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剣の仕組みはよくわからないけど便利

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「あくまで、魔法だったからじゃないかな? と思っています。魔力で作られた物なら、魔力を全て吸収する事で消せるんじゃないかと」
「そ、そんな事が……」

 リクの話に、ヤンが愕然とした声を発する……魔法鎧に覆われているから、表情はわからないがおそらく、目を見開き開いた口が塞がらないといったところだろう。
 俺も同じだからよくわかる。

「いや待てヤン、以前聞いた事がある。発動した魔法も、その場の自然の魔力も含めて全て失くしてしまえば、魔法その物が消えるのだと。現象として発生させ、魔法としての存在も両立させているのが、自然の魔力でもあるとな」
「そっちは、元ギルドマスターさんですね……あ、腕に怪我を! 他にも……!」
「ん、あぁこれくらいなんともないさ。多少痛みがあるだけで、まだ戦える。……左腕はほとんど動かせないがな」

 元ギルドマスターは、長年ヘルサルの冒険者ギルドをまとめていた人物だ。
 まだギルドマスターになって日が浅いヤンとは違い、そういった知識や情報に触れる機会もあったのだろう。
 顔が見えない俺達を、声などで判別するリクが元ギルドマスターの怪我に気付いたようで、驚いている。
 元ギルドマスターは、無理をして平気な振りをするが……魔法鎧はいたる所が凹み、剥がれ、壊れており、もう強固な鎧としての効果を発揮しないだろう事は、俺でもわかる。

 おそらく、強化されている魔法も発動していないだろう。
 今はただ全身を覆う鉄の塊だな。

「フシュー!」
「とにかく治療を……! って……危ないなぁ。すみません、先にヒュドラーの方を片付けてきますね」
「あ、あぁ……本当に酸すら消せるんだな。しかし、簡単そうに言うが大丈夫なのか? 北のヒュドラーには手間取っていたようだが……」

 ヒュドラーがリクに向かって吐き出した酸を、無造作に振った剣で消失させる。
 この目で見たのだから信じないといけないのだが、それでも本当に酸そのものが消えてなくなる光景は、信じがたかった。
 ヤンや元ギルドマスターも同じ感想なんだろう、俺と同じく固まっている。

 それはともかく、リクは難しい事でもないかのようにヒュドラーを片付けると言っているが……ここに来るのにも予想以上に遅くなっていたし、一人で大丈夫なのか気になる。
 ……リクがやると言っているのだから、できるかどうかの心配はしていないがな。

「大丈夫です。確かに想像していたよりも手間取りましたけど、こちらのヒュドラーの首の数は少ないようですし。それにここに来るのが遅くなったのは、レムレースが出たからで……とにかく、この剣があれば問題ないですから。すぐ終わりますよ。それじゃ!」
「あ、おい!」

 俺に左手を挙げて、ヒュドラーへと振り返り向かっていくリク。
 伸ばした俺の手はむなしく空を切った。

「……あの剣がよくわからないがすごい物だ、というのはわかるが……どうするのだ?」
「確かに、魔法その物を消失させる剣など、聞いた事がありません。魔力を吸収するとは言っていましたが、それだけでは説明が付かない代物のように思えます」

 リクが大丈夫だと言い、そして一人で行った以上、俺達にやれる事はなくただ見守るしかできない。
 ヤンと話しながら、ガルグイユやヒュドラーから向けられる魔法を避け、あるいは消しながら近付くリクを見守るしかないな。

「……なぁ、二人共。リク様の話の中で、レムレースと言っていたと思うんだが……?」
「それは……聞かなかった事にしたかったんだがなぁ」
「はぁ、ヒュドラーに続いてレムレースですか。話しぶりからもう倒したのでしょう。事実、北の空にはさっき見えた黒い霧は見えません。後の処理が大変そうですが……ともあれリクさんがいらっしゃるおかげで、私達や兵士達、街の者達が生き残れる可能性がかなり高い、と思っておく事にします」

 スルーしていた内容に突っ込む、元ギルドマスター。
 ヒュドラー三体だけでもおかしいと言わざるを得ないのに、このうえレムレースの事なんぞ話したくはないからな。
 確かにヤンの言う通りリクの口ぶりからは、討伐した後のような雰囲気が感じられた……まさか、討伐不可の魔物を追い払ったわけではないだろうし……いや、それを討伐する事そのものが偉業なのだが。
 ともあれ、北の空は既に晴れているし本当にレムレースの脅威は去ったのだろうと、今は自分を納得させておくしかないな。

 まったく……リクがいなかったら、避難民のための足止めすらろくにできず、兵士達も含めてあっさり全滅もあり得ただろうな。
 いや……リク「達」か。
 リクがいてくれたからこそ、フィリーナやカイツがいて魔法鎧の調整や武器の調整をしてくれた。
 エルサが遠距離からの攻撃威力増加をしてくれた……ミスリルの矢はリクが作った物だが。

 そして、モニカ達も頑張っているんだろう。
 リクの様子から、モニカやマリー達が無事なのもわかった。
 特殊な装備を使ってヒュドラーの足止めは大変だったが、強力な魔物ひしめく集団と戦うのもまた、大変という言葉では済まされない事だ。
 モニカも、成長しているんだな……もはや、元Bランクの俺すら越えているのかもしれん。

 マリーからすれば、まだまだ未熟だとか言いそうだが。
 そんな事を考えながら、リクが何もないはずの中空に立ってヒュドラーの体に剣を突き刺し、六つある首がもがき苦しみ始めたのを、ヤンや元ギルドマスターと眺めていた。
 あれだけ苦しめられたヒュドラーが、剣の一刺しでもがいて苦しむ姿は、なんだか現実感のない光景だな……なんて感想を抱きながら――。


―――――――――――――――


「GIGEGEGE!!」
「HYAHAHA!!」
「邪魔! くっ、結界!」

 行く手を塞ぐ、呼び名も知らない始めて見た人の上半身が生えている気持ち悪い巨大な蜘蛛や、ゆらゆらと浮かんでいるぼろきれを纏った骨……というか骸骨を、輝く剣の魔力吸収モードで斬り伏せて蹴散らす。
 遠くから、俺に向かっていくつかの魔法が飛来するのを、結界で防いだ。
 斬った魔物は、日本でやったゲームで蜘蛛はアラクネ、骨はワイトキングなんて呼ばれていた気がするけど……よくわからない。
 ともかく、マックスさん達がいる中央へ向けて、魔物を蹴散らしつつ進行中。

「……あれ、魔法が?」

 突き進む中で結界を張るのが面倒になって、とんでもない速度で飛来する魔力で作られた氷を剣で打ち払う。
 すると、割れて周囲に氷が散らばる様子を想像していた俺の前で、剣に触れた瞬間氷その物が消失していった。
 どういう事だろう?

「よし、試しに……」

 感電してしまう危険性はあるけど、試しに同じく飛来する雷……というか、電撃に向かって剣を振るう。
 本当なら結界で防ぐか避けないといけないはずの、触れてはいけない魔法だけど……。

「やっぱり! 魔力吸収モードだからかな?」

 電撃は氷の魔法と同じく、剣に触れた瞬間に消失。
 俺自身に一切しびれなどなく、感電していないのを確認。
 皮製の物など、通電性の低い物で触れたのならともかく、光を放っていても金属でできている剣が電撃を通さないはずはない。
 本当に、剣身に触れた魔法は魔力を失くして消えてしまうようだね――。


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