選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第五章 影の者たちとケモナー

思念石

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 ミケ君たちは別として、この一週間で環境の変化があった。
 攻撃魔法の一件からケルンに対する周囲の対応が少し変わってしまった。まるで危険物扱いをするかのように、一歩を置いているように思う。

 ケルン本人は気にしていない…いや、もしかして、気づいていないのかもしれない。 
 産まれたときから屋敷とポルティしか知らず、話す人間も限られていたから、他人の目というものに鈍感なのだろう。
 逆に人から注目されたり、多人数がいる場所には慣れていないから、気疲れを起こしやすい。

 目標にしていた友達百人は現状、かなり厳しくなった。

「どうしたの?」
 いや…どうにかケルンの頑張りをみんなに教えたいなって思ってな。
「魔力操作?…まだ僕苦手だなぁ…」
 それでもだいぶ使えてきているじゃねぇか。

 最初の頃は毎回、鉄砲水を出してしまっていたが、今は…樽ぐらいの大きさで、鎧の前面を潰す程度まで調整できるようになった。
 あとは大きさを小さくすればいいんだろうが…小さくすると貫通して危ないんだよな。
 要練習だ。でも、ケルンがほとんど一人でやれているのは成長している証拠だ。さすがに、那由多から必要な魔力を抜き取るのはまだ難しいが、そのうちやれるようになるだろう。

 人の噂も七十五日だっけか?目立たないようにすればきっと溶け込めれるはずだ。
「友達もっとたくさん作る!そんでね、お兄ちゃんも友達作ろう!どうし?って友達でしょ?」
 仲間だな。
「なかま?なんだか、かっこいいねー」

 ケモナーは業が深いからな。仲間意識も高いもんなんだ。
 しかし、直接語れないのは少しだけ残念ではあるな。

「ほら、私語は慎めよ」
「はーい」

 授業中にも関わらず話をしていたから、アシュ君に注意をされてしまった。ケルンのそばには固定メンバーになりつつある四人がいて、他の人たちは少し離れている。

「アシュはここでも兄貴みたいに世話焼くなんて病気やで。妹には優しくしてるんやろな?」
「うるさい」

 マティ君が茶化しているがなるほどな。アシュ君には妹がいるのか…ってか、やっぱり歳下に思われてないか?同じ歳だぞ?

 今日の授業は前回の人数よりも少ない。前回は聴講生を含めて二百人くらいかな?今回は全部で五十人ほどだ。

 しかし、ケルンがいる0クラスの人間はケルンを含めても今いる五人だ。あとの五人は別の場所にいるみたいだ。

 おそらくだが、色んなクラスから生徒を抜いてごちゃ混ぜにしているんだろうな。そうすること生徒がどこに属しているかを隠そうとしているのかもしれない。
 そこまでして生徒の情報を隠そうとしても、それでもケルンの情報が回っているということは、どこかで情報のやりとりが発生しているみたいだな。

 あと、やはり聴講生の視線が強いように思う。不思議なことにまるで互いを牽制しあっているかのように、聴講生同士が睨みあっていることもある。

 何か理由があるのかもしれないが、わからないものはわからないしな…あまりにも続くようならナザド…は何をしでかすがわからないから、サーシャル先生とかにでも相談するか。

「それでは今日はみなさんにはあることを試してもらいます。聴講生は経験している人ばかり…ともいえないか…まぁ、来たばかりの人にも説明をしますが、今回使うものはかなり貴重な物です。盗もうなんて思わないでくださいね?かなりの金額を盗んだ人の実家に請求しますから」

 ナザドは鍵のついた箱を取り出して授業を受けている生徒に注意する。どうやら教材か資料が貴重な物らしい。
 それにしても…聴講生で来たばかり?留学生とかが混ざっているってことなのか?

「あれは高いで…何が入ってるんや」

 ぼそっとマティ君が目をキラキラさせながら呟いたが、その言葉に同意しかない。古びた箱はその箱だけでも高価であろう。
 総ミスリル製らしき無地の箱と持ち手に宝石類がちりばめられた黄金の鍵を使うのだ。中身はもっとすごい物が入っているのだろう。

 杖を使わず箱を空中に浮かせてナザドに、新入生の何人かが驚いて声を出した。しかしながら、気にするどころか仕事と割りきっていて興味がないナザドは淡々と鍵をあけて、中から真っ黒な玉を取り出した。
 あれが高価な品物らしいが、まったくそうはみえない。

「今日の授業はこれを使います」

 薄汚れた大人の拳ほどの丸い球体をつかんでいるが、そこが沈んでいる。硬そうかと思ったが、実は柔らかいのかもしれないな。

「この粘土のような石は『思念石』といいます」

 聞いたこともない石だな。素材になりそうなものはだいたい勉強をしたつもりだったが、まだ変わった石があるようだ。
 もうすこし本をケルンに読んでもらって知識の補完をしていきたいな。

「粘土?」
 遊び道具じゃないんだぞ。

 粘土と聞いて遊べると思ってしまうケルンが、小難しい本を読めるようになるにはまだまだかかりそうではあるがな。

「はい、では質問です。魔力を使って行う行為はいくつあって、その名称はなんでしょうか?はい、君」

 答えるようにいわれた子は首元に鳥類のような羽毛がたくさん生えている赤毛の少女だ。

「はい。私たちが普段使っているもので精霊魔法、魔術、スキルです」

 すらすらと答えているが、ナザドはまったく顔が変わっていない。うっすらと笑っているだけだ。

「残念ですが足りません。もう一つは原始魔法といいます」

 原始魔法?聞いたことがない魔法だ。

「原始魔法は、とても古く、主に龍や純血のエルフが使っているとされる魔法です…現在は使い手はほぼいません。国ごと隠れた龍やエルフが生きているのならば廃れてはいないでしょうがね」

 使い手を選ぶ魔法か。前の授業でいっていたやつとは別の魔法みたいだな。

「長い年月で種族の壁はなくなっていきました。みなさんにはわずかばかりでも、龍やエルフの血が流れているでしょう。この『思念石』は原始魔法の才能がある者が念を込めれば何かの形になります」

 耳がとがった生徒が自身があるのか、にやにやしている。エルフの血が流れているのか。
 はて?我が家はどうだったかな?ハーレムのご先祖様もいたが、結局人族の奥さんから一人だけ子供がいただけだし…寿命は長くなってるんだし、どこかで混ざっていても薄いだろうな。種族はわかんないし。

 まぁ、ほとんどの生徒も身体的な特徴はないみたいだけど。

「みなさんも眠っている才能を見つけてみましょう!…まぁ、なくても落ち込まなくていいですからね。ほとんど無意味なことなんで。教えれる人がいませんからね」

 その言葉に何人かの生徒がうなだれた。みんな耳がとがってたから、先祖返りとかかな?国を閉ざしてからは純粋なエルフはみることがない。
 森にいるエルフは自分たちの文化や魔法を全て棄てることでこちらに残った人たちで、みな混血だ。見た目はエルフに近いらしいが、能力はだいぶ低くなっているそうだ。

 学園なら失われたものを取り戻せるかもと期待していたんだろうな。古代魔法とかの研究の講義とかもあったし。

 さて、配られた『思念石』は面白い。ぐにぐにとしているが、ゴムよりは固い。のびないし、ひんやりとしている。石が柔らかいというのが正解だな。

「面白いね!作れるのかな?それとも、さい…さいくつ?」
 採掘であってるぞ。どうだろうな。まぁ貴重品らしいから、どちらにしても数は少ないんだろ。

 どんなものかと分析していると声があがった。成功者がでたのか。

「おい、あいつ」
「あの聴講生…人形を作ったぞ…」
「形を作れるだけでも素質はあるのに…物体の創造なんて…エルフか竜人か?」

 手のひらの上にデッサン用の人形に似た物を作り出した聴講生が出たようだ。みると、あのケルンと同じくらいの杖を持っていた銀髪の女の子だった。
 おかしなことに、彼女は無表情だ。驚くとか嬉しがるとかをせず、当たり前だと思っているみたいだ。

 他の聴講生がいうように、銀髪で色白なエルフか竜人なのかもしれないな。参加しているところをみると、留学生みたいな立場なんだろうし。

「僕もやる!むむー!」

 力を込めてはいるがぐにゃぐにゃと指先の力だけで動いているだけで、形状記憶合金なのか、すぐに球体に戻る。

「んー…必要なのって魔力…かな?」
 試してみろよ。手伝ってやるから。
「うん!一緒にやろ!」

 嬉しそうにいって魔力を『思念石』に注いでみるが効果はない。
 ただ、嬉しいことに必要だと思う量が使えている。那由多からたった十ほどの魔力を取るというのは、海の水から桶で窓の水滴ほどの水を取り出すぐらい難しいのだ。
 そのため、俺が那由多から一万ほどまで調整したものをケルンは使っている。桶からスプーンで水滴分を取り出すなら、できる可能性はかなり高いからな。

 それでもやっぱり、ケルンは才能がある。本人はやる気がないが、俺だと思えないくらい才能の塊だな!

 あとは魔力の調整を俺がしなくても…あれ?変だぞ。流れがある。

 ケルンの中にある変な領域から『思念石』へと流れができつつある。俺でも干渉できない謎の領域なん…うお!

 突然、流れが強くなって俺の意識も流されていく。

 ふとケルンとの境界線が薄くなっていくのがわかった。まるでこの流れに俺が溶けていくみたいで…もしかして、俺は消えてしまうのか。

 待ってくれ!消えるにしてもまだケルンに別れをいってない!屋敷のあいつにも別れをいってないんだ!棒神様!お願いだ!少しだけ時間をくれ!

 そう願ったおかげか、光の洪水がおさまると、空気を感じた。匂いを感じた。触感を体が感じる。

 体温を感じた。

「へ?」
「え?」

 いつも得ていたケルンからの感覚ではなく、まるで俺一人が感じているような気持ちになっていると、俺はやけにでかい手の上にいた。そこからの熱を感じていたが、まさか、ケルンが巨人に拐われたのかと思ったが、おかしい。

 ケルンの声が俺の頭上からした。

「…お兄ちゃん?」
「お、おう。ケルンだよな?なんで目の前にいんだ?」

 なんでか目の前に知っている顔が数倍美化されているんだけど、ケルンだよな?

 深い青の瞳がみるみる喜びに染まっていくが、そのどこまでも澄んでいて綺麗な瞳に写し出されているのは棒人間だった。

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