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蝶々は甘ったるい蜜がお好き
①
しおりを挟む蝶々は電車の中でずっと藤堂の手を握っている。
そして、蝶々は藤堂がバッグにしまっていただてメガネとニット帽を取り出しまた藤堂にかぶせると、満足気に微笑んだ。
「藤堂さんのこのスタイル、私、すごく気に入ったんです。なんだか、この間、藤堂さんの禁断の小部屋で読んだ漫画に出てくるヒーローみたいで。
あ、藤堂さん、私、またあの部屋に行きたい。藤堂さんの家に行っていいですか?」
藤堂は少しだけ不安になっていた。蝶々はこの変装している自分に興味があるだけなんじゃないかと…
「いいよ、じゃ、何か食べ物買って行こう。めちゃくちゃ腹減ってるからさ」
藤堂はそう言うと、隣に座っている蝶々の手を握り返す。藤堂の肩にもたれて小さく頷く蝶々は、世界の誰よりも可愛いかった。
……あ~、俺は完全にいかれてる。
「藤堂さん、私、藤堂さんの禁断の小部屋で少女漫画に触れて、ちょっとだけ興味が出てきて、また違った楽しみが増えたみたいです。
だから、今度は私が藤堂さんをそういう気持ちにさせてあげたいなって思って」
藤堂の肩にすりすりしながら蝶々はそう言うと、藤堂へそっと耳打ちした。
「ホラー漫画を10冊ほど持ってきました。蝶々の最高に面白い10選です。藤堂さんもホラーも好きになってくださいね」
……どうりで、スーツケースがこんなに大きいはずだ。
藤堂はがっくりと肩を落とした。
二人はコンビニで食料を買い込んだ。藤堂はガッツリ系の弁当を、蝶々はおつまみ系のおかずを選び、美味しそうなワインも忘れずに買った。
「で、後藤とはどんな話ができたんだ?」
藤堂は自分の家のテーブルに買ってきた物を並べながら、蝶々にそう聞いた。蝶々は買ってきたおつまみのラップをベリベリ剥がしながら、忙しそうなふりをして何も返事をしない。藤堂はそんな分かりやすい蝶々の様子を呆れた顔で見ている。
「俺にはちゃんと報告をする義務があるからな」
「何でです?」
「何でです?って、そもそも、俺が極秘事項を危険を冒してお前に教えたんだろ?
編集長にも全ての責任は俺が負いますって言ってあるし、そもそも、本来なら蝶々はまだ知り得ない情報なんだから、それに、そもそも」
「そもそも、そもそも、そもそもが多過ぎます。もう、分かりました!」
蝶々は、後藤が蝶々を信頼して教えてくれた情報を今度は蝶々が信頼している藤堂に教える事は、何も咎められる事ではないと無理やり判断した。
「じゃ、絶対に約束してください。
藤堂さんにこの大切な情報を教える代わりに、藤堂さんは私がこれから計画してる事に口を出さないという事を」
藤堂はお弁当を食べながらしばらく考えた。とにかく腹が減ってはまともな考えは浮かばない。まずは、今日の公園での痛ましい状態の藤堂和成から、爽快で頭の切れる藤堂和成に戻してからだ。
「藤堂さん、聞いてます?」
蝶々はあの大きなスーツケースから小さなワインボトルを取り出した。
「え? 今、何が出てきた?」
まるでここが自分の家のように何の違和感を覚えずにワインを取り出した蝶々に、藤堂は大げさにわざと質問してみた。
「ワインですよ。さっき、コンビニで買った後、持ってきていた事を思い出したんです。コンビニのワインよりは確実に美味しいので」
蝶々はとびっきりのほっこり笑顔でそう答える。
「そのスーツケースにどんだけの物を入れてるんだ?
ホラー漫画の単行本といい、ワインといい、次は魔法の水晶玉とか出てきたら怖いからな」
蝶々は大きな声で笑いながら、持参した七色の紙コップに二人分のワインをそそぐ。
「今日は藤堂さんも飲んでくださいね。大丈夫です。毒とか盛ってないですから」
蝶々にそう言われると、本当は毒が持っているのでは?と疑心暗鬼になってしまう。
「毒は盛ってないけど、蝶々の媚薬をほんの一滴入れてありますから」
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