1,191 / 1,955
陽気な怪我人と気配の薄さ
しおりを挟む東側の怪我人収容所の人達が、怪我をしていても明るいのは……まだ続いている戦闘の状況をよく知っていて、なんとか凌ぐだけだった以前とは違って押し返しているからだろうか?
ここにいる人達もそうだけど、東門の状況がいち早く報せられる事も影響しているっぽいけど。
あと、王軍ももうすぐ来る事なども含めて、こちらが優勢になってもう覆らないだろうとわかっているからかもしれない。
「はいはーい、それじゃ治療しますよー」
「お、お願いしますリク様!」
「次はこっちでお願いします」
「お前はもうほとんど治りかけだろうが。次はこっちだ!」
「いやぁ~リク様の魔法は凄いですねぇ~。なんとなく気持ち良くなって癖になるくらいでした~」
「いや、俺の魔法にそんな効果はないと思うんですけど……ただ怪我を治すというか、その人が持っている治癒能力を増幅させるだけですし……」
兵士さん達の軽口に俺も混ざりながら、何やら治癒魔法を怪しい効果のある魔法と誤解されかねない事を言う女性兵士をたしなめつつ、治療に精を出す。
その中で気になったのは、怪我の治療に対してや魔物と戦った事を感謝されたりもしたんだけど、俺がいたからとか、俺がいれば大丈夫……みたいに言う人が少なかった事だ。
気になったというより、街の人達と少し違う考えをしているんだな、と思った。
もしかすると、これがシュットラウルさんの言っていた、俺に頼りきりにならず自分達でなんとかしようとする心構え、みたいなものの結果なのだろうか?
だとしたら、最後まで俺が魔物を倒し切るようにしなくて、本当に良かったのかもしれないね。
頼られるのは嫌いじゃないけど、俺だってなんでもできるわけじゃないし、なんでもかんでもお願いされるようになるのは困るから……。
そんなこんなで、おおよそ怪我人の治療をしているとは思えない程、和やかな雰囲気で収容所にいる人達の治療が終わった。
エルサが騒ぎそうだったので昼食を頂きつつ、治療を終えた頃には、すっかり日が落ちて暗くなっている。
怪我そのものは大した事がなくても、数が多いから結構時間がかかってしまった……魔法は個別にかける必要があるからね。
もう少し、治癒魔法を使う人を減らそうかとも思ったけど……戦線復帰する事で、今も戦っている人達の援護になると考えたら、つい治療の手を緩められなかった。
不公平にもなるから、大勢の人がいる中で魔法をかける人とかけない人で差を付けるのが、いやだったのもあるかな。
まぁ、一部の陽気な兵士さん達の様子を見るに、不満を漏らすような人はいなさそうだけども。
……怪我が治った事で、遅くとも明日にはまた戦闘に参加しなきゃいけない……と、暗い表情をしていた人もいるにはいたけど、頑張って欲しい。
「おかしい、おかしいのだわ……」
治療を終えたテントから出て、全ての治療が終わった事を確認してから収容所を離れてすぐ、エルサがしきりに首を傾げているような動きをしつつ、ブツブツと呟いている。
見えないけど、なんとなくくっ付かれている頭から感じる動きで、首を傾げているってわかるんだけど。
「何がおかしいんだ、エルサ?」
「……さっきの場所、他の所よりもむしろ気配が薄く感じたのだわ。おかしいのだわ」
「それって、他の収容所とかと比べてって事だよね?」
「そうなのだわ。いやむしろだわ、街全体を覆っているような気配のどこよりも、薄く感じたのだわ」
「怪我人収容所どころか、街全体でかぁ……」
宿への道を歩きつつ、ブツブツと言っているエルサに聞いてみると、東側の収容所では気持ち悪い気配というのが薄く感じられていたらしい。
しかも、街全体と比べてって事は、かなり希薄な気配になっていたんだと思われる。
「もしかして、だから俺が治療する時、怪我人をジッと見ていたりしたの?」
「そうなのだわ。何か、あそこにいた人間に理由があるんじゃないかと、探っていたのだわ」
結構、エルサにじっくり観察されて、居心地悪そうにしていた人がいたからなぁ……俺が考えていた理由とは別の理由があったのには驚きだけど。
「それで、何かわかったの?」
