155 / 229
第五章 影の者たちとケモナー
スカウト
しおりを挟む
「どうかな?」
そう男たちにたずねられても答えは一つだ。
「お断りする」
ケルンが半泣きなんだぞ?ふざけんなよ。
せっかく気持ちのいい朝が台無しだ。
楽しい作業をおえて実験をしようとして、ふと思い出した。
「父様との約束があったんだった…やばい」
「やばい?」
父様と約束をしていたのだ。何か作る前に相談をするって。危険なものではないし…いや、事後報告でもしておこう。
「手紙を書こう。ケルンも書くか?」
「書く!」
そういって書いたのが昨日のことだ。そのまま寝て、朝一番にナザドに会いに行こうと中庭をケルンに乗って移動をしている。
ミルデイには先に朝ご飯を取りに行ってもらい、ナザドには迎えにきてもらう。合流したら、ナザドに護衛がてら送ってもらう予定だ。
気をきかせてくれているのか、ミルデイも俺ら二人の短い散歩なら文句をいわなくなった。十分ほどだし、人が誰かいるところ限定だがな。
「朝ご飯は何かなー」
「なんだろなー。俺も楽しみなんだ」
「パンかな?ご飯かな?」
「たくさん食べるんだぞ?おやつも食べなきゃだめだからな?大きくなるためには、よく食べ、よく遊び、よく寝ることが大事だからな」
「わかってるー」
ケルンになるべくたくさん食べさせているのは身長を伸ばしたい!って理由もなくはないんだが、それよりも体力をもっとつけさせたいのだ。
魔法が使えるようになってから、どういうわけか体力不足を感じることが増えている。魔法の威力を支える足腰がないというのもあるんだろうけど…魔法を使うたびに空腹を訴えてきていた。どうも全身で魔法を使っているらしく、マラソンをしているのに近い状態らしい。
父様の父様…ケルンのお爺様も同じ体質だったから、すぐにわかったのだ。
休憩のたびにお茶をしているのは少しでもカロリーを摂取できるようにするためだ。乳幼児の頃よりも食事には気を使っている。
まったく体重が増えないから、あまり激しい魔法は使わせていない。本人が希望してもそれはもう少し大きくなってからだ。
あとはケルン本人も食べるのは嫌いじゃない。問題はハンクの料理だけということなんだが…ハンク以外が作った料理が美味しいとは思えないんだよな。
好き嫌いをしているわけではなく、舌が肥えてるんだろうな。
「お兄ちゃんも大きくなる?」
「俺はこんなんだから、大きくならないぞ?」
「そっか…早くちゃんとした体を見つけるからね!」
素材は石だから大きくなることはない。飲食は可能でもどこにいっているのか謎だし。
ちゃんとした体も…別にいいんだけどな。
朝も早めだから、内緒話をできるくらい人がいない。全然いないわけではないけどかなり少ない。
それだから前方からのしのしと近づいてくるやつらがよく目立つ。
今も前々から感じていた視線が圧を強めて近づいてくる。なんだ?
「ちょっといいかな?」
声をかけてきたのは、ケルンの倍はありそうな四人の大男たちだ。ケルンを半分囲むようにして道を塞ぐ。年齢は三倍、体重は四倍はありそうだ。
「君たち、通行の邪魔だぞ?」
俺がケルンの肩から忠告をしても、彼らは動かなかった。
一応襟元をみれば、ちらりと記章がみえた。クラスはわからなかったが、生徒のようだ。部外者だったら、警備員さんを呼ぶとこなんだが、生徒のようだなら仕方がない。相手をしよう。とりあえず、道を塞ぐな。
臨時職員の俺の言葉に反応しないとは…何を考えてんだ?
