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肌触りのいいシーツの上。窓から差し込まれた陽光の眩しさに気付き、ゆっくりと目を開いた。
ふわふわ、ほわほわ。そんな効果音がつきそうな瞳でこちらを見つめている男が、真っ先に私の視界に入ってくる。
「……っ!」
半分寝ぼけていたはずが、その景色を見た瞬間に一気に覚醒する。
毎度のことなのにいつも新鮮に焦ってしまうのは、私のせいではないだろう。美人は三日で飽きると言うけれど、そんなの絶対に嘘だろうとこの顔を見るたびに思う。
現に私は三ヶ月が経った今でも、この光景に慣れることができないでいるのだ。
飛び起きるように上体を起こして手櫛で髪を押さえつけると、目の前の男はくすくすと笑いながら、とびきりに甘い声で「おはよう」と口にした。
「お、はよう……。志央くん」
慌てて口にした挨拶は、ひどく引き攣っていて声は掠れている。寝起きのせいで可愛く取り繕うこともできない自分の声に嫌気がさすが、志央くんはそんな私を気にする素振りを見せない。
ただ幸せそうに瞳を細めてこちらを見るだけで、その表情を崩すことはなかった。
真田志央(さなだしお)――演技力とビジュアルの良さに定評のある、人気の若手俳優だ。
先日、「この真田志央まじでメロい」という一文と共に、ファンがSNSに投稿した切り抜きがバズりにバズり、また新たなファンを増やしていた。
投稿されていたのは、映画の宣伝で出たバラエティ番組での、女性芸人とのやり取りである。
その姿もテレビ用に作ったものだと言ってしまえばそれまでなのだが、それが彼の素の姿であるということを私は知ってしまった。
恐ろしいことに、彼はプライベートでもその仮面を外すことはないのである。
「メロい」という形容詞を使い慣れていない私ですら、確かにこれはメロいと思ってしまうくらい、志央くんの女性への接し方はパーフェクトなのだ。
役者というのはすごいもので、本当に恋をしているような瞳を、目の前にいる私に向けてくれる。
半年前に彼が出演していた、少女漫画が原作の映画にもこういう表情を見せるシーンがあったのだ。
何度も何度もその映画を繰り返し観たからこそ、今向けられているものすべてが演技だと分かるけれど、そうじゃなければ確実に勘違いしていて危なかった。
「志央くん、また起きてたの?」
「うん。せっかく一緒にいるのに寝ちゃうのもったいないから」
「う……も、ほんと……なに言ってるの。時間ある時はちゃんと寝た方がいいよ。先に寝ちゃった私も悪いけど……」
「なにも悪くないよ? 限界まで俺に付き合ってくれてありがとう。朝まで一緒にいてくれて嬉しい」
心底幸せそうに微笑まれると、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような心地がする。
演技だと分かっていても、朝から向けられるこういうセリフにドキドキしないわけがないのだ。
起きたばかりなのに夢の中にいるみたい。しかし、夢の中のようなセリフだからこそ、これがとりあえず並べられただけの言葉なのだと分かってしまう。
志央くんのように誰でも選べるような人が、私に向かって本気でこんなことを言うわけがないのだから。
「寝ても一緒に過ごしたことに変わりはないんだから、夜はちゃんと寝ようよ。睡眠は大事だよ」
「移動中に寝てるし、一緒にいてくれる時間は彼女の顔見てた方が回復するんだよ。だから起きてるだけで、普段はちゃんと寝てる」
「……志央くんがそういう感じなら、まあ、私は別にいいんだけど……」
志央くんの顔を見ないように俯き、布団の中できゅっとシーツを握る。
今の言葉も、また本気で受け取りたくなって危なかった。
(こんなの、真に受けちゃだめだ)
私のことを「彼女」だと志央くんは言ってくれているが、自分が何人目の「彼女」なのかを私は知らない。
三ヶ月前に初めて肌を合わせてから、今回が五回目。会う頻度はそんなに多くなく、ただこういう行為をするためだけに志央くんと会っている。
気が向いた時に「会えない?」と志央くんから連絡が来て、彼の自宅に入れてもらってエッチをするだけの、そういう関係だ。
芸能人が相手なのだから外で会えないのは当然で、デートなんて勿論できないし、会うとなったら人目のない場所にするしかない。だから志央くんの部屋――本当に住んでいるのかは知らないけれど――である、マンションの一室で会う。
友達や家族に紹介などできるわけもなく、誰にも言えない関係だけどそれも仕方がないことだと、最初から肝に銘じている。
まめにメッセージを送ってはくれるけれど、直接会うのは二~三週間に一回程度。
きっと、こうやって細く繋ぎ止めている都合のいい存在は私だけではないのだろうと、簡単に想像がついた。
