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再生能力の付与

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「その時、エクスブロジオンオーガが本来使えるはずの魔法を使えなくなる」
「そういえばそうだったね。爆発付与されたエクスブロジオンオーガは、魔法を使えなくなっていた。多分、爆発する能力に集中していたのかな? と思うけど」
「そうね。そしてそれはワイバーンも同じだったのよ。調べていてわかったのだけど、リク達が倒したワイバーンは魔法が使えないわ。炎を吐いたりはしなかったでしょ?」
「うん。ユノと一緒に先手を取って斬りかかったから、ワイバーンに炎を吐く余裕もなかったとは思うけど」

 いきなり翼や足を斬り取られたんだから、炎を吐くなんて余裕がなくてもおかしくない。
 まぁ、怪我を負わせたワイバーンは、俺とユノが手を止めても再生に集中していたから、炎を吐く素振りすら見せなかったんだけど。

「再生能力を付与する事で、炎を吐く魔法が使えなくなったのね。どのような状況でも、傷を負えば再生を強制される……エクスブロジオンオーガと似ていると思わない?」
「言われてみれば確かに」

 なんらかの能力が追加されて魔法が使えなくなり、条件を満たすと強制的に付与された能力の発動に集中する。
 エクスブロジオンオーガだと爆発で、ワイバーンだと再生……能力は違っても、フィリーナの言う通り似ているね。

「ワイバーンは、もともと再生能力が高いから……それを強化したって事でしょうけど。これもエクスブロジオンオーガと一緒ね。まぁ、さすがに手足が新しく生えて来る事なんて、通常ではない事だと思うけど。尻尾ならともかくね」
「尻尾は生えて来るんだ……」


 ワイバーンはリザードマンと見た目が似ていて、翼の生えた大きなトカゲと言える。
 トカゲだから、尻尾を切っても生えて来るんだろうか……?
 何はともあれ、元々あった能力を強化し、強制化しているのもエクスブロジオンオーガと同じ状況だ。

「あと、リクの探知魔法では魔力反応が小さい……魔力量が少なく感じたのだったわよね?」
「うん。だから、見つけるのも少し遅れたんだけど」

 探知魔法の意識を空へ向けていなかったというのもあるけど、魔力量が多ければそれだけ反応も大きくなる。
 人間とそう変わらない魔力量だったから、すぐにはわからなかった。

「私から見たら、魔力量は他のワイバーンより多く見えたくらいよ。まぁ、リク達が倒して運ばれて来たのを見ただけだけどね。それでも、霧散していない魔力が体内に長く残留していたわ」
「え? でも探知魔法では確かに……」
「それなんだけど……リクの探知魔法って、リクの魔力を広げて他の魔力と接触した反応を感じるのよね?」
「えーっと……あんまり深く考えてなかったけど、多分そうだね」

 探知魔法はソナーのように、音波代わりに魔力を周囲に薄く放つ。
 そして、広げた魔力に他の何者かの魔力が接触する事で、反応を俺が感じる……その時の反応の大きさなどで魔力量や性質がわかる、といった仕組み……だと思う。
 空気中にある自然の魔力は、水中の水のようなものだ。

「探知魔法とは違って、私の目は見た相手の本質と言えばいいのかしら? 存在そのものの魔力を見るようなの。だから、リクの探知魔法は表面の情報を得られて、私の目は内面の情報を見ている、と言えるのよ」
「内面の……それならワイバーンの表面、俺が感じた魔力反応だけじゃなく、内部では違ったって事?」
「えぇ。調べて行くうちにわかったのだけど、内部では常に魔力が再生能力に向けて使われていたようね。おかげで、リク達が倒しても魔力が全て霧散する事がなくて、調べやすくもあったんだけど」
「内部で使われていた。だから、外には出ずに表面的には少ない魔力しかなかった。それで探知魔法で調べたら、魔力量が少なく感じたって事かぁ」

 体内で消費されているのなら、表面に出る魔力が少なくなる……という理屈はわかる。

「それから……これを見て」
「ん? これって……クォンツァイタ、だよね?」

 フィリーナが取り出して、テーブルに置いた物。
 最近ではすっかり見慣れた、透明感のあるガラスっぽい鉱物……拳サイズのクォンツァイタだった。
 色が付いていないから、今は魔力が蓄積されていない状態のようだ。

「これが、ワイバーンの体内から出て来たわ。今は発見した時はまだピンク色をしていて、魔力を蓄積していたの。よく見て……クォンツァイタの中に、黒い物が入り込んでいるのがわかるわ」
「……ほんとだ」

 フィリーナに促されて、テーブルに置かれたクォンツァイタに目を凝らして中を覗き込むようにして見ると、確かに黒い点のような物が見えた。
 クォンツァイタ自体が、割れたガラスのように全体にヒビが入っているのが通常だから見えにくいけど、確かに異質な黒い物が内包されている。

「それ、ワイバーンの核よ。クォンツァイタ自体にも、何か施されているから……これが、体内で再生の補助をしていたようね」
「魔力を供給するって事だよね。アルネとフィリーナが改良したクォンツァイタのように」
「えぇ。ただこのクォンツァイタは、ワイバーンに適合するようにされている。そもそも、核が中に入っている時点で、魔力を蓄積させても核へと流れて行くのだけど、これにはその性質がないわ」

 クォンツァイタの中にある黒い何かは、ワイバーンの核なのか。
 だったら、これに魔力を注げば復元する……? と思ったけど、それとは別の性質を持たせてあるようだ。

「じゃあ、これを作った誰かもクォンツァイタを研究しているって事だね」
「間違いなくね。というより、ここまでの事ができるなんて、私やアルネも研究していてわからなかったわ。確実に、私達よりもクォンツァイタの研究は先をいっているわね」

 フィリーナがお手上げといった風に、両手を上げて自分達より研究が進んでいる事を認める。
 隣のカイツさんは悔しそう……ではないか。
 まぁ、そもそもカイツさんはクォンツァイタを研究していたわけじゃないからね。
 でもそうか……ワイバーンの核と、大量に魔力を蓄積したクォンツァイタって事は……。

「じゃあ、もしかすると核にある復元能力を、クォンツァイタに蓄積させた魔力を使って、再生能力を強化していたのかもしれないね」
「……そういう考え方もあるのね」
「え?」

 俺が言った言葉を、フィリーナは予想外だったという表情で受け止める。
 隣のカイツさんも、少し口を開けてポカンとしている様子。
 俺、何か変な事を言ったかな?

「いえ、私やカイツは核とは関係なく再生能力を新しく加えて、と考えていたのよ。でも、確かに核の復元能力を使えば……確か、リクが持ち帰った研究資料にも似たような事が……」
「えーっと、どういう事?」
「つまりね、核にはそもそも……」

 フィリーナの説明によると、魔物の核には強力な再生能力がある。
 それがあるから、核に魔力を注ぎ込めば復元されるという現象になっていたらしいんだけど……復元された、または核を持っているだけの通常の魔物は、その再生能力は失われているんだとか――。
 まぁ、よく考えたら魔力を与えるだけで復元されるのなら、そこらにいる核を持った魔物に怪我を負わせても、魔力が尽きない限り再生する事になってしまう。


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