「まったくわからなかったのだわ。他の怪我人がいた場所より、笑っている人間が多かったくらいなのだわ」
「……んー、もしかしてだけど……気配が薄い理由ってそれなんじゃないかな?」
「だわ? 笑っている、のが理由なのだわ?」
「ふと思っただけなんだけどね……」
不思議そうに俺へと聞いて来るエルサに、思った事を伝える。
これまで、気持ち悪い気配が濃い場所は酷い怪我人が多く、苦しんでいる人が多かった。
さっき東側で治療した人達のように、軽口を言ったり笑ったりするなんて絶対なかったくらいに。
エルサの感じている気配が、魔力ではないのでなく街全体を覆っていると考えて、もしかしたら 人の感情が関係しているのかな? と思ったわけだ。
ユノもよくない気配や雰囲気と言っていたし、収容所では確かにそういった暗くて重い雰囲気が漂っていたから。
そして東側だけは、戦闘状況や怪我が軽傷なのもあって、笑っている人や冗談を言う人など、総じて明るい雰囲気だった。
それこそ、魔物に囲まれる前のセンテですらあまり感じられなかったくらい、朗らかというか和やかというか……。
思い悩んで重い空気や雰囲気と言ったり、明るく笑って雰囲気や空気が軽くなる……という事だってあるわけで。
だったら、気持ちの悪い気配が薄まったり濃くなったり、という事があってもおかしくないんじゃないかな?
なんて、人の感情が街を覆ってユノやエルサに良くないと思わせるようなものになるか、なんてわからないんだけど。
「つまり、リクは人間の感情が街を覆っている、と考えているだわ?」
「一つの案というか、考え方ってだけだよ。魔力じゃなくて、目に見えない何か……と考えたらもしかして? ってね。ほら、寂れていたり問題を抱えていたりする村や街を、重苦しい雰囲気や空気が覆っている、なんて言ったりするでしょ?」
「それは……比喩的表現? なのだわ。けど、あながち外れてもいない気もするのだわ……」
人の感情が本当に街を覆う程になるのかはわからないけど、そういう事だってあると思う。
空気の悪い場所や、反対に凄く明るくて人々が生き生きしている場所に行くと、なんとなく気配というか雰囲気を感じられたりするからね。
それが多くの人には感じられず、エルサやユノくらいしかわからない程度に薄く、街を覆っているのかもしれないし。
まぁ、想像というかちょっと思いついただけの理屈なんだけども。
「まぁ、本当に人の感情が影響を与えているのかはわからないけど……今日行った東側の怪我人収容所では、気配が薄かったというのは間違いないみたいだね」
俺はエルサやユノ程はっきり感じられないけど、それでもなんとなく他の場所とは違う感覚があったような気がする。
気がするってだけで、すっごく曖昧だけども。
もう少し、俺にもわかるような感覚があればいいんだけどなぁ――。
0
あなたにおすすめの小説
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『山』から降りてきた男に、現代ダンジョンは温すぎる
暁刀魚
ファンタジー
社会勉強のため、幼い頃から暮らしていた山を降りて現代で生活を始めた男、草埜コウジ。
なんと現代ではダンジョンと呼ばれる場所が当たり前に存在し、多くの人々がそのダンジョンに潜っていた。
食い扶持を稼ぐため、山で鍛えた体を鈍らせないため、ダンジョンに潜ることを決意するコウジ。
そんな彼に、受付のお姉さんは言う。「この加護薬を飲めばダンジョンの中で死にかけても、脱出できるんですよ」
コウジは返す。「命の危険がない戦場は温すぎるから、その薬は飲まない」。
かくして、本来なら飲むはずだった加護薬を飲まずに探索者となったコウジ。
もとよりそんなもの必要ない実力でダンジョンを蹂躙する中、その高すぎる実力でバズりつつ、ダンジョンで起きていた問題に直面していく。
なお、加護薬を飲まずに直接モンスターを倒すと、加護薬を呑んでモンスターを倒すよりパワーアップできることが途中で判明した。
カクヨム様にも投稿しています。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる