選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
62 / 229
第二章の裏話

追話 ある副官の手記 ②

しおりを挟む
 本日の記録

 今日は非番であった。
 なのに、私は任務につくことになった。上官の命令でだ。

 本日は、私は非番であったということで、前々から計画していた王都での観劇を満喫するはずだった。
 私がまだ、二歳の頃にあった大戦を基にした、今話題になっている舞台であった。
 
 光の王を顕現させたというフェスマルク家当主であられる、法王ティストール様のお話ということで、心待ちにして非番を待っていたのだ。
 物語も佳境かきょうをむかえ、ついに、裏切りの国へ精霊達の怒りが落ちるという場面で、いきなり『コール』がかかった。

「俺だ。今すぐ任務についてもらう」
「自分は、非番であります」

 小声で返答するが、上官の命令には逆らえないのは、わかっていた。だが、非番である私でなくても部下は何人もいるではないか。

「そういうな。命令ではなく、お願いなんだからよ」

 苦笑混じりでの申し出を断ることはできそうになかった。

「はぁ…わかりました。何をすればいいですか?」
「ポルティの…そうだな…刃物を持っていて、気絶している者が、勾留されているだろうから、仕事場まで、連行しろ。数は…二人、いや、三人ぐらいか。お前は俺が行くまで、待ってろ」

 ポルティといえば、馬で二時間近くかかるのだが、上官のご実家といえばいいのか、使えている主家近くの町である。何事か不穏なことがあったのだろうか。
 その時の私はそう思った。

「あと、尋問するから、地下室あけておけ。見つかったら、連絡寄越せ。以上だ。ああ、観劇は最後までしておけ。命令だ。楽しめよ?」

 観劇を終えて、私は任務についた


 本日の記録

 本日は…いや、今日は、あれほどまでに胸糞の悪いものをみたことがない。
 上官の勘の良さは、スキルによるものであるから、疑いがなく、いわれたとおりの人物三人を勾留所から、駐留地へ連行した。
 上官は詳しく話さない方だが、決して、間違って処罰をするような方ではない。

 上官は、何やら祝い事があったらしく、いつもなら、深夜でも尋問をなされるのだが、終わるまでは来られないと申された。時間的にも翌日に来られると思った私は軽く尋問をした。

何故なにゆえ、あの場で倒れていた?」

 おそらくリーダー各であろう細身の男に質問する。
 だが、この男は、ただ者ではないのは、すぐにわかった。街中で気絶するようゴロツキではない。目を見れば、殺人鬼特有の狂気に満ちていたのだ。

「さぁな。仕事を終えて…ああ、品物を売っていた。他の奴も同じこといってたろ?俺らは普通の商人だよ」
「品とは、何だ?」
「何でもさ。珍しくて、金になるものなら、何でも。商売相手も様々でな。何を扱っているかと聞かれると、何でも屋と答える」

 すでに、こいつらの容疑は、容疑ではないことなど、調べがついている。
 盗み、恐喝、誘拐、殺人。それだけでも外道であるが、この男には、さらにもう一つの容疑がある。ことと次第によっては、国王直々に裁きをする可能性がある。

「そうか、では…貴様達の所持品に、さる貴族の紋章が入った袋があったが、どこで手に入れたものだ?」

 この男達がもっていた大金の入った袋には、この国で、いや、他国でも比べる相手のいない魔法使いであり、建国貴族、序列三位のフェスマルク家の紋章が刻まれていた。
 フェスマルク家に手を出せば、精霊が怒る。
 そう建国当初よりいわれ続けるほど、高い魔力を持っている。それだけでなく、執事におさまっているが、かの影狼かげろうの主の家に侵入するなど、普通ならばありえない。

 だから、私は気になった。そして、質問をしたことで、気分が悪くなった。

「へぇー…あのガキ…やはり、いいとこのガキだったか…おしいことしたなぁ…」

 男の目の狂気が増した。

「俺は金に興味はねぇんだよ。ただ、相棒に化粧してやりたくたくてなぁ…」

 腰元を触るが、刃物は全てとりあげていた。刃の部分はとりあげていたが、持ち手には、血が渇いてこびりついていた。私が持つ『鑑定』スキルでは、最低でも、四十人以上…それも子供と若い女性ばかりの血が付着しているのがわかった。そのほとんどが…死んでいることもだ。

「若い女もいいが、やはり、貴族の子供の肌は違ったな!あんなにも柔らかくて、綺麗に血が流れてたんだ…ああ、惜しいことしたなぁ…」

 フェスマルク家に、待望の嫡男が誕生したことは、建国貴族の家の者全てが知っていた。
 魔力の高さからも、血統が断絶する可能性が高く、先の内乱のおりなど、先代当主と奥様が戦場で亡くなり、現当主のみを残すだけとなり、建国貴族序列三位の血が絶えると思われた。
 
 そこに産まれた若君は、一部の貴族のみが存在を知っている程度にとどまっている。
 他の貴族は養子だと思っているようだが、実子だ。
 まさか、若君に手を出したのかと、戦慄を覚えると、扉が閉まる音が聞こえた。不思議と開く音は一切しなかった。

「ほぉー。そうか。惜しいことをしたな」
「上官!」

 上官が、笑って立っておられた。いや、あの笑みは魔族を前にした時もみた、あの獲物を得た獣の笑みだった。

「いやぁー。悪いな。非番なのに、頼んでしまって。まさか寝ずに調書を書いてたのか?少し寝てこいよ。ここからは、俺が調書を書くからよ」
「はい、自分は側におります。どうぞ、調書をなさってください」

 軍属というものは、否定する時も肯定せねばならない。もちろん、命令であっても、私は離れる気などなかった。
 上官は冷静ではない。
 私のスキル『推察』は、少しの情報があればわかってしまうのだ。

「寝てきていいっていってだがな…まぁ、いいか、さて、ハサミ野郎の名前は…ガーネイねぇ…出身は不明と…ふーん…」

 偽名であるのはわかっている。しかし、上官のスキルなのだろうか?ハサミを使うことがわかったのだろう。他にも刃物がある中で、よくおわかりになったものだ。

「ああ、そうだ。お前、ハサミで、子供を二人傷つけただろう?」

 椅子に座りつつ、上機嫌に尋問を始める。上官のスキルの一つが、展開されていくのが、わかる。
 魔法にも似たこのスキルは、間違いなく『審判』だ。質問に答えると、嘘偽りがつけなくなる、尋問官でも、少人数が持ち、誰が持っているか秘匿される。
 上官のスキルのことは、聞いていたが、いざ目の当たりにすると、こうも楽になると思わなかった。
 光のない瞳になって、ガーネイは語りだした。

「蛇のガキと貴族のガキのことか?…ああ、やったよ。蛇の親も殺した。捕まえた蛇のガキは、いくらなぶっても、泣きもしねぇが、貴族のガキは、ちょっと斬ったら、ビービー泣いてよー…楽しかったぜ?興奮して思わずいっちまいそうだった」

 尋問部屋に汚い笑い声が響いた。

「そうか」

 上官は、冷めた声を、笑顔のまま放った。

「どうせ、貴族を傷つけたら、良くて奴隷。悪くて死刑なんだ。あーあ…最期にあのガキの腹を切り裂いて、泣き叫ぶところがみたかったんだがな…惜しいなぁ…」

 男は恍惚な表情を浮かべていた。
 上官は、拳を作り、人差し指をあげる。

「一つ、この国では、三十年も前から奴隷の売買は禁止されている。また、獣人保護法もあんのは知ってるか?」

 次は中指だった。

「それから、建国貴族に手を出した奴は死刑だ。これも知ってるな?」

 次に薬指を。

「ああ、最期にもう一つあったな…俺の主を傷つけた罪は、ただ死ぬだけではすまさねぇからな」

 そういって、拳を握ると、ガーネイはうめき声をあげて、体を震わせ、頬を掻きむしり、両の指全てがあらぬ方向へとまがり、気絶した。

 ああ、上官はスキルを使われたようだ。私も詳しく知らないが、一人で魔族の子爵を討伐したおりも同じスキルを使われていた。
 主の敵を滅ぼすスキルとは、どのようなものであろうか。

「生きて、死ね。死にながら生きて、殺されても、死ねず、腐りながら生きて、死ね。魂すらも、死ね」

 まるで呪いをかけるように、酷く陰鬱いんうつな声音でガーネイに語りかけた。
 いつもの太陽のような声からは想像もできない。
 私は、あえて上官に尋ねた。

「上官、他二名はどうなさいますか?」

 上官は、興味がなくなったように、軽く手をふられた。

「国の法で裁け。俺は、調書をまとめる」

 そういって、ガーネイを牢へ連れていくように命令をくだされたあと、私に申された。

「そうだ、副官。少しは強くなったか?」

 私は何も答えれなかった。どうすれば、いいのかわからない。

「まぁ、お前もよくやってる。だが、まだ弱い」

 いつか、上官と肩を並べて任務をこなせる日がくるよう、日々精進あるのみだ。



 クウリィエンシア皇国第五軍副官 ベルマリー・メルヴィアム

追記
 護送が決まり法廷へ搬送しようと、牢に行くと、三人とも何者かに殺害されていた。鋭利な刃物で首を切断されており、なかなかの手練れと思われる。
 上官は、心当たりがあるようであったが、対処をすると申されて、この話はないことになった。
 軍の施設に入り込み、監視の目すら掻い潜るとは…一体、何者であろうか。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
副官は女性でした。
日付がないのはわざとです。貴族のたしなみが日記ですが、守秘義務の高い場合は、本人しか読めない魔道具を使ってたりします。そのことはいずれ触れると思います。

ブックマークや感想は本当に励みになっております!
誰かが読んでいるんだと思うだけで、書く気持ちが強くなるんです。

裏話はあと何作か書いたら終わりですので、三章は来週ぐらいの予定です。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...