選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第一章 棒人間の神様とケモナー

不穏なお勉強

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「いいですか、坊ちゃま。良い旦那様の前には、良い若様にならねばなりません。その為にも、まずは、お勉強します。良い若様は、そこらの貴族だから当然としている愚か者と違い、学が必要てす。今日は、先日お話したように、歴史のお勉強と、外国のお話をいたします」

 楽しい散歩と昼食を終えて屋敷に勉強をする為に、戻ると、キャスがいつものように、青い燕尾服に、金色の線が入った帽子を被って待っていた。
 そして、お決まりの言葉をいってから、椅子に腰をかける。

 俺…いや、この微妙な状態はケルンだからと思って切り離そう。
 ケルンは、椅子に座っているに座って、机に広げてあるノートと、教科書代わりに積んである何冊かの本を眺める。地図や図鑑が確認できた。図鑑は楽しみにしている。

 勉強をする指定席なのだが、小さいから大きな机だと身長が合わないためにキャスが椅子になってそのまま教えてくれる。
 しかし、机の高さがあっていないから、仕方なくキャスの上に座って勉強しているが、気のせいか、身長が伸びても、机との高さの差が縮まらないような…気のせいだよな?

「坊ちゃま。今日も厳しくまいりますよ」

 厳つい顔で、頭を撫でられつつ、授業は開始する。色々ツッコミたいが、ケルンの感情が流れてくるので、そちらが優先される。

 もー!絵本と違うの!
 という思いだ。
 絵本だとケルン尾ような子供を『若様』と呼んでいた。その差異さいが気になるのだろう。

「キャスー。いつになったら、僕は若様って呼ばれるようになるの?お勉強してても、坊ちゃましかいわれないよー?」

 どうやらいつまでも、坊ちゃまと言われるのが、ちょっと恥ずかしくなってきたようだ。第一次反抗期だから、お兄さん扱いされたい年頃なんだ。まだ、四歳だが、このままずっと、坊ちゃまと呼ばれるのかな?という疑問も持っている。

「そうですね…坊ちゃまが、学園に入られたなら、周囲からは、若様と呼ばれるようになるてしょう。ただ、屋敷の使用人は、坊ちゃまが、奥方をめとられ…ご結婚されるまでは、坊ちゃまとお呼びするでしょうね。旦那様も、まだまだ、ご隠居あそばしなさるわけがありませんし」

 ケルンにわかりやすく、噛み砕いていうが、ようは、成人までは、坊ちゃま扱いか。

 貴族社会の結婚はかなり早い。寿命が延びたから、晩婚化するのかと思ったが、逆に早めに結婚して、跡継ぎを残せば、残りの人生を楽隠居で過ごせるからという、何ともいいにくい理由と、以前の寿命の短い時の名残からだ。

 成人は、十五歳。誕生日ではなく、十五歳になって、初めての新年に合わせるようになっている。ほぼ一年待つ者もいれば、誕生日翌日に成人する者もいる。当日が誕生日の者はいない。新年の一日目は、産まれた日にできないので、たいてい、前日の年の瀬にしている。

 十五歳になったら、即結婚する者もいるが、うちの場合は、早くても二十代。遅かったら、三十代でも結婚していない者もいる。

 というか、年頃の奴らは独身だ。まぁ、使用人だと、そろそろ適齢期になるんじゃないか?庶民でも、四十代までに結婚するのが、普通だし。

 この世界の住人はだたいたいが、寿命が長い。そのうえ、成人を迎えてからゆっくりと老化していく。
 歳はとっていてもでも、見た目は若くみえる。もちろん個人差はあるし、中には百歳で見た目が二十代っていう人だっているそうだ。
 エセニアも、十代後半にしか見えないのに、二十代後半だし、キャスもどこかの院生かと思えるのに、三十代だし。ナザドは…きっと魔力が多いんだろうと思いたいが…キャスと双子なのに、十代後半にしかみえない。下手すれば妹のエセニアの方が姉にみえるほどだ。
 ティルカは…とりあえず、ヒゲを剃ればいいのに。

 しかし、奥さんか。まったく想像できないな。
 許嫁もいないというより、できないからな。

「んー。奥さんかー。よくわかんないけど、優しくて、僕の家族と仲良くできる人じゃなきゃ嫌だなー」

 優しい人が、まず第一にいいな。あとは人として、好きになれる人。尊敬できるっていう好きでな。でも、当面は、奥さんは遠慮する。初恋もまだだし、残念ながら、四年しか人生を満喫していないしな。
 成人する頃には、そういったことも興味が出るだろう。不思議と知識に、男女の恋愛についてが、一つも検索できない。知識で積まれてきたはずなんだが…今までの人生、もしかしたら…いや、やめよう。

「当然です。それに家柄も確かで、聡明で、奥様には勝てないでしょうが、せめて、足元にでも及ばないような者に、坊ちゃまの奥方はふさわしくありません」

 許嫁がいなくてよかったが、舅?姑?のような目線で話されると、婚期が、駆け足で逃げていく気がしてならない。俺、いやケルンのではなく、キャスの婚期が。

「それでは、勉強しましょう。この国の名前はいえますか?」

 雑談から、ざっくりと、勉強の時間に変わる。キャスは、会話が苦手なのか、勉強の時の方が優しい話し方になる。普段は、どこか気を張っているのか、家庭教師になった瞬間は、本当の先生みたいになる。

 ナザドと職を交換すればいいのにな。手紙が届いていたが、そろそろ生徒の一人か、二人か、消されるんじゃないだろうか。

「えっと、スメイン大陸、中央都市国家、クウリィエンシア皇国!」

 一応、自分の住んでいる大陸と、国の名前は覚えている。先週もやったし、たまに、画集の絵の追加で、名前を見るからだ。

「正確には、スメイン大陸、中央都市国家群、盟主国、クウリィエンシア皇帝国です。ですが、そこまで覚えている必要はありませんので、花丸を一つ」

「やったー!あと三つで、新しい本を持ってきてねー!鳥さんの!」

 おっしゃー!キャスの授業は、花丸が、十個貯まると、好きな本で、好きな勉強ができる。今、ケルンの関心は、鳥だ。見たことのない鳥を、図鑑で見て、それを元に絵を描いている。

 クジャクの生息地が、雪国って、どういうことだと、俺はまた情報整理に悩まされたが。

「では、歴史です。国ができてから、今年で何年目でしょうか?」
「えっと…去年のお祭りが、二千二百回目のお祭りだったから、二千二百一回目?」

 建国祭は、毎年やっているが、去年は節目だからと、特に大きかった。

「国としてみるならですが、では、王朝…今の王族になってからは?」

 王朝…先週やったが…スラ吉と追いかけっこして、疲れて、軽く寝てたからな…いくら俺が、知識を蓄えられるとはいえ、ケルンの意識がないと、蓄えられないのだ。

 五百…か。五百五十…くっ。あやふやだ。とりあえず、五百年は経っているはず。

「五百年だったっけ?」

 上目遣いで、頭の上のキャスに、尋ねる。自信がない時に、これで聞けば、キャスの雷がなくなって、ため息をつかれるが、まだ優しく教えてくれる。

「残念ながら、不正解です。先週のおさらいです。初期の王朝は、クレエル王朝でありました。当時は、北の大陸の国々も統治しておりましたが、戦好きの王は、他種族であった、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人族、同じ人族と関係なく、戦を起こしていました。また、当時のクウリィエンシア皇国には、他種族はむろん、特に獣人とは婚姻を結んでは…結婚してはいけないという法が存在しました」

 うっすら、記憶に残っているが、そんな時代に生まれなくてよかったな。争いは嫌だし、もしかしたら、将来、獣人の奥さんっていう未来があったっていいじゃないか!先人の言葉だって、愛の前には、きっと滅びる!

 だって、ケモナーだもの。チャンスがあって、波に乗らねば男が廃る!

 しかし、他種族との婚姻をしない、純血主義か…絶対に弊害があるな。歴代の王様の数とかみると、その答えを察することができる。

「その為、旧人族とも、真の人を、自称した、クレエル王の一族は、寿命が極端に低かったそうで、長く生きても、五十前後で崩御…死んでしまったそうです」

 やはりな…今の寿命の長さは、混血によって、魔力やスキルが増えた結果だろう。徐々に血が混ざっていき、今のような環境になっていったんだ。純血といえば、結果として、近親婚化になりやすい。

「今の王族は、クレエル王の息子が、獣人国の姫と駆け落ち…結婚を、反対され、別な土地で授かった息子を祖とする、ファルメリオン王朝で、今年で五百五十三年になります」

 ふむ。駆け落ちか…しかし、なんで、その生まれた息子が王様に?

「どうやって、今の王様に繋がるの?別な土地で暮らしてたんでしょ?」

 俺の疑問をケルンの口で聞いてもらう。

「他種族、とりわけ、学園として今は機能している、学園都市サイジャルが、大きく関わります。昔は、エルフ達が、種族も貴賤…身分も問わずに、学問を学べるようにしていたのですが、そこに王朝の開祖が、身を寄せていた時に、あまりにも戦が多いことに憤り、支援を受けて即位したそうです。その故事…昔を見習って、今でも、王族も学園に入学する決まりです」
「へぇー…さっきから、名前が出てこないけど、何ていう名前の王様なの?」

 教科書をみてもその王様の名前がない。王様の名前が出てこないことに、疑問がわいた。キャスの顔をみると、苦虫を、噛み潰した顔というか…苦々しさに、痛みだろうか?形容しがたいものが混ざった顔で、吐き捨てるようにいった。

「ええ…そうですね。開祖の名前は、庶民は口に出してはいけないのです。それに、これは、勉強しなくていいです」

 初めてかもしれない。勉強しなくていいなんてキャスがいうなんて。
 キャスは、歴史のお勉強は終わりですというと、図鑑に手をのばし、机の上に広げる。

「それでは、大陸の名前はいくつご存知でしょうか?」

 名前が書かれていない、いくつかの大陸が乗っている絵図を指し示して、問題を出す。

「えっと…今いるのが、スメイン大陸でしょ?北にはオローシュ大陸で、東の海の向こうに、サナギッシュ大陸。えっと、南が、チュー、チュー…ねずみさん?」

 ふっ。こういうときこそ俺の出番だ…あれ?ここまで出かけているのに、出てこない。チュー…チュー…

「南はチューネシュ大陸です。スメインは、やや中央にありますが、西には、ほぼ同じ大きさのドラルイン大陸が存在しています。北のオローシュは、東西南北一番の広さがありますが、魔族の活動範囲にかかる為、実際に生活できる範囲は、一番小さなサナギッシュと変わりません」

 そうか、確か、古代スメイン語で、『シュ』は果てとかいう意味だから、チューネシュか。おしいな。チャーシューに似てるなとか、思っていたが、チューとくれば、ネズミだろ。

「チューチューねずみさんじゃなかったー」
 そうだな。そう覚えられてたらでないわ。

「北の大陸より、さらに、上にはメローシュ大陸がありますが、古代から、人類は生活できておりません。古代語の通り『死の果て』と言われるような、過酷な環境であることもありますが、魔族の生活拠点となっております。さらに、ドラルイン大陸より、西方には、ディバーシュ諸島もありますが、ここも五百年前から、人類は住めていません」
「スメイン大陸で、一番大きな国って、クウリィエンシアだよね?だったら、他と比べても一番大きな国になるの?」
「スメイン大陸の中では、クウリィエンシア皇国です。クレエル王朝時代なら、一番大きな国でもありましたが、ドラルイン大陸は、大陸統一…大陸の中に、国は一つだけですので、ドラルイン大帝国が一番、国としては大きいです」

 なるほどな…統一国家なんてもんが、そんな近くにあるのか。覚えておこう。
 キャスが、そういえば、と、各大陸が載っている、海図だろうか。挿し絵にしては、味気ないそれを指差していう。

「スメイン大陸にはもう何千年も前に無くなってしまったものがあるのをご存知ですか?」

 無くなったもの?
 わからなくて、首をふる。

「他の五つの大陸には、それぞれ大きな大樹が生えています。命の樹、世界の樹、大陸守護の樹と呼ばれ、クウリィエンシアでは、導きの樹といわれ、ボージィン様と並んで、祀られていたそうです」

 棒神様ぼうじんさまと!…あれ?でも、教会とかで、見たことないな…もしかしたら、もう、信仰されてないのか?

「記録によれば、魔族襲来の折に、折れてしまったか、燃えてしまったか…定かではありませんが、忽然と消えてしまい、今でもスメイン大陸の東の果て、ナガティルの大穴を見れば、大樹の名残を感じます」
「へぇー!そんなに大きな樹だったんだー!見たかったなー。他の大陸には、まだ生えてるんだよね?あ!北のオローシュ大陸とか近いよね?母様の国もあるんだよね?行ってみたいなー!」
「いけません!坊ちゃま!」

 どんなものか、見てみたくて、キャスに提案というか、行ってみたいとただ伝えたたけで、雷が落ちた。何か気に触ったのだろうか?
 びくついてしまったぞ。大きな声に出さないでほしい。ケルンが泣きそうになると、思考がそっちに、うぇ。もってかれ。うぇ。我慢してくれぇ。
 ちょっと涙目になっているケルンを見て、ばつが悪そうにしながら、キャスは、眼鏡をくいっと一度あげた。

「いえ…北は、寒いのです。お風邪を引かれたら、遊ぶことも、絵を描くことも、勉強もできなくなります。それに、魔族も多くいるのです。まして、旦那様も、奥様もお忙しいのです。北には、行く必要がございません。もしも、どうしても、大樹を、見てみたいと仰るなら、今度のお勉強の時に、『写し板』ですが、ドラルイン大陸とサナギッシュ大陸の大樹が載っている本をお持ちいたします、いいですね?」

 目をそらしながらも、ケルンの機嫌を取るのに必死になっているようだ。ケルンの機嫌を治っているかなんて、この返事を聞けばわかるだろう。

「はい!先生!」

 いつか教えてくれるまで、気長に待つとしよう。もしかしたら、過保護すぎるのが原因かもしれないしな。
 しかし、大樹か。世界樹とかは知識で知っているが、どれだけ大きくて、どれだけ凄いんだろうな。
 ぜひ、見てみたいものだ。
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