イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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これ以上可愛くならないでよ…

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 凪の送別会は、前回と同じでイケメンバーのVIPルームを貸し切っていた。舞衣にとっては二回目の来店だけど、何度来てもこの雰囲気には絶対に慣れない。

 客もイケメン、スタッフもイケメン、普通の感覚の舞衣にはとにかく居心地が悪すぎた。
 そして、一番の窮屈さの原因は、ジャスティンがその店にいる彼氏とラブラブになってしまう事。今夜も、予想は当たって、ジャスティンはカウンターに入り浸っている。


「マイマイは、今、彼氏はいないの?」


 映司と謙人に挟まれた舞衣は、何も答えずに下を俯いた。


「舞衣、映司は例の女優の彼女と別れたんだって。今は彼女募集中らしいよ、な?」


 映司は謙人にそう突かれて、冗談っぽく舞衣に質問した。


「好きな人は?」


 舞衣は顔を上げその質問にはちゃんと答えた。


「好きな人はいます」


 舞衣がそう言った途端、急に部屋の照明が消えた。


「凪様の登場でーす」


 謙人はそう言うと席を立ち、隠し持っていたクラッカーを鳴らした。

 パンパンパン…

 凪を歓迎してミラーボールの光が凪を照らし出す。
 この送別会に顔を出すために、凪は黒のスーツに着替えていた。暗闇の中、凪の光沢のあるスーツと真っ白なシャツが異様に目立って、まるでファッション雑誌から抜け出したモデルのようだ。

 でも、相変わらず、目つきは怖いかも……


「凪、よく来たな。
って言うか、舞衣を迎えに来たんだろ?」


 ジャスティンは店に入ってきた凪の肩を掴んでそう言った。


「余計な事言うなってお前に言われそうだけど、でも、忠告しておく。
 舞衣のキャラはお前もそうだったように、ここにいる連中にはかなり人気がある。

 中途半端な別れになるんだったら、ちゃんときっぱり別れてやるのが舞衣のためだぞ」


 凪はジャスティンの言葉を聞きながら、舞衣の居る方へ目を向けた。
 映司は凪を見てここへ来いと手招きしている。


「くだらねえ」


 凪はジャスティンに一言そう言うと、ジャスティンを見る事なく舞衣の元へ歩いて行った。


「凪、待ってたぞ」


 そう声をかけてきたのは、年長者のトオルだった。そして、舞衣の隣の席は空いていない。


「他にも用があるので、10分で帰ります」


 凪がそう言っても、トオルは嬉しそうな表情を変えなかった。


「いいよ、いいよ。
 来ないって思ってたから、来てくれただけで嬉しいよ」


 凪はトオルと話しながら、でも、目線はずっと舞衣を追っていた。決して優しい目つきじゃないのは自分で分かっている。嫉妬と欲望に支配されている自分の精神を抑えつけるには、相当の忍耐力が必要だったから。


 凪の周りには、別れを惜しむ人達が集まっていた。ここのバーのスタッフで涙を流している人間もいる。
 舞衣は、注がれたビールを一気に飲み干す凪をうっとりと眺めていた。
 でも、そんな状況でも、映司は舞衣の隣から離れようとしない。舞衣は、映司が隣にいる間は簡単にこの場所から抜け出せないと思い、ジャスティンのいる方へ行こうと席を立った。


「どこ行くの?」


 映司は舞衣の手を取り座るように促す。


「マイマイの頼んだカクテルがもうくるよ」


「……はい」


 舞衣は自分の押しの弱さにため息をついた。他人の親切を断る事ができない人の良さが、いつも肝心な時に邪魔をする。
 すると、いつの間にか、取り巻きを引き連れた凪が舞衣の正面に座っていた。舞衣を見る凪の顔は、恐ろしい程の鋭い目つきが際立っている。それは、獲物を狙う飢えた狼を彷彿させるほどだった。


「映司、明日出て行く人間はほったらかしかよ」


 凪は皮肉を込めてそう言った。


「そうだな…
 確かに今の俺には、明日出て行く凪より、今俺の隣に座っているマイマイの方が大事かも」


 凪はフッと鼻で笑った。でもその笑顔は氷のような冷たさを放っている。


「トオル、じゃ、そろそろ、俺行くわ」


 凪は舞衣にはっきりと聞こえるように、わざと大きな声でそう言った。


「そうか……
 明日は午前の便だから、会社には来ないんだよな…」


「落ち着いたら、片付けにまた東京に戻ってくるし」


 トオルは凪ときつく握手をした。ジャスティンも謙人も店のスタッフも、何度も凪と別れを惜しんだ。舞衣も立ち上がり凪に挨拶に行こうとすると、映司がまた手を引っ張る。


「凪、元気でいろよ~
 ほら、マイマイも手を振って」


 舞衣はここにも捕食者がいると思った。イケメンエリートの底知れないプライドは、誰にも負ける事を許さない。
それは凪も映司も一緒だ。
 凪はちらりとここを見る事もなく、手を振り出て行った。


 ここからが舞衣の時間との戦いだ。舞衣はジャスティンに味方になってほしくて、何度もジャスティンに目配せをした。ジャスティンはやっと気付いてくれたけれど、彼氏の隣で面白そうに微笑むだけで何も役に立ちそうにない。


「あ、あの、私も、今日は約束があって……
 主役の凪さんを送り出せたので、私も帰ってもよろしいでしょうか?」


 舞衣は時計を見た。

 ヤバい、もう三分過ぎてる……


「そんな、まだいいじゃん。
 ほら、まだこのカクテルだって全然飲んでないし」


 映司はカクテルを指さして、意地悪くそう言った。


「あ、そうですね……
 じゃ、このカクテルは、いただきます」


 舞衣は時計を見ながら、そのカクテルを飲み干した。

 か、辛い……
 それに、めちゃくちゃきついよ~~

 舞衣は飲み干したグラスをテーブルの上に置くと、もう何も言葉を発せずに、黙々とバッグを自分の手元に寄せる。


「マイマイ、まだいいじゃん」


 映司はまたスタッフを呼んで、舞衣の新しい飲み物を頼もうとする。


「い、いや、あの、友達が待ってるので…」


「じゃ、その友達をここに呼べばいいよ」


「い、いや、それは……」


 舞衣が言葉に詰まっていると、トオルが遠くの方から手助けをしてくれた。


「映司、舞衣を困らせるなよ。今日、来てくれただけでも偉かったんだから。
 舞衣ちゃん、もう、帰っていいよ、今日はありがとうね」


 舞衣は泣きそうだった。ちょっと苦手になっていたトオルの事が、この瞬間で大好きになった。


「ありがとうございます」


 舞衣は店にいる全員に頭を下げ、やっと外に出る事ができた。そして、急いで凪の待つ入居者専用のエレベーターまで走る。


「はい、5分50秒、遅刻」


 凪はイライラが頂点に達しているような怖い顔をして、エレベーターの前に立っていた。



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