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レムレースがヒュドラーと共にいた理由

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「……魔力を飛ばす剣魔空斬ね……まぁ、とんでもない事をしていたっていうのはともかく、確かにレムレースは魔力を纏わせた武器でなら、傷付ける事ができるわ」

 俺の話を聞いて、腕を組みながら話すロジーナ。
 見た目がユノ以上に幼い事と、相変わらずレッタさんの膝に座って頭を撫でられているので、迫力とか威厳とは無縁だ。
 指摘すると多分怒って話をしてくれなくなりそうだから、口には出さないけど。

「じゃあ、次善の一手でもって考えは合っているんだね」
「そうね。ただそれで倒せるかどうかは別だけど。リクも体験した通り、レムレースは魔力を吸収するわ。レッタは、知っていたわよね?」
「はい、もちろんです。元々、レムレースの魔法攻撃よりも、魔力吸収をさせるのを期待してヒュドラーと組ませたのですから」

 レッタさんによると、ヒュドラー戦の時にいたレムレースは広範囲な魔法での攻撃よりも、魔力吸収っせるのが目的だったのだとか。
 俺がいるから、ヒュドラーは押し留められる事はある程度わかっていて、さらに兵士や冒険者などでレムレースが消耗すると予想していたらしい。
 そして、消耗したレムレースが魔力吸収をする事で俺の魔力を減らす、さらには多くの兵士や冒険さん達をも無力化する……という計画だったと。

「そんな事を考えていたんだ……」
「あの状況で、リクさんがヒュドラーとレムレースをあっさり倒してくれたけど……もしレッタさんの計画通りに進んでいたら、こちらは壊滅していてもおかしくなかったわね……」

 モニカさんの言う通り、俺がヒュドラーとの戦いを長引かせて、魔法を撃ちまくっていたレムレースが魔力吸収に切り替えたら……。
 白い剣がなければ、ヒュドラーやレムレースをあんなに簡単に倒せなかっただろうし、結果は俺達の敗北だっただろう。

「だから、私はもっとリクが力を使って殲滅するだろう、と考えていたのよ。そうはならなかったけどね……」

 自嘲気味にそういうレッタさん。
 相変わらずロジーナの頭を撫でているので、暗い影のようなのは感じられないけど……ある意味、ロジーナはレッタさんの精神安定剤的な役割をしているのかもしれない。

「それってもしかして、俺が加減をしているからとかなんとかって言う?」
「そうよ。計画としては、ヒュドラーとレムレースに攻め立てられた人間たち、それを見たリクが全力で薙ぎ払う。それで破壊の力に目覚めるってシナリオだったのよ」
「成る程……」

 ヒュドラーとレムレースという、Sランクの魔物であり、片方は討伐不可とされる魔物。
 そんな一つの街にぶつけるには強力過ぎる魔物を複数も使ったのは、そう計画していたからか。
 ロジーナを取り戻そうとして、というのもあったんだろうけど……なんにせよ、あの時ヒュドラーに対抗する手段がもっと少なかった場合。
 もしくはレムレースが魔法で多くの被害を出していた、そして魔力吸収をしていたなら。

 俺は、ヘルサル防衛戦の時のように、なりふり構わず強大な魔法を使っていた可能性が高い。
 というか、実際に意識を取り戻した後、本当に魔法というか赤い光とか緑の光なんていう、とんでもない力を使ったからね。
 前もって隔離結界を張ったのは最後の俺の意識だったけど、そうする余裕もなく全力で魔法を使っていたらどうなっていたか。
 それにそのタイミングで意識を乗っ取られでもしたら……モニカさん達が決死の救助をする事もできず、俺はそのままとんでもない事をしていただろうね。

「で、その魔力吸収だけど……回数を重ねると劣化するのよ」
「劣化? それはつまり、魔力の吸収が少なくなっていくって事?」

 そんな感じは、森で戦ったレムレースからは感じなかったけどなぁ。
 むしろ、音も大きくなってどんどん魔力を吸収する力が強くなって行っていた感じがする。

「そうじゃなくて。レムレースは純粋な魔物による魔力の塊として発生するのよ。それを、周囲から魔力を吸収する事によってどうなると思う? 周辺には、魔物だけじゃなくて人もいれば植物もある状況。生き物だけじゃなく、植物とかにも魔力があるのは知っているわよね? まぁ、厳密に言うと植物だけでなく鉱物とか、それこそそこらの土やこの建物なんかも多少なりとも魔力があるんだけど」
「……魔物の魔力以外からも吸収する事で、純粋な魔力の塊じゃなくなる……って事かしら?」

 ロジーナの話に対し、一番最初に反応したのはフィリーナ。
 さすが、魔力の扱いに長けているエルフだ。
 おそらく、ロジーナが言っている土や建物とかにも魔力がある、というのはエルフにとって知ってしかるべき事だったんだろう。

 そういえば、今は使えないけど探知魔法でも建物の構造とか地面とか、なんとなくわかっていた。
 それはつまり、魔力が含まれているために反応したからなんだろうね。

「その通りよ。純粋な魔力に余計な魔力が混ざる。レムレースとしては、そういった周囲から無理矢理魔力を吸収する事で、混ざりものが増えて劣化していくのよ。そうして最後にはレムレースとしての形すら保てなくなって、自壊するってわけ」
「レムレースも、完全な存在じゃないって事か」
「そんな存在、この世にはいないわ。神も含めてね。まぁだからこそ、リクに倒されるんだけど。弱点としては、同じ魔力吸収。これも、リクがやった事よね」
「まぁ、確かに」

 魔力でできているのだから、魔力が補充されれば復活や再生が容易な代わりに、その魔力がなくなれば消滅する。
 強みであり弱みであって、図らずも白い剣で俺がやっていた事は、レムレースの弱点をそのままついていたってわけか。
 魔力吸収をされれば、不死身とも言える永久機関ってわけでもなかったみたいだ。

「劣化する、弱点がある、おおよそ人には成し遂げられない事だとしても、不滅ではない以上完全ではないわ」
「だからこそ、ヒュドラーだけでなく魔物達も大量に投入したのよ。あれは、レムレースのための餌ね。機能はしなかったけど」

 ロジーナの言葉を継いで、レッタさんが話す。
 強力な魔物が多く、しかも数もいたためそれだけでも十分過ぎる程センテ側にとっては脅威だったけど……あの魔物達がいた目的は、レッタさんとしては別にあったのか。

「レムレースが純粋な魔物の魔力以外では劣化するのなら、魔物から吸収させればいい、ってわけかぁ」
「えぇそうよ。もちろん、街や人に対して攻撃している以上、そちらからも魔力を吸収してしまう。無差別だから。でも、近くに他の魔物が、それも大量の魔力を持つ強力な魔物がいれば、劣化しないわけではないけど、遅める事はできるでしょう? その分、人から吸収する魔力が減っても、長期戦になれば成程、有利になるわけだし」
「そんな事を考えていたなんて……」

 口に手を当てて、深刻な表情になるモニカさん。
 確かに、周囲に魔物が多ければ人からの魔力吸収が減るとしても、なくなるわけじゃない。
 しかもレッタさんが餌と言った魔物も、ヒュドラーもレムレースも、人に対して攻撃を加え続けているんだから、時間が経つごとに不利になるのはこちら側。
 まぁ、ヒュドラーもしくはレムレースが一体いる時点で、本来なら過剰戦力なんだけど……それだけ追い詰めて俺を攻め立てたかったって事か――。


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