29 / 31
29 地下空間
しおりを挟む新しいイリアが誕生して約5年後——。
アレックス公邸、面会室。
部屋の中央に置かれた6人用テーブルの上座にアイリス、その斜め右横にイリアが座っていた。
2人は下座に座るカイルから相談を受けているところだった。
「——アレクシア南東部を新たに農地開拓しているのですが、その途中、大きな地下空洞が見つかったのです。連れてきていた馬たちはその空洞から何か嫌なものを感じたのか、急に暴れ出したり、逃げ出そうとしたり……異常なことが色々と起こりましてね……」
それを聞いたアイリスとイリアは眉間にしわを寄せた。
「はあ……最終的には開拓に関わっていた者たち全員が『近づきたくない』と言い出す始末で……。我々ではどうにもできませんので、どうか魔術のお力をお借りできないか、と思いまして」
カイルは頭を下げた。
昔はチャラチャラしていたが、今では妻子持ちの落ち着いた雰囲気に変わっており、アイリスが信用する人物の1人だ。
「その件については私がお引き受けいたします。アイリス様、よろしいでしょうか?」
「いいよ。イリアに任せる」
2人の会話を聞いてカイルの顔色が明るくなる。
「ありがとうございます! では、詳細な場所を説明いたします——」
*
その日の夜。
アレックスとアイリスの寝室。
「——アレックス、カイルからの報告聞いた?」
アイリスは浴室から出てきたアレックスに話しかけた。
「うん。王宮から戻った後、イリアから聞いたよ」
「私もイリアたちと一緒に地下洞窟へ行きたいなー」
「ダメだよ。イリアの代わりに学院の魔術コースの授業を引き受けたんだろう?」
「そうだけど……」
アイリスは俯いた。
「それに、子供たちもその授業を楽しみにしているんだ。ガッカリさせないで欲しいな」
「うーん……」
アレックスは前からアイリスの腰に手を回して抱き寄せた。
「そんなに行きたいの?」
「うん……。冒険みたいで楽しそうじゃん」
アレックスは眉根を寄せる。
「イリアは絶対に圭人を連れて行かない、と言っていたよ。どうやら古代遺跡のようだから、魔術が未熟なものは足手まといだ、と——」
「——知ってるよ……」
アイリスは唇を突き出した。
「圭人、ようやく魔術コースが軌道に乗ったんだ。圭人がいないと僕が困るんだけどなー」
アレックスはアイリスの真似をして唇を突き出した。
「そうだよね。アレックスの苦労は無駄にしたくない……」
アイリスが言うように、王立職業訓練学院の魔術コース設置は容易なものではなかった——。
魔術コース設置を公表した時、国中から反対意見が多数出てしまった。
『危険』、『怪しい』、『ハミルトン家は王家から出て行け』……など、魔術の偏見が根強かったからだ。
それでもアレックスは国中をまわり、国民に『魔術は危険なものではなく、むしろ国の発展に貢献できる。法律を作って危ないことは絶対にさせない』と必死に訴え続けた。
魔術が使える愛する妻と子供が偏見に晒されることは絶対に避けたい、という思いが強かった。
王家内部でも反対意見は出ていたが、アレックスの子供にご執心だった国王夫妻が『素晴らしい才能は活かすべきだ』と公言したことで一気にハードルが下がり、魔術教育に対する騒動は徐々に収まっていった。
魔術コース設置は2年遅れてしまったが、今では魔術コース入学希望の問い合わせが多く寄せられている。
「アレックスのために授業がんばるよ」
「ありがとう、圭人」
アレックスはアイリスを抱きしめ、額にキスをした。
「アレックス、行けない代わりに甘えたいな……」
アイリスは上目遣いでアレックスを見た。
アレックスは微笑む。
「ちょうどそうしよう、と思っていたよ」
アレックスはベッドへアイリスを連れて行き、2人は甘くて濃密な時間を過ごした。
*
数日後。
アレクシア南東部の地下空洞。
カイルから報告を受けた後、イリアはすぐに誰も立ち入らないように結界をこの周辺一帯に張っていた。
そのため、ミラとフランケも今回の探索に参加している。
「——なんで今までこんな大きな場所が見つからなかったんだ? ハミルトン家や王家の記録にも載っていないぞ?」
ミラは手帳型の記録魔術書を見ながらそう言った。
現在、3人はフランケの透視ゴーグルによって発見した巨大空間の中におり、ネックレス型浮遊魔道具と球体浮遊照明を使って見回っていた。
そこには石でできた建物が数百件以上あり、1つの地下都市とも言える大きさだ。
この空間は、カイルが発見した空洞のさらに下層に位置している。
「本当に不思議。これは明らかに古代遺跡だわ。きっと隠れて暮らしていたのね」
イリアは廃墟のような建物を眺めていた。
「ミラ、イリア、地面の下には水道設備があるよ! 今は水が流れていないようだけど」
透視ゴーグルをかけたフランケは嬉しそうに教えてくれた。
「こんな深い場所なのに空気が清浄なんて……すごい技術ね。せめて魔術の形跡があると嬉しいのだけど……」
「イリア、探索魔術を使ってみて」
「いいわ、ミラ」
イリアがその魔術を発動した直後——。
「うわっ……すげーな……」
ミラは驚きの声を漏らした。
その声でゴーグルを外したフランケは、驚きのあまり口をあんぐりと開ける。
「ここ……魔術で作られた都市だわ!」
目を輝かせながらイリアはそう言った。
イリアの探索魔術によって白色に視覚化された魔術使用跡は、暗灰色の建物や地面、壁、天井のいたるところにびっしりと付いていた。
その種類は魔法陣や文字列、図形など……多種多様だ。
それらは全て白く光っているため、照明がついたように明るくなり、地下都市の全体像がはっきりと見えるようになっていた。
「すごい! 圭人にも見せたかったな~」
ミラはイリアの発言に少し吹き出した後、フランケの方へ顔を向ける。
「兄さん、この魔術跡すべて記録できる?」
「問題ない」
ミラの問いかけにフランケは頷いた。
「準備するから待って」
フランケはそう言うと、肩にかけたカバンを開けてごそごそと何かを探し始めた。
「あった」
フランケは嬉しそうに微笑み、手に持っている分厚い本を開いた。
「転写・記録を開始」
フランケが真っ白のページにそう話しかけると——。
空間全体が光に包まれた。
しばらくして光が消えると、ページの上に立体的な画像記録が出現した。
それは、地下都市がまるごと完全に複写したものだった。
「イリア、魔術解読頼んだ。今日は危険を避けたいから帰るぞ」
「わかったわ」
「りょうかーい」
3人はイリアの転移魔術でアレックス公邸へ戻った。
0
あなたにおすすめの小説
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する
春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。
しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。
その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。
だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。
そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。
さて、アリスの運命はどうなるのか。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる