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モニカさん達に事情説明

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「このお店は踊る獅子亭って言って……俺が思うには、この街一番の料理が食べられるお店だよ。まぁ、料理だけじゃなく、俺自身もお世話になっているけどね」
「……私も、お世話になりました。いっつも人が並んでいて、さぞ美味しいお店なんだろうなぁ……って指をくわえて見ていたら、夜遅くにデーヤンマクみたいな人が出て来て、残り物って言って料理をくれたんです」
「デーヤンマク……あぁ、マックスさんだろうね」

 デーヤンマクというのは、熊みたいな見た目をした大きめの魔物だ。
 毛皮に覆われているのもあって、かなりの大きさで迫力もあるんだけど……マックスさんの筋肉がそう見えたのだと思う。
 オーガ並みの怪力に、毛皮で傷を付けにくいとあってそれなりに強い魔物らしいけど、今まで俺は遭遇した事がなくマックスさんに以前知識として教えられたくらいだ。
 山に生息している事が多く、移動の際に山越えをする場合は要注意と言われたんだけど……ほとんどエルサに乗って山を通過するくらいだからなぁ。

 夜遅くって事なら、暗くてよく見えなかったんだろうし、マックスさんは迫力あるから……初対面で睨まれたら、子供は泣きだすと思う。
 いい人だから、何もないのに人を睨んだりしないけどね。

「ちょっと怖かったですけど、あの時食べさせてもらった料理は美味しかったなぁ……あれがあったから、この街で人に被害を出さないように、なんて指示も考えたのですよ」
「……人に被害をと思うなら、そもそもに爆破工作をしなければいいんだけど、言っても無駄なんだろうなぁ」
「どうしたんですか、英雄様?」

 ツヴァイと同等の魔力を持っていても、夜中の暗がりで見るマックスさんが怖いというのは、まぁわからなくもないけど……ともあれ、マックスさんが作った料理があったおかげで、クラウリアさんの工作に変更が加えられたみたいだ。
 まぁ、それなら元々……なんて思わず呟いてしまうけど。
 小さく呟いたので聞こえなかったのか、クラウリアさんは不思議顔でこちらを見ている。

「なんでもないよ。けど、その英雄様って言うのは止めて欲しいな……」
「英雄様は英雄様ですよね?」
「いやまぁ、間違いではないんだけど……皆からはそう言われているし……はぁ、まぁいいか」

 先程俺が英雄と呼ばれている事を話してから、貴方様と呼ばれていたのが英雄様と呼ばれるようになった。
 むず痒いので、あまり英雄とは呼ばないで欲しいんだけど、こちらを見て首を傾げているクラウリアさんは直してくれそうにないので、溜め息を吐いてさっさと獅子亭に入る事にした。
 ついて来ている……というより、まだ諦めずに結界にへばりついているクラウリアさんは、そんな状態ながらも分けてもらった料理の味を思い出して、またあれが食べられる……なんて喜んでもいるようだ。
 どうして、騒乱を巻き起こしておいて、美味しい物が食べられると思うのか……本来なら捕まって冷や飯を食べてもおかしくないのになぁ……冷や飯という考えがあるのかすら知らないけど。

「戻りました……でいいのかな? マックスさん達、無事ですか?」
「お、リクか。モニカから多少の事情は聞いた。こっちはなんともないぞ」
「リクさん!」
「リク様、ご無事で」

 中にいる人達に聞こえるように声をかけながら、獅子亭へ入ると、入り口近くにマックスさん、モニカさん、フィネさんがいた。
 振り返って声をかけて来る皆の様子を見るに、怪我などはないようだ。

「あれ、マリーさんとか他の人達は……?」
「あぁ、マリー達なら街の様子を見に行っている。まぁ、ここに来た奴らは俺達がさっさと捕まえて、衛兵に差し出したからな。街の状態とかの確認だ」
「私が来た時には、父さんやルギネさん達が取り囲んでいたのよ。……心配して損したわ」
「まぁ、何事もなくて良かったですよ。ここに向かう時のモニカさんは、邪魔する者を蹴散らす気迫がすごかったですから」
「そうなんだ。じゃあ、ルギネさん達はマリーさんと一緒かぁ」

