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街を出てすぐの土壁へ

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 マックスさんの口ぶりだと、ユノじゃないので間違いないね。
 よく見知っているはずのユノを、謎の少女みたいに間違えるわけがないし。
 でも、ユノより小さくて見間違えないって事は……俺やエルサが考えている女の子とは違うのか?
 いやまだわからないな……。

「なんだ、リクは小さい女の子に興味があるのか? そういえば、ユノとも一緒にいる事が多いし……確か、同じベッドで寝ている事もあるんだったか……」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい! ユノは妹みたいなものですから!」

 ニヤリと笑って、誰かに聞かれたら確実に誤解されそうな事を言うマックスさん。
 俺には小さな女の子に対して、おかしな感情を抱くような趣味はないから……そりゃ、微笑ましかったり可愛いと思う事はあるけど。
 慌てて、マックスさん対して否定する。
 まったく……周りには兵士さん達も大勢いるんだから、変な噂になったらどうするんだと……。

「ふむ、それだとモニカに対してあぁいう接し方なのも、納得いくと思ったんだがな……」
「モニカさん? いえ、モニカさんだけ特別な接し方をしているつもりはないんですけど?」
「いや、そういう事ではなくてな……。む、だがつもりはないという事はつまり、そうしないと特別になってしまうという事か?……リクの事だからな、そちらの方面で含みを持たせるような事は言わないか」
「え?」
「……なんでもない」

 何やら考え込むマックスさん。
 モニカさんへの接し方と、小さな女の子への興味とかって関係あるのかな?
 と思ったけど、一人でブツブツと呟いているマックスさんは答えてくれない。
 首を傾げてキョトンとしてしまった俺には、溜め息を吐くように首を振るだけだ……何か誤魔化されたような?

「はぁ……だわ。モグモグ……」

 兵士達に混じって、エルサの溜め息も聞こえた気がするけど……気のせいか。
 結構距離があるし、兵士さん達の話し声に紛れて、エルサのため息が聞こえるわけないよね、よっぽど大きく溜め息を吐かない限り。

「ともあれ、リクはあの少女を見に来たわけか」
「ま、まぁそうです。怪我人の治療をしていた時に話を聞いて、どういう女の子なのかなって……」

 さすがに、マックスさんに俺やエルサが女の子に対して、もしかしてと考えている事を伝えてもわからないだろう。
 魔物を圧倒し、酷い怪我をする人を減らしてくれている女の子への、単純な興味という事にしておこう。
 小さな女の子という情報をもとに、興味を持ってわざわざ来たから、マックスさんは変な誤解を舌のかもしれないけど。

「そうか……まぁ、リクなら様子を見てもらうよう頼まれても、おかしくないな」
「えーっと、そんな感じです」

 マックスさんは、俺が内緒でシュットラウルさんとかそれに連なる誰かに、様子見を頼まれたと考えたようだ。
 とりあえず、その路線で行こう。

「街の者なら、危険だから通すわけにはいかないが、リクなら問題ないか。確か今は、礼の土壁拠点にその少女はいるはずだ。さすがに今も戦っているのか、休んでいるのかはわからないがな」
「ありがとうございます。土壁の拠点ですね、行ってみます」

 つまり女の子は、最前線にいるって事か。
 押し返して俺が作った土壁の辺りを取り戻したから、再びそこを拠点化したらしい。
 門からは外に出るなり外壁に上らないと見えないけど、近いから行ってみる事にする。

「エルサ、そろそろ出発するよー!」
「ま、待つのだわ。もうすぐ食べ終わるのだわ……モグモグモグモグ!」
「焦ってのどに詰まらせるんじゃないぞー!」
「だいじょ……ごふ! ごはっ! ぐふっ! だ、だわ……」
「あーあー……」

 エルサに声を掛けると、慌てて料理を食べ進める。
 注意したんだけど遅かったらしく、勢いよく咳き込んだエルサ……喉に詰まらせたわけじゃないけど、流し込もうとした何かが気管にでも入ったのかもしれない。
 ……ドラゴンに気管があるのか知らないけど……呼吸はしているから、ないわけないか。

「あ、そうだリク。土壁拠点には魔法部隊を指揮するために、マリーがいるぞ」
「え!? そ、そうですか……そりゃそうですよね。ここにいないから安心していましたけど……」
「なぁに、数日経っているから、説教はそこまで長引かないだろうさ。突撃した侯爵様を連れ戻しもしたからな」
「それでも、説教はあるんですね……はぁ、おとなしく叱られてきます」
「モニカにするような説教にはならないと思うが……ま、頑張れ」
「はい……」

 咳き込んだエルサの後処理をして、たらふく食べて満足そうなエルサを頭にくっ付け、いざ出発。
 ……と思った瞬間、後ろからマックスさんにマリーさんの居場所がもたらされる。
 ほとぼりが冷めるまで、と思わなくはなかったけど……この際仕方ないか。
 観念してマリーさんからの説教を受ける覚悟を決め、マックスさんの応援に手を振りながら東門の外へと向かった――。


「……だからねリク? リクの凄さは、私もわかっているつもり。おかげで助かった事は何度だってある。でも、周囲に……特に味方を巻き込むのはちゃんと気を付けないと。幸い今回は……けどあれは……」
「はい、はい……」

 マリーさんの説教に、ただひたすら頷いておとなしく聞く体勢を取る。
 東門を出た後、拠点化している土壁に到着。
 俺が戻ってきた時とは違い、ただ防衛するための場所ではなく攻勢に出るための拠点化もしようとしているのか、様々な物資が運び込まれている。
 テントだけでなく、簡易的な建物すら築かれているのは、ここを起点にして魔物を討伐していこうと考えているからだろう。

 土壁を挟んで、多少減った気がするような魔物達に向かって、魔法を放ったり、拠点化のための物資が運び込まれて兵士さんや冒険者さん達が忙しなく動き回る中、俺はマリーさんに捉まって説教されていた。
 目的の女の子は今魔物へと突撃中らしく、援護の兵士さん達も含めてここにはいないらしい。
 ちなみに、マリーさんの説教が始まって体感で一時間程度は経っている……こういう時間は長く感じる物だから、実際にはもっと短いのかもしれないけど……。
 とりあえず、日が経って説教も短くなるって言っていたマックスさんの嘘付き……いや、モニカさんに説教をする時程の圧倒するような迫力はないし、これでも短いのかもしれないけどさ。

「はぁ……ようやく解放された……」
「リクのせいで私も怒られたのだわ。反省するのだわ」
「……気を付けるよ」

 少し後、ようやくマリーさんの説教から解放され、溜め息を吐く。
 エルサは、俺の頭にくっ付いたままだったんだけど……巻き込まれてエルサにもマリーさんから注意されてもいたからね。
 俺がやり過ぎないようにちゃんと制御しておくべきだとか、まるでエルサが俺の管理をしているような口ぶりだったけど。
 とはいえ、俺の魔法が原因で味方のはずの兵士さん達に、大きくはなくても怪我をさせてしまったりもしたので、反省はしないといけないね。
 注意していれば、確かに避けられていた事だろうから――。


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