ふわふわ、ほわほわ。そんな効果音がつきそうな瞳でこちらを見つめている男が、真っ先に私の視界に入ってくる。
「……っ!」
半分寝ぼけていたはずが、その景色を見た瞬間に一気に覚醒する。
毎度のことなのにいつも新鮮に焦ってしまうのは、私のせいではないだろう。美人は三日で飽きると言うけれど、そんなの絶対に嘘だろうとこの顔を見るたびに思う。
現に私は三ヶ月が経った今でも、この光景に慣れることができないでいるのだ。
飛び起きるように上体を起こして手櫛で髪を押さえつけると、目の前の男はくすくすと笑いながら、とびきりに甘い声で「おはよう」と口にした。
「お、はよう……。志央くん」
慌てて口にした挨拶は、ひどく引き攣っていて声は掠れている。寝起きのせいで可愛く取り繕うこともできない自分の声に嫌気がさすが、志央くんはそんな私を気にする素振りを見せない。
ただ幸せそうに瞳を細めてこちらを見るだけで、その表情を崩すことはなかった。
真田志央(さなだしお)――演技力とビジュアルの良さに定評のある、人気の若手俳優だ。
先日、「この真田志央まじでメロい」という一文と共に、ファンがSNSに投稿した切り抜きがバズりにバズり、また新たなファンを増やしていた。
投稿されていたのは、映画の宣伝で出たバラエティ番組での、女性芸人とのやり取りである。
その姿もテレビ用に作ったものだと言ってしまえばそれまでなのだが、それが彼の素の姿であるということを私は知ってしまった。
恐ろしいことに、彼はプライベートでもその仮面を外すことはないのである。
「メロい」という形容詞を使い慣れていない私ですら、確かにこれはメロいと思ってしまうくらい、志央くんの女性への接し方はパーフェクトなのだ。
役者というのはすごいもので、本当に恋をしているような瞳を、目の前にいる私に向けてくれる。
半年前に彼が出演していた、少女漫画が原作の映画にもこういう表情を見せるシーンがあったのだ。
何度も何度もその映画を繰り返し観たからこそ、今向けられているものすべてが演技だと分かるけれど、そうじゃなければ確実に勘違いしていて危なかった。
「志央くん、また起きてたの?」
「うん。せっかく一緒にいるのに寝ちゃうのもったいないから」
「う……も、ほんと……なに言ってるの。時間ある時はちゃんと寝た方がいいよ。先に寝ちゃった私も悪いけど……」
「なにも悪くないよ? 限界まで俺に付き合ってくれてありがとう。朝まで一緒にいてくれて嬉しい」
心底幸せそうに微笑まれると、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような心地がする。
演技だと分かっていても、朝から向けられるこういうセリフにドキドキしないわけがないのだ。
起きたばかりなのに夢の中にいるみたい。しかし、夢の中のようなセリフだからこそ、これがとりあえず並べられただけの言葉なのだと分かってしまう。
志央くんのように誰でも選べるような人が、私に向かって本気でこんなことを言うわけがないのだから。
「寝ても一緒に過ごしたことに変わりはないんだから、夜はちゃんと寝ようよ。睡眠は大事だよ」
「移動中に寝てるし、一緒にいてくれる時間は彼女の顔見てた方が回復するんだよ。だから起きてるだけで、普段はちゃんと寝てる」
「……志央くんがそういう感じなら、まあ、私は別にいいんだけど……」
志央くんの顔を見ないように俯き、布団の中できゅっとシーツを握る。
今の言葉も、また本気で受け取りたくなって危なかった。
(こんなの、真に受けちゃだめだ)
私のことを「彼女」だと志央くんは言ってくれているが、自分が何人目の「彼女」なのかを私は知らない。
三ヶ月前に初めて肌を合わせてから、今回が五回目。会う頻度はそんなに多くなく、ただこういう行為をするためだけに志央くんと会っている。
気が向いた時に「会えない?」と志央くんから連絡が来て、彼の自宅に入れてもらってエッチをするだけの、そういう関係だ。
芸能人が相手なのだから外で会えないのは当然で、デートなんて勿論できないし、会うとなったら人目のない場所にするしかない。だから志央くんの部屋――本当に住んでいるのかは知らないけれど――である、マンションの一室で会う。
友達や家族に紹介などできるわけもなく、誰にも言えない関係だけどそれも仕方がないことだと、最初から肝に銘じている。
まめにメッセージを送ってはくれるけれど、直接会うのは二~三週間に一回程度。
きっと、こうやって細く繋ぎ止めている都合のいい存在は私だけではないのだろうと、簡単に想像がついた。
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