選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第五章 影の者たちとケモナー

魔法

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 買い出しに行かせていた男が帰ってきてしまったか。

「なんだぁ?一人増えてんなら教えてくれよ…買ってきたんだぜ?」
「せっかく来てくれたんだ。もてなしてやろうぜ」

 ゲラゲラと笑う男たち。こんな異様な雰囲気の中ではケルンも怯えて…えっ?

「ねぇ、お兄ちゃん」
「ど、どうした?」

 また無表情というか、ショートソードをみたあたりからまたキレてる。本当にどうしたんだろうか。
 少なくても怯えたりするかと思ったんだが、今はまったく恐怖を感じていない。ケルンに触れているからよくわかるのだが、魔力も暴走しているようで、上手い具合に調整している。

 乱れは少ないというか…こんなに静かに怒るやつじゃないんだけどな。

「どの人が一番お兄ちゃんをいじめたの?…ナザドがいってたよ。やられたらやりかえしてもいいって」

 ナザドが原因かよ!
 あの野郎…ケルンに余計な知識を植えつけて…これで暴力とか非行に走ったらどうすんだ!

 元々ケルン至上主義で、性格破綻してるが変なことをケルンに吹き込んでいやがるなら…適度に距離を置かせるのもやぶさかじゃない。
 かなりもめるだろうけど…いざとなったら父様たちに相談しよう。

 ケルンが普通の子供なら問題はないんだが、那由多の魔力を持っていて、気にいらないからと暴力で解決するようになっては困るのだ。
 俺は棒神様に魔物だって仲良くなるなら仲良くしたいと約束した。

 暴力で解決を癖にしていては理解する前に相手に力をみせつけて上下関係をつけようとしてしまう。それでは、俺が目指しているものとは遠くなる。
 まずは対話。それでだめなら…はっ倒す。

 あと、売られたケンカをケルンが買う必要はないんだ。
 俺が買うんだからな。

「…自分がやられた分は自分でやる。だからお前は…頼む」
「…わかった」

 ケルンに頼めばうなづいてくれたが…素直なんだが、やはり変だ。落ち着きすぎている。
 あまり構ってやれないがもう少し言葉を伝えておくか。

「守ってやる。だから…守ってくれよ?」
「…うん!」

 キラキラとした笑顔がまぶしいな。薄暗い部屋だからいつもよりまぶしく感じる。
 完全にケルンに戻った感じだ。あれか?俺が介入していないから、棒神様の力に流されたとか?魔力になっているとはいえ、棒神様の力だからな…多くは使わせない方がいいな。

 俺たちもあまりゆっくりと話をできないが、男たちは手で合図を送りあっていた。ハンドサインの意味を読むのは無理だったが、陣形の指示だろう。

 武器を構え、斬りかかれるように距離をはかっている。先ほどの攻撃をみたから、突撃してこないがどう動くか。

 買い出しに行っていた男は右手にショートソードを構えて、左手を腰にやるとナイフを取り出して投擲してきた。
 遅いな。

「精霊様…お願い!『ウォーターウォール』」

 すでに小声で魔法は用意してあった。魔力を馬鹿みたいにつぎ込めば無詠唱のようなものもできるだろうが、少なくても今日はもうさせない。

 ケルンの顔が白い。確かに元々白いのだが、今は血の気が引いてきている。朱がはいっまほほまで白くなっているからな。
 顔を触ったときはまだ温もりがあったが、少しずつ体力がなくなってきている。だからこそ早めに魔法を使わせた。

 投げナイフは防いだ。でも反対側はがら空きだ。

「上位契約者でもガキ一人ぐらいどってことはねぇんだよ!」

 残りの男たちがケルンを捕まえようと動く。手足を斬ればいいと思ったのだろう。手は両断を狙っているというより、フェイントか。足を斬るのが本命だろう。
 誰がさせるかよ。

「精霊様、頼む『ウォーターショット』」

 俺が魔法を使い、七人を撃ち抜く。『ウォーターショット』は弾丸を打ち出すショット系の魔法だ。
 ケルンは今のところ水の魔法しか攻撃には使えない。早いし、威力を調整すれば下手な魔法よりも強力だ。

「ひがっ!」
「いてぇ!」

 手足を撃ち抜く。やはり魔法は便利だ。
 すぐに回復をするだろうが、時間を稼げればいいのだから、連続では撃たない。

「なんで魔法を!魔術師のくせに!」

 目を潰した男が叫んだ。こいつ足の怪我の治りが遅いな。もしかして、あの道具は均等に治すのではなく、部位によって治す速度が変わるのか。
 回数が気になるが…人形はそこの部位がちぎれていたな。試してみるか。

「精霊様、頼む『ウォーターショット』」
「いてぇ!いてぇよ!」

 足をもう一度撃ち抜く。傷は治らない。
 やはり、同じ場所は治さないのか。気をつけないとな…聞きたいこともあるんだし、気絶を狙わないとな。

「おい!なんで魔法を使ってるんだ!」

 ひげ面が斧をこちらにむける。その斧は嫌だっていってんのによ。

「俺は一言も魔術師なんていってねぇぞ?精霊様、頼む『ウォーターショット』」
「かっ!」

 ひげ面の眉間を撃つ。威力を弱めたから貫通はしていない。気を失うかの実験をしておかないとこれからの計画が破綻してしまうからな。
 斧を落として膝から崩れ落ちた。

「おい!陣形を」

 交渉役が指示を出そうとしているが、もう意味はない。

「やっちまえ、ケルン」
「はーい!」

 元気のいい返事だ。
 俺が指した方向にあるのは燭台だ。

「燭台を壊そうたって無駄だぞ!いくら上位契約者だって、こっちには結界が」
「精霊様…お願い」

 ケルンが張り切っているときに邪魔をするなよ。
 ぽこんと初めての攻撃魔法のときよりも一回りは小さな水の塊が空中に浮く。

 さすがに那由多は注いでいない。
 ほんの十万ほどだ。

「『ウォーターランス』!」

 ひゅっと杖を振るえば音を置き去りにして魔法は燭台もその先も貫通した。

 地鳴りと波の荒れる音がしたから、無事にサイジャルの壁を開通させたみたいだ。人がいないのは気配を確認しているから大丈夫だろう。

 燭台はヒビが入り壊れた。これでここの結界は意味をなさないだろう。
 十万も込めて効果がなかったらどうしようかと思ったが、きちんと壊せてよかった。

 半減はしているから実際は五万の威力ほどだ。
 魔法でしか壊せないといいつつ、魔法の効果を弱める結界がはってあったから、あの自信だったのだろう。

 あえていってやろう。

「結界がなんだって?」

 鼻で笑った分は笑い返せたな。胸をはって「どうだ!」ってしているケルンはいいが、いい仕事したぜって汗をふいている葉っぱ。お前に汗は出ないし、杖なんだからじっとしけと。

「う、嘘だろ…そんなはず…ガキが!」

 そろそろ諦めたらいのに、ショートソードをふりあげる買い出しに…いいや、とりあえず若い男で。
 それをケルンに振りかぶるんじゃねぇよ。

「うちの弟をガキ呼ばわりしてんじゃねぇよ!」
「ぺぷっ!」

 ケルンから離れて顔面に飛び蹴りをすると鼻を砕いてしまった。あまり痛みとかに耐性がなかったのか、鼻が関知しても白目をむいて気絶をしてしまった。

 そのままケルンのそばに戻る。俺基準では軽く蹴ったのだが、あまり無理はできないみたいだ。
 蹴った俺がかなり痛い。それも全身がだ。

「…なんだよ、ケルン?」
「えへへ」

 ばれないようにしていると、ケルンが顔が少し赤みを戻して、もじもじしている。どうしたんだ?

「お兄ちゃんが弟っていってくれると、なんだかね、僕、ぽかぽかしてくるの」
「そうか。んでもな…どさくさに紛れて攻撃するのはよくないぞ?」

 ひげ面に『ウォーターショット』を撃ったりしてたのみてたからな?

 二人だと心に余裕が生まれるのはいいんだけど、気を抜きすぎるのもよくないな。

「それで?『身代わり人形』っていったか?回数があるっていってたが…なるほどな…意識を失うけど傷は治るのか…六人ともやっちまうか」
「てめぇ!」

 ケルンに頼まないで俺はひげ面にやったように残りの男たちの眉間を撃つ。少し強めに撃てば確実に気絶をしている。
 恐らく頭部のダメージを治しているときは時間がかかるのだろうな。

 交渉役はとくに怪我の回数が他のやつよりも多いから、最後にまわした。一撃で沈むからな。

「お前で終わりだな…精霊様、頼む。『ウォーターショット』」

 水の弾丸を男に撃ち出す。
 すると鏡を向けられた。

「うわっ!」
「冷たっ!」

 水の弾丸は俺たちに反転してただの水としてかかってきた。魔法を反射して解除したのか!

「それが最後の魔道具か?…反射なんざいいもん持ってたな」

 鏡はぱきんと音をたてて、割れていた。あれではもう使えないだろう。奥の手たったのか、交渉役の男は乾いた笑いをあげる。

「借りもんだ…これで大赤字だ…ははっ…俺が失敗…?」

 Aランクがいう大赤字っていうのは俺の想像よりもひどいだろうな。普通に考えて、こいつらが使っていた道具はどれも高価だ。それを使いきって失敗したらプライドも折れるだろう。

「諦めろ。大人しく捕まれば…たぶん、楽に死ねる…いや、すまん。相手による」

 ナザドはたぶん楽に死なせてくれない。ケルンを狙ったんだから。あと母様がきれる予感がすでにしている。
 エセニアにも泣かれる気がしてならない。こっちがすでに泣きたい。

「これに失敗したら…俺は…くそが!くそが!くそが!死んでたまるか!…もったいねぇ…もったいねぇなぁ…」

 口から泡を出しながら俺の言葉を聞かずに独り言をいっている。まるで捕まるよりも失敗する方が恐ろしいというか…捕まって死ぬとはまったく思っていないようだ。
 追い詰められておかしくなった?Aランクが俺たちなんかにか?それもおかしな話だ。正直なところ、こいつ一人なら逃げ出せるだろう。

 でもこいつは逃げる気は最初からない。
 もったいない?なにが…っ!

「精霊様!頼む!『ウォーターショット』!」

 男は懐から真っ黒なナイフを取り出した。
 それは見ているだけで背筋が凍るような気分になる。それと憂鬱。まるでここだけ気圧が下がったかのように全身が重くなる。

 さっと振るわれたナイフは信じれないものだった。

「魔法が…消えた…?」

 そこにはなにもない。
 水の一滴すら落ちることなく消えてしまった。

「けひひ…知らねぇぞ…一度抜いたら…後戻りはできねぇんだからな…」
「ケルン!下がれ!」

 頭をふらふらとさせる男は目の焦点があっていない。

「魔法短剣『闇の爪』…こいつは闇精霊を封じてある…付与じゃねぇ…その意味がわかるか?」

 天井に俺たちがいると思っているのか顔を天井に向けて話し出す。
 口からは止めれないのかよだれがたれていってる。

「イムルとかいうドワーフの武器を元に作った偽物じゃねぇ…こいつは数少ない本物だ!」

 そうかと思えば頭を地面にむけたりして、びちゃびちゃとよだれと、自分の舌を噛んだからか血がたれる。

「闇精霊の前に、お前らのちゃちな魔法なんざ意味がねぇんだよ!ぎゃは!ぎゃははは!」

 低い男の声だったのが裏声を使いだした。それは男がなぜ出しているのか、もう本人もわかっていないだろう。

「ははは!…あー…腹が減った…お前を殺して食うか、犯して食うか、食いながら犯すか、犯しながら殺すか、脳を足を顔を目を手をしんぞぞぞぞぞを、つつつつぶしししてぇ」

 自分の指を噛み砕きながら食べ始める。すぐに指が生えてくるが、その速度も遅くなりつつある。

「見るな!」
「怖い…」

 ケルンに見ないようにいえば、めをつぶって、俺を強く胸に抱く。
 教育上云々ではない。あまりみない方がいいものだ。

「心が…闇の精霊様に潰されていっている」

 闇の精霊様はどこにでもいる精霊様だ。
 だからこそ強い。だからこそ恐ろしい。

 ケルンの使える魔法に闇の属性はない。闇は初級中級などはない。契約者でなければ魔法は使えない。
 闇の精霊様が選んだ者だけが使える魔法が、闇魔法なのだ。

 その代償は…普通の人間は心が潰される。

「あー…めざわりな…やつら…『ダーク…ショット』」

 もう、男の心は死んでいるのかもしれない。
 ただ意識がはっきりしていた頃の名残からか俺たちを狙う。

「精霊様!頼む!『ウォーターウォール』!」
「精霊様!お願い!『ウォーターウォール』!」

 闇魔法のショットは真っ黒な玉が飛んでくる。俺が撃つ銃弾よりも大きく砲弾のようだった。

 二重ではった『ウォーターウォール』は厚さが一メートルにもなる。さらにどちらも十万ほどの魔力を込めている。

『ダークショット』はケルンの『ウォールウォーター』の半分ほどで止まって消えた。

「これでもっ!ぎりぎりかよっ…!」
「あれが闇の精霊様なの?」

 相性のいい魔法ではなかったが、魔力を多目に込めたから止まったのだ。
 魔法を削り取られた。闇魔法の効果なんだろう。

「あかるい…あかるい…せかいは…いのちは…まぶしい…けそう…けすのが…ながれ」

 ケルンが信じれないと思うのも無理はない。精霊様はこの世界の管理者だ。だというのに世界に属するものを壊したり消すなんてありえない。

「闇の精霊様!聞いてくれるか!」

 精霊様なら対話が可能だ。例え、可能性は低くても会話が可能なら!

「ヒト?…ヒト?…まざり…うるさ…い…いのち…しずかに」

 だめか!男の心を潰して飲み込んだんだろ影響か、俺たちを敵とみている。
 ならば男から引き離せばいい!

「精霊様!頼む!『ウォーターショット』!」

 男の手を落とせばナイフも離れる。そう思って撃った魔法はナイフに触れて消えてしまう。

「こちらの攻撃を…消したのか…?」
「せい…じゃく…を…」

 ふらふらと辺りを…まずい!子供たちに意識がむいている!
 このままでは子供たちの心まで潰される!
 対処するには…でも…それしかない。

「光の精霊様に」
「だめだ!お前の体がどうなるかわからない!」

 光の精霊様は魔力をたくさん注げば来てくれるだろう。物語ではそうなっていた。
 でも大きな代償が必要だった。どの話も光の精霊様に全てを払っていた。

 そこまでしなくてもいい。もうすぐあいつが来てくれるだろう。そうすれば子供たちは安全だ。

「俺に任せろ」
「でも!」

 ケルンが俺を強く抱き締めて放そうとしない。その腕をぽんぽんと、たたく。心配することはない。

「兄ちゃんは強いんだ。信じろ。そうだ!あとで新作の絵本を読ませてやるよ。試験のご褒美で描いたんだ…だから早く帰ろうな」

 ケルンの力が抜けたことを確認して、ケルンの腕から飛び出す。

「待って!お兄ちゃん!」

 あの精霊様は狂いかけている。ケルンには手を出させるわけにはいかない。
 光の精霊様に頼る代償も怖いのだが、もう一つケルンを精霊様と敵対させるわけにはいかないのだ。

 原因は称号だ。

 精霊の保護対象。
 これでケルンの魔法は精霊様がロックしているのだろう。契約していくと属性の魔法が解除されていく。

 ただ、闇魔法の属性は元々持っていなかった。それでもここで狂ってしまっているとはいえ、精霊様を攻撃すれば、他の精霊様の怒りをかって、また魔法が使えなくなるかもしれない。

 今まで魔法が使えなくても問題はなかった。それでもケルンは狙われている。少しでも身を守る手段を持っているべきだ。
 ならば答えは一つだ。俺が相手をするしかない。

 魔法がだめでも…気ならいけるかもしれない。
 あと一撃くらいなら全力を出しても保つはずだ。

 本当は読み聞かせてやりたかったけど、無理そうだ。
 例え俺が消えても、ケルンに少しでも何か残せたならそれでいいか。自我はなくなっても、知識はあいつの中に戻れるだろう。

 だから、さよならだ。
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