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第25話 実況者を説得するユウヤ
しおりを挟む「ここが、そのリッちゃんが言う、リッチがいる場所ですか?」
「そうよぉ」
翌日、運動会の準備を少しだけ手伝い、昼食を食べた頃にリッちゃんが迎えに来て、実況を頼むリッチの所へ。
案内されたのは、城下町の中でも随分とさびれた場所。
目の前には大きな洋館があるんだが、それは手入れされてない草に囲まれ、建物には蔦が生い茂っている。
……窓とかも割れてるようだし、どう見ても廃墟なんだが……。
「本当にこんな所にいるんですか? 廃墟にしか見えないんですが……」
「私達不死者は、こういった場所を好むのよ? だから、ほとんどのリッチはこんな場所に住んでるわ」
不死者……アンデットとかってのは、確かにそんなイメージかもしれない。
そう考えると目の前に見える廃墟が、ゾンビとかが蔓延るホラーゲームの舞台にしか見えなくなって来た。
……ウイルスに感染して、俺もゾンビに……なんてのは勘弁だぞ?
「失礼するわねー、入るわよー?」
「ちょっと待って、リッちゃん!」
廃墟を見てビビっている俺をそのままに、リッちゃんがふよふよ浮きながら、洋館へと入って行く。
ちょっとリッちゃん! リッちゃんは浮いてるから良いけど、俺は草を掻き分けて行かないといけないんだから、置いて行かないで! こんなところで一人はいやぁ!
と考えていても、先に行ったリッちゃんは戻って来ない。
俺は、ゴクリと喉を鳴らして覚悟を決め、草を掻き分けて洋館へと向かった。
……どうでも良いけど、半透明で壁とか透き通りそうなリッチでも、扉を開けて建物に入るんだな。
「……お邪魔しまー……す?」
リッちゃんが開けっぱなしにしていた正面玄関から、おそるおそる洋館の中に入る。
中に入った俺が見たのは、半透明で半分骨にボロ布を着た二人の男? が組み合う姿だった。
「何で勝手に入って来るのよ、リッちゃん! まだ化粧だって終わってないのに!」
「そんな事知らないわよ! 今日はここに来るって魔法通信で言っておいたでしょ!? 準備してないアナタが悪いのよ!」
なんだろう、幽霊が戯れてるから、これはこれで怖い場面なのかもしれないけど、なんとなく口調と喋ってる内容のせいで緊張感がない。
ホラーっぽい洋館にビビってた俺って……。
そもそも顔の半分が骨なのに、化粧ってなんだ……?
「ちょ、いい加減にしなさいよ!? やめ、やめて! 髪を引っ張らないで! 抜ける! 禿げるから!」
「良いのよアナタなんか禿げても! この、この……あ、ちょ、こら! 引っ掻かないで! これ以上骨を出したくないの!」
なんか二人して、髪を掴んだり、顔を引っ掻いたりしてるけど……確かに半分骨になったような顔だから、引っ掻かれたらもっと骨が露出しそうだし、頭は……抜けたら生えて来ないだろうなぁ。
「あのー?」
「あ? あぁ、ごめんなさいね、この馬鹿が言う事を聞かないから……」
「ちょっと! 馬鹿とは何よ馬鹿とは! そもそもアナタが勝手に入って来るから……あら? 良い男ね?」
「ひっ」
もはやどちらがリッちゃんで、どちらが今日話しに来た相手なのかわからないが、片方が俺を見てニヤリと笑う。
……半分骨になった顔で見つめられて、残ってる頬を染められても……恐怖しかない。
「こら、ユウヤは既婚者なんだからね。変に色目を使ていると、怖い奥さんにあの世へ送られるわよ?」
「……それはちょっとごめんね」
見た目が同じリッチだけど、どうやら片方へ注意するように言った方がリッちゃんらしい。
ふよふよ浮かんでる幽霊のような魔物に対し、普通にしている自分がいるのがな……日本にいた時には考えられなかった事だ。
リッちゃんの言っている怖い奥さんというのは、カリナさんだろうけど、カリナさんがそんな事……するかもしれないな。
それはともかく、話を進めないとな。
「えーと、貴女が実況する能力のある……リッチですか?」
「そうよ。こいつがね……でも」
