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お金が増えていく可能性

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「あ、そうだ。手続きとかが必要かもしれませんけど。共同口座とか作って、これから先冒険者ギルドから俺に支払われる報酬の……そうですね、一割をそこに自動的に入れるというのはどうでしょう? そうすれば、いちいち俺に伺いを立てる必要はなくなりますよね? 共同と言っても、ほとんど俺がお金を入れて、エレノールさんが開発資金として引き出すだけのものですけど」
「そういった事は、これまで行われていませんでしたが……できなくはありませんね。ですが、一割はさすがに多すぎます、リク様!」
「え、そうですか?」

 なんだかんだと、冒険者ギルドから報酬を支払われる事を色々とやっているけど、依頼を受けてというのは実はあまり多くない。
 機会としてはあまり多くないから、むしろ一割で足りるかという心配もしていたんだけど……?

「リク様が行われる事は、前例にないすさまじい事ばかり。当然、それに支払われる報酬も莫大なものになるでしょう。これまでの記録を見ていますが、その一割というのは多すぎて私ではとても扱いきれません。それこそ、数十人……いえ、百人雇って新しい事業を行うくらいの予算になってしまいます」
「いや、さすがにそこまでは……と言い切れない、ですかね? エレノールさんの反応を見る限り」

 支部とはいえ、冒険者ギルドの副ギルドマスターをして莫大と言ってしまう程、多くの報酬を受けられる事ってこれまでやってきたっけ?
 センテの事はあるけど……あ、いやそういえば、ルジナウムの時に倒した魔物の素材買取などの報酬とかもあったか。
 最近では、森の魔物を討伐して兵士さんに回収してもらったり。

 モニカさん達と協力して倒し魔物に関しては当然分配しているけど、俺が単独で倒した魔物がかなり多く、レムレースの事もあるから跳ね上がっているんだった。
 それこそ、数人が遊んで暮らせるくらいの報酬に……。

「あ、でも、一応通常の依頼とかもこなしたりした事はありますし、全てが全て莫大な報酬になるとは……」
「確かに、冒険者になった当初は誰でもこなせるような依頼をやっている記録もあります。ですが、キマイラの単独討伐も行っております。その報酬だけで考えても、一割というのは多すぎるのです」
「いやまぁ、あれは一応パーティで受けた依頼なので、分配しましたし実際に倒したのは俺一人ではないんですけどね……」

 勝手に依頼を受けて、モニカさん達には叱られちゃったけどそれはともかく、キマイラを倒したのは俺だけなくユノも一緒だった。
 コルネリウスさんが突っ込んで、フィネさん達が助けてというイレギュラーはあったけど。

「そういう事を言っているのではありません。リク様が成し遂げられるのは依頼に限っても、少なくともAランクの依頼の報酬と考えられます。それだけでも多すぎるという事なのです。Aランクの依頼をこなせる冒険者は少なく、報酬も多いものばかり。それだけ、達成難易度も高いという事ではありますが、リク様であれば問題なくこなせるでしょう。さらに、その際に倒す魔物の討伐報酬や素材買取報酬なども考えると……はぁ……」
「だ、大丈夫ですか、エレノールさん?」
「は、はい……すぅ、ふぅ……失礼しました」

 ふらふらとしたエレノールさんの背中を支えようとして、自分で持ちこたえたのでひっこめる。
 熱くなりすぎて、軽くめまいがしてしまったらしい。
 声をかけると、深呼吸しながら持ち直したので大丈夫そうだ。

「ま、まぁ、この試作品を大量生産し、安価な一般にも親しまれる物の開発、それも大量生産して販売が開始すれば、その程度のお金と言えるほどの物がリク様に入るとは思いますが……」
「え、そんなにですか?」
「試算では、後々には一大事業になると踏んでいます。もちろんそのためには、しっかりとした物を作り、広める必要はありますが、人々は癒しを求めています。必ず多くの人に親しまれるかと。そして、出資者であるリク様にはもちろん、それに見合うリターンが支払われるよう取り計らいます」

 癒しが必要って……確かに、娯楽とかも少ないこの世界、というかこの国で極上のモフモフが簡単に手に入るようなら、多くの人が求めるだろうけど。
 モフモフが人々に受け入れられ、求められるだろうというのは疑いようがないし……マックスさんや姉さん辺りに言うと、それは俺の贔屓目過ぎると言われるかも、という想像が浮かんだのは頭から追い出しておく。
 ともかく、エレノールさんが言う程の事が実際にあれば、莫大な利益が舞い込むというわけだろう。
 ……お金の使い道を見つけようとしただけなのに、お金がお金を生むというのはこういう事なのかもしれない?

「えーっと、俺の利益に関しては考えなくても。というか、なしにしてもいいんですけど……」
「それはできません! それでは出資ではなく単なる搾取です! お金を出してもらうという事は、その出した本人にも最低限であれ利益を渡さねば成り立たない事です。これからの事を考えると、そこを曲げるのはできません」

 まぁ、投資をする以上、そのリターンはあってしかるべきか……もっとよく考えるべきだった。
 ただお金を出して、全て任せてそれで終わりなんて前例を作ったら、俺以外にも似たような出資をしている人に迷惑が掛かるからなぁ。

「必ずしも莫大な利益が生まれて儲けられるとは限りませんから、損をする事だってあるのは当然ですが……ただでさえ、リク様という名だけで力を持ったような物ですのに」

 要は、掛け捨てのような事は許されないって言いたいんだろう。
 リターンがあるからこそ投資が成り立つわけで、そこまで深く考えていなかった俺が悪いんだけど、とにかくリスクだけを背負おうとするのは悪手だって事だ。

「わ、わかりました。リターン……販売開始した後の利益に関してはまたという事で。今は最低限でとだけ言っておきます。えーと、それじゃ共同口座の方には、とりあえずある程度定期的に俺がお金を入れる。もしそれ以上が必要になった時には、エレノールさんが俺に報せてそれを受けてお金を入れるって事で。まぁ、今とほとんど変わりませんけど」
「はい、畏まりました。利益還元に関しましては、別途……まだ開発段階ですし、販売開始までには色々と手続きを。できるだけ、リク様のお手を煩わせないようには致します。また、共同口座でしたか? そこからのお金に関しては、全て記録として残しておきます。これまでのも、全て記録してありいつでも見られるよう、ですが厳重に管理しておりますので」
「は、はい……とりあえずそれで……」

 とりあえず、俺に不利な契約とかにはしたくなさそうなエレノールさんに、頷いておく。
 おかしいな、お金を使うための相談だったはずなんだけど、お金を得る方向で進んでいる……これは、また別の使い道を考えないといけないかもしれない。
 ちなみに、お金を任せる事に関してエレノールさんは信頼に足る人物だと思っている。
 ちゃんと記録して残すと約束してくれているし、冒険者ギルドの副ギルドマスターになっている人だ、せこい事はしないだろう――。

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