を持ちます」
「その触覚で、魔力溜まりを探っていると伝えられてるわ」
「成る程……強さの程度は?」
討伐する事もあり、魔物の詳細を聞いて時間を潰す事にした。
マギアプソプションの事を知っている、ヤンさんとフィリーナの話に耳を傾ける。
モニカさんはしっかり隣で聞いてくれてるけど、エルサはキューの話じゃないから、興味を失って寝入っている。
エルサ……この魔物をどうするかで、キューを作れるかどうかがかかってるんだから、大事な話だぞ?
「強さはさほどの脅威はありません。冒険者ランクで言うと、Dランク程度でも討伐は可能です。さすがに、数が多いと対処は難しいですが……」
「大体、マギアプソプションは群れで行動するのよ」
「はい。そのため、討伐ランクはCランクとなっております。単体ならDランクでも対処できても、複数だと危険ですからね」
単体ならあまり脅威ではないけど、数がいるのが当たり前なために、討伐ランクが上がっているタイプのようだ。
「マギアプソプションは、その頭部に持つ触覚で攻撃をして来る場合がほとんどです。その触覚は硬く、そこらの剣と同じような鋭さと考えても良いでしょう」
「ただ、動きが遅いから、避けるのも簡単ね。――あとは、噛み付いて来る事ですか?」
「そうですね。マギアプソプションの口には、無数の小さな牙があります。それを使って対象に噛み付き、のこぎりのように小刻みに動かす事で、噛み千切ります。ですが、やはり動きが遅いため、触覚以上に避けやすいと思われます」
「ふむふむ……」
「……」
「ぐぅ……だわ……」
フィリーナとヤンさんの二人から教えられるマギアプソプションの情報を、頷きながら聞く。
隣のモニカさんは、黙ってメモを取っていて勉強熱心だ。
そのモニカさんの足の上では、丸くなったエルサが完全に寝てしまったようだ。
相変わらず暢気だなぁ……。
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