上 下
10 / 57

閑話 マスターエルダー英雄伝(本編の参考になります)

しおりを挟む
 *本編の参考になる話ですので、気が向いたら読んでみてください。
 *偽ゼウス(デュポーン)が広めた話です。



 *******



 英雄竜マスターエルダーの物語は、この双子星の世界で広く知られている。
 神ゼウスが実話として伝えた内容なので、誰もが真実だと思い込んでいたのだが……。


<マスターエルダー英雄伝>

 遠い遠い、昔のお話です。
 私たちが住む双子星は、二つの星に分かれていました。
 一つは『ボルックス』、もう一つは『カストル』という名前でした。
 二つの星はそれぞれ、自然豊かな美しい星で、たくさんの竜が住んでいました。
 ボルックスには大人しい竜が集まり、カストルには喧嘩が好きな竜が集まっていました。
 その中で一番強い竜は、ボルックスに住むマスターエルダーという竜で、とても心優しく、どんな竜からも尊敬されていました。

 ある日、カストルに住んでいた一体の竜は、マスターエルダーに会いに来ました。
 その竜はひどい怪我をしており、泣きながらこういいました。

「どうか、カストルで暴れている竜たちを止めてください」

 とても困っていたようだったので、マスターエルダーはその竜の手当てをした後、一人でカストルの様子を見に行くことにしました。

 カストルに着くと、いつもと違う景色にマスターエルダーは驚きます。
 空が見たこともない黒い雲で覆われていたからです。
 まだ昼間だというのに辺りは薄暗く、空気がひどく汚れていました。
 さらに、あったはずの大きな山がいくつかなくなっていて、竜や植物がたくさん死んでいました。

 少し離れたところで、大きな爆発音が聞こえました。
 急いでマスターエルダーはそこへ向かうと、二体の竜が喧嘩をしていたのです。
 口から炎を撒き散らし、そこら中で爆発が起こっていました。
 マスターエルダーは急いで止めに入り、二体に叫びます。

「空や大地を見なさい! あなたたちのせいで、たくさんの生物たちが死んでしまいました! もう、カストルは終わりです。そして、その被害はボルックスにも及ぶでしょう!」

 二体は注意されて初めて、自分たちの愚かさに気づきました。
 そして、泣いてマスターエルダーに謝り、「直して欲しい」とお願いしたのです。
 マスターエルダーは困りました。
 いくら最強の竜であっても、マスターエルダーにはそんな力はありません。

 マスターエルダーは悩んでいると、声がどこからともなく聞こえます。
「助けてやろう」という声が。
 その声はどうやら、マスターエルダーにしか聞こえないようでした。
 マスターエルダーは「どうか、助けてください。お願いします」と心の中で叫びます。

 すると、声が返事をくれました。

「我は神ゼウス。両方の星が助かる方法を教えよう。お前が二つの星を支える『コア』となり、一つの星に合体させるのだ」

 どうしても二つの星を助けたかったマスターエルダーは、快くそれを受け入れました。
 その想いを聞き届けたゼウスは、マスターエルダーを球体状の結界の中に閉じ込め、永遠の眠りにつかせます。
 そして、その球体が中心になるように二つの星を合体させました。

 こうして、マスターエルダーのおかげで双子星が完成したのでした。
 一度は壊れてしまったカストル由来の大陸は浄化され、再び豊かな自然を取り戻しました。


 おしまい。


 ********


 実は、この話には後日談がある。

 今から数千年前のこと。
 自然が戻ったカストル大陸の空に、突如として黒い雲が発生した。
 それはみるみるうちに広がり、カストル大陸のほとんどを覆い尽くしてしまった。
 日差しを全く通さず、消えることのない雲。
 最悪なことに、再び手を差し伸べてくれた神ゼウスでさえ対処できない未知の物体だった。
 そして何もできずに時は過ぎ、現在のカストル大陸は不毛地帯となってしまった。
 今では、身を捧げたマスターエルダーの呪いではないかとさえ言われている……。

 
しおりを挟む

処理中です...