選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第六章 ケモナーと水のクランと風の宮

水のクラン戦

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 ミケ君たち他の子たちは絵の展示だと思い込んでいるようで、あまり騒ぎにならず当日をむかえた。当日まで内緒にしたいっていうケルンの要望が叶ってよかった。
 動く絵というが、動画という言葉がなかったのだから仕方ないが、ケルンの食いつきがすごいことになっていた。一応、アニメとかの知識も流してはいるのだけど、本人いわく。

「お兄ちゃんのね、お話だとぼやーってしてる。でも、これはくっきり!」

 とのこと。
 どうも知識で想像はできるが、実物がなかったから詳しく想像できなかったようだ。
 結局、昨日も二回みた。三回もみると飽きると思うのだが、ハトさんたちと一緒に二回とも歓声をあげていた。

 ハトさんたちは自分たちの作品を作ることもせず参加してくれたので、このクラン戦が終わったら肖像画をプレゼントする予定だ。
 芸術家に贈るのも迷惑か?とも考えはしたが、きっちりした肖像画というより、デフォルトにした似顔絵と『エフデと愉快な教室』の担当を書いたものを用意した。思い出として受け取ってくれたら嬉しい。

 こつこつケルンと二人で描いたからできたが、出来上がった枚数をみて人数が判明した。協力者が多すぎてびっくりした。
 最初は三十人程度の話だった。
 ハトさんたちが知り合いを呼び出したあたりから収拾がつかなくなっていたんだよなぁ。

 まず各作業の人数。
 原画で二十人ほど、動画で四十人。
 音響が十人、撮影と機材調整で十人などなど…協力者他多数。合計、百三十七人。

 アニメを作る流れはいくつかの行程がある。
 絵コンテから原画、原画の細かい動きを動画にして、セル画に起こして、背景と色塗りをして『写し板』の魔道具を改造して撮影…そして完成したフィルムと音を合わせる。
 全てに関わったからいえる。

 二度としない!大変すぎる!

 原画と動画の人が途中からセル画と色塗りに参加してくれたから、間に合った。最終セル画枚数は十六万枚を超えるほどになり、背景と色塗りはみんなでやらなきゃ終わらなかった。
 音楽の録音とかアフレコの方が早く終わったぐらいだからな。音に合わせて口の動きなどを描いたからどうしても時間がかかる…ってか、音に負けてられるかと作業班に火がついた。

 その結果がこれだった。
 想定人数の倍だし、ここまで大がかりなものになるとは考えていなかった。
 けれどその分すごいものだから、早く発表をしたい。
 そして、みんなに休息を取らせたい。みんなすでに次の目標に走り出しそうだから、早く切り替えさせたい。その目標が関係ないものならいいんだが、あれは俺まで巻き込む気がする。

「そろそろ時間だよ!」
「そうか」

 ケルンがわくわくとした様子で時計をみている。

「それでは!水のクラン戦を開始します!学生、職員一同!研究成果を発表しなさい!」

 学園のあちらこちらから学長先生の声が聞こえた。それが終わると空砲が遠くから聞こえる。

「始まった!」
「始まったな」

 ちょっとした緊張を得てしまう。クランの人には受け入れられたが他の人はどう思うのだろうか。

「坊ちゃま。エフデ様。お時間ですので」
「わかった」
「はーい!」

 それを聞きながら俺たちはハルハレに朝食と待たせている人を迎えに行った。

 水のクラン戦。新入生を歓迎しつつ、研究成果を発表するサイジャルの行事であり、つまりは学生のお祭りだ。

 主体が学生であれば職員も参加したって構わないのが水のクラン戦のいいところだろう。それだけではなく、外部からも応援を頼んだり、クラン同士で協力しあったりもする。
 クラン戦は『風』からが本当のクラン戦になるらしく、妨害がなくてよかった。話を聞く限りひどいらしいからな。

 まぁ、俺らには関係ないけどな。
 今回はなんとなく参加してみたが、次からはやらない。
 今でも色々面倒なことになってるからな。

「お祭り、お祭り!」
「どんなだろうなー」

 朝食を済ませて満足しつつ、ケルンと話をしていれば注意が飛ぶ。

「坊ちゃま。足元をしっかりなさってください。エフデ様も浮かれすぎですよ」
「はーい!」
「そんな浮かれてねーし」
「エフデ様。言葉使い」
「…浮かれてない。それほど」