「実況の腕を認められるのは嬉しいわ。でも、私は闘技大会に出場するの! マリー様に、私の勇姿を見てもらうの!」
そのリッチは、実況ができると褒められるのは嬉しいそうだが、闘技大会に出場する事の方が重要と考えているようだ。
リッちゃんの言っていた通りだな。
しかし、マリーちゃんは慣れてるから良いだろうけど、同じような大きさの子供が見たら、その光景は泣き出してもおかしくないだろうなぁ。
半分骨で、ボロ布をまとって浮いている半透明の魔物が、勇ましく戦う姿なんて……心霊写真も真っ青だ。
「ふむ、成る程……貴女もマリーちゃんに戦う姿を見せたいと……」
「そうよ。というか、誰なの貴方? マリー様の事を慣れ慣れしく、ちゃんを付けて呼ぶなんて……」
「おっと、自己紹介がまだでしたね。俺は……」
自己紹介をしていなかった事を思い出し、目の前で浮いているリッチに俺の事を話す。
例に漏れず、ここでもマリーちゃんの両親という話に賛同してもらえた。
やっぱりマリーちゃんは、魔物の皆に慕われて心配されてるんだなぁ。
ちなみにこのリッチさん、名前をアナウンさんと言うらしい……実況者になるべくしてなるような名前だな……やはり安易な名前が多い。
「えーと、アナウンさん。実況者にはなれないと言う事ですけど……」
「そうよ。闘技大会に出場者として出たいからね。実況者だと、戦う姿をマリー様に見せられないじゃない?」
「そうですか……確かに戦う姿を見せられませんが……こうは考えられませんか?」
「どう考えるって言うの?」
マリーちゃんに、戦う姿を見せたいアナウンさん。
でも、実際に魔法を使って戦う姿は見せられなくとも、実況者としての姿を見せる事はできるはずだ。
「実況者として、戦う姿……つまり実況する事をマリーちゃんに見てもらう、というのはどうでしょう?」
「実況者として……?」
「そうです。実況をする者が戦う事、それは闘技大会の実況をする事に他なりません!」
「っ!!」
ピシャーンッ! と雷が落ちたように目を見開いて、驚くアナウンさん。
……いや、実際に雷が鳴ってるのか……変な効果を付け加えないで下さい、リッちゃん。
「素晴らしい実況をする事で、それをマリーちゃんに見てもらう事は、アナウンさんにしかできない事なんですよ? 闘技大会では、色々な魔物が出場するでしょう。そうなった時、もしかするとアナウンさんは他の出場者に、埋もれてしまうかもしれません。ですが!」
「で、ですが……?」
食い入るように、俺の話を聞く体勢になったアナウンさん。
ここまで来たら、説得できたも同然だな。
俺は、一呼吸おいて少し焦らしてから、アナウンさんを実況者にするべく言葉を紡ぐ。
「……実況者が輝けば、それは必ずマリーちゃんに見られるはずです! そうすれば、実況をしているアナウンさんの独壇場。貴女は、その喋りでマリーちゃんの視線をくぎ付けにすれば良いのです!」
「はっ!!」
またも、ピシャーンッ! という雷の効果音と共に、驚く様子を見せるアナウンさん。
だから、余計な効果はいりませんからね、リッちゃん。
「……どうですか……? これでも実況者になるつもりはない……と?」
「……いえ……そうね……貴方の言う通りね……。私、何を考えていたのかしら……? 貴方の言う通り、実況ができるのは私だけ……その言葉でマリー様の視線をくぎ付けにするのも私だけ……そうよ、そうなのだわ!」
「……上手く口車に乗せたわねぇ……」
そこ、口車とか言わない。
「では、実況者……引き受けてくれますか?」
「もちろんよ! 私が実況の何たるかを見せてあげるわ! 当然、闘技大会出場は辞退よ! こうしちゃいられないわ、早速トレーニングをしなくちゃ!」
実況者になる事に同意し、アナウンさんは奥へと去って行った。
奥の方から、「あー」だの「うー」だの「かけきくけこかこ」だの聞こえてくるが、発声練習でもしてるんだろうなぁ。
まぁ、やる気になってくれたようで、良かった良かった。
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