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少しだけ通るダメージ

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「とにかく、剣で斬っても完全に無駄ってわけじゃないはず……」

 それに、再生した際に俺から距離を取っているのも、ほんの少しであったとしてもダメージを与えている証拠だろう。
 自分の放つ魔法に巻き込まれないため、と考えられるけど……再生直後に放った魔法は、目の前で俺が当たってしまったとしても、巻き込まれるような規模の魔法じゃなかった。
 火の矢は俺の後ろに残っていた木を数本弾けさせ、打ち払った氷の矢は残っていた木の根元を凍らせ、叩き落した土の矢は地面に深い穴を開けていたけども。

「全くダメージを与えられない、意味がないってわけじゃないなら、色々試してみたくなってくるよね……はぁっ! ふっ!」

 数秒程度ではあるけど、俺が考えている間にも次の一手を放つレムレース。
 レムレースから打ち上げられ、山なりながら俺に降り注ぐ氷の矢をまとめて弾き、その隙を狙って足下から迫る炎を纏った岩を、ジャンプして避ける。

「うぉ……っと! 危ない危ない」
「KIKI……」

 避けきった、と安心したところをうなりを上げて迫る風の魔法……見えないけど、感覚的にはおそらく風を固めた槌のような物だろう。
 横薙ぎに振られるそれを、後ろに飛んで避けた。
 レムレースからは悔しそうな雰囲気を漂わせながら音を発する。
 結構、ギリギリで避けられたんだけど……風の槌か、厄介だなぁ。

 風の魔法はちょっと特殊で、基本的に見えないうえに空気を圧縮して効果を表すのもあってか、鋭い切れ味の魔法が使われる事が多い。
 フィリーナのカッターとかね。
 でも槌、要はハンマーのように斬る事よりもぶつけて潰すようなのは、それなりに大きくする必要もあるため、魔力やらなにやらが面倒なんだ……フィリーナから聞いた事だけど。

 でもレムレースがそれを簡単にしてきたって事は、それだけ魔力の操作は容易で、魔力量もあるって事。
 複数の魔法を連続で使用するだけでも厄介なのに、フィリーナ達エルフですら使おうとしない難しい魔法を、軽々と使って見せるのは相手をする俺にとってはかなりしんどいなぁ。
 でも……。

「色々試してみたいから、まだ逃げる選択肢は後にしておこう……かな!」
「KIKI!」

 考えを止めて、レムレースに向かって駆ける。
 迎撃ののつもりなのか、無数の火、水、風、土、さらに氷などバリエーション豊かな魔法の球を、無数に放たれた。
 それを、避け、打ち払い、叩き落とし、切り捨て、場合によってはわざと当たりつつ、レムレースに肉薄する!

「つぅ……やっぱり、痛いものは痛いし、熱いものは熱いし、冷たいものは冷たい! でも……っ!!」
「KI……!」

 火の玉は痛くて熱いし、水や氷の球は痛くて冷たい。
 土や風は特に痛いし、当たった箇所の服がそれぞれ燃えたり斬られたり破れたりしているけど、対処できないものは仕方ないと割り切って、構わずレムレースに突貫!
 レムレース自信は、素早く動くタイプではないので避けられる心配はなく、大きく振りかぶった剣に魔力を通して振り下ろす!

「一度じゃ、終わらない……よ!」

 唐竹割で振り下ろした剣を、さらに逆袈裟で斬り上げ、体を回転させて同じく魔力を通した鞘で、分かたれた顔の目の片方を薙ぎ払う。
 さらに、その勢いのまま、縦に分割された体の方の目を剣で横一閃!

「一撃じゃだめなら、連撃で……どうだ!」

 分かたれ、空中に漂うラムレース。
 残っている部位へとさらに追撃を加えるべく、鞘と剣を左袈裟斬りで振り下ろす。

「まだま……っ!!」

 細切れにでもして……と、分断されていくレムレースに、さらなる攻撃を加えようと思った瞬間、再び巻き上がる竜巻。
 体が吹き飛ばされそうになるのを、踏ん張って耐えたせいで、攻撃が止まってしまった。
 また土や砂を巻き上げているから、レムレースも見えないし……。

「ふぅ……これで再生するなら、いったん仕切り直しかな」

 俺自身、一体の敵に対してここまで連撃をする事は、これまでになかったからと、竜巻を纏うレムレースを油断なく見て構え直しつつ、息を吐く。
 切り刻んでも駄目なら、次の手を考えないといけないってのもあるし、竜巻に触れた切り株などが切り刻まれているから、不用意に近付かない方がいいという判断でもある。
 あれは、ただ風で巻き上げた土とかでの目隠しではなくて、近付かせないための防御的な役割もあるのか……。
 手を突っ込んだらかなり痛そうだし、木よりよっぽどや若い通常の人なら、簡単に斬り裂かれるだろうね。

「闇雲に斬るのがダメなら、面積を広く……って、ん?」
「KIKIKI……」

 竜巻が止んだ後には、再びレムレースが再生してこれまでと変わらず……と思っていたけど、少しだけ違う様子に気付いた。
 顔と体にある二つのギョロリとした目、それが不規則に動きながらも俺を睨んでいるように感じるのはともかく、複数あった腕と足を模した物。
 それらの数が減っていた。

「心なしか、縮んでいるような……?」

 誤差の範囲だとは思うけど、なんとなくレムレースが全体的に縮んで小さくなっているように見える。
 腕は数を減らして四本、足は三本……いや、伸ばそうとしているのか再生できなかったのか、体からそれぞれ短いのが一本ずつ残っているけど。
 とにかく、さっきまでと同じように再生できていないって事は、魔力を通した剣での連撃は無駄じゃなかったって事だね。
 とはいえ、嗤うような音を発して余裕を持っていた先程までと違い、今は油断なく俺と対峙している雰囲気を感じる……。

 なんども同じ手で近付くのは、厳しいかもしれない……かなり痛かったし、痛かったし、冷たかったし、俺もあまりやりたくないけど。
 血が出るような怪我はしていないけど、場所によっては打ち身くらいにはなっている部分もあるかもしれないし。
 さっきよりも強力な迎撃だったら、勢いを殺されるだけでなく、俺自身も弾かれそうでもある。

「だったら今度は……!」

 次にやろうとしていた手を頭から追い出し、別の方法を取るだけだ。
 改めて別の手段で戦う方を選び、剣に魔力を流す。
 レムレースは、近付かずに構えるだけの俺に対して警戒しているのか、動きはない。
 とはいっても、さっきみたいに落とし穴を仕込んでいる可能性もあるからね、油断はできない。

「KIKI……!!」

 数秒程の睨み合い……レムレースは常に目が動いているので、ずっと見つめ合っているわけではないし、見ていて気分のいい物じゃないけど、それはともかく。
 嗤うような音を発しつつ、レムレースが複数の腕のような部分を動かし、全てをこちらへと向けた。
 次の瞬間、レムレースの前に無数の拳サイズの炎、氷、土の塊が出現……見えないけど、所々に隙間があるようだから、風も混ざっているんだろう。

「来たっ!」

 俺が寄ってきた時に備えて、押し返すために準備していたんだろう。
 目に見えない風の塊、少しだけ歪んで見える部分も含めると、ほぼ隙間のない無数の塊。
 やっぱり、今は近付かない方に切り替えて正解だったけど、とにかくそれらを一気に俺に向かって射出した……!

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