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Rescue3 僕を信じてほしい
⑤
しおりを挟む愛はそう言いながら、今日制作部の人に言われた辛辣な言葉や、愛を見る軽蔑した目を、嫌でも思い出した。
舟を目の前にして、呼吸が少しすつ乱れる事に更にパニックになる。
「舟君、ごめんね…
ちょっとベランダに出ていい?」
愛がそう言って立ち上がると、舟はすぐに愛を抱き寄せた。
「愛ちゃん…? 大丈夫?
顔色が急に悪くなったけど…」
愛は舟のその言葉と抱きしめてくれる温かい温もりに、涙がとめどなく溢れ出す。
あの日以来、精神のバランスがおかしくなっても、自分しか頼る人はいなかった。
処方されたたくさんの薬と小さな紙袋が、ギリギリの私の心を守っていた。
お互い好き合っていると思っていたあの人に、何の迷いもなく背を向けられた時の衝撃は、今でも愛の心を傷つけた。
人を信じる事が怖くなって、他人の誹謗中傷に負けず嫌いの愛の心はボロボロに打ちのめされて、それでも孤独にずっと耐えてきた。
舟君の腕の中は本当に温かくて、規則正しく聴こえる心音が愛の荒んだ心に新しい時を刻んでくれる。
愛は子供のようにしゃくり上げて泣いた。恥ずかしいけど、でも涙が止まらない…
もう、舟君の前では嘘はつけない…
これが、この弱い私が、今の本当の姿だから…
舟は愛を抱きしめながら、でも、手は拳を握りわなわな震えた。こんなにもボロボロになっているなんて、夢にも思わなかった。
「体は…?
まだ、治ってないの…?」
確か、愛は体調を崩して入院したと聞いていた。舟は大切な宝物を誰かに壊されたような、そんな悔しい思いが頭を渦巻く。
「パ、パニック症候群みたいで…
人によって頭痛だったり立ちくらみだったり症状は様々なんだけど…
私は過呼吸になっちゃうんだ…」
愛は不思議な感覚に驚いていた。
あの時発作が確実に起きたはずなのに、紙袋の応急処置も薬も飲まないままで、私の体はもう平常に戻っている。
初期の頃は、あれだけの涙を流したら発作は増々ひどくなった。
でも、どういう事だろう…
舟に抱かれただけで、それだけなのに、あの苦しい発作は姿を消した。
舟は自分の腕の中で、落ち着きを取り戻す愛を静かに見守った。
愛の瞳から涙が消え、激しかった呼吸がゆっくりといつものリズムを刻み始めた時、舟はまだしっかり愛を抱いたまま静かに耳打ちをした。
「愛ちゃん、一つだけでいいから…
僕の言う事を聞いて…
明日、退職願いを会社に出してほしい」
愛は舟に抱きしめられたまま、首を横に振った。
「無理だよ、舟君…」
舟は更に強く愛を抱きしめる。
「愛ちゃん、僕を信じてほしい…
まずは、前に進むためには勇気が必要なんだ。
愛ちゃんはその会社に飼われている人形じゃないだろ?
愛ちゃんの本気を見せなきゃダメだ。
まずは、退職願いを出してその意思を会社に伝える。
その時点で、愛ちゃんを特番に使う事も考え直すはずだ。
絶対、上手くいくから…
僕を信じて、絶対に大丈夫だから…」
いいや、僕が何とかする。
愛ちゃんの知らない所で、僕がちゃんと愛ちゃんを守るから…
愛は舟の胸の中で舟の心臓の音に耳を澄ましている。
私にとって勇気がいる事は、会社に退職願いを出す事よりも、また誰かを信じる事。
でも、舟君の心臓の音は私に癒しを与えてくれる。
「…うん、分かった。
頑張ってみる。
この勢いのまま、何も考えずに退職願いを出す…
舟君を信じてみる。
でも、もし、上手くいかなかったら、また今日のように抱きしめてね…」
大丈夫だよ……
何があっても絶対に上手くいくから…
僕に失敗なんてない…
だから、愛ちゃんは普通に時を過ごしてて…
舟は愛から少しだけ体を離し、愛の顔を覗き込む。やるせない気持ちは隅に置き、愛に精一杯の笑顔を見せる。
「上手くいかない事は絶対ない…
それと、抱きしめるのは、僕の方がお願いしたいよ。
僕は365日、毎日愛ちゃんを抱きしめたい…
きっと、僕の方が、はるかに、愛ちゃんがいないと生きていけないみたいだからさ…」
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