選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
160 / 229
第五章 影の者たちとケモナー

手がかり

しおりを挟む
 今は交渉役の男から掴めている情報を整理しよう。

 まず一番重要なのは、明日には霧に紛れてサイジャルから出ていくということだ。

 霧に紛れてサイジャルから抜け出すということは、今いるこいつらの中に『転移』が使える魔法使いや、俺の知らない魔道具持ちはいないということだ。

 サイジャルは湖の中にある都市だ。早朝には湖に霧がかかる。しかもまもなく雨季になろうかという五樹月だ。霧は毎日のようにかかる。

 この人数を運ぶのは苦労するだろう。子供たちとはいえ二十人弱。いくら『屍体袋コープスバッグ』を利用しても、あれは一つの袋に一人が限度だ。それに意識を取り戻せば吐き出されてしまう。

 だとするなら、他に手があるのだろう。

 男たちは騒ぎながらカードゲームに戻っている。
 静かにしようとしていないとすると何かあるはずだ。辺りをもっと注意してみれば…四隅の燭台は魔道具か?照明にするにしても、四隅には使わないだろう。それに蝋燭ではなく、燭台の中心の魔石が赤く光って、燭台に書かれた文字を浮かび上がらせている。

『気配音断絶』の五文字。もしかしたら、あれは結界を作る魔道具なんだろうか。

 目があるわけではないこの体は、集中すれば闇の中でも物が見えてくる。おそらく、本当の視覚ではなく、『地脈誘導』を得てからわかるようになった気配を視覚化させているのかもしれない。

 部屋の広さはそこまでではない。俺がいる樽の斜め後ろには扉があって、感覚はそこで薄らぐが…もっと集中する。なるほどな…その先は階段があるようだ。 

 とするなら、ここは地下なのか?かなり高い位置には窓があるが…ケルンに読んでやった物語の挿し絵にあった昔の囚人牢に似ている。
 物語のような場所だとすれば、ここはサイジャルでも人気の少ない旧市場方面か。水路があるから道が危なくて、似たような路地が多く迷いやすく迷子になるということで、俺とケルンの二人だけでは行ってはいけないと父様が来たときにいわれた場所だ。

 そうか。この人数を運ぶのに水路を使う気か。ちょうど俺の反対側にある扉の先は水路なのではないだろうか。
 船を何艘か使えば意識のない子供たちを運ぶのも簡単だ。

 地下牢に入る囚人や、死んだ囚人を運んでいた水路を利用するってとこか。
 そうだとしたら…あまり考えたくもないし、今は脱出に集中すべきなんだけど…考えても仕方がないことだが、こいつらの協力者はサイジャルにいるのかもしれない。

 地下牢と水路の関係はこいつらのような外部の人間からすれば、サイジャルに侵入する手立ての一つになる。

 だからこそ、普通は入れないように封鎖や巡回をしているだろう。こいつらはサイジャルの内情を把握している。

 また水路は蜘蛛の巣のように張り巡らしてある。どこからどこへ抜けるかは水路の地図がないとわからないはずだ。
 誰かがサイジャルを裏切っている。その可能性を頭にいれておこう。

 あとはどうして誰もここを調べていないのかが気になるところだ。人が少ない場所は真っ先に捜索するだろう。
 サイジャルには学者のような職員が多くいる。尖った才能のある者たちが多いともいえる。その人たちがここの存在をわからないはずもない。

『認識阻害』でも受けたのか?また魔道具か?魔法か?けれど、こいつらはそんなすごい魔法使いには見えない。それに匂いがきついから逆にすぐ捕まりそうなのにな。

 待てよ。匂いがきつい?今でも匂うものか?
 チールーちゃんが香水をぶつけたのは二日前だ。その匂いが今でも残っているのはあまりにも変だ。
 そうなると、この匂いはこいつらからでていると考えるべきか。いや、こいつらがつけている香水と考える方が…香水…偽マルメリーが使っていたあれか!

 ケルンの体にいた頃は匂いはわからなかったが、確かにきつい。この匂いを嗅いでいたらカルドですら暗示や『認識阻害』を受けたようになったという。
 探索や捜索のプロである職員が見つけれないわけだ。正解に近づけば近づくほどわからなくなるってことか。

 ヴォルノ君はチールーちゃんの香水を知っていたのと、その匂いが強かったからたどり着いたが…生徒とはいえヴォルノ君にとって、ここは他国の知らない場所だ。チールーちゃんは無論、自分の安全を考えたら、一人で突入などせず、職員を呼ぶはずだ。それができないような正常な思考ではなかったんだろう。

 何にしろ、こいつらは逃がしてはいけない。
 あの薬でケルンを傷つけたと思ったエセニアは泣いたんだ。カルドやフィオナが死のうかと悩んだほどなんだ。

 俺の家族を悲しませたやつは許さない。

 あれを作ったやつに繋がるかもしれない。作ったやつにはまず、俺の拳を受けてもらおう。そのあとティルカと母様がやるといってたから、一番手は俺が勤めるぞ。じゃねぇとティルカで終わるからな。

「おい、お人形さんよ」

 交渉役が声をかけてくる。あまりいい内容ではないだろうな。醜悪な笑みつきだ。殴りたい。

「お人形さんの中身はどこにいんだ?どんな感じでお人形を動かしてんだ?お前の本体も動けるのか?それとも人形遣いみたいになんのかよ?」
「…お前に答える義理なんて、やめろっ!」
「あんまりなめんなよ?一人ぐらい殺すぞ?」

 男は腰のナイフを抜き取ると、牢にむけて投げる素振りをみせる。嫌なやつだ。俺を脅すために子供たちを狙うとはな。
 ナイフは暗闇の中でも薄明かるい…特殊な武器か?
 ポルティの画材屋のおじさんが話していたことだが、冒険者が使う獲物で小さな物ほど怖いものはないといっていた。刃物や針は毒が塗れる。
 そして、迷宮といわれる場所から出てきた物は普通ではない性能があるともいっていた。小さいからと気を抜けない。

「俺は…山奥だ。動かしているときは、寝ている感じだ。身動きはできない」

 男の問いに答えるが嘘になる。俺はケルンの中にいる。本体はどこかといえば、この『思念石』の中だともいえる。

「山奥だぁ?どこだ?」
「知らない…部屋から出たことがないからな。俺はほとんど寝たっきりだ」
「ちっ…箱入りは使えねえ…まぁ、調べればわかるだろ…」

 母様が作ったという設定を話せば引き下がる。病弱で今まで表に出ていなかったという設定だからな。世間知らずでも通じるはずだ。
 もしくは、調べれる人間がいるが事前に情報を知ろうとしたってところか。

 この体を動かしているときに、本体が別行動できるかどうかを知りたかったのだろう。
『マリオネットワルツ』の魔法のときですら、使用者は人形を操演するのに集中して身動きがとれなくなる。男がそれを知っていたから騙せる。

 けれどいつボロが出るかわからない。明日になれば俺たちはどこかに連れ出されてしまう。
 どうにかしたい。でも、俺だけじゃ魔法は使えない。

 せめて父様たちに知らせて…父様?そういえば、父様に俺は手紙を書いて…ケルンに絡んできた大男たちの騒動でナザドに渡しそびれたんだ。

 手紙と一緒に俺が作ったあれも懐にしまってある。まだ試していないが、きっと上手くいくはずだ。
 問題はあの結界を作る魔道具よりも強力であるかどうかだが…ケルンの杖がくれた樹液というか琥珀の方が強いだろ。何せ、元呪木さんの汁だからな。

 全力で葉先を振って抗議するケルンの杖が浮かんだ。
 出たら感謝しよう。
 そのために、こいつら全員をはっ倒すか。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...