 店内を見回して無事を確かめつつ、いると思っていたマリーさん達がいない事に気付く。
 マックスさんに聞いてみると、周辺や他の場所ではどうなっているかを確認しに行ったらしい……多分、もしまだ危険な目に遭っているような人がいれば、助けるためだろう。
 モニカさん達が獅子亭に到着した時には、まだいたようだけど。

 やっぱり最初に考えていた通り、マックスさん達にかかれば爆破工作をしている人達はすぐに取り押さえられたらしい。
 心配していなかったわけじゃないけど、頼りになる人達が集まっている場所だから、滅多な事はないとも思っていた。

「一応、奥にカーリンやルディ達はいるぞ。戦えるわけじゃないから、近辺の人達も含めて避難しているだけだがな。何があるかわからないから、一応俺やモニカ達がここに残っているが……リクが来たという事は、終わったのか?」
「もう、外から爆発音は聞こえないわね……というかリクさん、その後ろにいて変な恰好をしているのは……?」
「なにやら怪しげなローブ……どこかで見たような格好ですね?」

 店の奥では、戦えない人達を集めて避難させてもいるらしい……さすがに、こういう時迅速に行動できて頼りになる人達だ。
 開いた入り口から、爆破されるような音が聞こえないのを確認して、モニカさんがクラウリアさんに気付いた……というより、話を優先していただけか。
 変な恰好とは、ローブの事ではなくエルサに手を伸ばしていたり、結界にへばりついている状態の事だろう。

 不透明な結界に阻まれているのは、傍から見たら変な恰好と言われるのも当然だからね。
 フィネさんは、ツヴァイを捕縛した後の様子を見たりもしているので、クラウリアさんが全身を覆っているローブには見覚えがあるみたいだね。
 同じ物かわからないけど、見た目としては確かにほぼ変わらない物だ。

「ふぬー! ふんがー!」
「えーっと、この人は……クラウリアさん、とりあえず落ち着いて。色々話さないといけないから……」
「ぴ! は、はい……わかりました英雄様! うぅ……」
「はぁ……モニカさん、マックスさん。とりあえず、この人が今回の騒動を起こした元凶です……」

 モニカさん達に説明しようとしても、後ろで鼻息の荒いクラウリアさんがうるさい。
 結界に阻まれているとはいえ、全身を覆って閉じ込めているわけではないからね。
 仕方なく、可視化させた魔力を少し出してクラウリアさんに注意すると、ようやくおとなしくなってくれた……しゅんとしてしまったけど、まぁいいか。
 
「成る程な……異常な魔力を持つ者か……」
「ツヴァイと一緒って事ね。んー、この人はエルフではないのね?」
「耳を見ればわかるけど、人間みたいだね。そうだよね、クラウリアさん?」
「はい! 正真正銘、間違いなく完璧な人間です! 混ざり物はありません!」

 騒動を起こした張本人である事を伝えつつ、今は抵抗したり暴れたりする気はない事も伝え、立ち話もなんだとお茶を用意して、テーブルについてクラウリアさんの事を話す。
 ツヴァイがエルフだったから、クラウリアさんも……? と思ったようで、モニカさんが首を傾げる。
 特徴的な耳がないから人間だと思うけど、確認のために聞いてみると、自信満々に人間であると答えた。
 そこで自信満々になる理由もわからないし、混ざり物がないというのはもっとわからない……まぁ、根拠のない自信やら、見当違いの行動や罪悪感のなさとか、もうこういう人だと思うしかないか。

 ……いや、待てよ。
 人間とエルフ、獣人もいるんだから、ハーフとかもあり得るのか……。
 なんにせよ、クラウリアさんは間違いなく人間って事で良さそうだ。


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