 お祭りが大好きなケルンの気持ちが俺に伝わるためか、俺もケルンも浮き足だっているようだ。それをわざわざ指摘して…そんなんだと将来小じわが…おっと睨まれた。

「ミルディ…エフデ様で困ったことがあったらすぐに教えて。私が来ますから」
「はい。お願いします、エセニアさん」

 いつもはいないエセニアが張り切っている。ミルディまで仲間にして…俺はそんな困らせてないぞ。

「お兄ちゃん!どこから行く?僕ね、んーと、こことー、ここ!あと、ここ!」
「お前の行きたいとこで…ここには行くぞ…毛並み研究会…同士の気配がする」

 事前に配られた各教室で何か発表されているかを書いた紙をよむ。ケルンは人形劇と舞台、ヴォルノ君のクランの発表に行きたいようだ。
 俺はケルンが行きたいところに行くだけだと読んでいなかったが、たまたま目についたのは、毛並み研究会。もふれる予感がする。行かねばならない。

「もう…また注意力がなくなってます」
「お二人はいつもああですよ」

 ミルディに告げ口されたような気がするが聞いてません。はい、終わり!

「こちらは魔法技術研究会!マホケンの発表はこちら!」
「魔法食品の試食がありまーす!魔法食品研究会はこちらです!」
「蒸気列車はどうですかー!魔技術工!マギコウはここですよー!」

 ハルハレでエセニアを拾ってから学園に戻れば、色々な出し物の呼び声がしていた。

 今の時刻は九時を回っている。そろそろ本格的に動き出したようだ。
 一日、朝八時から夜十時まで。それを三日間ほど行い、覆面審査員が技術力と発表内容を評価して決めるらしい。
 ここ数年は変動もなく出来レースみたいになっているそうだが。

「今回も楽団が優勝だろうな」
「当然だろ」
「それ以降もまた同じだろうな」

 見知らぬ学生たちが優勝候補について話していた。

「楽団ってヴォルノ君のとこのかな?」
「だと思う。他に音楽のクランがあるかもしれないが、楽団っていうとヴォルノ君のとこしか浮かばないからな」

 ヴォルノ君の所属しているクランはそのまま『楽団』という名前だ。

「ヴォルノ君、いーっぱい!練習してたもんね」

 練習を聴かせてもらっていたが、暇さえあれば練習しないと出させてもらえないといっていたほどだ。ヴォルノ君のバイオリンの腕前は今でもプロとしてやっていけるほどなのにだ。

「毎年とか信じられない…いや」

 それだけすごいというのは理解しているが、そんなすごい人が俺たちにも関わっていることの方が信じられない。

「…俺としては指揮者の先生がうちに参加して音を作ってくれてたのがもっと信じれないがな…」

 作曲だけでなく『楽団』の人たちまでもが演奏をしてくれている。豪華な効果音だよ、本当。ヴォルノ君からは知らない曲を演奏したっていわれたが、それはうちのだよとはいえなかった。

「バッテン先生?」
「バルテン先生な。ばってんはあの人の口癖だ」

 バルテン先生は寡黙というか、自分の世界で会話をしているようで、時間をみつけては教室にきて話していた。舞台とかでも楽団が使われることがあるが、絵に音をつけるというのは初めてのことだったので、バルテン先生が参加してくれた。
 というか、いつのまにかいた。誰が引き込んだか知らないが、全編に渡って音を作ってくれるとは思わなかった。

 報酬が絵本にサインでいいとか格安すぎたので、肖像画も用意した。
 あれでも足りないかもな。

「あ!ミケ君!メリアちゃん!おはよー!」
「おはよう」

 報酬を考えていたら、ケルンがミケ君たちを見つけた。アシュ君やマティ君は見当たらない。今日は別行動だ。

「ケルン、義兄上。おはようございます」
「ケルン様、エフデお義兄様。おはようございます」

 二人が挨拶をすると、この場にいないはずのエセニアに気づいた。

「そちらの方は…エセニアさんでしたわね?」

 何度か顔を合わせてはいるが、きちんと話したことはないのだろう。メリアちゃんが確かめるように尋ねている。

「そうでございます、アメリア皇女殿下」

 そういって、きれいにお辞儀をするエセニア。フィオナから指導されているから使用人の作法はばっちりなんだが…メリアちゃんの目がなんか、笑ってないか?

「メリアでいいですわ。ディアニア様からお聞きしてますもの」

 くすっと笑って俺をみている。それに合わせるようにケルンがいった。

「二人はねー、仲良しなんだよ!」

 顔を赤くするエセニアをみて、メリアちゃんの顔がミケ君によく似た笑みになったので、話をそらす。ってか、母様は何をいったのか後で聞こう。

「おほん。あー、二人はクランに入ってなかったな?」

 ミケ君が笑いを噛み殺すように、ほほを震わせているが答えてくれた。

「ええ。王族は入っていないのです。建国貴族も基本はクランに入りませんから」

 楽団の演奏場所に向かいながら詳しく聞くと、王族はクランに入ることはほぼないそうだ。国同士の争いは学園には関係ないといいつつ、やはりクランに入れば争いや上下関係が発生する。
 それとクランではないが他のことで学園に何らかの形で所属するそうだ。

 自主性がクランに求められているからな。
 王公貴族は大変だなといえば、ケルン以外から変な目で見られた。

「お兄ちゃんと僕はクランに入ってるもんねー」
「なー。俺ら楽しくやってるもんなー」

 視線が冷たい気がする。エセニアからまた注意されそうだ。

 楽団の演奏場所にたどりつけば、もう演奏は始まっていて何かの曲の最後のパートが終わったところだった。
 毎回、演奏場所を変えているらしいが、今回は屋内の教室だ。中庭の前の教室だから俺も知っているが、だいぶ変えている。六百人くらいが入れるホールに変わっていて、ほとんど満席だ。
 いい席は座られているから、後ろの席になる。音が響くからいいけど、ヴォルノ君の頑張りが遠すぎてあまり見えない。

「遅れちゃったね」
「予定より早いんじゃないか?」

 時計を探すがかけていない。とはいえ、予定を早めたのはあれかな?休憩でうちの発表をみるって話だったからかもしれない。ヴォルノ君やバルテン先生だけじゃなく、楽団の人も観に来るといっていたから、可能性はあるかもしれない。
 今回の楽団は歌唱系のクランと一緒に演奏をすると書いてあるから頭から聴きたかった。

「そうでしたわ。現在、建国貴族でクランに所属しているのはお二人です」
「二人?」
「ケルン様と…彼女ですわ」

 メリアちゃんが思い出したようにいって指差した先には小柄な少女が一人立っていた。

 あの子は…確かクラリスとかいったか。ケルンと同じクラスの子だ。おどおどしている印象があったが、ああして人前に出るんだな。
 楽団と一緒ということは、彼女は歌唱系のクランに入っているのか。
 そして彼女はバルテン先生の指揮に合わせて歌い出した。

『彼の者を想え。彼の者は我が子。彼の者は祈り子を待つ者。我が力を持つ者のみ。彼の者と歩む。彼の者を想え。彼の者は始り。彼の者は祈り子を守る者。彼の者を想え。彼の者を想え。彼の者が癒えるそのときまで』

 物悲しい曲。精霊唱歌の一節だ。精霊唱歌は教会で歌う聖歌なのだが、この曲はあまり人気がない。
 楽団の演奏に負けない彼女の歌唱力はすごいのだが、選曲がよくない。お祭りの空気がしんみりとしてしまう。

 歌が終わり盛大な拍手があっても、どこか物悲しい余韻が残った。

「僕、この歌は好きじゃない」
「そうだろうな」

 もやっとした空気を感じたのは俺だけではない。ケルンも口を曲げている。俺も好きではない。

「さみしいもん。楽しい歌じゃないから好きじゃなーい」
「確かにしんみりするな…ケルンはあれの方がいいか?」
「グーチョキ?あれ好き!」

 手遊びで教えた歌の方が好きとは…まぁ、仕方ねぇな。

「そんじゃ、グーチョキ」
「ケールーンーさーまー!」

 手遊びをしてテンションをあげてやろうとすれば遠くから走ってくる人影がみえた。
 エセニアが身構えるが大丈夫…メリアちゃんの目付きが変わったな。
 元気だなぁ。



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セル画を知らないっていう世代がどんどん増えているんですね。さみしいです。
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