雷撃の紋章

ユア教 教祖ユア

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「ほんと、正気かよ…」

トーラスは呆れた。

「俺はエレストが雷撃の紋章神の紋章であることを初めて知ったし、そいつが暴走してるって中で、戦わないといけないのか…?」

トーラスは乾いた笑い声を浮かべながらヤケクソで言い放った。

「良いぜ、暴れ散らかしてやる。」

トーラスは自分が自分の故郷を出てから、何もかもを偽った。

どんなに役に立たないと罵られようが、自分がそう責めようが、自分の顔だけはいつでも役に立った。

少し化粧をすれば、女性に見られ男を騙し惑わせ、甘い言葉を囁けば、女性を簡単に堕とせた。

トーラスの有能さは、彼の妹が死んでから開花した。

何もかも遅かった。

色んな身分を作った。

どんな身分も作れた。

トーラスの妹が死んでから、どんなこともそつなくこなす人間になった。

色んな人から称賛され、必要とされた。

しかし、それは彼にとって、『全て遅かった』という事実他ならなかった。

「もう、俺は手遅れなんかにさせない。」

トーラスは『斑雪の刃』を唱え始める。

「今ここで必ず…殺してやる。」

エレストの暴走は負傷でもしなければ止められない。

しかし、負傷してしまえばヴァンを止められない。

「やはり戦いはこうでないとなあ!」

ヴァンは楽しそうに戦っている。

そこから、急に動きが止まった。

エウルの魔導だ。

「小賢し…」

「どこ見てる。」

エレストの雷撃の拳がヴァンの顔面を叩き潰す。

「ヴァンをもっと潰せ!こいつはまだ簡単に復活する!」

「本当に神の紋章は厄介だよ。」

ヴァンの目の前に白い刃が刺さる。

「俺もそう思うよ。」

体中に大量の刃が突き刺さる。

「ああもう…鬱陶しい攻撃ばかり!小手先の攻撃しかできない雑魚が!」

ヴァンの身体が弾け飛ぶ。

「え、気持ち悪っ!」

エウルは思わず叫んだ。

「先ずは一つもダメージを与えられない魔導士だ。」

一瞬で再生し、エウルのもとに現れる。

「私を舐めないでよ。」

回路の紋章が一気に光る。

その瞬間、ヴァンの周辺が一気に凍てついた。

エレストが氷の塊に飛び出す。

「エウルばっか狙ってると、直ぐに分かるぜ。」

雷撃が氷を走る。

「お前らア!!!」

「血の呪いを祓え。純銀の刃シルバーブレード。」

純銀の剣をトーラスが持ち、左腕を切り落とす。

「余裕が無くなってきたな。俺はその姿が見たかった。」

「楽園の紋章で、廃人にしてやる…!!!!」

「させないわよ。」

左腕の切断面に血が付着する。

「俺の血が他の吸血鬼に負けている…?………あの古王め、玉座から墜ちた吸血鬼如きが、まだ邪魔をするのか!!!!!!」

ヴァンは徐々に冷静さが消えてきている。

「たかが人間が!たかが翼堕ちたガキが!私に敗れた吸血鬼が!!私に歯向かうな!!!!!!」

うっすらとヴァンの左側に何かが見える。

(まさか…)

