選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第二章 事件だらけのケモナー

成敗!とはいえない顛末

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 その後、偽マルメリーはカルドたちに連行されてすぐに本物のマルメリーの居場所が判明した。
 ガマ商人の店に閉じ込められていたそうだ。

「おお!我が愛しいマル!こんなに痩せてしまって!」
「ガリアン様!きっと助けてくださると信じてましたわ!」

 という救出劇があったそうだが、その話を聞いても、否定しかできない。

 現在、屋敷で話を聞くために連れ込まれた女性は、その…スレンダーではない。かなりふくよかな女性が本物のマルメリーだったようだ。
 ただ、ふくよかな見た目ではあるが、母性的というか、優しそうというか、甘えてもいいという空気がある。
 この世界にはどうやらないみたいだけど、保育士さんとか、あ、乳母とか?そんな空気をまとっているな。

「君を守れなくてすまない!ああ!マル!」
「いいえ!ガリアン様!助けに来てくださった貴方をみて…わたくし…また恋に落ちてしまいましたわ!」

 父様からきいたところ、ゲッペン将軍はかなり厳しく、ガリアンも早くに母親を亡くして、常に顔が厳めしいことで有名だったそうだ。ところが、とある夜会でたまたま料理を食べているマルメリーをみて、恋に落ちたそうだ。

「王の盾所属で、鉄仮面と呼ばれるほど感情の薄かったんだがな…いまじゃ、あれだ」

 王の盾?軍かなにかかな?
 あんなとろとろした顔で、鉄仮面はないだろう。
 ガリアンは父親がかなり厳しい人のようだったから、確かにマルメリーみたいな人に一目惚れしそうだ。

「マル…」
「ガリアン様…」

 あ、いい雰囲気。

「うっほぉん!…子供の前ですぞ?婚姻前の男女ならば、なおさらでは?」

 カルドの指摘で二人は顔をそらした。うん、まぁ、こっそりならいいと思うけど、今はだめだろうな。

「それでは、確認させてもらおう」

 父様たちの話を、うとうとしながら聞かせてもらう。さすがにケルンの眠気が酷いのだ。お昼ご飯を食べずに寝そうだ。
 今回、同席している理由は警護のためっていうのと、ぐずるケルンのためだ。じわじわと悲しさと悔しさで不機嫌になっているのだ。

 魔法が使えれば、もっと早く解決していたし、誰も怪我をしなかったかもしれない。
 どういったてもう終わった話なんだがな。

 まず、事の起こりは、冷風機だった。
 冷風機をフレーシュ地方の酪農農家が使っているのを、子飼いにしていたガマ商人からの情報でゲッペン将軍が知った。ガマ商人は私腹を肥やすつもりでゲッペン将軍に話を持ち込んだようだが、ゲッペン将軍は違った。

 魔石を組み合わせることで強力な武器が手に入るのではないか。

 そう考えたが、エフデがどこにいるのかわからない。フェスマルク家が窓口になっているが、本人の姿を見た者がいない。才能がある者を囲うのが貴族だと考え、屋敷内に閉じ込めているのではないか?

 そんな憶測を浮かべながら、情報を一番持っていそうで、確実に顔を出すカルドに狙いをまずつけた。薬を混ぜた香水をカルドに会うときに嗅がせる。耐性があるため上手くいかなかったが、それでもしつこく来ていた。
 少しずつ効果が出ていたが、それでもフェスマルク家に気づかれる前に終えてしまいたい。

 いい具合に、息子に嫁ぐフレーシュ伯爵の娘が花嫁修業の奉公に行くという情報が手に入る。
 領地を出てすぐにマルメリーを誘拐して、裏ギルドで冒険者を雇ってエフデを拉致。そのまま武器作りに従事させる。ガマ商人にはエフデの絵画やその他の美術品を売買させ、利益を得る。

 早期に終わらせようとしたのは、フェスマルク家を恐れてもだが、自分の息子に気づかれる前にマルメリーも始末する気だったからだ。
 母様を毒殺し、屋敷に放火。その罪をマルメリー、ひいてはフレーシュ伯爵になすりつける。

 という計画だったそうだ。
 ガマ商人が全部白状したので知ることができた。

 ただ、ガマ商人の香水やより強力な作用のある偽マルメリーの香水に使われた薬の出所はわからない。
 ガマ商人も一度買い付けただけの品だそうだった。
 できれば、そこのルートは潰してほしいんだがな。

 偽マルメリーの香水は、香水をつけている者を上位者として刷り込むらしい。しかもガマ商人の香水を嗅いだ者なら確実に効果がでるというものだったそうだ。心の隙間や、不安があればさらに効果が出るらしく、使用人には、少なからず不満があり、それを利用する。
 効きが悪いに決まってる。うちの使用人を他と比べたらいけない。

 認識阻害の効果があると知ったときのカルドはもの凄く怖かった。
 具体的いうなら情報が合っているを確認するため、起こしていた偽マルメリーが気絶するほど怖かった。

「情報が全部、フレーシュ伯爵に繋がっていたから、盲点だったが…」
「あの父ならやりかねませんね」

 父様はガリアンをちらっとみる。ガリアンは何の感情もない顔でいいきった。

「父は私が捕らえます。その後の処分は全て我が身もお受けしますと、王にはそのようにお伝えしようと思います」
「ガリアン様!」

 親子で罪を償うというつもりのようだが、別にガリアンは悪いことをしていない。責めを負うべきなのは、ゲッペン将軍だ。それは父様たちも同じ気持ちのようだった。

「待ちなさい。ゲッペン将軍には責任を取ってもらうが…君はとらなくていい」
「ですが」
「親の罪を子が背負うものではない。それにだ…婚約者を置いていくつもりか?」

 ガリアンが父様の言葉に気づいて、マルメリーをみる。
 薄い化粧すら剥がれるのもおかまいなし、涙を流すマルメリーは、ガリアンの手を取った。

「ガリアン様!貴方が死ぬなら、私も死にます!」
「なにをいうんだ!マル!君のような素敵な人ならもっと良い男が」
「いいえ!ガリアン様!私はこのような体形でしょ?フレーシュの田舎豚…夜会でずっといわれいましたわ…でも、そんな私をかわいいといってくださったのは、ガリアン様だけです!私には貴方しかいません!」
「マル…!」
「ガリアン様…!」

 あ、またいい雰囲気。思わず、眠気が飛んだようだぞ。

「うっほぉん!」

 カルドの咳払いでまた顔をそらした。残念そうにしているのは母様ぐらいだ。

「ではそうだな…この件についてはあとで王と話をしよう。それでいいかな?」
「はい、かしこまりました」

 そのあと細かい打ち合わせをしはじめたが、そろそろ俺にも話をさせてほしい。
「んー?エフデ?」
 頼むな、ケルン。

「どうしたのケルン?」

 母様がケルンの呟きを聞いて話しかけてくる。

「あのね、母様。エフデがねー…みんなにいいたいことがある!っていうのー」
「エフデが?なにをいいたいのかしら?」
「あのねー」

 周りの大人たちを見渡す。状況がわかっていない、マルメリーやガリアン、いまだにどうにか逃げようと辺りをきょろきょろしている偽マルメリーはどうでもいい。
 大事な家族がケルンをみているのを確認して、俺の考えをケルンに渡す。

「エフデがねー自分が原因だから、かなしーの。そんでね、みんなをね、悲しませたりしたくないの。だから、もうエフデはなにもしないって」
「何もしない?」
「うん。あのねーもうね…お絵かきもしないし、何も作らないって…だってそうじゃなきゃ、うえっ、また、みんな。うわぁぁぁエフデぇぇやぁぁぁ」

 うわぁぁぁ、い、ひっぐ、いや、ひっぐ、落ち着け!つられうえっ!
「ぼくぅぅ、一緒にお絵かきしたいもん!うあああん!エフデもほんとは!ひっぐ!したいもん!」
 ひっぐ!いや、あのな、ひっぐ!ケルン。俺だってさ、お前とするお絵かき好きだぜ?こうしたらって提案してすぐにやれる、お前はすげぇよ。我がことながらな。いっぱい動物を描いたり。家族が喜んでくれたり、絵本だって好きだっていう人がいるんだから、本当は続けたい。
 でもな…俺が知識を使えば誰かが傷ついてしまう。

 そんなの俺は望んでいない。
 過ぎた知識は生活を豊かにも、争いを産むことにもなる。
 だから、俺はもうなにも作らない方がいいんだ。

「ダメです!」
「エ、エセニア?」

 エセニアがお客の前なのに出てきて話すなんて。いつも後ろに控えているのに。

「坊ちゃまには才能があります!みんなを喜ばせる才能があります!それをおやめにならないでください!」
「でも…困る人がいないもん」

 俺が作らなくなっても困る人はいないだろう。新作を待つ人はいるかもしれないが、ごく少数なはずだ。

「はいはい。じゃあ、エセニアの言い分が正しいか試してみましょう。ね、ティス。これで上手くいくんじゃない?」
「そうだな…あまり使いたくない手だが…あぶりだしにはちょうどいいかもしれない」

 二人の会話にに誰もが疑問を浮かべたが、あとは二人に任せておけということだった。

 さて、五日ほど経ってしまったが何が起こったか整理しよう。

 まず、ゲッペン将軍は捕縛された。どうも神聖クレエル帝国と一戦起こす気だったようだ。そのために強力な武器と資金を生み出すエフデを欲した。
 息子のガリアンが父親の計画を王に報告したことで、ガリアンは無罪。ただ、結婚は来年に延期となり、ひっそりとすることに変更になったそうだ。

 疑いの目をもたれたフレーシュ伯爵は、特に気にもせず、娘を大事にするなら許すとガリアンに伝えたそうだ。いい人に間違いはなかった。
 マルメリーはどうするか話し合い、誘拐を露見しては彼女の後々に関わるということで、フェスマルク家に予定通り奉公にきていたということになった。不埒なマネはされなくても、貴族社会ではあらぬ噂がたちやすいそうだ。

 奉公にきたマルメリーはよく働いた。貴族令嬢ではなく、新人メイドなんじゃないかと思うほどだ。フレーシュ地方では、どこでも牛を飼っていて、子牛が生まれるときは、身分も老若男女関係なく、みんなで協力しているぐらいだそうだ。
 普段から時々、炊事洗濯もやっていて慣れているそうで、あのカルドが珍しく本採用してもいいといったぐらいだった。

 本人の気性も我が家にあっていたってのもあるな。

「まぁ、やはり、エセニアさんにはこのリボンが合いますわ!」
「いえ、そんな、マルメリー様」
「マルでいいわよー、ほんと素敵!」

 なんて獣人を嫌う人が貴族でもいるなかで、エセニアと友達になっているぐらいだ。そして、趣味がいい。エセニアの髪を束ねるリボンはいつもそっけなかったのに、女の子らしいふいふりがついている。
 耳がぴこぴこしているから、本当はそういうのが好きだってのは丸わかりだ。母様と相談してドレスでも買ってもらおうか。

 それと動物に詳しくて、俺も気に入った。ケルンのつたない言葉もなんと解読してみせた。

「んでねー、もーもーは、もーって鳴くの?」
「フレーシュ牛ですか?そうですねーどちらかというと…モキューですね。それに、他にもフレフレ鳥っていう、踊っているみたいな鳥がいまして、うちの地方でしか食べていないんですが、お肉もとても柔らかく美味しいですよ。卵はそのままお菓子のように甘いのですよ」
「なにそれぇ!」

 どこで聞きつけたか、その日にフレフレ鳥が食卓にあがった。とても美味かった。

 そんな好印象な人柄だから、父様たちもガリアンとの結婚を支援するそうだ。

 と、現実逃避がてら奉公を終えて、一度フレーシュに帰省するマルメリーを見送ったあと、屋敷に近づく馬車をみながらため息をつく。

「またきたぁ」
 もう、本当に勘弁してくれ。

「あら、坊ちゃま。お手紙をとってきます。あとでお読みしますね?」
 
 そういって、エセニアは馬車からどんどんおろされる手紙を受け取っている。

 これはエフデが引退すると発表した日からずっと届いている手紙だ。ほとんどが嘆願書になっている。
 まず、すぐに印刷所の所長がやってきて、屋敷の前で土下座だった。

「曾孫がわしの足の上で絵本を読むのが老後の生きがいなのです!どうか、エフデ様にお考えを変えていただけるように!お願いします!」

 帰ってもらうのに数時間もかかった。
 その後、王都からたくさんの似たような手紙やナザドを通じて学園からも手紙が届いた。
 さらには教会から作家活動の妨害を受けているなら保護をするというお触れまで出る始末。

「エフデ、すごいねー。みんなやめないでーって」
 それでも俺は作るつもりはない!…絵本は考えるけど。

 そんな意固地もすぐに崩壊したがな。

 リンメギン国からクウリィエンシア皇国へ国書がとどいたのだ。
 内容はクウリィエンシア皇国中に広められ、他国にも同じ内容が届けられた。

「この度のエフデ様のご引退の原因は軍閥の暴走であるとのこと。リンメギン国にとって替えのきかぬ人物であり、恩人でもあるエフデ様の創作活動を邪魔するなどはなはな遺憾である。もし、エフデ様をそのように利用しようとする輩がいる国があれば、これより先、我らドワーフの恩恵はないものとしれ。通貨も我らは管理せぬ。武具もみな回収する。さらに、エフデ様を傷つけるようならば、我ら一兵卒まで報復するものなり。クウリィエンシア皇国はすみやかにエフデ様の創作活動を再開いただけるよう、嘆願なされよ」

 という熱いラブコールだ。
 ちなみに、今も馬車いっぱいで送られてくるのはリンメギン国民のみなさんからのお手紙です。もう、やめてください。

「リンメギン国王様が、絶食の誓いにはいられ…まぁ」
「ご飯は食べて!」

 そんなことを聞かされて引退できるか?

「あのねー、エフデがねー、引退しないからーかんべーん?してくださーいって」
 本当にこうなるとは思わなかったんだ。どんどん手紙で屋敷が狭くなるし、人命に関わるからやめて。

「どこで勘弁なんて言葉…ヴェルムか…よし、じゃあ、引退は撤回ってみんなに伝えておこう。いやーよかった。王宮の前にも群集が群がりだしてたからな」
 
 父様に引退の撤回を伝えた。もっと酷いことになるんだな、引退って。死ぬまで現役でいよう。
 
「なぞは解けて、解決したねー。これで、たんてー?」
 迷探偵にはなれたな。
 はぁ…愚痴れる友達、大募集だ。




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個人的に三年ぶりの完全新作でした。
細かい所は裏話で保管していくので気長にお待ちください。

なんともうじきブックマークが二百人です!マジですか!やったー!ですよ。
宣伝とかしていないもので、そんなに人が来ないと思っていたもので、予想していませんでした。
少しでもくすりとできたらいいなって思っています。
誤字報告や、一言感想も随時募集中です。
励みというより、書くスピードが上がります!

ここまで読んでいただきありがとうございます!
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