俺のペットは異世界の姫

香月 咲乃

文字の大きさ
28 / 32

28 封印

しおりを挟む

 花奈、夕翔、伊月は時空の狭間に到着していた。
 離れないように夕翔は花奈の左手を、伊月は花奈の右手をしっかり握っている。

「ここが、時空の狭間?」
「そうだよ、ゆうちゃん」
「もう花奈たちの世界の方にいるってことだよな?」
「うん」
「そっか……」

 夕翔は顔を左右上下に動かして辺りを見回す。
 どこを見ても真っ暗で、方向が全くわからない状況だ。
『ここで花奈たちと離れたらどうなるんだ?』と考えるだけで背筋が凍える。
 花奈は平気そうな顔をしているので、夕翔は頼もしさを感じずにはいられない。

「ゆうちゃん、あそこを見て」

 花奈が指差した先には、渦を巻いた暗雲のようなものがあった。
 あまりにも遠いので、夕翔は目を凝らす。

「俺たちはあそこを抜けてきたのか?」
「違うよ。あそこで2つの世界が繋がってはいるんだけど、今はものすごく不安定なの。あそこを通ったら、どこか違うところに飛ばされると思う」
「そうなんだ」

 夕翔は怖くなり、体を震わせる。

「ゆうちゃん、あの穴を閉じるから、力を貸して」
「もちろん」
「じゃあ、私を後ろからぎゅっと抱きしめて」
「え!?」

 夕翔は顔を少し赤くし、ちらっと伊月の方を見る。

「どうぞお気遣いなく。体を密着させた方が妖力供給は効率的なんですよ」
「そうなんだ……」

 一人だけ恥ずかしくしていたので、夕翔は苦笑する。

「じゃ、じゃあ……抱きしめまーす」
「は~い!」

 花奈は嬉しそうに返事をした。

「ゆうちゃん、妖力を一気に使うから覚悟してね。気を失っても伊月が助けてくれるから心配しないで」
「わかった。伊月さん、迷惑かけるけどお願いします」
「お気になさらず。私に任せてください」

 伊月は、花奈をぎゅっと抱きしめる夕翔に微笑んだ。

 ——2人とも、本当に頼もしすぎるな……。

「ゆうちゃん、目を瞑ってた方がいいかも」
「なんで?」
「目に塵が入って危ないから」
「わかった」

 夕翔は目をぎゅっと瞑った。

 花奈と伊月は頷き合うと、移動を開始した。





 花奈たちが暗雲へ近づくと——。

「あ……あー」
「ゔーゔー」
「お゛ーあー」
「あ゛ー」

 暗雲の中心部——渦の穴から、たくさんのうめき声が響いていた。
 花奈と伊月は距離を取りながら覗き込むと、すぐに辛そうな表情を浮かべる。
 そこには、たくさんの人々が張り付いて壁となっていた。
 椿たちが時空の狭間を開ける時、生贄にされたヨウ星の人たちだ。

 ——この気持ち悪い声、なんだ……? 聞きたいけど……花奈の邪魔をしたくないしな……。

 夕翔は質問したい気持ちを抑え込み、口をぎゅっと閉じる。
 どうせ恐ろしいものがいるのだろう、と考え、目を開けようとはしなかった。

「封印を開始するわ」

 花奈は夕翔の家を食べ尽くした拉触刺荒の種をポケットから出し、ガリガリと食べた。

 そして——。

 巨大な暗雲を覆う巨大立体型魔法陣を出現させた。
 
 花奈は両手を魔法陣に向け、妖力を一気に送り込む。
 
 凄まじいスピードで花奈から妖力を吸われる夕翔は、身体中の力が抜けていき、すぐに気を失ってしまう。
 伊月はすぐに夕翔と花奈を横から抱きしめ、離れないように固定した。

 魔法陣は徐々に縮小し、同時に暗雲も小さくなっていく——。

「くっ、伊月、後はよろしく……」

 花奈は妖力の限界ギリギリのところで暗雲を完全に消滅した。
 力をほぼ使い切った花奈は犬の姿になり、伊月の腕の中でぐったりとする。

「姉上、後は私におまかせください」
「お願いね」

 伊月の頷いたところを見届け、花奈も気を失った。





 ——あれ? 誰か私を撫でてる?

 犬型の花奈は目を覚まし、視線を上に向けた。

「花奈、お疲れさま」
「ゆうちゃん! もっと撫でて~」

 夕翔の膝の上で眠っていた花奈は、腹を上に向けてなでなでを要求した。

「よしよし、花奈はふわふわで最高だな~」

 夕翔は久しぶりに犬型になった花奈を撫で回す。
 花奈は気持ちよさそうに目をとろーんとさせていた

「姉上、私も触ってもいいですか?」

 椅子に座り、横から2人を見ていた伊月が声をかけてきた。

「どうぞ~」
「わ~! ふわふわです! 犬型の姉上に一度触ってみたかったのです!」

 伊月は目尻を下げて嬉しそうにしていた。

「そういえば、ここは……私の部屋?」
「そうですよ、姉上」

 気を失っていた夕翔と花奈は、伊月に運ばれて花奈の布団で眠っていた。
 先に目を覚ました夕翔は、なかなか起きない花奈が心配で伊月を呼び出し、膝に乗せて撫で始めたところだった。

「屋敷は混乱してる?」
「そうですね。ですが、すでに収めましたのでご心配なく」
「さすが伊月。頼りになるわね」
「姉上ほどではありませんよ」
「そうだ、ゆうちゃんのことはどう説明したの?」
「遠い国からきた姉上の婚約者だと伝えました。私が次期国王になると発表したので、反対意見は言わせませんでしたよ」

 伊月は笑顔で答えた。

「パワハラだね……」

 夕翔は苦笑した。

「その言葉の意味はわかりませんが、問題ありませんよ」

 伊月はすました顔で言った。

「国王様がそういうなら……」

 夕翔は伊月の圧力を感じ、肩をすくめた。

「さて……」

 伊月は伊月は立ち上がった。

「姉上が無事に目覚めたことですし、私は行きますね。夕食には顔を出せますか?」
「大丈夫だよー」
「では、失礼いたします」

 伊月は花奈の部屋から出て行った。

「ゆうちゃん、部屋の外へは出たの?」
「まだ。1人で出歩くと、いろいろ面倒になりそうだと思って」
「それもそうだね」
「それに、花奈のそばから離れたくなかったし」

 夕翔は花奈の背中を優しく撫でながら見つめる。

「ゆうちゃん……」

 花奈は夕翔の膝の上で人型になり、裸の状態で抱きつく。

「花奈、これからよろしくな」
「うん」

 2人は唇を合わせながら、布団の上にゆっくりと倒れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...