「ケルンといったか?君は魔法の才能があるね。ぜひ我が『魔法特攻隊』に所属してほしい」
「破壊力もあるというから、うちで才能を伸ばすべきだ。攻撃魔法をたくさん撃てるぞ!」
「軟弱な趣味は卒業すべきだ!さあ、クランに入ろう!」
と圧をかけつつケルンにいい続ける。
たまにあるスカウトだ。
初めての攻撃魔法のときに、聴講生がやたらといたのは、こういうスカウトのためだ。めぼしい生徒につばをつけにきているらしく、例年多いそうだ。
サイジャルでスカウトが多いのは自国へと連れて帰るためな場合もあるが、今回は『クラン戦』のためであろう。
臨時職員になるときに、ざっとした臨時職員の権利を読んだ中にもあったのだが、職員は『クラン』を認可できる。『クラン』は生徒が一人でも作れるクラブ活動のようなものだ。
だがただのクラブ活動ではない。職員は認可『クラン』の担当となる。『クラン』は年に四回の『クラン戦』というもの行い優勝者には報奨を得れるそうだ。
間もなく『水のクラン戦』がある。
『クラン戦』は水、風、地、火の四つからなり、職員や生徒が投票したり、実力を示すことで優劣を決める。
水は新人戦といわれ新入生がいるクランのみが行える。
風はサイジャルの扉を開き、外の人の投票によって決める。
地は校内戦で武と文の優勝を二組決める。
そして火は『地のクラン戦』で優勝した二組が本校の代表者として、分校や他国の学園と交流戦をする。
スキルを多く持っていたり、魔力の多い者は優勝に有利である。そのためのスカウト合戦だ。
スキルは隠せても魔力の多さなどは、初めての攻撃魔法のときに緊張で隠しきれないことや、よく見せようと張り切る子がいるので、ばれやすい。
ケルンは入らせない。魔力は問題なくても、体力を奪われやすいんだ。衰弱して、病気をするかもしれないのに、バカスカ魔法を撃たせるかっての。
ふざけんなよ。
「君たち、下がりなさい。ケルンは入らせない」
「ぼ、僕、お兄ちゃんの」
「まだクランに入ってないのだろ?」
「入るべきだ」
俺たちの断りの言葉を聞く気はないようだ。退路までふさいで、見下してきている。
「どうかな?」
これはスカウトではない。こんな勧誘は許されない。
そもそもこいつらはケルンのことを何もわかっていない。
「お断りする」
ケルンは好き好んで攻撃魔法を使えるように練習しているんじゃない。
みんなを守りたいからって気持ちからだ。父様たちや、ミケ君たち。それに俺まで含めて守りたいからこそ頑張ってきた。
それを知らないやつらがケルンを脅すとは何事だ。
「忠告だ。今すぐ道を塞ぐのをやめなさい。そうすれば見逃してやる」
俺が最終通告をしても男たちは動くつもりはない。それどころか、侮蔑を含んだ目で俺を見る。
「…俺らはこいつに聞いてんだよ。お人形は出てくんな」
「臨時職員だか芸術家だか知らねえがすっこんでろ」
こいつらからしたら、軟弱なことをしていると思うんだろうな。
「お兄ちゃんを悪くいうな!」
ケルンが大きな声で怒鳴った。けれど効果はない。それどころか悪化した。
「その威勢があるなら、うちのクランに入れるな!」
「今からやれば、地の優勝は確実だ!火も取れば俺たちも安泰だな!」
「見た目もいいから女も入るかもな!」
にやにやとしながらケルンに触れようとしてくる。
「この人たち…こわいよぉ」
鼻息が荒い男たちに前のことを思い出して、涙がうっすら浮かべてしまう。
こんな奴らに前みたくケルンを触れさせるか。
「おい。お前ら…なにうちのケルンを勧誘してんだ?しかも触ろうとしたな?誰に許可を得た?それに怖がらせて泣かしたな?ああ?」
男の手を蹴りあげてさらに、続ける。
「いいか?俺が動けるうちは、うちのケルンはお前らのような威圧的なやつと付き合わせねぇ…それに俺んとこのケルンが怪我なんてしたらどう責任を取ってくれるんだよ?ん?いってみろや!」
いっとくが、ケルンが少しでも怪我をしてみろ?お前ら楽に死ねたらいい方だぞ?
「あとな!ケルンはもう『エフデの愉快な教室』に所属してんだよ!一昨日来やがれってんだ!」
俺らでクランを作ってみるかと適当に『エフデの愉快な教室』とかいっていたんだが、初めは冗談でいったはずなのに、本当にクランになっていたのだ。書類はナザドが勝手に出していた…いいんだけどさ。本当はケルンのクランを担当したかったらしいが、忙しかったからあきらめたそうだ。
ケルンが勧誘されまくるのは予想していたからの対応だろう。
生徒はケルンだけだが、ある意味で最高のクランだと思う。みんなケルンに優しいしな。
「て、てめぇ!人形が粋がってたってな」
「忠告したよな?あんまりしつこいようだと…ほら周りをみろ」
俺に何かしようとしたんだろうが、やめておけ。
あとケルンがすっと涙が引っ込んで、杖を出そうとしたのでほっぺをつねる。こんなとこで魔法を使うと停学になるだろ。試験も近いんだ。
ナザドの影響だろうか…魔法をとりあえず、撃って考えましょうなんてあいつが教えるからだ。あとで母様に相談しよう。
周囲をみていれば冷静にそこまで考える余裕もできる。
「おい、貴様ら…エフデ様とケルン君に何をしようとした?」
「かわいい、かわいいケルン君を泣かすとか、すりおろしてあげよっかな?」
「ボージィン様が使わしてくださった方々になにしてくれてやがります?ああん?」
「ろくに成績もあがってない癖になに偉そうにいってんの?うけるんだけどー」
「脅して叶えようとするのが許されるのは幼児までだよねーあんたらやってもかわいくないし、犯罪くさいけどー…去勢する?」
あれだけ騒いでいたら、注目を浴びる。俺が大声を張り上げ続けているのも、こいつらに、隠されていて見えなくされていてもここにいると自己主張をするためだ。
姑息なんだよ。逃がさないようにして、しかも周囲から目をそらさせるなんてな。
だから、こちらも汚い手を使う。
俺らは何でかファンがいるらしいからな…利用させてもらう。
それも時間稼ぎだ。
「朝から不快なことしている愚図共…坊ちゃまを脅したな?」
魔王が来たぞ。
「へい、ナザド。落ち着け。ほら、ケルン」
「あ、ナザド!おはよう!」
「おはようございます!坊ちゃま!今日も世界は坊ちゃまのために朝を作ってますね!」
「そうじゃない。あと、ナザド。マジで落ち着け」
四人ともナザドが来たときに、糸が切れたそれこそ人形のようにその場で倒れていった。
来たときはどこの魔王だと思うほど暗雲を本当に背負ってきたが、ケルンの朝の挨拶でそれも霧散してしまう。
変わり身が早すぎる。さすがだな
「とりあえず…次はもうないようにしておくかな」
「こっわ」
ナザドが警備員さんを呼ぶ。あの幽霊みたいな人なんだけど…力持ちだな。二人ほどやってきて、それぞれ二人ずつ担いでいる。
こいつらのクランは解散するかもな。元々こういう強制させるクランは活動停止が妥当だ。あと、恐喝に近いことをしたんだ…停学になるかもな。
ナザドが…うわぁ…すげぇ睨んでる。ケルンに見えないようにしているけど、腹にすえかねているな。あ、何か精霊様に頼んだな…ぼそぼそいってて聞こえなかった。
「悪夢…心が…」
俺は聞こえなかった。何も聞こえない。聞いていない。よし忘れよう。
「怖かっただろ?」
今はナザドが怖いけど、ケルンには男たちの方が怖かっただろうな。
「ハサミの人を思い出して、ちょっとだけ…」
「そっか…でも、かっこよかったぞ?あいつらに怒鳴れるなんてなかなかできないからな!」
大人でもああやって囲まれたら恐怖を覚えてしまうだろう。
ケルンならなおさらだ。怒鳴ってみせた勇気はすごいことだ。涙目でも俺を守ろうとするなんて、いい子になったもんだ。
「あのね、お兄ちゃんを守んなきゃって…それにね、嬉しくなったらもう怖くなくなっちゃった!」
「嬉しい?」
はて、何か嬉しくなることがあったか?
「お兄ちゃんがね、うちのケルンっていってくれたから…守ってくれてありがとう。次は必ず僕がお兄ちゃんを守るからね!」
「おお…キラキラがすげぇ」
ケルンが微笑んだら、マジでキラキラしたもんがケルンから出てる。それを目撃した人たちが祈りのポーズをとるくらい幻想的だ。
まぁ、俺を抱き上げて頬ずりしているあたりで、台無しだし…何人か鼻血だしてるやつの顔は覚えたからな。ケルンに近づけさせないやつがまた、増えた。
そこ、『写し絵』の魔道具は禁止だ。盗撮はよくないぞ。許可をとりなさい。出さないけど。
それと遠くからミルデイが走ってきているが…説教は俺が受けるのかなぁ。
そう男たちにたずねられても答えは一つだ。
「お断りする」
ケルンが半泣きなんだぞ?ふざけんなよ。
せっかく気持ちのいい朝が台無しだ。
楽しい作業をおえて実験をしようとして、ふと思い出した。
「父様との約束があったんだった…やばい」
「やばい?」
父様と約束をしていたのだ。何か作る前に相談をするって。危険なものではないし…いや、事後報告でもしておこう。
「手紙を書こう。ケルンも書くか?」
「書く!」
そういって書いたのが昨日のことだ。そのまま寝て、朝一番にナザドに会いに行こうと中庭をケルンに乗って移動をしている。
ミルデイには先に朝ご飯を取りに行ってもらい、ナザドには迎えにきてもらう。合流したら、ナザドに護衛がてら送ってもらう予定だ。
気をきかせてくれているのか、ミルデイも俺ら二人の短い散歩なら文句をいわなくなった。十分ほどだし、人が誰かいるところ限定だがな。
「朝ご飯は何かなー」
「なんだろなー。俺も楽しみなんだ」
「パンかな?ご飯かな?」
「たくさん食べるんだぞ?おやつも食べなきゃだめだからな?大きくなるためには、よく食べ、よく遊び、よく寝ることが大事だからな」
「わかってるー」
ケルンになるべくたくさん食べさせているのは身長を伸ばしたい!って理由もなくはないんだが、それよりも体力をもっとつけさせたいのだ。
魔法が使えるようになってから、どういうわけか体力不足を感じることが増えている。魔法の威力を支える足腰がないというのもあるんだろうけど…魔法を使うたびに空腹を訴えてきていた。どうも全身で魔法を使っているらしく、マラソンをしているのに近い状態らしい。
父様の父様…ケルンのお爺様も同じ体質だったから、すぐにわかったのだ。
休憩のたびにお茶をしているのは少しでもカロリーを摂取できるようにするためだ。乳幼児の頃よりも食事には気を使っている。
まったく体重が増えないから、あまり激しい魔法は使わせていない。本人が希望してもそれはもう少し大きくなってからだ。
あとはケルン本人も食べるのは嫌いじゃない。問題はハンクの料理だけということなんだが…ハンク以外が作った料理が美味しいとは思えないんだよな。
好き嫌いをしているわけではなく、舌が肥えてるんだろうな。
「お兄ちゃんも大きくなる?」
「俺はこんなんだから、大きくならないぞ?」
「そっか…早くちゃんとした体を見つけるからね!」
素材は石だから大きくなることはない。飲食は可能でもどこにいっているのか謎だし。
ちゃんとした体も…別にいいんだけどな。
朝も早めだから、内緒話をできるくらい人がいない。全然いないわけではないけどかなり少ない。
それだから前方からのしのしと近づいてくるやつらがよく目立つ。
今も前々から感じていた視線が圧を強めて近づいてくる。なんだ?
「ちょっといいかな?」
声をかけてきたのは、ケルンの倍はありそうな四人の大男たちだ。ケルンを半分囲むようにして道を塞ぐ。年齢は三倍、体重は四倍はありそうだ。
「君たち、通行の邪魔だぞ?」
俺がケルンの肩から忠告をしても、彼らは動かなかった。
一応襟元をみれば、ちらりと記章がみえた。クラスはわからなかったが、生徒のようだ。部外者だったら、警備員さんを呼ぶとこなんだが、生徒のようだなら仕方がない。相手をしよう。とりあえず、道を塞ぐな。
臨時職員の俺の言葉に反応しないとは…何を考えてんだ?
「ケルンといったか?君は魔法の才能があるね。ぜひ我が『魔法特攻隊』に所属してほしい」
「破壊力もあるというから、うちで才能を伸ばすべきだ。攻撃魔法をたくさん撃てるぞ!」
「軟弱な趣味は卒業すべきだ!さあ、クランに入ろう!」
と圧をかけつつケルンにいい続ける。
たまにあるスカウトだ。
初めての攻撃魔法のときに、聴講生がやたらといたのは、こういうスカウトのためだ。めぼしい生徒につばをつけにきているらしく、例年多いそうだ。
サイジャルでスカウトが多いのは自国へと連れて帰るためな場合もあるが、今回は『クラン戦』のためであろう。
臨時職員になるときに、ざっとした臨時職員の権利を読んだ中にもあったのだが、職員は『クラン』を認可できる。『クラン』は生徒が一人でも作れるクラブ活動のようなものだ。
だがただのクラブ活動ではない。職員は認可『クラン』の担当となる。『クラン』は年に四回の『クラン戦』というもの行い優勝者には報奨を得れるそうだ。
間もなく『水のクラン戦』がある。
『クラン戦』は水、風、地、火の四つからなり、職員や生徒が投票したり、実力を示すことで優劣を決める。
水は新人戦といわれ新入生がいるクランのみが行える。
風はサイジャルの扉を開き、外の人の投票によって決める。
地は校内戦で武と文の優勝を二組決める。
そして火は『地のクラン戦』で優勝した二組が本校の代表者として、分校や他国の学園と交流戦をする。
スキルを多く持っていたり、魔力の多い者は優勝に有利である。そのためのスカウト合戦だ。
スキルは隠せても魔力の多さなどは、初めての攻撃魔法のときに緊張で隠しきれないことや、よく見せようと張り切る子がいるので、ばれやすい。
ケルンは入らせない。魔力は問題なくても、体力を奪われやすいんだ。衰弱して、病気をするかもしれないのに、バカスカ魔法を撃たせるかっての。
ふざけんなよ。
「君たち、下がりなさい。ケルンは入らせない」
「ぼ、僕、お兄ちゃんの」
「まだクランに入ってないのだろ?」
「入るべきだ」
俺たちの断りの言葉を聞く気はないようだ。退路までふさいで、見下してきている。
「どうかな?」
これはスカウトではない。こんな勧誘は許されない。
そもそもこいつらはケルンのことを何もわかっていない。
「お断りする」
ケルンは好き好んで攻撃魔法を使えるように練習しているんじゃない。
みんなを守りたいからって気持ちからだ。父様たちや、ミケ君たち。それに俺まで含めて守りたいからこそ頑張ってきた。
それを知らないやつらがケルンを脅すとは何事だ。
「忠告だ。今すぐ道を塞ぐのをやめなさい。そうすれば見逃してやる」
俺が最終通告をしても男たちは動くつもりはない。それどころか、侮蔑を含んだ目で俺を見る。
「…俺らはこいつに聞いてんだよ。お人形は出てくんな」
「臨時職員だか芸術家だか知らねえがすっこんでろ」
こいつらからしたら、軟弱なことをしていると思うんだろうな。
「お兄ちゃんを悪くいうな!」
ケルンが大きな声で怒鳴った。けれど効果はない。それどころか悪化した。
「その威勢があるなら、うちのクランに入れるな!」
「今からやれば、地の優勝は確実だ!火も取れば俺たちも安泰だな!」
「見た目もいいから女も入るかもな!」
にやにやとしながらケルンに触れようとしてくる。
「この人たち…こわいよぉ」
鼻息が荒い男たちに前のことを思い出して、涙がうっすら浮かべてしまう。
こんな奴らに前みたくケルンを触れさせるか。
「おい。お前ら…なにうちのケルンを勧誘してんだ?しかも触ろうとしたな?誰に許可を得た?それに怖がらせて泣かしたな?ああ?」
男の手を蹴りあげてさらに、続ける。
「いいか?俺が動けるうちは、うちのケルンはお前らのような威圧的なやつと付き合わせねぇ…それに俺んとこのケルンが怪我なんてしたらどう責任を取ってくれるんだよ?ん?いってみろや!」
いっとくが、ケルンが少しでも怪我をしてみろ?お前ら楽に死ねたらいい方だぞ?
「あとな!ケルンはもう『エフデの愉快な教室』に所属してんだよ!一昨日来やがれってんだ!」
俺らでクランを作ってみるかと適当に『エフデの愉快な教室』とかいっていたんだが、初めは冗談でいったはずなのに、本当にクランになっていたのだ。書類はナザドが勝手に出していた…いいんだけどさ。本当はケルンのクランを担当したかったらしいが、忙しかったからあきらめたそうだ。
ケルンが勧誘されまくるのは予想していたからの対応だろう。
生徒はケルンだけだが、ある意味で最高のクランだと思う。みんなケルンに優しいしな。
「て、てめぇ!人形が粋がってたってな」
「忠告したよな?あんまりしつこいようだと…ほら周りをみろ」
俺に何かしようとしたんだろうが、やめておけ。
あとケルンがすっと涙が引っ込んで、杖を出そうとしたのでほっぺをつねる。こんなとこで魔法を使うと停学になるだろ。試験も近いんだ。
ナザドの影響だろうか…魔法をとりあえず、撃って考えましょうなんてあいつが教えるからだ。あとで母様に相談しよう。
周囲をみていれば冷静にそこまで考える余裕もできる。
「おい、貴様ら…エフデ様とケルン君に何をしようとした?」
「かわいい、かわいいケルン君を泣かすとか、すりおろしてあげよっかな?」
「ボージィン様が使わしてくださった方々になにしてくれてやがります?ああん?」
「ろくに成績もあがってない癖になに偉そうにいってんの?うけるんだけどー」
「脅して叶えようとするのが許されるのは幼児までだよねーあんたらやってもかわいくないし、犯罪くさいけどー…去勢する?」
あれだけ騒いでいたら、注目を浴びる。俺が大声を張り上げ続けているのも、こいつらに、隠されていて見えなくされていてもここにいると自己主張をするためだ。
姑息なんだよ。逃がさないようにして、しかも周囲から目をそらさせるなんてな。
だから、こちらも汚い手を使う。
俺らは何でかファンがいるらしいからな…利用させてもらう。
それも時間稼ぎだ。
「朝から不快なことしている愚図共…坊ちゃまを脅したな?」
魔王が来たぞ。
「へい、ナザド。落ち着け。ほら、ケルン」
「あ、ナザド!おはよう!」
「おはようございます!坊ちゃま!今日も世界は坊ちゃまのために朝を作ってますね!」
「そうじゃない。あと、ナザド。マジで落ち着け」
四人ともナザドが来たときに、糸が切れたそれこそ人形のようにその場で倒れていった。
来たときはどこの魔王だと思うほど暗雲を本当に背負ってきたが、ケルンの朝の挨拶でそれも霧散してしまう。
変わり身が早すぎる。さすがだな
「とりあえず…次はもうないようにしておくかな」
「こっわ」
ナザドが警備員さんを呼ぶ。あの幽霊みたいな人なんだけど…力持ちだな。二人ほどやってきて、それぞれ二人ずつ担いでいる。
こいつらのクランは解散するかもな。元々こういう強制させるクランは活動停止が妥当だ。あと、恐喝に近いことをしたんだ…停学になるかもな。
ナザドが…うわぁ…すげぇ睨んでる。ケルンに見えないようにしているけど、腹にすえかねているな。あ、何か精霊様に頼んだな…ぼそぼそいってて聞こえなかった。
「悪夢…心が…」
俺は聞こえなかった。何も聞こえない。聞いていない。よし忘れよう。
「怖かっただろ?」
今はナザドが怖いけど、ケルンには男たちの方が怖かっただろうな。
「ハサミの人を思い出して、ちょっとだけ…」
「そっか…でも、かっこよかったぞ?あいつらに怒鳴れるなんてなかなかできないからな!」
大人でもああやって囲まれたら恐怖を覚えてしまうだろう。
ケルンならなおさらだ。怒鳴ってみせた勇気はすごいことだ。涙目でも俺を守ろうとするなんて、いい子になったもんだ。
「あのね、お兄ちゃんを守んなきゃって…それにね、嬉しくなったらもう怖くなくなっちゃった!」
「嬉しい?」
はて、何か嬉しくなることがあったか?
「お兄ちゃんがね、うちのケルンっていってくれたから…守ってくれてありがとう。次は必ず僕がお兄ちゃんを守るからね!」
「おお…キラキラがすげぇ」
ケルンが微笑んだら、マジでキラキラしたもんがケルンから出てる。それを目撃した人たちが祈りのポーズをとるくらい幻想的だ。
まぁ、俺を抱き上げて頬ずりしているあたりで、台無しだし…何人か鼻血だしてるやつの顔は覚えたからな。ケルンに近づけさせないやつがまた、増えた。
そこ、『写し絵』の魔道具は禁止だ。盗撮はよくないぞ。許可をとりなさい。出さないけど。
それと遠くからミルデイが走ってきているが…説教は俺が受けるのかなぁ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
315
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる