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センテ周辺での狙い
しおりを挟む「じ、じゃあもしかして今頃、アマリーラさん達は……!」
「大量のワイバーンに囲まれているでしょうね。もっとも、今ではなく以前は、になるのだけど」
復元ワイバーンは、俺とユノが倒したのと同じだとすれば、異常な再生能力を持っている。
魔法は使えないみたいだから、アマリーラさんとリネルトさんなら一体や二体はなんとかなると思うけど……数が多くなればなるほど、再生能力が邪魔で倒すのが難しくなる。
最悪の場合……。
「今すぐ助けにいかないと……!」
「落ち着くのだわリク! そもそもどうやって助けに行くのだわ!」
「そ、それは……」
ワイバーンに囲まれていても、アマリーラさん達ならすぐにやられてしまう事はないだろう。
でも、危険な事には変わりない……今すぐ助けないと! という考えに支配された俺に、エルサが叫んで少し落ち着く事ができた。
そういえば、この空間から元の空間に戻る方法とか、どうやったらいいのかわからない。
「助けに行くなんて不可能。そもそも、もうどうにかなっているわよ」
「どうにかって……」
「リクが心配している、あの獣人達がどうなったかは知らないわ。でも、もう全てが手遅れなの。この空間にいるとわからないでしょうけど……あちらの世界では、リクが洞窟に入ってから……そうね、大体十日くらい経っているはずよ」
「十日だって!? でも、ここに来てまだそんなに経っているはずが……!」
体感でだけど、大体一時間から二時間といったくらいだ。
そんな十日も経っているはずがない。
「だってそもそも、最初は時間を引き延ばしているって……」
見えていたアマリーラさん達は、確かにほぼ動いていなかったはずだ。
破壊神の言葉を信じるなら、こちらにいる間は向こうの時間がほとんど進んでいないため、止まっているように見えているとかだった。
「それは本当に最初だけよ。空間を切り離してから、私は時間に干渉していないわ。時間に干渉するのって、干渉力を使い過ぎるのよね」
「で、でもそれなら、十日も経っているなんて理由にはならないんじゃ?」
破壊神と戦い始めてから、十日経っていたなんて事は絶対にない。
時間を引き延ばしていないのなら、同等の時間が経っているはずで……でも、この空間は元の世界の空間とは違うから……?
もしかして……。
「さぁ、どうかしら? あぁそうそう、もういい頃合いだし私の目的はほとんど達成されたようなものだから言っておくわ」
「え?」
何かを思いついたような気がした瞬間、破壊神からの言葉。
俺の考えを読んで中断されたような気もするけど、聞けるのなら聞いておかないといけない気がする。
なんで、ここで俺とエルサを隔離して時間稼ぎをしていたのか。
「これまでの事から、ある程度想像はできていると思うけど、ワイバーンの事も含めて裏で糸を引いていたのは帝国よ。そして協力している冒険者ギルド、だったかしら」
「冒険者ギルドだって!?」
「あら、そこは知らなかったのかしら。リクがこれまで潰して来た計画……その一端を担っているのが、冒険者ギルドよ。まぁ、一つの部署とかそういう感じかしら? 魔物に関するノウハウや情報は、多く持っていたみたいだから」
冒険者ギルドが直接協力している……確かに、マティルデさん達との話では裏ギルドだとか、帝国に取り込まれている可能性なんかも話していたけど。
まさか、直接拘わっているなんて……。
「それが嘘じゃない証拠は……?」
だけど、破壊神の言う事……全てを信じられるかどうかはまた別だ。
「証拠なんて、こんな所で示せるわけないじゃない。信じたくなければ信じなくてもいいわよ? でも私は神なの。神って面倒でね……色々制約があるのよ。ほとんど人間になったユノは別でしょうけど、私のような純粋な神は嘘をつけないのよ。これも、信じるか信じないかはリク次第だけど」
「……」
雰囲気から嘘を言っている風ではない。
けど、本当に信じていいのかどうか……一応今は、信じないと話が進まないし、信憑性の高い情報と思っておくくらいが良さそうかな。
「あ、そうそう。リクが潰した物の中に研究施設もあったわね。あそこは冒険者ギルドが主導していたっけ」
「研究施設……」
ツヴァイのいた地下施設の事か。
それじゃまさか、俺達が今まで帝国と関係を疑っていた組織って、冒険者ギルドの事なのか?
いや、一部の部署みたいな感じと言っていたから、全てがそうというわけではないのか。
破壊神の言う事を信じるならだけど……でもそうだと考えると、冒険者としての身分を利用すれば、アテトリア王国内でも各地に潜む事くらいはできるか。
冒険者になって、一定のランクになれば国境を越える際にも冒険者カードの提示だけで、身分の保証ができて通常より簡単に通れるはずだから。
もちろん、犯罪歴みたいなのも調べられて、問題ないならだけど……さすがにフリーパス状態とまでは言えない。
「何が関わっていたとしても、私には関係ないのだけどね。で、ワイバーンとかをリクがいた人の集まる場所、街の近くに集めた理由は、魔力溜まりの発生を狙うためよ」
「魔力溜まり……? なんだってそんな事を?」
「魔力溜まりがあると、どう魔物に作用するか調べたいらしいわ。まったく、私の創った魔物なのに、勝手に強化するためとか考えているようね。でも、効果はそれなり……かしら? 劇的には変わらないのだけどね」
魔物を創ったのは、創造神のユノではなく破壊神。
だからその話は正しいのだろう……魔力溜まりを利用したら、魔物が強力になるのか。
魔物を復元したり集めたり、さらに特殊な能力を持たせたり強化したり。
今度は魔力溜まりで、単純な能力強化といったところなのだろうか?
「だから、魔物の死骸をセンテの南に……」
「大量の魔力を空気中に霧散させるのが、一番手っ取り早いからね。リクのように異常な魔力量があれば、もう少し簡単にできるでしょうけど」
ヘルサルで発生した魔力溜まりは、俺が加減せずに魔法を使った事以外にも、大量のゴブリンが持っていた魔力が原因だ。
魔物の死骸を運ぶ以外にも、定期的に俺が魔力を一定の場所で解放するとかしていたら、魔力溜まりにさせやすいのかもしれない。
「そして、リク達が調べていた事で多少の邪魔はできていたようだけど、今日……いえ、大体十日が経っているだろうから、十日くらい前かしら。準備がほとんど整ったの」
「準備が……それじゃあ魔力溜まりが?」
「いえ、まだ完成しないわ。魔物の死骸を運んで魔力を霧散させる事で、近付いてはいるけれど発生させるにはまだまだ足りない。それなら、もっと多くの魔力を集めればいい……あら、近くに人間が多く集まっているわね?」
「……センテの人達を、魔力溜まりを発生させるために」
魔力を大量に集めて、魔力溜まりにするにためだけに、センテの人達を狙っていたのか……。
おそらく怒りの感情だろう、何も罪のない人達を、ただそんな事のためだけに狙っていたとわかって、両手に力が入って震えていた――。
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