徐々に光が形成されていく。

それは左腕になった。

「考えるべきだった…!エレストが紋章を使える時点で…」

「どういうことだ、エウル…!?」

「エレストは…左腕が最初から無いのよ。」

「はあ!?」

「神の紋章が左腕を作ってる。だったら…楽園の紋章も…同様に…」

「おいおい聞いてねえぞ、左手が無いなら紋章は使えないんじゃないのかよ!」

光に包まれた、枝の様に左手が作られ、左手の甲であろ場所には紋章が刻まれている。

「まずい…!!!」

「私は!!!!神に選べれし存在なんだ!その地位は誰にも奪えない!」

紋章が光り始める。

「クッソ!」

エレストが飛び掛かる。

「待て、近付いたら!」

「暴走しているものが上手く動くわけないでしょう?」

ヴァンにエレストの首を掴まれる。

「鬱陶しいんですよ。」

高い場所から、一気に床にたたきつけられる。

「エレスト!!!!」

「もう、まともに動けない。雷撃の紋章はもう終わりだ。」

「本気で不味いぞ…!」

「私に勝てると…本気で思ったんですか?」

光が強まり、全員の戦意が消えようと思った瞬間。

「『雷撃』。」

小さい稲妻が走り、左腕を穿つ。

激しい雷鳴が響き、左腕が木っ端微塵になった。

「ヴァン、お前のお陰で、暴走が止まったよ。」

「エレスト!無事なの!?」

「…負傷はしてるけどな。」

瓦礫を払いながら、よろよろとエウルたちの元へ歩く。

「神の紋章が全て同等の力である理由はこれか…」

そう、紋章の発動の強制停止である。

「うぐうううああ…!!」

「左腕は本物のように作られているからな、ダメージはしっかり通るぜ。そのことを、俺が一番分かってる。」

「この…クソガキがぁ!!!」

やがて空が徐々に明るくなり、太陽の光が現れ始める。

「カスでクソなのはどちらでしょうね?」

エウルの魔導陣が広範囲にわたって光始める。

「ふざけんじゃないわよ、人を踏みにじっておいて。交錯せよ。束縛の鎖クロスチェイン。」

「何を…!強者が弱者で遊んで何が悪い!弱かった、何もできなかった此奴が悪い!!!」

「ああ、そうだな。そうかもしれないな。」

トーラスはヴァンを睨みつけながら歩き始める。

「俺はお前を許さない。だけど、自分も許せない。」

銀のナイフを魔法で生成し、ヴァンの目に突き刺した。

「この復讐に意味は無くても、お前を殺すことには意味がある。悪しき者にせめて玉響の光を。 『聖なる光』Gib den Sündern göttliche Strafe. heiliges Licht。」

「やめろおおおお!!!!!」

中から優しく神聖な光が漏れ、吸血鬼を内側から破壊していく。

灰すらも残らず、簡単に散っていった。

「お…終わった?」

「終わった…みたいだぞ。」

エレストとエウルはへなへなと床に座り込んだ。

「トーラス、俺に治療をしてくれ…死ぬ…」

「良く生きてたね…」

「エルフたちから貰った、魔法薬をぶっかけたからな。それが無かったら死んでた。」

「…」

トーラスはぼうっとしていた。




「お兄様!」

「…なんだい?」

「お父様はお兄様のことがきらいみたいだけど…私はお兄様のことが大好きだよ!」

「…そう。」

「だって、こんなにも優しい。きっとお兄様が使えるようになった魔法は、暖かくて優しいはずよね!」




「この魔法を見て…優しいって言うかな…?」

もう、妹を壊した吸血鬼はこの世に存在しない。

この手で殺したのに、想像通り何も嬉しくなかった。

「ま、いいか。」

トーラスは二人の方へ振り向いた。

「おい、二人とも。」

「?」

「良いぜ、お前たちの旅に俺も同行してやる。」

トーラスのふとした発言に、二人は驚く。

「良いのか?」

「これを殺したから、もうやること無くなったなーって思ってさ。」

(楽園の紋章の持ち主を殺したら、妹は元に戻るかなって思って故郷を捨てたけど…きっと元に戻ってない。そんな気がする。帰ろうとも思わない。だったら…今のうちに寄り道しまくっとこ。)

トーラスは一人そんなことを考えながら、二人に淡々と言う。

「で?俺は要るのか?要らないのか?」

「勿論必要だ。一緒に来てくれよ。」

エレストは心の中で、

(まあ、俺追われてるけど。ま、いっか。)

という肝心なことを言ってない状態で返答した。

「よっこらせ。」

玉座に一人の吸血鬼が座った。

「!!!」

「あ、あの時の!」

「あの楽園の紋章の吸血鬼をよく殺したね。凄いよ!」

「何でお前が其処に座ってるんだ!?」

「俺がこの国の王だからだよ。」

「あっ!」


「俺の血が他の吸血鬼に負けている…?………あの古王め、玉座から墜ちた吸血鬼如きが、まだ邪魔をするのか!!!!!!」


ヴァンはこの言葉を言っていた。

「いやあ、楽園の紋章のせいで負けたけど種族的には俺の方が強いんだよね。さて…お前ら早く出てってくんない?あ、俺が追い出せばいいのか。」

「…何が言いたいんだよ…」

「お前たちはもうこんなところに来るなよ。」

エレスト達の真下に魔法陣が浮かぶ。

「出口に飛ばしてやる。」

その瞬間、浮遊感に見舞われた。

「うおっ!?」

三人は何処かに飛ばされた。

「…どこだ?」

「吸血鬼の国の出口だって言ってたけど。」

「俺たちが来た場所じゃねえな。じゃあ…」

「ここを出たら、魔法国…だな。」
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