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破壊工作と魔物の集団

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「そういえば、マティルデさんがらしいって言ったのは?」
「巻き込まれなかったし、実際に見ていないからよ。破壊されたのは夜で、冒険者ギルドの建物内には私はいなかったから」
「不幸中の幸いと言うのかしら、どの建物破壊も夜に行われていて、人が少なかったわ。だから、巻き込まれた人は少ないの……いないとは言えないのだけどね」

 沈痛な表情になる姉さん達。
 周囲の建物もっていうんだから、そりゃ巻き込まれる人もいるのか……。
 爆発した人間というのがどうなったのかは、簡単に想像できる……想像したくはないけど。
 けど、爆破や建物の崩落などに巻き込まれた人は……くっそ!

「そして最悪な事に、同じ事はこの王都だけじゃないわ。王国の東側はほとんどないけど、西と南……とくに南西方面の街や村での被害多いわね」
「ヴェンツェルさんが、破壊工作を受けていると連絡を受けた……て言っていたけど、もしかして?」
「えぇ。さすがに、遠くにいるヴェンツェルに人間が爆発した、なんてはっきり書くのは憚られたし、一連の流れを考えると妨害される可能性もあったから、そう伝えるしかなかったんだけど」

 破壊工作とはつまり、人間を使った爆破によるものだったって事か。

「今、国内の冒険者ギルドと連絡を取って、冒険者や民間人の安否確認に奔走しているわ。私がここにいる理由の一つでもあるけど、この王城が今連絡の拠点になっているわ」
「緊急措置だけれど、兵士と冒険者を配置して守りつつ、出張所というか臨時の冒険者ギルドを王城の敷地内に設置もしてもいるのよ」
「だから、マティルデさんが王城内にいたんだね……成る程」
「王都全体でもあるけど、冒険者達も混乱しているから必要なのよ。破壊されたのが夜だったのもあって、いつでも動けるように王城に詰めているわ。いつでも動けるようにね」

 建物そのものがなくなったんだから、そりゃ混乱を鎮めるためにも緊急の駆け込み寺というか、簡易的であってもそういうのは必要だろうね。
 マティルデさんが王城にいる理由はよくわかった。
 というかそうか、王都に戻って来た時エルサから見下ろして違和感を感じたのは、大きな建物が破壊されたからだったんだろうね。
 建て替えとかではなく、単純に爆破されて吹き飛んだと……思わず、手に力が入るのを感じながら、俺の後悔に近い内容を吐露する。

「マティルデさんの事や、建物が破壊されたのはわかったけど……人間がっていうの、俺知っていたかもしれない……」
「え!?」

 俺の言葉に、姉さんが驚きの声を上げる。
 マティルデさんも、それからモニカさん達も声こそ出さなかったけど、姉さんと似たり寄ったりってところかな。
 まぁそりゃそうだよね、大変な事になっているのに知っているなんていまさら言われたら。

「チラッと、そういう話を聞いたんだ。でも、他にやる事もあって……あと、まだ完成していない研究みたいだったから、大丈夫かなって思ってたのもある、かも……」

 どうしてもっと早く、誰かに話して相談しなかったんだろう……という後悔が湧いてくる。
 聞き流していたわけじゃないんだけど、エクスブロジオンオーガはその特性を利用して爆発するくらいだったし、他の魔物も爆発させるようにはしていたけど、ツヴァイの研究所を潰したのもあって完成しないものだと思っていたのもあるかもしれない。
 それか、無意識のうちに考えないようにしていたのかも。
 あと、センテでもそうだけど……ここしばらくそんな魔物がいなかったというのもあるかな。

 ただ確実にこれは帝国が仕掛けているのだというのがわかった。
 全て繋がっているという事なんだろう……どうやって、人間が爆発させるような非道な事を実行できたのかはわからないけど。
 とりあえず、その辺りも含めて姉さん達に謝るように伝えた。

「まぁ、知っていても防げたかどうかはわからないから、あまり考えすぎないでいいわよりっくん。もちろん、知っていれば何かやりようはあったかもしれないけど……それが間に合ったかどうかはわからないわ」
「逆に警戒しすぎて、結局何もできなくなった可能性もあるから」
「……ありがとうございます」

 落ち込んでいるように見えたのかもしれない、姉さんだけでなくマティルデさんも慰めるように俺へと声をかけて来る。
 後悔しないわけじゃないし、全く気にしないわけじゃないけど……とりあえず今はたらればを考えている場合じゃないか。

「えーと……ごめん。今度からは些細な事でもできるだけ話して、皆と共有する」
「そうね。まぁどんな些細な事でもいいから教えてくれると嬉しいわ。りっくんの事だから、その些細な事でも大事に発展しそうだし……それはいいとして……マティルデ」
「ん? あ、えぇ。そうですね。えっと……リク、それから他の皆も。見知らぬ者もいるようだけど、実はこの話には続きがあるのよ」
「続き……まだ他にも何か?」

 これ以上、何があるんだろうか?
 他に破壊工作されているとかなら、さっき言っていたから続きとは言い難いし……。

「建物が吹き飛ばされる混乱の最中、王都周辺で魔物の集団がいくつか確認されたとの報告を受けたのよ、りっくん」
「魔物の集団? それって……」

 思わず、隣に座るモニカさんと顔を見合わせる。
 魔物集団なら、王都に戻る前にいくつか潰して……というか殲滅しながら戻って来たから、知っている事ではある。
 でもそれが王都の周辺って。

「正確には、アテトリア王国の各地ね。多いのは王都周辺だけど。リク達が戻って来る前に受けた報告をまとめると、単一の魔物による集団が点在するようになっているようね。強い魔物だけでなく弱い魔物も、そして本来群れない魔物も」
「えーっと、その事なんだけど……」

 マティルデさんが細くする言葉を受けて、姉さん達に俺達が戻って来る間の事を話す。
 アルケニーの集団と戦った事や、他の魔物の集団を発見した先から殲滅して、運べる素材などは採取して積んで戻って来た事なども含めてだ。
 妙に魔物の集団を見つけたし、何かあるのは感じていたけど……破壊工作とほぼ同時期に発生しているなら、やっぱり人為的に引き起こされているので間違いないだろうね。

「そう。さすがと言うべきかしら。ある程度でも、りっくん達が魔物の掃除をしてくれていたなら助かるわ」
「アルケニーの集団……野放しにしていたら、周囲の被害は甚大なものになっていたかもしれないな。素材も持って帰ってきているのなら、冒険者ギルドが責任を持って処理しよう」
「あ、それなんですけど……」

 破壊工作の件があるとはいえ、魔物の方もある程度王都で対処はしようとしているんだろう。
 でも、アルケニーがいたのは王都から結構離れた場所だったから、なんとかするまでに近くにある村などはもしかしたら壊滅するなんて事もあったかもしれないからね。
 発見して殲滅できてよかったと思う……あれ以外にも別の場所に別の魔物がまだいたりするんだろうけど。
 それはともかく、素材の話になったのでアルケニーの足の刃については、カーリンさんが料理道具のために使わせて欲しいというのを伝えた――。


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