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モニカさんから逃げて冒険者ギルドへ

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「とにかく、マックスさん後は任せました!」
「はぁ……」
「あぁ、英雄様ー!」
「貴女はこっち、こっちに来なさい!」
「あーーーー」

 これ以上留まっていると、冒険者ギルドに行く機会を失ってしまいそうなので、マックスさんに声をかけて脱兎の如く獅子亭を出た。
 その際、重い溜め息や、悲鳴、怒りの声や何かを引きずる音が聞こえてきた気がするけど、全て振り切る。
 ……クラウリアさん、無事でいてくれ……!


「リク、上手い事逃げ出したのはいいのだわ。けどお腹が空いたのだわ……」
「エルサ、逃げ出したとか言わない。……さっきあんなにキューを食べたのに、もうお腹が減ったのか?」
「キューは別腹なのだわー」
「別腹の意味が違う気がするけど……はぁ」

 獅子亭を離れ、冒険者ギルドへと向かっている途中、エルサが空腹を訴える。
 全力で走ったはずなのに、それでも頭にくっ付いた状態なのはそれはそれですごいけど、エルサがいつも食べる一食分に近い量のキューを、ご褒美としてあげたにもかかわらずもうお腹が空いたのか。
 別腹って、満腹なくらい食べているのに、好物……この場合はキューなら、まだ食べられるとかって意味で使うのが正しいと思うけど……。
 いや、もっと言うなら別腹って本来は違う意味で……というのはどうでもいいか。

 ともあれ、空腹を訴えているエルサを連れたままだと、冒険者ギルドに行っても落ち着いて話せないので、なんとかしないとな。
 まぁ、騒動をなんとかしてクラウスさんと話したり、獅子亭でマックスさん達とも話したりして、お昼も過ぎているから俺もお腹は空いているからね。
 溜め息を吐いて、どうしようか考え始める……。

「おや、リクさんじゃないかい?」
「あ、おばさん」

 ふと、声をかけて来る女性……ヘルサルで酒場を開いている人だ。

「そうだ、実はその……」

 ヘルサルに以前から住んでいる人や、お店を開いている人の多くは、ゴブリンのが大群が押し寄せてきた防衛戦の準備の時に顔見知りになった人が多い。
 このおばさん……女性もその一人なんだけど、エルサがお腹を空かせている事や、昼食をと考えていた事を伝える。
 できれば、街全体で騒動が起きた後だけど、何か食べさせて欲しい……とお願いもした。

「なんだい、そんな事かい。うちはお酒が主だから、マリーのとこの獅子亭より味は落ちるけど、来るかい?」
「すみません、お願いします」
「なーにいいって事よ。街を救った英雄様を招待するんだ、旦那に鞭打ってでも歓迎するよ」
「ははは……まぁ、さすがに鞭打つ程じゃなくてもいいんで……」

 旦那さんに本当に鞭を打つわけじゃないけど、無理を言っているんだからと苦笑しながら、頭を下げておばさんのやっている酒場へ向かった。
 道すがら色々話を聞いてみると、なんでも騒動が収まったようだから、お店を開くために買い物に出ていた帰りだったらしい。
 各地が爆破されるなんて騒動があった後なのに、すぐお店をなんて商魂たくましいと言うべきか……と思ったら、エルサが空を飛んでいるのを見たからとか。

「エルサちゃんがいるなら、リクさんもいるからね。この街の皆……最近入ってきた人達以外は、リクさんがいるならすぐに収まるって安心しているんだよ。もちろん、全てを任せるわけじゃなくて、私達もできる事はするけどね」

 なんて、エルサを見て俺がいる確信があったからと言われた。
 爆破が起きなくなったり、工作員を衛兵さん達が捕まえたりとした後、周辺の店の人達と日常に戻すのが皆安心するだろうと、すぐに店を開くのを決めたとの事。
 俺を信頼してくれているのは嬉しいし、おばさん達は戦ったりはできない分、やれる事をやろうと考えてくれているのはいい事だと思う。
 皆、戦い以外の事でも頑張っているんだなぁ――。


 ――偶然会ったおばさんがやっている酒場で、エルサと一緒に食事をして外に出る。
 言葉通り、旦那さんにわりときつい言葉をかけて料理をさせていたけど、その旦那さんは笑って美味しい物を作ってくれた。
 まぁ、長年酒場をやっている夫婦なので、あぁいったやり取りには慣れているんだろう。

「だわぁ……だわぁ……」
「満腹になったらすぐに寝ちゃったか。今日は頑張ったから、このままゆっくり寝かせておこう」

 おばさん達にお礼を言って外に出たくらいに、既に寝ていたエルサ。
 ご褒美のキューはあげたけど、寝ているのはいつも通りだし、このままでいいかな。
 特に起こさないといけない事はないからね。

「……それにしても、こっちは結構荒れているね」

 冒険者ギルドに向かっている途中、そろそろ到着するくらいになったあたりでは、爆発の跡なのかそれなりに物などが散乱している状況が見て取れた。
 街の人や衛兵さんが協力して片付けをしている。
 倒れている人とか、怪我をしている人は見かけないので、人への被害は少なかったんだろう……それか、怪我をした人は治療のために運ばれているのかもしれないけど。

「あの家、ほとんど崩壊しているようだけど……大丈夫なんだろうか?」

 壁が崩れ、家の中まで見える状態になっている建物もちらほらと見かける。
 当然周囲には壊れた壁だった物が散乱していて、片付けをしている人がいるんだけど……俺に手伝えることはないし、もし住んでいた人が困るようならクラウリアさんに謝らせた方がいいかもしれない。
 まぁ、誤って許されるかはわからないけど。

「冒険者ギルドの近くは、集中的に爆発させられていたみたいだね。庁舎の方はそうでもなかったけど……あっちはエルサが行ったからかな?」

 クラウスさん達がいた庁舎の方は、多少爆発の跡があるようにも見えたけど、冒険者ギルド付近程じゃなかった。
 エルサが行って取り押さえたから、被害が少なかったのもあるんだろうけど……クラウスさんが直接指揮して守りを固めていたからかもしれない。
 冒険者ギルドには冒険者さん達がいるだろうけど、朝だったし、まだギルドに人集まる前の時間で対処が少し遅くなったとか、そんな感じだろうと想像する。

「あ、ヤンさんとソフィーだ。おーい、ヤンさーん! ソフィー!」
「これはリクさん」
「リクか。こちらに来て大丈夫なのか?」
「うん、他の事はもう終わったし……俺が直接何かやる事もないからね。一応、獅子亭に行ってマックスさんやモニカさんとも話して来たよ」

 冒険者ギルドの入り口付近、壊れた瓦礫付近で立ち話をしているヤンさんとソフィーを発見し、声をかけながら駆け寄る。
 周辺には衛兵さんのように統一された装備ではなく、バラバラの武器や鎧を身に着けた人達が動いているから、冒険者さん達だろう。

「あれ、ソフィーと一緒に行ったはずの、ユノとアルネは?」
「あぁ……アルネ達はあそこだ」
「えーと……?」

 ヤンさんとソフィーだけで、近くにユノとアルネがいない事に気付き、聞いてみる。
 ソフィーが指し示す場所を見てみると、道の端で俯くユノに、アルネが何やら言っている様子なのを発見した。
 あれは何をしているんだろう?


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