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部屋の外でのちょっとした混乱
しおりを挟む「……色々って何か問題があったの?」
「問題と言う程ではありませんが。まず、しばらく放っておかれた……確か、リリーフラワーでしたか。そのパーティ名を持つ冒険者達が、ワイバーンと一緒になって騒いでいたため、兵士達が対処に困っていました」
「あ……そういえば、詳しい事は何も言わずに部屋に戻っちゃったから……すみませんヒルダさん。俺から、ルギネさん達……リリーフラワーの人達の事を頼んでおけば良かったんですけど」
「いえ、共にいたフィリーナ様とカイツ様。それと後からマティルデ様が起こしになられたので、結果的には特にさしたる問題にもなりませんでした。ワイバーン達も、騒いでいたとは言いましたが、暴れるわけでもなくおとなしいものでしたし」
「ははは……」
ワイバーンもそうだけど、ルギネさん達は王城に降り立ってからほとんど放ったらかしに近い状態にしていたんだった。
一応、離れる時に兵士さん達に軽く話したり、そもそも同行者に兵士さんもいたから、大丈夫だと思ったんだけど……。
ともかく、ヒルダさんの話によるとルギネさん達から見ると、俺達はヒルダさんに連行されたように見えたらしい。
それで、いつまでも帰ってこないからという事で、どういうことなのかとなったらしい……同行していた兵士さん達はなんとなくわかっているため、なだめる側に回ってくれていたみたいだけど、ワイバーン達も揃って鳴き声を上げたり、慣れていない人もいるわで、それなりに混乱していたとか。
これは俺が悪い……とも言い切れないけど、もう少しちゃんと説明しておくべきだったなぁ。
いきなり王城に降りて放ったかしにされて、俺達は戻って来ないなんてルギネさん達には悪い事をしてしまった。
いくら、姉さん……この国で一番偉い女王陛下に呼ばれて、できるだけ早く話す必要があったとしてもだ。
マティルデさんが合流したみたいなので、もう大丈夫だろうけど……今度会った時に謝っておかないとね。
ちなみに、ヒルダさんがカイツさんやフィリーナ、それからアマリーラさん達もだけど、皆を連れて研究室より先にルギネさん達の所に行ったのは、カイツさんによる要望。
早い話が研究に協力してもらうワイバーンと話をするためだったらしい。
その際に、ルギネさん達の混乱を見かけて……という事だ。
「成る程ね。そこは私も配慮が足りなかったわ。まぁ私が戻ったのならすぐにりっくんを連れてくるように、と言ったわけだし、実際できるだけ早く話しておきたかったから。結果的にはあちらは混乱したとしても、話ができて良かったわ。早いに越した事はないから」
「まぁ、研究の事とか対処法とか、少しでも早い方がいいからね……リリーフラワーの人達には、後で俺から謝っておくよ」
「えぇ。私も会う機会があれば、謝るわ。さすがに、この部屋の外や公的な場所では、一介の冒険者に頭を下げるのは憚られるけど、ね」
姉さんは女王陛下だから、ちょっとした失礼があったとしてもルギネさん達に公の場で頭を下げるのは難しいんだろう。
まぁ大きな理由とかがあれば話は別だろうけど……今回はルギネさん達の方も騒いでいたみたいだし、お互い様とは言わないけどそんな感じって事で。
頭を下げなくても、言葉で謝意を示すくらいはできるとは思うし、姉さんなら躊躇わないと思うけど。
「それで、それ一つだけじゃないんでしょ? 色々って言っていたし」
「はい。研究室に到着して、カイツ様やアルネ様など、エルフの方々が再開を喜んでいらっしゃったのですが……ここで話した物とは違う魔法具の話にも盛り上がりを見せまして。カイツ様の方向音痴という話もありましたが」
「あー、カイツさんは意味がわからないくらいとんでもない方向音痴みたいですからね。エルフの村からヘルサルに、そこから王都へ行こうとして何故かセンテに。さらにそのセンテから南東の森に行った李もしていましたし」
「何それ、本当に方向音痴で済ませられる事なの……?」
「どうなんだろう? でもそのおかげで、センテでは協力してもらって凄く助かったんだけど……っと、話が逸れました。すみませんヒルダさん。それで、盛り上がった魔法具っていうのは?」
カイツさんの方向音痴は、その言葉で本当に正しいのかすら疑問に思う程だけど、今はそれを考えているよりもまずはヒルダさんの話を聞こう。
そう思って、逸れてしまった話をヒルダさんに戻し、ついでに謝っておく。
「いえ。魔法具は確か、冷蔵庫という物でした。リク様が王都を離れて少しした頃、陛下から研究を頼まれたのだとか。アルネ様の方も、クールフトでしたか。あれを別の何かに使えないかと考えているようでしたので、ちょうど良かったようです」
「クールフトの開発者はカイツさんだから、それで盛り上がったんでしょうね。それにしても冷蔵庫かぁ……なんでそんな物を?」
「なんでって、食料の保存には必要だからよ。私もそうだけど、りっくんも食べ物を保存するとしたら真っ先に冷蔵庫が出て来るでしょ?」
「それはまぁ確かに」
全ての食べ物がというわけじゃないけど、とりあえず保存するには冷やしておいた方がいい、などの考えから日本で特に便利った冷蔵庫は確かに思い浮かぶ。
「でも、こっちには電気とか機械とかないでしょ? どうやって冷蔵庫を……って、だから魔法具?」
「えぇ。魔法具は基本的に魔力を供給する事で作動する。電気の代わりにできるんじゃないかってね。機械よりは勝手が効かないかもしれないけど。これから戦争をするとなると、欲しいと思ったのよ」
「戦争に?」
俺と姉さんの話に、冷蔵庫を知らない人達……ある程度既に話を聞いているヒルダさんはともかく、モニカさん達は皆よくわからず首を傾げるばかりの様子。
それでも、俺と姉さんの話だからと特に何も言わずにただ聞いているみたいだ、考えるのを放棄した、とも言うかもしれないが。
ユノとロジーナは知っているため、特に気にせずヒルダさんが淹れなおしてくれたお茶を飲んでいるけど。
「戦争をするのは、帝国は魔物を使うにしても、こちらは当然人よ。そうなると食料は必須。なら保存法も考えないといけないわけだけど、冷蔵庫があれば日持ちもしやすくなってある程度今より改善されるからね」
「確かにそうかもしれないけど……わざわざ冷蔵庫を持って行くの?」
冷蔵庫なんてあんな重くて大きい物……運べないわけじゃないだろうけど、かさばるし余計な荷物になってしまわないだろうか、という方が心配だ。
作る費用とか諸々を考えると、軍の食糧事情を改善させると考えても費用対効果に見合わない気がするんだけど。
「りっくんが考えているのは家電の冷蔵庫よ。あれは、駆動部分が当然内蔵されているから大きくなるの。でも魔法具ならそれがなくて小型化ができる……気がするのよねぇ」
「気がするって、まぁ機械的な部分を省けば小さくはなるだろうけど」
「要は、物を冷やせる箱と考えればいいわ」
「はぁ、それを魔法具として……ねぇ。別にそうしなくても、近い物はできると思うんだけど」
話を聞いて、わざわざ魔法具にしなくてもという感情と共に思い出した事があり、溜め息を吐いてしまった――。
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