615 / 1,955
すでに手遅れだった事
しおりを挟む「エルサ、考える必要がないってのはどういう事だ?」
「簡単な事なのだわー。もし本当に魔力の線を繋げていても、既に切れているのだわ」
「なんだと……?」
「切れているって、どうして?」
「ちょっと前に私が言った事を忘れたのだわ? 結界で完全にこの空間を覆っているのだわ。物や衝撃だけでなく、魔力の通さないのだわー」
「あ……そうか……」
男を逃がさないために、結界で今いる場所を完全に覆っている。
咄嗟に使った結界だから、空気穴だとか魔力を通す穴だとかのイメージは全くなく、完全いこの場所を覆っている状態だ。
つまり、魔力の線が本当にあったとしても、男を捕まえるまでもなく、既に切れてしまっているという事だ。
「って、それじゃ……!」
「リクは引き金を既に引いてるのだわ?」
「だわじゃないよ! それって……つまり、ルジナウムの街が……」
「魔物達が動き始めていてもおかしくないのだわ。そこの人間が言う事を信じれば、だけどだわ。けど、急げば間に合うのだわ?」
「……そうなの?」
「忘れたのだわ? 私の全力をだわ。魔物の集団なんて統率されているわけないのだわ。街まで到達するのも時間がかかるのだわ。全力で使えば間に合うのだわー……多分だわ」
「多分って……」
暢気に言うエルサに、既に引き金が引かれてしまっていると焦る俺。
そこで思い出させるように言うエルサの言葉で、全力で飛んだ時の速度を思い出す。
国の北端から南端まで、時間をかけずに移動できるあの速度なら、確かに魔物が移動するまでの間で、ルジナウムの街へと行ける!
若干どころか、凄く不安になる一言を付け加えるエルサに、本当に大丈夫か微妙な気持ちになるが……それなら、魔物達にルジナウムが襲われても間に合うかもしれない!
「……なんだ!? どうなっている……! 魔力の線が、繋がっている感覚が消失しているだと!?」
男の方も、エルサに言われて初めて魔力線を確認したらしく、繋がっていない事を今知った様子だ。
多分、細い線で繋がっていて感覚が希薄なため、意識したり集中しないとわからないんだろう……予想だけど。
ずっと何かに繋がっている状態の感覚が、強く感じられると紛れ込むための生活にも支障が出そうだしね。
「という事は……すぐにでもルジナウムに向かわないといけない……って事だよね?」
「そうなるのだわー」
「貴様らぁ!」
やけくそなのかなんなのか、自分に有利な条件がなくなって焦りが臨界点にでも達したんだろう。
黒装束の男が、折れた剣を振りかぶって俺へと向かう。
だけど……。
「ぐぅ!?」
「……おとなしくなったな」
「ソフィー」
向かって来る男を見たまま、俺は動かない。
剣が俺へと振り下ろされそうになった瞬間、くぐもった声を出して、俺を睨んでいた目がグルンと白目を剥き地面に倒れた。
その後ろでは、ソフィーが剣の鞘を持って立っている。
男は話しや逃げる事に集中し過ぎて、ソフィーの動きに気付かなかったようだね。
エルサが俺の所に来た時から動き出してたのに……。
……結構、痛そうな音が聞こえたけど……頭がへこんだりしていないだろうか?
一応、呼吸はしているようだから、死んだりはしてないみたいだけど……しぶとい。
鞘で後ろから男をぶっ叩いて気絶させたソフィーは、なんでもない事のようにまた鞘を腰へと取りつけながら、声をかけてくる。
「リク、ここの事は私に任せろ。リクはすぐにルジナウムへ向かうんだ」
「大丈夫?」
「なに、おかげで大分休めたし、もうエクスブロジオンオーガはここにいないからな。鉱山にはまだ散らばった奴がいるだろうが、外へ出るだけなら問題ない。あいつらの鈍い動きでは私を捕まえられんだろう」
「……わかった。とりあえず男を縛って、応援を鉱夫さん達に頼むといいと思うよ」
「あぁ、そうさせてもらう」
もし鉱山から出る時に、エクスブロジオンオーガと遭遇しても、ソフィーなら逃げるのになんの問題もないだろう。
あの鈍い動きで、素早いソフィーを捕まえる事はできないだろうし。
とりあえず、男を縛って身動きが取れないようにする事を勧めておき、ソフィーに背中を押されるようにして、その場を駆けだした。
「って言っても、この穴をまた通らなきゃいけないんだよね……隠し通路があるみたいだけど、何処にあるのか探している暇もないし、そっちへ行っても、出口までの道がわかるかどうか……」
とりあえず結界を解いて、先程通った穴の前で立ち止まる。
鉱山内は入り組んだ坑道があるため、知らない道を通ると迷う危険もあれば、出口まで時間がかかったりもする。
だから、結局知っている道……穴の中を再び通って帰るのが一番なんだけど、そちらはそちらで、匍匐前進で移動のために時間がかかってしまう。
とはいえ、こうしている間にも、ルジナウムは危険に晒され始めているのだから、躊躇している暇はないか。
「……仕方ないか。よし!」
「待つのだわ」
「エルサ……?」
「素早く移動する方法があるのだわ」
「そんな方法あるの?」
「簡単なのだわ。まず、穴の中全体を凍らせるように、魔法を使うのだわー。こうして……」
「あ、おいエルサ!?」
「ぶはー……なのだわ!」
意気込んで、穴の中へ突入しようとする俺を、エルサに止められた。
急がないと、と気が逸っている俺とは別に、いつも通り暢気な声を出しながら、穴へと近付き、口からブレスを出すようにして魔法を発動。
穴の中から冷気を感じる……寒そうだ。
「……硬い、完全に凍ってるね。でも、これだと逆に通れないじゃないか!」
穴の中は、匍匐前進をじゃないと通れないくらい狭い。
カチコチに凍ってしまった穴を確認しながら、頭にドッキングしたエルサを問い詰める。
凍った床なんて、冷たくて匍匐なんてできないぞ?
「落ち着くのだわ。リク、さっきエクスブロジオンオーガを倒した時みたいに、全身を結界で包むのだわ」
「全身を?」
「もちろん、私がいる事も考えて覆うのだわー。結界の外には出さないように気を付けるのだわー」
「……えっと、結界!」
どうするのか、詳しい説明がないため、何を考えているのかわからないけど、とりあえずエルサに従って結界を発動させる。
さっきも使った形だから、イメージもしやすい……もちろん、エルサが頭にくっ付いているから、それも考慮しての形だけど。
「結界で覆ったけど、この後は?」
「上出来なのだわ。そうしたら、穴の中に勢いをつけて飛び込むのだわー!」
「勢いを……こう、かな!」
少し穴から距離を取って、助走をつけて穴の中へと飛び込む。
走り出す直前、何処からか取り出した縄で、男をぐるぐる巻きのみのむし状態にしているソフィーに対し、軽く手を上げて合図を送っておく。
ソフィーが気付いたかどうかはわからないけど、離れていて結界に覆われているため、空気穴があっても向こうからの声やこちらからの声は届かない。
そのまま、水泳の飛び込みのような格好で、穴の中に突撃する俺……焦っていたから、エルサの言う通りにしたけど、大丈夫だろうか――?
11
あなたにおすすめの小説
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
湖畔の賢者
そらまめ
ファンタジー
秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。
ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。
彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。
「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」
そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。
楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。
目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。
そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる