選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第五章 影の者たちとケモナー

生きて楽しむ

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 一週間が経った。
 あっという間というか、激動というか…とにかく初めの二日間は俺にとっての地獄だった。

 ティルカとサイジャルをぶらぶらと散歩して飲み物を買って話し込んだ。

 俺はずっと疑問だったことをそこで初めて聞いた。
 父様の見た目がどうしてあんなに老けているのか。
 みんなは俺を簡単に受け入れたけれどどうしてなのか。
 大戦のこと。あの使われなかった子供部屋のこと。

 全ては繋がっていたのだ。
 もしかしたら、本当は俺やケルンはもっと昔に産まれるはずだったんだろう。

 やり直し…なんだろうか。俺にはいまいちわからない。棒神様もあれからなにも連絡はないからな。

 ティルカの服装の理由も聞いたが、軍人とは知らなかった。危ないなら辞めてほしいんだが…もう少しだけ所属するのなら我慢しよう。
 他にもいくつか話をしていたんだが、きっかり一時間で終わった。

「おっと…エフデ様…頑張れ…応援してるぜ」
「何をだ?」

 市場のカフェテリアの一角で、一時間ほど話せばだいぶ砕けてくれてきたティルカとの会話をとめたのは、いないはずの人だった。

「エフデ…私のいったことを覚えているな?相談しなさいといったはずだが?」

 父様が立っていらっしゃった。とても大きな声です。
 すぐに机から飛び降りて正座をした。

 そこからは本当に…気が遠くなるかと思った。
 父様からのお説教を受けて反省してたら、次にカルドが簡単に注意ですませた。

「末の愚息からの手紙で知りました。若様のお命が危なかったと…旦那様ともども生きた心地がしませんでした。して…無礼者共はどこに?」

 父様たちが来たのはナザドが手紙を『転移』で送ったのが原因らしい。あいつ仕返しに父様たちにちくりやがって…一時間じゃなく、せめて三時間は時間をくれ!

 男たちは警備員さんが連れていったといえば、父様と二人で学園に行くといって二人して消える。

 後で聞いたのだが、サイジャルの警備体制への抗議と王都の冒険者ギルドへの抗議にいっていたらしく…ギルドでは大きく人事が動いたそうだ。しかも、ランディまでギルドの抗議には参加しにいっていたらしく、ギルドの建物が更地になって耕かされていたとか。

 ギルドは世界中にあるが、情報はお互いで共有しており、王都のギルドを殲滅…お掃除して、話を通しやすくしたらしい。あの男たちのことは徹底的に調べることが決まっている…まだ生きているが会わせてはもらえない。

 二人がいなくなってからがさらに大変だった。
 まずフィオナとエセニアが号泣していたのだ。

 死にかけたのとか、服をみて何をされたのかもわかって怒りと悲しみで泣きまくっていた。フィオナやエセニアが泣くのは本当に胸にくるからお説教を受けた方がよかったな。
 二人にずっと謝っていたが…ラスボスは別にいる。

「それで…私のかわいい息子はお休みをいただけるんでしょうね?」
「えーと。あのですね、母様…実は行事がありまして…」

 ずっと笑みを浮かべて黙っていた母様が一番怖い。
 あれはまだ抑えているだけで、内心はぶちギレてるときの笑顔だ。ケルンは母様にそっくりだな。わりと本気で怖い。

 休養をもらうにしても、水のクラン戦までは休みはもらえない。俺ももうすぐ終わる作業を放ってまで休むなんてことはできないし…それに今帰ると…俺だけずっと屋敷にいる気がしてならない。ってか、なるだろ。

 ちなみに、休みはクラン戦後にもらえた。母様が学長をおど…お話してもらってきたので、今度はケルンと帰る予定だ。

 世間的にも大騒ぎになった。情報を規制することなく、これはわざと行った。
 拐われた子供たちは獣人が多く、しかもサイジャルという国籍を問わずに学べる場での事件だったのだ。拐われた子供たちも色々な国の子供たちで、国際問題になりかねない。

 それに今回の被害者に俺がいる。
 リンメギン国がサイジャルに抗議と事件解決に協力してくれることを宣言してくれたのだ。

 今回の事件が初犯にしろそうでないにしろ、あまりにも資金力がありすぎる。ならば相手は普通の犯罪者グループではないかもしれない。もしかしたら、ドワーフの誘拐にも関わっているかもしれないことは、リンメギン国にも知らせている。

 けれど、どこの国に潜伏しているか探していれば、また隠れてしまうだろう。

 そのためあえて隠さず、人身売買を目的とした組織があることを発表した。
 各国でも人身売買を行うグループを摘発するように呼び掛けていくつかのグループを壊滅させたのだが…どれも貴重な道具を持っているような資金力はなさそうだった。

 肩透かしをくらいながらいいことはあった。
 ヴォルノ君たちは少し衰弱がみられたが、みんな元気だった。誘拐された前後の記憶がなくなっているが、それでよかったように思う。トラウマにならなくてよかった。

 試験についてだが、サイジャルは誘拐された全員に単位を渡すことにした。学園とはいえ捜索のプロが失敗し、生徒を誘拐されかけるなぞ、学園が始まってから初めてのことだったので、単位を渡したそうだ。

 誘拐された子は俺やケルンが助けにきたことを誰かしらに聞いたのか、やたらと感謝してくれて、仲良くなった。ケルンにまた友達が増えて嬉しく思う。
 杖の子からは礼状が届いたが…北には色々とあるのかもしれない。やはり、ケルンはあちらには行かせない方がいいな。

 後始末やら家族の怒りを鎮めていれば、あっという間に一週間が経ったのだ。
 夜は新作の絵本を読み聞かせ…その出版手続き…休みの時間は奉納する絵や依頼された肖像画…昼は授業に…というなかなかハードワークになった。

 この間に動物たちとの触れあいは一切していない。モフモフ禁止一週間。
 これは俺が自分に貸した罰だ。

 体が砕けるかと思った。
 あと、ケルンの夜泣きがひどくて…俺のせいなんだけど、寝ていて悪夢を見て泣きながら飛び起きる。横にいる俺を抱き上げてぐすぐす泣きながらまた眠る。
 まだ時間がかかるだろうな。

 ようやく落ち着いてクラン戦にむけての話し合いができるなと思いつつ、俺はケルンについてナザドの特別授業にきていた。
 単位が出るわけじゃないが、ケルンが自分からいってきたのだ。

「僕、強くなる!」

 泣いた。涙は出ないけど、強くなるなんて…成長したなと。
 あと、ナザドはうざかったから蹴りを食らわした。ちゃんと吹っ飛んだからよしとしよう。

「一つ疑問が残ったな」
「疑問ですか?」

 風の魔法か『転移』かしらないが無傷で、ケルンの魔法の特訓に付き合っているこいつには、答えてもらおう。
 職員であるなら知っているだろう。

「神隠しのことだ」

 サイジャルの公式の発表では、初めての誘拐事件だったことになっている。
 でも、神隠しの噂は前からあるのだ。その真偽がわからないと警戒をとくわけにはいかない。

 と、思って聞いたんだが。

「ああ、神隠しですか?あれ、職員ですよ」
「は?」
「姿を変えて紛れ込んでいたりするんです。それで卒業近くなったらまた姿を変えて、生徒に紛れるんです…それ専門の職員がいるんですよ」

 あっさりと答えられたんだが…神隠しの正体が職員とは思わなかった。
 だいたい姿を変えて、生徒を続けるって…普通の神経ではできないな。まったく赤の他人ならいいだろうけど…仲良くなったりした人との別れを何も感じないのだろうか?俺には無理だな。

「どうしてそんな職員が?」
「危険分子…というか、その候補になりそうな子をみつけておくんです。更正できればそれでよし、できなくても、本人やその親類筋を監視しておけばいいですからね」

 なるほどな。生まれ持った性格もあるだろうけど、家庭環境によって思想が決まっている場合もあるからな…だとしたら監視をして…何かあれば対応するってことか。

「もちろん、情報は国へと提供します…だからサイジャルは発言力があるんです」

 なんというか…性格が悪いというな…気持ちが悪い。
 そう思ったのが雰囲気ででたのか、ナザドが同意する。

「嫌なこと考えますよね。なんでも建国貴族の誰かしらの入れ知恵らしいですよ」

 どの家だよ。うちではないだろうけど。可能性として…アシュ君のとこか?あの反応からして、何か知っていたってことだろうし。

「あ、そうだ。エフデさんも臨時職員ですから一応、合言葉を覚えていてください。彼等からの報告がたまにあるんです。正規職員が応対をしていますが、万が一ということもありますので」
「そうだな。覚えておこう」

 臨時でも職員だからな。もし危険人物とか、危険な思想が流行っているなら俺も対処していきたい。ケルンだけじゃなく、顔を知っている子たちが増えたんだし、あの子たちに危険がないようにしたい。

「いいですか?『アイイエ、ヌンジャーキタヌイ』が合言葉です」
「なんだそりゃ」

 どこの言葉だよ。

「お兄ちゃーん!みてー!」
「おー…立派だな」
「さすが、坊ちゃま!人が挽き肉になれる水圧ですね!」

 やたらと、でかい水のハンマーを作って軽く地面に振れば地面が揺れる。
 才能はとてもあるんだが…兄ちゃんは心配だ。

 一応、水のクラン戦には出るけど…他には出なくていいな。出させる気もないけど。怪我したらどうする。

「エフデさん。なんだか、少し変わりましたね…坊ちゃまに過保護になってません?」
「は?俺が変わるかよ。それにケルンに対して俺は厳しく育てているぞ?…ケルンー!疲れてないか?ほら、魔法を使ったら休憩をするんだ!」
「…変わりましたって…人間らしくてうらやましいです」

 ナザドがぼそぼそといっているが、俺は何も変わっていない。
 しいていうなら肩の力を抜いたんだ。

 俺が消えてもいい。
 そうじゃない。

 俺はずっとケルンといるんだ。消えない。代わりになろうとしなくていい。

 奇跡のような今を俺として生きて楽しもう。
 そう思っただけだ。
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